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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
留学生の生活 の巻

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九百四十四 志七郎、差別と派閥争いを考える事

「さて……お馬鹿さんの事はサクッと忘れて、午後からは皆の階位(ランク)認定試験と法衣(ローブ)の授与を行うわよ。南方大陸(カシュトリス)から来る留学生は多かれ少なかれああ言う手合なのは此方としては解りきってる事だしね」


空気的にも料理の質的にも決して美味いとは言い難い昼食を摂り終えた俺達経験者四人組は、そう言うお花さんに付き従ってドーム球場の様な建物へとやって来た。


先程までの鬼気迫る笑顔では無く、普段通りの無垢な少女の様な笑みを浮かべた彼女は、本気であのイー・ヤン・ミーの事を頭の中から追い出した様に見える。


……先程、食堂で繰り広げられた会話を思い返して見れば、南方大陸の大部分を占める帝国では人間(ヒューマン)以外の種族を蔑視するのが国是とされて居る様であり、そんな場所から来る者は表に出さない程度の良識は有れども根っこの部分にそうした思いを持っていて当然だ。


俺が見聞きした範囲では有るが諸外国と比べて、比較的人種差別や性差別が少なかった日本ですら、関西方面に目を向ければ江戸時代以前に『穢多非人』と呼ばれた者達が、未だにその血筋を理由に差別を受けている……と言う話を聞いた覚えが有る。


他にも地元だった千薔薇木県でも、俺が死ぬ前位には徐々に増えてきていた外国人のコンビニバイトに対する蔑視の様な物を向ける人が居なかった訳では無い。


ソレに……捜査四課(マル暴)に居れば、特定の学校を卒業した者が結構な割合で暴力団(ヤクザ)に身を堕としている事を、数字こそ明確にはしていなかったが、肌感覚としては理解していた物だ。


アレも結局の所は『真っ当な所に就職出来ない』と言う学校差別の様な物が有ったが故の事だったのだと思う。


そして諸外国に目を向ければ、先進国と呼ばれる国程、人種差別反対とか女性差別撤廃とかそうした自由主義(リベラリズム)運動が活発だったが、裏を返して見ればそうした活動が必要な程に人々の無意識に差別意識が刷り込まれていると言う証左だったのではなかろうか?


「ちなみに此処ワイズマン・シティは割と寛容な方だとは思うけれども、西方大陸(フラウベア)に種族差別が全く無いって話でも無いのよ? 特に私達森人(エルフ)は神々に依怙贔屓されてる種族って見ている獣人族(ビーストマン)は割と多いしね」


全く陰りの様な物を感じさせない表情(かお)であっさりそう言い切る、多分彼女からすれば差別(ソレ)は有って当たり前の物で有り、ソレで一々腹を立てていたらキリがないと言う事なのだろう。


そしてソレは同時に『本気で腹を立てたら相手の国ごと焼け野原にする事が出来る』と言う『強者の余裕』も有るのだと思う。


実際、氣の深奥を極めたお祖父様の様な例外を除けば、どう頑張っても百年生きれば御の字である人間と、そもそも寿命と言う物が無く八百年生きてやっと老化の兆しを見せ、千年生きた辺りで眠る時間が増えてくると言う森人では生きてる時間が違いすぎる。


しかし同じ程度の才能を持つ人間と森人が同程度の努力をした場合、人間の方が習熟が早いとかそう言う事は無く、費やした時間に比例した結果しか出ないのが普通だと言う。


と成れば当然、人間の十倍近く努力し続ける時間が有る森人は圧倒的強者と成る者が多い種族だと言えるだろう。


そう成っていないのはソレを恐れた人間や獣人族等、他の種族が森人を虐殺した過去が有るからだ。


ソレこそ神話の時代の話で永い時間を生きる森人の中にすら、その頃を直接経験した者は誰一人として生きては居ないらしいが、最初期の神々はソレを目の当たりにしており、森人を世界樹に集め自分達の世話役として取り立てる事で守護したのは事実である。


対して獣人族や獣耳族(ビースチャン)も氣を纏わぬ人間に比べれば、圧倒的に高い身体能力を持ち強い種族だった事は間違い無く、彼等が多数派(マジョリティ)である北方大陸(ロドム)以外では差別的な扱いを受ける事が多いらしい。


