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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
留学生の生活 の巻

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九百三十九 志七郎、山人を知り刑罰を考える事

 学長への挨拶が済んだならば、次は学会(アカデミー)内での活動拠点と成るであろうお花さんの研究室へ……と思ったのだが、彼女が直接教鞭を取っていたのは昔の話で、今は実地調査(フィールドワーク)と称した冒険者活動の方が多いらしく固定の研究室は持って無いらしい。


「お主等が御師匠の新しい弟子か、儂はこの研究室(ラボ)の主で『赤熱』の二つ名を持つ最上級魔術師(エルダーウィザード)のブラック・カープじゃ。こんな(なり)じゃが御師匠よりは若いからの、そこんところヨロシク」


 代わりに案内されたのは高弟の一人で有り、学会の中でも重鎮と呼ぶ事が出来ると言う山人(ドワーフ)の老人が詰めている研究室だった。


 山人はその宛てられた漢字の通り、本来は山の奥深い所で鉱山なんかを掘り暮らす妖精に分類される種族で『鉱山妖精』とも書くと言う。


 目算で五尺三寸(約160cm)位の身長であるカープ師が山人の中では可也大きい方だと言うのだから、人間から見れば小人(こびと)と称しても不自然は無いだろう。


 彼は丁寧に髭や髪の毛を整えている上に身に纏っているのが魔法使い然としたローブなので、前世(まえ)の世界の御伽噺に出てくる『魔法使いの老人』を思い描くとその姿は大体掴めると思う。


 とは言え山人と言う種族本来の姿は、耐熱性に優れた髪の毛と髭で全身を覆った『毛の塊』とでも言うべき姿らしく火元国では『毛羽毛現』と言う妖怪に、外つ国でも『バグベアー』と言うモンスターとしばしば混同されてきたと言う。


 その為、近年では山人しか住まない様な鉱山と鉄工の里以外では、髭と髪を切り人に類する姿で活動する様に成ったのだそうだ。


 ちなみに山人も森人(エルフ)同様に寿命で命を落とす事の無い長命種族なのだが、森人が比較的若い姿で一生の大半を過ごすのに対して、山人は人の目から見ると老人にしか見えない様な姿に成ってから更に永い時間を生きる種族らしい。


 とは言え老いるのは飽く迄も見た目だけで有り、その身体能力なんかは加齢に因って衰える事は無いと言うのだから、定命の者から見れば羨ましい限りで有る。


 なお山人は女性も手入れをしなければ毛むくじゃらに成ると言う点は変わらず、毛を剃り落とした中身は多少個人差は有る物の、比較的若い……と言うか幼い姿をして居る事が多い合法幼女(ロリ)とでも言うべき姿だそうだ。


 ただ……山人の中では男女共に『立派な髭を蓄えた者が魅力的』と言う価値観が有るらしく、髭の無い女性山人を見る機会はソレこそ何らかの理由で娼館に入った者位しか居ないと言う。


「その娼館云々の下り……要りました?」


 山人と言う、火元国には殆ど居ない種族に付いて解説してくれるのは嬉しいが、この場に居るのは俺と武光だけで無く、(ラム)とお忠と言う幼い少女も一緒なのだ、そうした繊細(センシティブ)な話は控えて欲しかった。


「ぬ? 大事な話じゃよ? なんせ其奴は禿河の末裔(すえ)なんじゃろ? どーせ、何処かで女絡みの騒動に巻き込まれるんじゃ、相手が同年代の娘だと思ったら年増な山人の娼婦だった……なんて事もあり得る話じゃしの」


 ……聞けば彼の祖父の妹が家安公と懇ろな関係に有ったそうで、その縁も有って禿河の血を濃く引く者が女性を引き付ける性質を持つ事を知っているらしい。


「な、なななな……なんの事だ? よ、余は徳田(とくだ) 武光だ! 禿河等という高貴な家の者ではななななな無い」


 吃り過ぎである、ついでに言えば視線も泳ぎ過ぎだ、その様子を見れば尋問や捜査の経験が無い者でも嘘を吐いて居る事は一発で分かるだろう。


「流石に上層部と私の一門でも高弟と呼べる連中には話回してあるわよ、貴方の御父様みたいな事に成って猪山に累が及ぶのは私としても避けたい話だしね。とは言え、嘘を吐き通す程度の演技力は身に着けて貰わないと駄目っぽいわねぇ」


 溜息混じりにそんな指摘を返すお花さん。


 うん、あの慌てふためいた様を見せられたら、隠し事を共有する身としては不安に成るのは当然の事だろう。


 武光の奴は習ったり学んだりした事は、人よりも圧倒的に早く身に付ける事の出来る万能の秀才とでも言うべき才能の持ち主では有るが、嘘を吐き通すと言う全く慣れて居ない行為は丸で駄目駄目だった。


「流石に今のは……」

「オラ達でも擁護出来ねぇだよ……」


 武光に忠実なお忠と蕾の二人すらもが呆れ混じりの顔でそう言うのを見て、武光は絶望したかの様な表情で俺を見る。


「……武光、演技の勉強もした方が良さそうだな」


 俺の台詞がトドメに成った様で武光は膝から崩れ落ちると両手を地面に付いて落ち込むのだった。




「とりあえず私が居る時は良いとして……私が居ない時には貴方達四人は基本的に此処を学会での活動拠点として頂戴な。ブラック君も火と土それにその複合である熱属性に関してはイカちゃ……ワイズマン学長と同等の実力者だから困った事が有れば相談しなさい」


