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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
知の都と東方料理 の巻

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九百六十六 志七郎、事の顛末を聞き傑物を知る事

「やぁっと終わったわ。本当に差別主義者の痴れ者だとばかり思ってたのに、無駄に気骨が有るもんだから逆に面倒臭かったわ」


 朝食を終えると其々が其々の予定に従って行動し始める中、俺達『直弟子組』とでも言うべき者達は、お花さんに呼び出され開口一番そんな言葉を投げ掛けられた。


 詳しい話を聞いて見ると、あのイー・ヤン・ミーと言う男は顎を砕かれ歯を殆どへし折られたにも拘わらず、目を覚ました後に筆談での聞き取りに対して、


『奴は異能の能力(ちから)を持つ魔族にも拘わらず、その能力を使わず正々堂々とその拳だけで闘った。顎を砕かれたのは自分が負けを認めなかったが故の結果に過ぎない。なのにそんな相手を国や組織の力で潰すでは胸を張って王侯貴族を名乗る事は出来ない』


 と言う様な答えを返し、犯人に対する情報を出す事を一切拒んだのだと言う。


「ほぅ。先日の一件で随分と狭量な男だと思ったが、武人としての義侠心は持ち合わせて居たのか。南方大陸の貴族と言うのは本に複雑な物なのだな!」


 其れに歓心したかの様な言葉を返したのは武光だ。


 禿河の姓を背負い、場合に依っては禿河幕府の将軍と成る可能性も有る彼は、立場としてはあのイー・ヤン・ミーと同じ火元国の王族……と言えなくも無い。


 その立場からすると、あの男が先日食堂で見せた姿は、その言葉の通り『度量が狭い』小人物と映ったのだろう。


 けれども負けを負けと認め、他者の手で雪辱を……と言うのを良しとしなかった、奴の態度は一廉の武人として正しい物だと受け取った様だ。


「ええ、南方大陸(カシュトリス)では魔法使いで有ると同時に、武芸にも秀でた騎士で無ければ、貴族として認められる事は無い。そう言う意味では火元国の武士と共通する部分は有るわ。亜人(デミ・ヒューマン)に対する偏見さえ無ければ良い武人に成りそうな素材では有るのよね」


 困った物だ……と言いたげに溜息を吐きつつ、そんな言葉から始まったお花さんの言に拠れば、南方大陸で王侯貴族の男は騎士としての訓練を受け、同時に騎士魔法(ナイツ・マジック)か聖歌もしくは精霊魔法のいずれかを使えるように成らなければ平民に落とされるのだそうだ。


 火元国よりも魔物(モンスター)の被害が少ないと言う西方大陸(フラウベア)よりも、更に魔物が少なく地形も平坦で気候も安定して居る南方大陸は、その分国家間での争いが多いのだと言う。


 同じ帝国に属する国同士でも、河川や山脈の様な明確に国境を隔てる地形が無ければ、お互いに主張する国境線を巡って、散発的に戦闘が起こるのは何処でもありえる事なのだそうだ。


 勿論、皇帝と言う王族達よりも上の立場の者が調停を行う事も有るが、多くの場合そうした戦いは現地の領主だったり、時には更にしたの村長辺りの我欲や、村同士の過去の確執から発生し、上に情報が届く前に終わっている事の方が多いらしい。


 更に言えばそうした小競り合い程度の物でも戦争と呼べる物が有り、魔物の害が少ないと言う事は傭兵と呼ばれる様な者達も居れば、山賊や盗賊の様な者達が村を襲う様な事も有る、厄介な事に傭兵の中には其れ等を兼業する者達も居たりすると言う。


 と成れば、貴族と呼ばれる者達は下々の者を守る対価として税を取り立てる権利を得る……と言う構造は火元国の藩政と変わりは無い……有るのは相手が魔物か人間かと言う違いだけだ。


 故に南方大陸諸国に置いて支配階級で有る貴族は、個人の武勇を高めると共に戦略兵器となり得る魔法も身に着けねば、貴族として認められる事は無い……と言う厳しい環境に有るのだそうだ。


 そう言う意味で、あのイー・ヤン・ミーは騎士魔法を修める事が出来ず、特定の神に対する信仰心が強い訳で無い為に聖歌を修める事も出来ず、精霊魔法に最後の望みを託してこのワイズマンシティへと留学して来て居るのだと言う。


 無論、南方大陸に精霊魔法使いが居ない訳では無い、お花さんが俺にそうしてくれた様に、それ相応に名の通った魔法使いを家庭教師として招聘し学ぶ事も出来た筈だ。


 にも拘わらず、亜人に対して隔意の強い彼が態々西方大陸まで留学して来たのは、騎士として武芸にそこそこ秀でていた彼は、国が招聘した文人肌の精霊魔法使いとの折り合いが取れず現地では精霊魔法を学ぶ事が出来なかったのだと言う。