世界の区分的に火元国が属する東方(龍鳳)大陸でも、北部を占める鳳凰武侠連合王国の前身である鳳来(ほうらい)帝国時代には、苛烈な獣人族差別が有ったと言う。


逆に南部の龍人王国では竜人(ドラゴニュート)と言う獣人族の一種が人口の半数を占めて居り、彼等と人間以外の種族は殆ど見かけない程には種族に偏りが有るそうだ。


その辺の理由に差別云々が有るのかどうかは分からないが、そんな所に他種族が行けば日本で電車に白人や黒人が一人で乗っている位に目立つのは間違いないだろう。


「じゃぁ試験の説明をあっちの……「素直にオバさんで良いわよ、アタシは貴方から見りゃ小娘の範疇かも知れないけど、人間って種族の中ではもう良い歳なんだから」オバさんから受けて頂戴ね」


と、本当に芝が張られていない野球場と言った趣の空間に入り、丁度キャッチャーが居るであろう辺りに来た所でお花さんが、三十路みそじを少し越えた位のふくよかな女性を掌で指し示しそう言った。


「アタシはアン・サーディン、この精霊魔法学会スペルアカデミーに所属する最上級魔術師 (エルダーウィザード)の一人で『水没』の二つ名を持つ者さ。この婆さんとは会派が違うから忖度無しで審査させて貰うよ」


人種的には黒人系に見える肌色では有るが、単純に地黒だったり日焼けだったりする可能性も捨てきれないので断言は一寸難しい。


まぁ……洋画に出てくるテンプレート的な『ふくよかな黒人女性』を想像(イメージ)すれば大きく外れはしないだろう。


二つ名から察する事が出来るのは、得意として居るのが水の単属性の魔法だと言う事位か?


しかし最上級魔術師を名乗り、その証で有るお花さんの纏う真紅よりは少し浅い赤の法衣を身に着けている以上は、複合属性が使えないと言う事は無い筈だし、単純に『最も得意なのが水属性』と言うだけなのだろう。


「師匠筋で有る私が採点する様な事をしたら、弟子に甘い点を付けたとか余計な疑惑が出る事も有るからね。だから必ず誰かの弟子が階位認定を受ける時には、別会派の上級魔術士(ウィザード)以上の者が審査する事になっているのよ」


ああ……うん、確かに有りそうな話だ、特にお花さんは長命種だけあって弟子の数は膨大だし、午前中に紹介された学閥の人達だけでも両手の指で余る程に高い地位に座る人が居た。


そうした人達が『お花さんの直弟子だから』と忖度する様な事をすれば、精霊魔法学会と言う組織其の物を彼女が私して居ると考える者も出てくるだろう。


故に別会派の者が審査員を務めると言うのは合理的と言える、だが『三人寄れば派閥が生まれる』と言う言葉がある通り、敵対派閥の者が審査をして不当な点数を付けられる様な事は無いのだろうか?


そう考えて、直ぐにソレが馬鹿なやり方なのだと思い至った、敵対派閥の学生に対して必要以上に辛い点の付け方をすれば、自分が受け持つ学生が同じ様にやり返されるだろう事は容易に想像が付く。


少なくとも教育者同士の派閥争いに学生を巻き込み、不利益を与える様な馬鹿はこの学会で長く権力の座に付く事など出来る筈が無い。


なんせそんな真似をすれば、学会の最長老であろうお花さんに物理的に排除される未来が待っているのは余程の阿呆で無い限りは思い至る事が出来る筈だ。


ああ、そうか……サーディン師が言った『忖度無し』と言うのは、良い意味でも悪い意味でも魔法の出来以外の物を評価に含めないと言う宣言だった訳か。


「此処は大魔法をぶっ放しても周辺に被害が出ない様に、様々な魔法を組み込んだ施設でね。とは言え流石に隕石落とし(メテオ・ストライク)流星群(メテオ・スウォーム)程になるとぶっ壊れるから……まぁ初回の審査でそこまで使える子は居ないとは思うけどね」


うん、四属性複合の時属性の中でも最上級の攻撃力を誇る大魔法なんか、俺達の誰も使える訳が無い。


「取り敢えず其々使える最大級の攻撃魔法と、その次に私が指定した補助魔法を精度や持続時間を見るからね、じゃぁ順番に審査していくわよ」


言いながら彼女が指を鳴らすと、黄色いオーラの様な物が立ち昇り、それから三塁辺りに的に成るだろう大きな土人形アース・ゴーレムが立ち上がったのだった。

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