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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
狩りと術と子育て の巻

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九十五 志七郎、風呂に入る事

『契約に基づきてフルール・シーバスが命ずる。我が朋友に宿りし火の精霊と土の精霊よ、その力を撚り合わせ……』


 一日の修練の最後、お花さんが魔法を実演してくれるのを、俺と四煌戌は静かに見ていた。


 俺は呪文の扱いとその結果を知る為に、四煌戌は精霊の動きを肌で感じる為だそうだ。


 お花さんがその魔法を使う為に呼び出したのは、火と土の精霊を宿した『炎狼ガルム』と言う四煌戌と同じ犬型の霊獣である。


 火と土の力を合わせる事で発生するのは『熱』の属性、『光を伴わない熱』を扱う属性だ。


 光を伴わないと言う事は、当然ながら眼にみえる様な派手な魔法ではない。


 今回彼女が使ったのは『熱』属性の下位魔法『加熱』だ、炎狼ガルムを召喚し魔法を使ったのでその口から熱線でも吐き出すのかと思えばそんな事も無く、ただ呪文を詠唱しただけで水からは湯気が上がりだした。


「よし、適温ですね。では皆でお風呂に入りましょうか」


 では何故そんな魔法を実演に選んだのか、それは風呂を沸かす為である。


 我が家では毎日風呂を沸かす、それは前世まえならば当たり前に出来た事であるが、水道も無くガスや電気も無いこの世界ではかなり贅沢な事だ。


 水は井戸から汲まねばならないし、湯を沸かす薪だって1回沸かす分ならば大した負担で無いにせよ、家族や家臣が皆入り終わるまで温め続けるとなると、馬鹿に出来ない量に成る。


 俺が鬼切りへと行けない事で食材も手に入る量が減り、収入も減っている状況で食い扶持二人分が増えたのは、正直我が藩の財政にとっては結構な負担に成る、そう思っていた。


 だが実際には彼女がこうして魔法を使ってくれる事で薪代が大きく減り、また授業中には殆ど仕事の無いセバスさんが智香子姉上や信三郎兄上と共に鬼切りへと行き、食材を確保してくれた事で、大分余裕が出ているのが実状らしい。


「先生、何故お湯を沸かすのに火の魔法では無く、わざわざ複合属性の熱を使うのですか?」


「んー、良い質問ですね。端的に言ってしまうと、単独下位の火ではお湯を沸かす事が出来ないからです」


 火の魔法は燃え種(もえぐさ)に着火、炎上させる事は出来るが、燃料となる物がない状態では熱量を維持する事が出来ないのだそうだ。


 無論、高火力の魔法を叩き込んで強引に湯を沸かす事が出来無い訳では無いが、それをするのは余りにも非効率的であり、無駄としか言えない行為なのだと言う。


「それに江戸への滞在条件の一つとして、中級以上の魔法を幕府の許可無く使わないって言う契約もしてますからね」


 魔法使いにとって契約と言うのは絶対的な物である、精霊や霊獣との間に交わされる物は勿論、軽い口約束レベルの物でも魔法使いはそれを順守する。


 この世界では些細な罪でさえもが魂に刻まれる、そして契約を破ると言う事は明確な罪なのだ。


 普通はそれを裁く者にさえバレなければ、何らかのペナルティを受ける訳でもないので、それを意識する事は殆ど無い。


 だが魔法使いは違う、精霊魔法を使う者は魔法を使う際、新たな契約を結ぶ際、その魂に刻まれた罪を参照され、それが芳しく無ければ魔法は発動せず、契約は結ばれないのである。


 それは前世の社会に置ける信用情報に近い物と考えれば解りやすいだろうか、未払いや強制解約の履歴等が有れば、新たにローンを組んだりクレジットカードを作ったりする事はできない。


 そこまで仰々しい話でなくても、いつも嘘ばかり付いている人間と解っていて、そんな人物と命に関わる様な契約を誰がするか、と考えれば魔法使い達が契約に対して真摯な態度を取るのも理解できる話だ。


