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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
家臣の初陣と辻斬り の巻

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八百九十八 志七郎、九死に一生を得て厄介に目を付けられる事

「くかかか! 甘露! 甘露よのう! 若者の氣は実に美味い! 御主の氣は濃い薄荷が喉と鼻を貫く様だ……この儘氣を吸い殺すだけでも十年は若返りそうだ!」


 鍔迫り合いで鎬を削り志摩が応援を連れてくるまで粘るつもりで居ると、男は不快な笑い声を上げながらそんな事を(のたま)った。


 何を馬鹿な事を……と、一瞬はそう思ったが刀に込めた氣が確かにじわじわと奴の持つ妖刀に喰われている事に気が付き、慌てて蹴りを鍛える事の出来ない男の急所に向けて振り上げる。


 しかし其れが決まる事は無く、奴は押し込んでいた刀を引いて後ろへと飛び退る事で身を躱す。


「足癖の悪い子供ガキだの、しかし並の子供ならば今の一合撃(ごう)の合わせで枯れ果てる程度の氣は吸った筈だが、如何なる手妻を使っておるのかの?」


 再び霞の構えを取りその切っ先を此方へと向けたまま、男はさも余裕が有る風にそう言い放つ。


 多分奴の言葉に嘘は無い、錬武館で手合わせをする同級生達や志摩辺りならば、鍔迫り合いの間に吸われた分だけでも氣が枯れ果て、其れでも無理に氣を捻り出そうとすれば魂枯れを起こす事に成っていたのだろう。


 けれども俺は錬風業で外氣を取り込む技術を持ち、錬水業で無駄の少ない氣の運用を身に着けて居たが故に、多少吸われたかな? 程度で済んでいる訳だ。


「しかし其れだけの氣を其の小さな身に秘めて居るとはなんと素晴らしい獲物……此の妖刀倭寿繰(わかずくり)に御主の血肉を吸わせれば、儂は何処まで若返る事が出来るのかのう? 萎えて久しいモノが疼く様だわ」


 此の場合は俺と言う稚児に興奮して居ると言う事では無く、若返る事で一物が再び使い物に成る事を喜んでいるのだろう……少なくとも前者は絶対に嫌だ。


「仮にも二つ名を持って呼ばれる身、そう簡単に斬れると思うなよ?」


 油断なく八相に構え直し、援軍が来るまで防戦すると言う甘い考えを頭から捨て去り、何としてでも相手を斬ると言う覚悟を決める。


 鍔迫り合いで刀を重ねただけでも氣を持っていかれたのだ、直接身体を斬られる様な事が有れば氣だけでは無く生命力其の物を喰われても不思議は無い。


 義二郎兄上の片腕を持って行った妖刀の傷だって、傷其の物は大した物では無かったが、妖毒の呪いに侵された事で腕を落とさねば命に関わると言う様な事に成ったのだ。


 奴の手に有る妖刀が同様の妖力(ちから)を持っていないと断言する根拠は何一つ無い。


 と成れば無傷で粘るか倒すかの何方かしか無いと言う事に成るが、相手は此方の氣を吸い生命力を回復すると言っている以上は、長引けば長引く程に此方が不利だと断言出来るだろう。


 そして合わせて四煌戌を召喚し精霊魔法を使うと言う選択肢も捨てざるを得ない、奴が吸うのが氣や人の生命力だけならば良いが、万が一霊獣の持つ霊力すらもが活力として吸い取れると言うのであれば的を増やすのは危険が過ぎる。


 ……そう言う意味では、志摩が呼んでくるであろう猪山藩邸(うち)に残っている若手連中も危険と言えば危険なのだが、平平がきっちり指揮を執れば数の暴力を活かす事は出来る筈だ。


「ほう……二つ名を持つ小僧っ子と言う事は、御主猪山の鬼切童子か! 此れは良い! 貴様を斬れば悪五郎の奴に対する良い意趣返しになろうて。こんな場所で態々儂を咎め立てした事、あの悪党を祖父に持った事、その二つの不運をあの世で後悔するが良いわ!」


 此の爺『悪五郎被害者の会』の会員か何かか!? そんな事が脳裏をよぎるが、そんな事よりもさっさと仕留めないと命が危ない、そう判断し俺は今の自分に出来得る限り最速の一太刀を袈裟懸けに振り下ろす。


 万が一、刀で受け止められても其れを圧し折り諸共に叩き斬る積りで斬鉄を込めた其の一撃だったが、やはり神器に頼らねば不壊の存在で有る妖刀は叩き折る事は出来ずあっさりと止められてしまう。


 が、其れは織り込み済み、二手、三手と相手がどう受け止めどう弾き返すのかを予想し手順を組み立て、八合撃目でとうとう奴の刀を上へと大きく逸らす事に成功した。


「其の首……貰った!」


 大きく仰け反った姿勢では最早受ける事も躱す事も出来ないだろうと、素っ首叩き落とす積もりで薙ぎ払う。


「くかかか! 甘い! 甘いわ! 御主の氣の様に甘い、丸で汁粉のようだわい!」


 しかし……手に伝わって来たのは肉を斬り裂く物では無く、丸で金属でも叩いた彼の様な堅い手応えだった。


 頭から首元までをすっぽり覆う烏賊頭巾の一部が斬り裂かれた下には、鎖帷子の様な物を身に着けているのが見えた、普通ならば其れすらも纏めて叩き斬れるだけの氣を込めた筈の一撃だった。


