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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
神仙そして覚醒 の巻

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七十五 志七郎、子供を打ち負かす事

「これは果たし合いではなく、飽く迄も稽古の一環。決して後に遺恨を残すような事無きように……。双方構え!」


 この道場は子供たちだけが使う場所では無く、当然のことながら稽古をしていた大人達も居れば、それらを指南する者も居た。


 騒ぎを聞き付けてやってきた幕府指南役は双方の言い分を聞いた上で、俺が口にした通り暴言を吐いた少年との立会を認めた。


 その際に彼は俺に意味有り気な視線を送って来たので、俺がどういう意図でわざわざこんな勝負を挑んだのか理解できていたらしい。


 確かに子供に子供と侮られた事は腹立たしい事では有るが、その程度の事は子供の言う事だと流せる程度の事だ。


 だが目の前の少年は流す事の出来ない2つの間違いを犯しているのだ、俺は年長者・・・としてそれを彼に教えなければ成らないそう考えたのである。


 さて、彼の犯した過ちに着いては後で指摘するタイミングが有るだろうが、それを考えて居て遅れを取ってしまえば話にも成らない。


 俺はいつも通り八相の構えを取る、相手は基本に忠実と言う事なのか切っ先を此方に向けた正眼の構えだ。


 互いの間は概ね3メートル、大人であれば互いの切っ先が触れ合う程度の距離であろうが、双方共に子供の身体で、使っているのも体格に合わせて寸を詰めた木刀である、少々距離が開いていると言えるだろう。


 開始の合図が出るまでに、少しでも相手の技量を探るため氣を瞳と耳に集める。


 そうして見てみると構えた腕には力が入り木刀は小さく震えており、その呼吸も氣功使い特有の深く長い息使いでは無い、足元は袴で見づらい所では有るが、それでもやや左に重心が寄っている事は見て取れた。


 微妙に歪んだその立ち姿から見る限りでは、よく稽古を積んではいる物のその腕前は歳相応の範囲を超えていない様に思える。


「いざ、尋常に……始めぇい!」


 先手必勝! と考えての事だろうか、合図の声が上がると同時に相手は素早い足運びで踏み込み木刀を振り上げた。


「せぃやぁぁぁぁー!」


 その踏み込みは事前に見取っていた技量よりも随分と鋭くそして淀みがない。


 思ったよりは腕が立つようだが、それでもやはり子供の腕前に過ぎない。


 俺は左足を引き半身を翻し、振り下ろされる木刀を躱す。


 俺の頭が有った場所を真っ直ぐに振り下ろされた木刀はそのまま地を叩く。


 随分と力の篭った一撃だが、これは俺が躱すなり受け止めるなり出来ると踏んで繰り出した物か、それともその一撃で俺を殺めるつもりだったのか。


 どちらにせよこの少年は、なぜこうして戦う事に成ったのかを理解していない様だ。


 やはり、多少痛み目を見せてやらないといけないらしい。


 先ずは一手目、地面を打ち一瞬動きの止まった相手に、十分に手加減をした蹴りを打つ。


 この一発で勝負を决める事も出来たのだが、それでは彼に教訓を残す事は出来ないだろう。


 腹を蹴られ、二歩、三歩とよろめく様に後ずさったが、それで倒れる事は無く此方を見て再度構えを取る。


 二人の間は双方が腕を伸ばして切っ先が触れ合うよりもほんの少しだけ遠い、そんな距離だ。


 今度は此方が先手を取らせてもらう、狙うのは正眼に構えた相手の木刀その切っ先で有る。


「チェストー!」


 氣こそ乗せては居ないものの全身全霊を込めた一刀で、相手が構えた木刀を打ち据えると、木と木がぶつかる鈍い音が響き、少年はその衝撃に耐えられなかった様で木刀を手放した。


 地に落ちた木刀を踏みつけ拾わせない様にしつつ、更に相手の頭目掛けて振り下ろす。


「勝負有った! そこまで!」


 ピタリと眼前3センチ、綺麗に寸止めした所でそんな声が上がった。




「鬼切童子殿が温和な方でよかったの。相手が相手で有ればその額、叩き割られておったぞ」


 俺が木刀を引くと、審判を務めてくれた指南役の老臣はそう咎める様に言い、その場に居る子供達を見渡した。


 ここに居るのは皆が皆武家の子弟である、武士と言うのは見栄と面子が何よりも重いと幼い頃から言い聞かされて育ってきたはずだ。


 特に武名、武功を軽んずる発言はそれを成した本人以上に、その者が所属する家を軽んじていると見なされる事も多い、武名や武功を喧伝するのはその家の者だからだ。


 もしも相手が俺ではなく義二郎兄上であれば、彼の言葉通りその額を叩き割った上で稽古中の事故と主張し、恐らくはそれが認められただろうし、指南役殿が気を利かせて居なければ、この立会自体が稽古ではなく果たし合いとして扱われた可能性もある。


