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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
遥か遠き西方大陸 の巻

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九百十六 志七郎、言葉と文化の違いを学び決意を固める事

 留学希望生に向けた特別授業は、当初は次学年度の進級試験を先取りする内容をやる筈だったのだが、其れが今回の大惨事を受けて少しでも早く多くの術者を、幕府の傘下に置きたいと言う話に成った結果、其れとは別に外つ国の事情をより詳しくやる事に成った。


 のだが……ぶっちゃけ俺はお花さんに師事し始めた当初から精霊魔法学会(スペルアカデミー)へ、短期留学を予定した授業内容カリキュラムで学習して居た為に、割と今やっている内容は今更の話なんだよな。


「西方大陸と北方大陸に南方大陸、そして世界樹の神々が住まう中央の諸島では何方も表音文字と言われる種類の文字が主流で、火元国や東方大陸で使われる漢字の様な表意文字は実の所割と珍しい存在だったりする」


 特に西方大陸(フラウベア)語は、前世(まえ)の世界の英語と比較的似ている為、向こうで捜査研修の為に度々海外へと出た身としては日常会話程度ならば問題無い範囲で身に付いている。


 流石に専門用語も混ざる様な学会での授業を丸っと向こうの言葉で受けると成ると苦労もするだろうが、それでも今回の一件が無ければ外つ国へと出る事も考えて居なかった、他の者達と比べれば雲泥の差と言える筈だ。


 まぁ語学は頭でっかちに覚えようとするよりは『習うより慣れろ』の精神で、拙い言葉でも積極的に発言し伝わらない部分は肉体言語(ボディランゲージ)を交えて伝えようと努力すれば割と何とか成る物だと思う。


 なんせあの脳味噌まで筋肉で出来ている様な人種で有る義二郎兄上ですら、家臣の外つ国人と北方大陸(ロドム)語で普通に会話が出来る(レベル)に決して長いとは言えない期間で習熟して居るのだ。


 多言語会話能力者(マルチリンガル)と言える程に身に着けると成れば相応の苦労も有るだろうが、二言語会話能力者(バイリンガル)までならば成して為せない事は無いだろう。


「各地へと向かう船の中では可能な限り先方の土地で使われる言語をしっかりと学ぶ必要が有る。会話が出来ずとも筆談程度は出来なければ、向こうの土地で見世を利用するにも看板も暖簾も読めないでは話にも成らんからな」


 とは言え、火元国は向こうの世界の日本と同様に、余程の理由が無ければ態々外つ国へと出ていかずとも生活が成り立つ上に、火元(日本)語だけで高等教育まで行える極めて特殊な言語だ。


 向こうの世界でも小中学生辺りから学校で英語の授業をきっちり受けても、英語での会話能力が殆ど育たないのは、やはり生活上で切実に英語を必要とする者が多数では無いと言うのが大きいだろう。


 南方の某国へ捜査研修に行った際、会話は其の土地の言語では無く英語で通す事が出来たが、其れはその国の言語で高等教育が行われておらず、知識階級と呼べる学力を得るには英会話が最低条件だったからだった。


 向こうの世界では所謂『先進国』と呼ばれる国以外では、自国語で高等教育を受ける事が出来ると言う事自体が特殊なのだと聞いた事が有る。


 俺自身、向こうの世界で英会話がある程度身に付いたと言えるのは、警察官として交番勤務をする傍らで其の後の昇進に有利に成るかと考え駅前に有った全国展開の英会話教室に通い続けた結果だ。


 実際の所、交番勤務中に外国人の方と接する事で上司に英会話能力を認められ、捜査一課の者達と一緒に海外への捜査研修に連れて行って貰えた事が、後に捜査四課への転属と課長昇進の足がかりと成ったのは間違いないだろう。


 ……なお、西方大陸語の会話を然程苦労せずに身に付けた時点で、お花さんの授業では北方大陸語も学ぶ事に成っている。


 彼女曰く『西方大陸語が解れば北方大陸語も南方大陸カシュトリス共通コモン語も世界樹(ユグドラシル)語も学ぶのは然程難しい事では無い。但し東方大陸だけは言語形体が全く違う上に複数の言語が入り乱れているので学ぶのは無理無茶無謀』だそうだ。


 習って居る範囲で聞いた感じ、語感は西方大陸語が英語に近く、北方大陸が独語が、南方大陸共通語は伊語が、そして世界樹語は仏語に近い様に思えた。


 今回の留学で向かうのは精霊魔法を学ぶ者は西方大陸へ、錬玉術を学ぶ者は北方大陸へと向かう事に成るが、万大社からも相乗りで世界樹諸島へと向かう聖歌使いも何人か居るらしい。


「向かうのが東方大陸ならば、古典文書を扱うのと同じ感覚で筆談は先生も出来るが、中央言語の変化型が主に使われる北方大陸や西方大陸の言語は先生も完全に理解しているとは言い難い」