 けれども奴の持つ妖刀の氣を吸い取る能力(ちから)は、必ずしも刀を合わせた時だけに効果が出ると言う物では無い様で、刀に込めた筈の氣は完全に吸い付くされていたのだ。


 そして奴は左肩を持ち上げ首と肩で俺の刀を挟み込む。


「くかかか! 其の首……貰った」


 下卑た笑い声を上げ、俺が言い放ったのと同じ言葉を口にすると奴は右手一本で妖刀を持ち、此方へと真っ直ぐ振り下ろす、だが……其れが俺に届く事は無かった。


「……天下の往来で斬り合いとは只事では御座らぬな。しかも片方は見知った子供(こども)と来れば大人として、義によって助太刀致すのが当然の事。何処の家中の者かは知らぬが覚悟召されよ」


 通り掛かった着物を着て刀を佩いた狸……浅雀藩江戸家老(うら) 銅鑼左衛門(どらざえもん)が奴の振り下ろした刀を手にした刀で受け止めて居たのだ。


「くか!? おのれ! 薄汚い(あやかし)如きが儂の邪魔をするな!」


 突然の乱入者に苛立つ声で叫びながら、奴は俺の刀を放して距離を取る。


「浦殿!? 助かりました! 此奴は妖刀使いです、刀を合わせるだけでも氣を吸われますご注意を!」


 九死に一生を得た俺は、即座に命の恩人に対して敵の情報を渡す。


「成程……(それがし)も相応の歳故に何度か妖刀使いと相対した事は御座るが、其れ等は何時でも下々の民かうだつの上がらぬ浪人者が一発逆転を狙ってと言う案件だったが、此度は真っ当な侍が腐れ者に身を落としたで御座るか……世も末で御座るな」


 ……浦殿は確か御祖父様より年上だとか聞いた覚えが有るんだが、この辺はやはり種族の差と言う事のなのだろう、足腰に不安らしい物を感じさせる事も無く綺麗な正眼に刀を構えて立っている。


「侍を斬る方が只人を斬るよりも効率良く妖力(ちから)を得る事が出来るのは解った。されど今の段階では未だ複数の侍を相手に立ち回るのは無理だのう。運が良かったの、其の命未だ預けて置く……が、もう少し若返ったならば必ず喰ってやるから首を洗って待っておれ」


 言うや否や奴は袂から何やら黄色い石転の様な物を取り出すと、其れを真上に放り投げる。


 直後、視界を染め上げる眩い白い闇、咄嗟に氣を眼球に集める事で被害ダメージを受ける事は避けられたが、其れでも本の一瞬とは言え何も見えない時間が訪れた。


 直前の台詞を聞けば其の隙に攻撃を仕掛けては来ないとも考えられたが、逆に引っ掛けの可能性も考え大きく後方へと飛び退る。


 幸か不幸か追撃は無かったが奴の姿も何処にも見当たらない、どうやら今の閃光で目を眩ませ、その間にさっさと遁走したらしい。


「御無事で何よりです鬼切童子様、されど厄介な事に成りましたな。あの様子では彼奴は無辜の民を斬り妖力を付け改めて御方を狙う心算で有りましょう。妖刀使いの辻斬りそれも侍とも成れば下手な者が手出しすれば返り討ちは必至、兎角我が殿に報告せねば」


 刀を鞘に戻しつつ浦殿がそう零すが、其の言葉の通り使い手を倒すまでは兎も角、妖刀其の物を破壊するには霊刀や神器と呼ばれる神々から賜った武器を使うか、妖刀が妖力を溜めて化け物に孵化した後に倒すかの何方かしか無い。


 更に厄介な事に妖刀は担い手が倒された場合、破壊されなければ其の刃を目にした者を誘惑し新たな担い手に仕立て上げる能力も有るのだ。


 故に妖刀使いを相手にすると解っている状況では、神器や霊刀の使い手を出馬させるか、其れが居ないのであれば一時的に其れと同じ能力を付与出来る聖歌使いを参戦させるしか無い。


 神職で有る聖歌の使い手は幕府の傘下では無く陰陽寮……ひいては公家の傘下に居る者で、武士だからと言って一方的に命令を出す事が出来る相手では無いのだ。


「此れは完全に幕府案件ですね……猪河家(うち)の父上は国許なので、申し訳無いですが浦殿から叔父上経由で上様に報告をお願いします」


 留学前に余計な厄介事に巻き込まれたなぁ……とそう思いながら、志摩を先頭に此方へと向かってくる我が家の家臣達に、なんと説明するのか頭を悩ませるのだった。

今週末、土日に掛けて泊りがけの用事が有る為、次回の更新は月曜深夜以降と成る予定です

先週に続いて更新が伸びる事、真に申し訳ありませんが、ご理解とご容赦の程宜しくお願い致します

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― 新着の感想 ―
[良い点] これで吸収限度無かったらヤバいですね
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