「さて、お湯が冷めない内にさくっと入りましょうか」


 役目を終えた炎狼ガルムが送還されるとお花さんはそんな言葉で入浴を促した。




 我が藩では風呂が沸くと先ずは、母上と姉上達女性陣が風呂を使う、その後父上が入り、それからは兄上達と家臣たちが順次入れ替わり立ち代り入浴する、そして武士階級の者が皆入り終わってから最後に使用人達が残り湯を使う事が出来る。


 なお、まだ子供の俺とお花さんは女性陣家族枠である。


 中身は大人の男だという意識が有るので、俺としては兄上達同様に家臣達と同じ枠で入りたいのだが、そう提案しても礼子姉上の圧倒的なパワーで拉致られ、結局一緒に入る事になるのだ。


 そんな状況でも妙な気を起こさないのは、身体がまだまだ子供だからだろう、正直現状では全くそう言う欲求は無い。


 今日も手早く身体を洗い、軽く湯に浸かるとさっさと風呂場を出る、大人数が入る前提で湧かされた湯は、小さなこの体には熱すぎるのだ。


 後が支えているので長湯を決め込む事は無いが、この熱さだと言うのに母上や礼子姉上は、放っておけば何時までも入りかねない位には長風呂らしい。


 流石に父上が時分に成る前には姉上は出て行くが、母上はそのまま入っている事も有るので余程風呂が好きなのだろう。


 脱衣所へと出た俺は褌を絞め、今までは直ぐに着物に袖を通して居たのだが、今日は脱衣所に置かれた木箱へと手を延ばす。


 上下2枚の扉が付けられたその木箱は、内側に金属の板が張られており、上側の扉の中にはお花さんの魔法で作られた氷が入っている。


 そうこれは一種の冷蔵庫である、そしてソレが脱衣所に有るということは中に入っているのは当然ながら瓶入りの牛乳だ。


 腰に手を中てよく冷えた牛乳を喉を鳴らして一気に煽る、風呂の湯で火照った身体の中を冷たい牛乳が滑り落ちていく感覚が心地良い。


「ふぅ……風呂上がりはやっぱりコレだよなぁ」


 瓶牛乳その物は普通に市販されているが、こうしてよく冷えた物を呑む事は普通ならば中々出来る事ではない。


 義二郎兄上に聞いた話では、外の銭湯では取り扱っている所も有るらしいが、庶民の手の出る値段では無いらしい。


 それがこうして自宅で楽しめるのだから、精霊魔法様々である。


 水を凍らせる魔法は『水』と『風』の複合属性である『氷』属性の魔法なので、俺が四煌戌と共に使えるように成るのはまだ先の事だが、夢の広がる話である。


「お、ししちろー、それ美味しいニャ?」


 瓶を冷蔵庫の横に置かれた回収箱へと入れるため屈み込んだ俺の背中に、そんな声が掛けられた。


 俺同様にまだ身体が小さく余り熱い湯に長く浸かることのない睦姉上の声だ。


「美味しいですけど……姉上、前位隠して下さい。端ない」


 振り返って見るとやはり睦姉上だが、十歳ではまだまだ羞恥心も湧かないのか身体を隠すことも無く手ぬぐいで髪を拭いていた。


 幾ら家族とはいえ、まじまじとそれを見つめるのも変態的な気がしたので、俺は彼女の横へと移動し脱衣籠に入れた着物に手を延ばす。


「ん! ニャーも飲んで見るのニャ―」


 睦姉上はそんな俺の態度に気も止めず、冷蔵庫へと手を伸ばした様だ。


 だが待って欲しい、彼女がそんな声を上げたのは俺が着物を手に取って直ぐのタイミングだ。


 ちなみに男子が褌を履くのに対して、女性にはパンツに当たる下着というのはこの火元国では一般的な物ではない。


 智香子姉上やお花さんの様な洋装を好む女性や、女性の鬼切り者等激しい運動を伴う仕事をしている者ならば、そういった物を身に着けている事もあるが、基本的には『穿いていない』のである。


 当然ながら睦姉上はそんな物を着けている訳も無い。


「ぷはぁ……。これ美味しいニャ―!」


「良いから、前を隠せぇ!」


 全裸で腰に手を中て牛乳を煽る彼女に対して、そう怒鳴る様な声が出たが誰がそれを咎め立てするだろうか。

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