 子供の言う事と流す事を良しとしなかったのは、それをすれば猪山藩猪河家が俺に有りもしない武勇を喧伝したと言う汚名になった可能性もあるのだ。


 今この場にいる子供達を通してこの話が家に知れれば、下手をすれば我が藩と他藩、幕府との間に亀裂が入る事になったかもしれない。


なりは確かに御歳相応の幼き身なれど、よくよく見れば軸の立った足運びに氣を纏う呼吸と、その業前わざまえを見るまでもなく優れた武勇を誇るのは明らかであろう。彼我の実力差も解らず喧嘩を売るのは愚か者の所業ぞ」


 そしてもう一つの理由も彼が言ってくれた通りである。


 恐らくは俺の見立て通り彼らはまだ初陣を経験していないだろう。


 もし俺とこうして立ち会わず、そのまま小鬼の森にでも行けば『あんなガキでも倒せたのだから俺達ならば……』と敵を侮り無用の怪我を、下手をすれば命を落とす事も考えられる。


 それら二点の過ちは決して許し難い物と言う訳ではないが、許してしまう事で彼らの将来に何らかの危険を残してしまったかもしれないのだ。


 それ故に俺は一罰百戒では無いが、一人を叩きのめす事で他の皆全てにこの事を教訓として欲しかったのだ。


 どうやら指南役殿も俺の態度対応から、そのことを読み取り合わせて行動してくれたらしい。


「しかし流石は武勇に優れし雄藩のと謳われし猪山が子弟。幼きその身ながら見事な業前でござった。貴殿の兄、鬼二郎殿は人並み外れた体躯も有り見た目通りの強者つわものであるが、貴殿の見た目に騙される者も多かろう」


 見ている内に子供達への叱責は一通り終えたらしく、今度は此方へと視線を向けてそう口にした。


「全ては父兄の指導の賜物にございます。剣腕には些か自信が着いて来ましたが、それ以外はまだまだ至らぬ所ばかりです」


 儀礼半分本音半分で俺はそう答えを返す、父兄の指導とは言ったが剣の腕に関しては前世まえに受けた曽祖父の指導と、その後の稽古の賜物と言うのが本当の所だろう。


 無論、前世持ちだという事はわざわざ喧伝するべき事では無いので、その事を口にしたりはしない。


「では、自分は通りがかっただけですので、そろそろおいとまさせて頂きます」


 そもそも見咎められなければ、ただ通り抜けるだけのはずだったのだ、俺はそう言って当初の予定通り南側へと足を向けようとした。


「一寸待った! そのガ……鬼斬童子殿が俺達より強いのは先程の一合で解りました。では、師範と比べてどれ程の強さが有るのでしょうか?」


 だが、それに待ったを掛けたのは先程と同様、雑賀少年であった、しかもそれは更に過激で余計な発言による物に思えた。


 たぶん今度は俺と指南役を立ち会わせて、俺を凹ませようと言う魂胆なのだろう。


「ふむ……、恐らく技量だけで有ればワシと同等程度は有ると思うぞ。流石に大人と子供、手足の長さや体力の差で、ワシが負けると言う事は無いとは思うがの」


 けれど指南役殿はその言葉に一寸片眉を上げただけであっさりとそう答え、更に言葉を続ける。


「神々の加護を受けて生まれた子供は、生まれながらに一人前の技量を持っておる。それを更に伸ばす努力を惜しまねば、幼き子供が達人と呼ぶに相応しい腕前を持つ事もそうそう珍しい事でも無い」


 そこまで言ってから一度言葉を切り、一呼吸溜めを作りそして改めて口を開いた。


「だが、如何に優れた才を持とうとそれを伸ばす努力をせねば、ただの持ち腐れじゃ。それに神の加護が非ずとも修練を重ねれば、決して追いつけぬ物でも無い。今日は負けたかも知れぬが、次に対峙する時には勝てる様修練することじゃ」


 これは、またこの子達と立ち会う事に成りそうだ……、まぁ後進? を育てるのも稽古の内かもしれないけれど。

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