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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
精霊魔法学会での生活 その始まり の巻

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九百五十九 志七郎、才色兼備に惹かれ異能を知る事

「取り敢えず……貴方の希望に一番近い本はコレかしらねぇ?」


 俺が不埒な欲望と戦いながら司書であるマイン女史の後に続いて『料理』と表記された本棚の群れへと近づいて行く。


 すると彼女は迷う素振りも無く、一冊の本を取り出して此方へと差し出して来た。


 おいおい……此の下手な図書館なんかよりも余程巨大で膨大な蔵書量を誇る図書室の本を、真逆とは思うが全部何処に有るのか覚えてるとか言わねぇよな?


 いや、向こうの世界でも未だ電子計算機(コンピュータ)なんかが発達する前には、紙に記載された目録の中から目的の本を探す事自体が一苦労で、迅速な対応をする為にはソレを頭に叩き込む必要が有った……とか聞いた事は有る。


 とは言えソレは本当に小さな町の図書館位の話だし、電子化が進むに連れてそうした技能を持つ司書は本当に少なく成って行ったのだ。


 しかし蔵書目録の電子化が進んでも、どの本を本棚に残しどの本を閉架図書とするかの選定や、子供たちに読書を促す為の催し物(イベント)の開催等、どんな本が自分の図書館に有るのかをある程度把握してなければ出来ない仕事は電子化されても少なく無い。


 国家資格の中では比較的簡単な物に分類されるが、其れでも司書と言うのは十分に高度な専門知識を必要とする職業だった筈だ。


 彼女はぱっと見る限りでは二十代半ば、行っていても三十代前半と言った所だろう。


 この世界の宗教……特に外つ国での神殿周りの話は詳しく無いが、其れでも高司祭(ハイ・プリーステス)と言う立場が決して軽い物では無いのも理解して居る。


 と言う事は彼女は少なくとも、この図書室の本を完全に把握するだけの司書としての高い能力と、高司祭と言う神職の中で比較的高い地位に上り詰める能力、その双方を有している上に、人として望みうる最高峰の美貌すら手にしているとんでも無い人物と言う事だ。


 義二郎兄上や一朗翁じゃ有るまいし、流石に能力盛り過ぎじゃぁ無いか? 


 と、そんな事を考えながら本を受け取ったのだが、その際に俺の手が彼女の手に触れた。


 嫋やかな白魚の様に華奢で細い指……と、顔の印象で勝手に決めつけて居たのだが、その手は思いの外硬い事に気が付く。


 思い返して見れば彼女が結婚指輪を示した際に見たその手は、箸より重い物を持った事が無い様な貴族(公家)の手では無く、労働に慣れた者の手で同時に拳ダコの様な物も有った様に思える。


 考えてみれば命と言う物が前世まえの世界とは比べ物に成らない程に軽いこの世界で、神々が実在しその奇跡の担い手でも有る宗教家は、単純に教団内の政治だけで昇進する事が出来る訳が無い。


 恐らく彼女は冒険者としても、相応以上の結果を出してきた人物なのでは無かろうか?


 命が軽いのも原因の一つなのだろうが、この世界は向こうの世界に比べて圧倒的に治安が悪い、ソレが顕著なのが性犯罪に対する扱いだ。


 向こうの世界でも俺が任官する遥か以前には、性犯罪被害者に対して『犬にでも噛まれたと思って忘れてしまえ』なんて言葉が、法の番人で有る警察官の口から平気で放たれソレが問題にすら成らなかった時代も有ったと習った覚えが有る。


 俺が所属していた捜査四課(マル暴)でも、組織売春や暴力団員に依る性犯罪なんかを扱う事も有ったが、そうした事件に男性の刑事が女性に対して調書を取る事自体が性被害の二次被害(セカンドレイプ)と言われない為にも女性捜査官の協力は何時でも必要だった。


 実際、性犯罪に関わる警察官の中にも被害者に向かって『そんな格好で夜の盛り場を彷徨くのが悪い』なんて事を言い出す者が、俺達よりも上の世代に成れば成る程多かったのだ。


 そしてこの世界での性犯罪に対する対応はどうかと言えば……コレは西方大陸カシュトリスでも火元国でも然程変わらず『弱い奴が悪い』に集約される。


 殺しさえしなければ暴行や障害が大した事件として扱われないのと同様に、覗きや痴漢程度ならば口頭注意で済まされ、強姦(レイプ)ですら其処に『強盗』や『殺人』と言ったより上の刑罰が定められた犯罪が絡まなければ大きな問題にされる事は無い。