 東方大陸や南方大陸に行く者が居ないのは、其々の土地に特有の術が無いからと言う訳では無く、前者には道士タオシー竜師ナーガ・ラジャと呼ばれる術者が、後者にも星霊魔法(アストロジー)騎士魔法(ナイツマジック)と呼ばれる物が存在して居る。


 けれども東方大陸は火元国と地理的に近い事もあり古くから交流が有る為、陰陽寮(おんみょうりょう)でも其れ等を学ぶ事は難しく無い為に態々留学の必要は無く、南方大陸は皇帝の座を巡る戦乱が長年続いている関係で留学先としては不適当と判断されたのだ。


 ちなみに道士が使う道術(どうじゅつ)や竜師が使う竜術(ナーガ・ロア)と呼ばれる魔法は、火元国でも其れ也に使い手は居るが、殆どは陰陽術の一部と言う扱いを受けていたりする。


 より正確には陰陽術師の中に道術や竜術を専攻して習得している者も居る……と言う方が実情に近いかも知れない。


 感覚的には錬玉術師から義肢師が派生した様に、陰陽術師から道士や竜師に派生するのが火元国流と言う感じだろう。


 陰陽寮の(トップ)で有る安倍陰陽頭(いんようのかみ)は当然ながら、道術や竜術にも精通して居る必要が有る為、安倍家への婿養子入りが決まっている信三郎兄上は当然其れ等を身に着ける必要が有る。


 京の都から兄上の師として出向してくれて居る矢部野彦麻呂様は、陰陽寮の中でも優れた道術の使い手に与えられる『道術博士』と言う称号を持つ術者で有り、竜術の方も一端と言える程度には使えると言う優れた術者だ。


 そりゃ次期陰陽頭の師匠に成るんだから、陰陽寮としても半端な者を送って来る様な事はしないだろう。


 そして件の矢部野様も今は信三郎兄上に修行を付ける以外の時間を使って、此の志学館で教鞭を執って居たりするのもまた『術者育成の令』の成果と言えるかもしれない。


「重ねて言うが言葉が十全では無い状態では如何に納得が行かないとしても『其の土地の法や道理に従え』外つ国ではお前達は飽く迄も異邦人なのだ。ましてや言葉も碌に通じない者を庇うお人好しは然う然う居らん」


 おっと……今先生が割と大事な事を言ったぞ。


 前世の世界でも英語は世界共通語だと考え、英語さえ出来れば何処でも大丈夫! なんて考えで来日して来る外国人観光客は割と居た。


 けれどもそうした者に対応出来るのは大都市圏の一部だけで、田舎の方に行けば行く程に警察なんかの公務員ですら、碌に英語が理解出来ないなんて事はザラだった。


 その上で真っ当に法律に従い問題を起こす事無く生活や観光をして居るだけならば良いのだが、塵芥(ごみ)の出し方なんかの地方独自の取決め(ローカルルール)周りで問題を起こした者の話は決して少なくは無かった印象が有る。


 特に生活習慣や衛生習慣なんかの違いは顕著で『外国人に部屋を貸すと退去時に酷い事に成る』なんて理由で、暴力団員以上に外国人はお断りと断言して居る不動産所有者(オーナー)の話は何度も耳にした。


 勿論、外国人と一口に言っても日本の文化を尊重し、日本での生活に馴染もうと努力する者の方が多かったとは思うが、一部の自分達こそが世界標準グローバルスタンダードだ……と言わんばかりに母国流を貫く者が居るのが問題なのだ。


 分かりやすい例としては靴の問題が上げられるだろう、日本の住宅は基本的に靴の儘で部屋に上がる事を想定した作りには成っていない、にも拘らず土足での生活を押し通せば床や畳が痛むのは当然の事だろう。


 其の後真っ当に修繕する事が出来て其の費用もきっちり支払われたならば問題も少ないのだろうが、そう言う文化違いの者が住んだ部屋は多くの場合『原状回復費用』がとんでも無い額に成り、其れを払う事無く逐電してしまうのだと聞いた事が有る。


「後は……外つ国じゃぁ草鞋は早々手に入らんからな、向こうに着いたら先ずは靴を仕立てるのが良いそうだ。東方大陸以外の外つ国では寝台に入る時以外は基本的に靴を履いたままで生活するのが常識だそうだから水虫には気を付けるんだぞ」


 火元国で水虫は田仕事をする農民の病気だと言う印象が強いらしいが、確かに素足に草鞋が基本で風呂に入る時位しか足を濡らさない江戸市街地に住む武士ならば早々感染する事も無いだろう。


 ……前世の俺は警察学校の風呂場の足拭きマットから感染して、其の後は仕事中はずっと靴を履く生活をして居た事もあって死ぬまで治らなかったからなぁ。


 幸い今生では未だ白癬菌を貰っては居ないし、西方大陸で靴を履く生活をして居る間に感染しない様に気を付けよう……先生の言葉に俺はそう固く固く心に誓うのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 襲われ易い環境&所謂土間での雑魚寝が庶民の常識ですからね~ 後宿泊まっても靴盗まれるから脱がなかったと聞いた覚えがww
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