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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
知の都と東方料理 の巻

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九百六十五 志七郎、魔法の研究を進め嫉妬の炎浴びる事

 あれから暫くが経ち、お花さんの屋敷で働く料理人の方々に協力して貰い既存の炊飯魔法を試し、それから前回来た留学団の中で火属性の精霊や土属性の精霊と契約して居る人を見つけて協力型の炊飯魔法を構築する努力をしたりして過ごして居た。


 結果としては論文に有った通り、四煌戌や焔羽の様に高い知能を持つ霊獣が意識的に火力を調整した場合には、何度か失敗は有った物の慣れてからは綺麗な炊き上がりの御飯を炊く事が出来た。


 対して自意識と言うべき物の薄い下位精霊の場合には、呪文一つで上手く炊く事は出来ず、都度火力を指示出しして何とか炊ける……かな? と言うのが現状で『炊飯(ライスクック)』と言う呪文がこの期間で完成する事は無かった。


「やはり複数の精霊魔法使いが協力して一つの呪文を構成すると言うやり方自体に無理が有るのだろうな。某も呪文図書室(スペルライブラリー)で過去の協力呪文の研究論文を読んで見たが成功例は本の僅かでしか無いらしいしの」


 しかしコレを通じて第一期留学団の面子(メンバー)全員と顔見知り以上の関係を築けたのは成果としても良い事だとは思う。


「だが、今現在我等の中で火属性精霊を二体に土属性精霊一体を同時に召喚出来る様な者は居らんからのぅ。鬼斬童子殿が提唱した『温度計サモメーター』の呪文と『火力(ファイヤー)操作(コントロール)』を組み合わせる形式は試す事すら出来ん」


 何よりも米の飯が食いたいと言う火元人の根源的欲求に関わる魔法の開発と有って、既に魔法使い(マジシャン)魔道士(ソーサラー)と成った者で協力者に成らない者は居なかったのだ。


「拙者としては精霊魔法としての完成は兎も角、知恵有る霊獣と契約さえすれば、炊飯をその霊獣に任せる事が出来ると言う事実は割と大きいと思うぞ? 事実、鬼斬童子殿の連れている霊獣が炊いた飯は……うむ、美味い」


 常人の三倍は食うのが当たり前と言われる猪山藩も上から下まで食い意地が張っているが、こうして炊飯魔法の為に大名家の子弟も御家人家の子弟も小普請組の子弟も一致団結出来る辺り、前世まえの世界の日本人と同じく火元人の食い意地は確かな物なのだろう。


「だが折角幕府が決して安くない費用を払ってまで我等を留学させてくれたのだ、只過去の魔法を学ぶだけで無く、学会に我等火元留学団の爪痕と成る論文の一つでも残して行かねば、恥とまでは言わぬが武士として男としての名折れでは無いか?」


「確かにな……しかしソレが炊飯魔法である必要性は無いのだが、ソレ以外にネタが有る訳でも無いのがもどかしくも有り恥ずかしくも有る。後々の者が見たら火元人は食い意地が張った者ばかりと笑われるやも知れぬぞ?」


「何を馬鹿な事を……火元人の食い意地等、家安公がこの学会に残した逸話の数々で既に証明済みだと司書のマイン殿から紹介された書物に思い切り書かれて居ったわ」


 曰く火元人は多少の侮蔑位では怒らない、曰く火元人は財布を掏摸(すり)盗られても己の未熟を責める事は有れど犯人に怒りを向ける事は無い、曰く火元人は裏切られても謝罪すれば許す、等々火元人は寛容を通り越してお人好し民族だとその本には書かれていたらしい。


「去れど侮る無かれ、女子供を痛め付ける様な卑劣漢や、飯を粗末する者に対しては、烈火の如く怒りを放ち、その怒りは拳一つで岩をも砕く……とも書かれて居った。恐らくは其れ等全てが家安公の事なのだろう」


 ……うん、武士が町人階級の者に無礼を働かれて無礼討ちを行うのは、飽く迄も舐められたら統治に影響が出る可能性が有るからだ。


 それに外つ国では余所者なのは間違いない話なので、多少の侮蔑語を吐かれた位でキレて居ては切りが無いと判断するのも理解出来る。


 掏摸だって江戸州では『昼間の盗みは盗まれる奴が間抜け』と言う扱いで重い罪には問われないし、そも懐に手を突っ込まれて気が付かない奴は武人として未熟としか言い様が無いだろう。


 裏切りだってそうだ『卑怯卑劣は戦の作法』とか『昨日の敵は今日の友』なんて言葉が有る位には、この世界の火元国が戦国時代と呼ばれていた頃には、下剋上を含めた裏切りなんて物は日常茶飯事と言えた筈だ。


 其れ等を引きずって居ては何にも出来やしないと……家安公の人柄も有るのだろうが、彼がそんな考えを持っていても不思議は無い位には、今の火元国には向こうの世界の江戸幕府と違い『外様大名』と『普代大名』の扱いの差は無いに等しい。


 まぁこっちの世界は天下統一の前に六道天魔との戦いで、多くの武家が断絶しかけてたのを、家安公がそうした家の娘に子供を産ませて後を継がせた事も有り、武士のほぼ全ては家安公の血を何処かで引いて居る親戚と言っても過言では無いのだ。