 と成ると女性やその家族としては、自分の身は自分で護れる能力(ちから)を持つ必要が出てくる訳だ。


 そうした目線で彼女を見ると、絶世の美女と表現するしか無い顔立ちや、ゆったりとした法衣(ローブ)の上からでも解る程に、出る所は出て引っ込む所は引っ込んでいる我が儘肢体(ボディ)とは別の物が見えて来る。


 前世から通してもう何年続けたのか、数えるのも面倒に成る程に剣の道に邁進し続けた、俺の目から見ても隙らしい隙が全く無いのだ。


 優雅に見える立ち振舞いも身体の軸が全く振れていないからこそそう見える訳で、コレは武にも舞にも共通する事柄である。


『弱い事は罪では無い』コレは向こうの日本では当たり前とされていた言葉で有り、ソレを根拠に『虐め』なんかは社会的にも悪行だとされていた。


 しかしこの世界は『弱い者が弱いままで生きて行ける程優しい世界では無い』のだろう。


「ん? どうしたの? この本じゃぁ物足り無いかしら?」


 そんな事を黙って考えて居ると、マイン女史が少しだけ眉を潜めて問いかけてくる。


「いえ、済みません。そう言う訳じゃぁ無いです。マインさんがどれ程の実力者なのか……と一寸思ってしまって」


 慌てて取り繕う様にそう言うが、完全に嘘を言った訳では無いので多分コレが正解だろう。


 肝心の本は『精霊魔法に依る炊飯(ライス・クック)魔法の可能性と考察』と言う書名(タイトル)の物だった。


 どうやらこの本の時点で炊飯魔法は完全に確立した物では無いらしい。


「私の記憶が確かなら、この本と同じ研究題材の本は閉架図書の方にも数冊あるんですが、そっちは前に書かれた物でコレは其れ等の論文で言及された内容も含んで居るので、私が知る限りではコレが最新版と言えるでしょうね」


 ……どうやら彼女はこの本も読了済みで、更に閉架に有るらしい過去の論文との差異まで把握して居る様だ。


「それにしても……火元国の方は本当に炊飯魔法に対する情熱が凄いですね。この本を書いた方も借りた方も大半は火元国の方ですよ。ほら……ね?」


 言いながら彼女が指し示したのは、裏表紙の内側に取り付けられた本の貸出カードを入れるポケットだ。


 其処に収まっているカードに書かれた名前は、西方大陸文字では有るが確かに火元人らしい名前の物が多い。


「と言う事は、ソレだけ多くの人がこの本を読んだ上で、未だに炊飯魔法は完成して居ない……と言う事に成るのか」


 温度管理が重要に成る料理なんてのは幾らでも有ると思うんだが……調理の最中に火の勢いを調節しなければ成らないと言うのが特殊なのか? いやそんな事は無いだろう、多分。


「ああ、それと……私の種族的な問題で、若い殿方がそう言う思いを抱くのは仕方ない事だけれども、もう少しだけでも視線を向ける場所を変えた方が良いですよ? 普通は君位の年頃の子には此処まで効果が出ない物なんですけどね?」


『男のちら見は女のガン見』と言う言葉は前世にも有った程に、女性と言うのは自身に向けられる視線に敏感な物で有る。


 どうやら俺が彼女の母性の象徴や安産型のソレに視線が行っては慌てて逸らす……と言う事をして居たのが丸わかりだったらしい。


「私は人族では無く魔族なんですよ。正確に言えば女淫魔(サキュバス)に区分される種族なんです。とは言え、(エロ)本に書かれている様な殿方の精を啜る種族なんて物では無いですけどね」


 曰く魔族と言うのは人族と極めて近しい種族で有りながら、様々な異能を持つ種族の総称で、古い時代にはそうした魔族の異能を指して『魔法』と呼んだ事から、今でも魔族と称されるのだそうだ。


 そして女淫魔と言うのは異性を魅了する能力を持つ女性魔族の事を指すのだと言う。


 ……何処かで聞いた覚えが有る能力だと思ったのだが、ソレって瞳義姉上が持ってると思わしき能力に近い物なんじゃね?


 確か千代女義姉上も似たような能力が有った筈だがあっちは『魔眼』と言うまた別の能力だって話だったよな。


 つまり二人とも恐らく先祖の何処かに魔族が居るって事なんじゃねぇか?


 まぁ……血のビックリ箱とまで言われ、どんな子供が生まれても不思議の無い猪山の者が言う事じゃぁ無いけどな。


 兎にも角にも俺が此処まで彼女に惹かれたのは、一度大人の男として生きた経験が有り、ソレが女淫魔の持つ能力に反応してしまったからなのだろう。


 まぁ馬鹿正直に前世の話を初対面の相手にする訳にも行かず、俺はマセガキだと思われるのを大人しく受け入れたのだった。

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