 武光が復活するまで少しの間待ってから、お花さんがそんな言葉で此処へと案内した理由を説明する。


「あとは儂の娘の旦那が市議会で議員をしておってのシーフー党には顔が効く。ポテ党の連中と揉めても手を回す事は出来ぬが、シーフー党の賛同者(シンパ)騒動(トラブル)に成りそうなら先ずは儂に話を通す様にしてくれ」


 彼もまた魔法学会の関係者らしくシーフー党寄りの立ち位置らしい、いや学長が単純な支持者なのに対して彼は完全に身内なんだな。


 そしてこの場合、シーフー党の賛同者と言うのは恐らくは犯罪組織(ギャング)であるミェン一家(ファミリー)の事を指しているのだろう。


 党派性では魔法学会とミェン一家は同じくシーフー党支持と共通して居るが、ソレは飽く迄も双方共に首脳陣(トップ)の話で、学生連中や一般構成員(チンピラ)達までそうした思想や理想を共有して居る訳では無い。


 故に学生とミェン一家の下っ端が揉める様な事は決して多くは無いが、全く無いと言う訳でも無いらしい。


 とは言え、何方もある程度の実力者は更なる成長を求めて冒険者としての活動に身を投じて行くのが普通なので、そうしたくだらない喧嘩騒ぎを起こすのは本当に下っ端も下っ端な連中ばかりだと言う。


 それでも此方では銃器が規制されていない為、一寸した喧嘩でぶっ放す馬鹿が出る事も有るのだそうだ。


 そうしたくだらない喧嘩が発端で命を落とす学生は、数年に一度有るか無いか程度の頻度でしか無いが、やはり絶対に無いと断言出来る程では無いと言う話だ。


 魔法学会側は生徒が害されたからと言って報復に走る様な真似は出来ないが、逆に犯罪組織側は構成員が殺される様な事が有ったならば、組織を上げて下手人に復讐するだろう事は他の犯罪組織との抗争から容易に想像が付く。


「一応、シーフー党経由で無闇に学生と揉めぬ様にあっち側の(トップ)から下に話は行っているのじゃが、頭に血が昇った若い衆はそうした事をスパーンっと忘れちまう事が有るからのぅ」


 かと言って魔法学会側としても一方的に泣き寝入りすると言う関係では無く、下手な事をすれば実力の有る魔法使いが出張って来て組織をまるっと消し飛ばされる可能性が有る事を先方の頭も重々承知して居る訳で……。


 お花さんの様な世界でも上から数えた方が早い様な実力者を、簡単に敵に回して良いと考える程度の思考回路しか持たない様では犯罪組織といえど頭は務まらない。


 なのでカープ師の言う通り他の犯罪組織を相手にする以上に、学生相手に軽々しく揉め事を起こすな、とは言われていると言う。


 問題はこの国には前世の日本の様なきっちりとした捜査機関が無く、犯罪者の処罰に関しても向こうの世界の感覚……いや、火元国の感覚からしても甘いと言わざるを得ない。


 なんせ大量殺人でもしたなら兎も角、喧嘩の末の逆噴射で人を殺めた程度ならば、暫く軍隊で最前線務めをして規定の罰金分働けば無罪放免とされるのだ。


 とは言え、前線勤務は相応の実力者で無ければ命懸けの仕事で、懲役を無事に終える事が出来ずに命を落とす事も稀では無いと言う。


 勿論、犯罪組織同士の抗争で犯罪者と成った者や、その他の犯罪行為が明るみに出た事で、懲役刑を受ける者も居るがソレも多くの場合は軍役が課されるのが通例なのだそうだ。


『斬首』『死罪』『火罪』『獄門』『磔』『鋸引き』と六種類もの死刑を制定して居る火元国と、基本的な刑罰として死刑が無く上から下まで大概の罪が軍隊送りで済んでしまうこの国とどっちが良いのかは分からない。


 しかし見聞きして居る限り、十倍の人口を抱える江戸の方が治安が良い様に思える辺り、死刑と言う刑罰が持つ『抑止力』は決して小さな物では無いのではなかろうか?


「まぁ……貴方達の場合、喧嘩に成っても相手を殺さない様にって注意するべきなのかしらね? 冒険者の上位連中は兎も角、犯罪組織の下っ端はソレこそ町人の鬼斬者よりもか弱い癖に粋がってる連中だからね」


 ……この渡航団で留学して来た連中の中に、鬼や妖怪を相手に実戦経験が無い者は一人も居ない、その事を考えるなら確かに此方が加減を考える方が建設的なんだろう。


 とりあえず帰ったら、初心者組の纏め役になっている右近(うこん) 國満(くにみつ)殿ともその辺の事を話して置く必要が有りそうだな。


 精神的にはこの留学団の最年長者として、全員が無事に帰れる様に心配りをするのも俺の役目なのだろう……と、改めて心に誓うのだった。

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