 勿論、血を同じくして居たからと言って、誰しもが仲良く出来ると言う物では無い、前世の俺と兄貴の様に兄弟ですら『反りが合わない』『馬が合わない』なんて関係に成る事は良くある話である。


 しかしだからと言って『江戸の敵を長崎で討つ』様な真似を続ける事程馬鹿らしい事も無い。


 故に幕府は……特に当代の上様は、向こうの世界の幕府が大名家が力を持ち過ぎない様に、様々な統制を敷いたのとは違い、積極的に武家同士の縁組や其処まで行かずとも融和策なんかを取っているので有る。


 兎角、そうした幕府の努力の甲斐有って、火元人は外つ国の者から見れば『呑気』で『温和』で有りながら『義侠心』が強く『食欲旺盛』な民族と成っている訳だ。


 うん……家安公の振る舞いに近しい民族性と言って間違いないよな。


「所で……鬼斬童子殿は此方に来てから未だ鬼切りに出る事は出来て居らぬと聞いて居るが、良ければ近い内に某と共に冒険者組合でなにか仕事を受けてみぬか? 呑む打つ買うは流石に早いにせよ、連れてきた許嫁に菓子の一つも買う甲斐性は有っても良かろうて」


 と、炊飯魔法の話が一段落して火元人の民族性に着いての話にも結論が出た所で、先輩組の一人がそんな事を言いだした。


 屋敷に留め置かれるのは一体の精霊とも契約して居ない魔法使い『見習い』の者達までで、無事に魔法使いとして階位認定を受けた者は冒険者組合で依頼を受けて『遊ぶ銭』を稼ぐ様に成っているらしい。


 まぁ……年頃の男ならば娼館通い程度はしたいだろうし、その為の銭を幕府から出ている経費に計上したり、国許の家族に出して貰う様な恥ずかしい真似をする者は居ないだろう。


『自分の小遣い銭は自分で稼げ』と言うのは猪山藩猪河家の家訓では有るが、他所の家でも遊郭なんかで遊ぶ銭は鬼切りなんかで稼ぐのが一般的である。


 この辺は前世の世界でも馬鹿正直に親に向かって『エロ本買うからお小遣い頂戴』等と言う事が出来ない家庭が大半なの変わらないのでは無かろうか?


 吉原まで行かずとも江戸の各地に有る岡場所と呼ばれる安い見世や、船饅頭や夜鷹なんかの更に安い娼婦を相手にするならば、ソレこそ子供の小遣い銭程度の額面でも遊べるが、ソコはソレ武士としての体面と言う者も有るので余り安過ぎる見世には行けないらしい。


 対して西方大陸(フラウベア)……と言うか、ワイズマンシティでは夜鷹の様な私娼は禁じられて居り、政府公認の娼館だけが営業を認められているのだと言う。


 コレは余り安い額面で性を売り買いする事で起こるだろう風紀の乱れを、少しでも減らそうと言う政策だそうで、何処の娼館も法で定められた最低金額を守って営業して居る為『安かろう悪かろう』の商売をして居る娼館は一つも無いらしい。


 そうした事情も有って、此方に来ている者達は少なくとも週に一回程度は冒険者として稼ぐと言う事をして居るのだそうだ。


 また学会としても新たな精霊や霊獣との契約をする為にも、冒険者としての活動を推奨して居る為、授業を長期間休んで遠征仕事に出ても問題にされる事は無い。


「いや、俺達はお花さ……先生の手が空いてから、彼女の直弟子として組合に紹介して貰う事になっているので、折角の申し出有り難いがお断りさせて頂きたい」


 例のイー・ヤン・ミーが凹られた件に絡んでお花さんを含む学会(アカデミー)上層部は色々と忙しく動き回っていた様だが、学生の立場でしか無い者達には『地元の犯罪組織(ギャング)に襲われた者が出たので注意する様に』と言う話が有っただけだった。


 顎を砕かれたとは言え筆談ならば問題無く出来る状態の被害者が、加害者を庇っているかの様に一切情報を出さない所為も有り、本当に個人的な襲撃の結果なのか、何処かの犯罪組織が学会に対しての攻撃した結果なのか分からないのだと言う。


「然様か、確かに赤の魔女殿の直弟子とも成れば、相応の冒険者と同じ徒党(クラン)一党(パーティ)で鬼切りに行く事も出来るやも知れぬからの、本に羨ましい事だ」


 組合の発行して居る組合証と幕府が発行する鬼切り手形は、相互利用可能な協定が組まれて居るのだが、ソコに記録された情報がそのまま冒険者としての信用に繋がる訳では無いらしい。


 その為、彼等は組合で一から自分の立場を築かねば、己の実力に見合った一党に参加する事も出来ないのだと言う。


 お花さんの弟子として下駄を履かせて貰うのは、先輩達に申し訳無いと思わなくも無いが、使える物は使うべきと言うのがこの世界の一般的な価値観なのだ。


「「「「まぁそんな事よりも……許嫁を伴って留学して居ると言う事が一番妬ましいのだがな!」」」」


 声を揃えてそんな台詞を口にした先輩方の嫉妬に燃えた視線と言葉に、俺は少しだけ感じて居た罪悪感が霧散し、苦笑するしか無いのだった。

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