 しかしこのワイズマンシティには、お花さんを筆頭に優れた武勇を誇る魔法格闘家(ウォーザード)や、魔法騎士(マジックナイト)と呼ばれる者が多数在籍して居る。


 その為トニーラヴァン王国のソル・セイム・ミー王は、南方大陸出身の魔法騎士で精霊魔法学会(スペルアカデミー)で教鞭を取る『フォルス・ラスター・シーカー』と言う人物に彼を預ける事を決めたのだそうだ。


 シーカーと言う苗字(ファミリー・ネーム)から分かる通り、その人物は司書のマイン・ド・シーカー女史の夫で、魔族で有る彼女を娶る為に母国を離れこの地に移住したと言う経歴の持ち主だったりする。


「シーカー師は文武共に優れた人物よ。私と一対一で戦って勝ちを掴み取る可能性が有るのは、学会(アカデミー)内では彼だけでしょうね。純粋な魔法比べなら私の方が上だし、武芸でも遅れは取らないけれども……策略まで込みで考えると危ういわね」


 年頃と呼ぶには少し若すぎる十代前半の少女にしか見えないお花さんだが、三百年と言う途方も無い時間の大半を魔法と武芸の研鑽に費やした学会屈指の武闘派である。


 そんな彼女をして、自分でも危ういかも知れないと言わしめるシーカー師と言うのは、一体どれ程の実力者なのだろうか?


「正直言って知恵比べで彼に勝る者はこの学会に一人も居ないわ。特に勝負事に関しての策謀で言えば、猪山の御隠居様と比べても遜色無い水準(レベル)に有ると思うわ。と言うか個人的には二人が将棋か西洋将棋(チェス)辺りで勝負するのを見てみたいわね」


 お花さんが火元国で生活して居たのは、御祖父様の父親……つまり今生の曽祖父に当る人が藩主に成った頃から夫で有る人物が老衰で亡くなるまでの大凡七十年もの間の事で、御祖父様のオムツを替えた事も有ると言う。


 普通の家臣の奥方は夫が主君と共に参勤で江戸へと上がったとしても、国許に残り家と子供を守る物なのだが、彼女は一朗翁を妊娠していた期間と生まれてから数年の養育期間を除いて、毎回の参勤に同行して居たのだそうだ。


 そんな勝手が許されたのは、彼女が神々や帝と並んで火元国の中で決して喧嘩を売っては行けない存在の一つに数えられている『嶄龍帝(さんりゅうてい)焔烙(えんらく)』との契約を結んだ者だからである。


 世界にも数える程しか生息して居ない神にも匹敵する存在である古龍エンシェント・ドラゴンの一体で有る嶄龍帝は、火元国に取って守り神にも近しい存在なのだ。


 世界樹の神々に依って自然現象の殆どが管理されて居るこの世界で、災害と呼べるのは基本的に異世界からの侵略者である『魔物の害』か、神々の管理下に無い精霊の力が暴走する事に依って発生する『精霊災害(エレメント・ハザード)』と呼ばれる物の何方かしか無い。


 故に嶄龍帝が居る事で精霊や霊獣が自然発生する事の無い火元国では精霊災害が起きる事は無いのだ。


 地震大国、災害大国なんて呼ばれていた向こうの世界の日本と火元国の大きな違いは、こうした自然災害が殆ど発生しないと言う事だろう。


 そんな守り神に認められた存在で有り、単独で国を落とせる大魔法使いなのだから、多少の我が儘を言った所で誰が咎め立てする事が出来る……と言う話で有る。


 兎にも角にも彼女は御祖父様が若い頃にやらかした数多の所業……その大半を実際に目の当たりにした人物の一人だと言う事だ。


 そんな彼女が御祖父様に引けを取らない策謀家と称するシーカー師とは一体どれ程の傑物なのか?


 ……うん、モノが役に立たない俺にすら魅力的だと感じさせるマイン女史を妻に持ちながら、未だ生きて教鞭を取り続ける事が出来ていると言う時点で、只者では無いのは間違いないだろう。


「まぁ、そんな訳で、アレの一件はシーカー先生に丸投げする事に決まったから、今日はやっと貴方達を冒険者組合(ギルド)に紹介しに行けるわ。此方の戦場にも早く慣れてね、初心者組の子達が初精霊探しに行く時には護衛頼みたいから」


 そんな言葉で話を〆たお花さんは、本当に彼奴に関わる一件でお疲れだったのだろう、眉間の皺を伸ばす様に目を瞑って其処を揉みながら、俺達にそんな事を告げたのだった。

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