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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
国許の危機と盗賊団 の巻

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六百九十一 志七郎、夜更しをし最強の化け物を知る事

 錬玉術と精霊魔法の併用に依る、作業の効率化が上手く機能した結果、完徹前提だった作業は日が昇るより多少は早く終える事が出来た。


「すげーの! 技術革新なの! 真逆、別の術を併用するなんて無茶が通るなんて思ってなかったの! つか……志七郎(ししちろー)君なんだってそんな無謀な真似しようと思ったの? 下手すりゃ魂枯れ果ててくたばるまであるの」


 氣や魔法、術に聖歌等々、この世界には前世(まえ)の世界には無い……いや表には出てきて居ないが多分有ったんだろう、兎角一般的には『無い』とされていた超常の能力(ちから)は様々有る。


 だが其れ等全ては、基本的に肉体の強さに依らず魂を源泉とした力を、それぞれの形に変換して効果を生み出す物であると言うその一点では、極々一部の例外を除いて共通する部分だと言い切れるのだ。


 故に本来ならば複数の異能を並行して使う様な真似をすると言うのは、割と無謀の範疇に入る行為だと言う。


 氣と錬玉術、氣と魔法……と言った感じで、二つ位までならば、余程無理をしなければ、精々『魂枯れ』と呼ばれる其れ等異能が一時的に使えなく成る症状が出る程度で済むが、其処から更に踏み込むのは狂気の沙汰と言える行為らしい。


 実際、京の都への旅の途中で其れをやって魂枯れを起こした事も有るが、アレで済んだのは運が良かった……って事なんだろうな。


 恐らくは調合しているのが初心者でも手順さえ守れば普通に作れる程度(レベル)の基本的な霊薬(くすり)で、魔法の方も四煌戌が積極的に補助していてくれたから、その程度で済んだんだろうが……上位の霊薬を作る機会が来た時には自重しよう。


「と言うか、桂太郎も凄いね。流石は姉上の正式な弟子ってだけは有るのかな? 手際が俺とは比べ物にならない程良かった。魔法併用で時短してやっと並べるってんだから、短い期間に随分と努力したんだろうな」


 彼が智香子姉上に正式に弟子入りした経緯は話としては聞いたが、此処に来たその切っ掛けと成った事件は僅か二ヶ月前で、それから毎日武芸の稽古に丁稚としての仕事と弟子として錬玉術の修行……と濃密な時間を過ごしているらしい。


 年の頃は恐らく十~十二と言った辺りにも拘らず、親元を離れ割と我儘な智香子姉上の丁稚生活と言うのは、一体どれ程の激務なのだろうか?


 いや彼女が割と面倒見が良い性質(たち)の人なのは、弟である俺自身がよく知っているが……一月に数回は大爆発を起こして吹っ飛ぶこの離れに住むと言うのは、並の度胸では難しい。


 実際彼が此処に住み初めてから既に五回も、この離れは吹っ飛んで居るらしいが、彼はその度に霊薬や素材の在庫管理や、建て直しの為の手配なんかで率先して走り回る事で、脳筋族である猪山藩の家臣達にもその胆力を認められつつ有ると言う。


 猪山藩(うち)は良くも悪くも脳筋族であるが故に、誰が相手でも先ずその実力を見て判断をする気風の者が多い。


 とは言ってもその実力と言うのは必ずしも武芸だけでは無い、其の者が持つ何らかの技術や能力、其れ等を持たずとも心根の良さを認める事が出来たならば、受け入れると言う者大半なのだ。


 故に何時吹っ飛ぶかも解らない智香子姉上の離れで、住み込んで丁稚仕事をする彼は、猪山の男達からも勇敢で将来有望な人間と見込まれているらしい。


「全ては御師匠様の丁寧な御指導の賜物っす、俺みたいな愚図に仕事を任せてくれて、失敗してもきっちりその尻拭いをしてくれて、それに俺だけじゃなぁ無くて(かぁ)ちゃんの命まで救ってくれて……俺の命はもう御師匠様の為に使う物だって決まってるっす!」


 俺の言葉に対して桂太郎君は、完全に覚悟の決まった顔でそんな台詞を口にする。


「んー、何時も言ってるけれども……あっしは桂太郎(けーたろ)君の命なんか要らねぇの。命の恩って言っても偶々通りかかったから助けただけだし、放って置いたら折角助けたのにまた無茶死なれるのが目に見えてて寝覚めが悪かっただけなの」


 けれども智香子姉上的には、彼のその覚悟が無駄に『重い』物と感じている様子で、作業の手を止めずにそう言葉を返した。


 多分彼女の言葉は本心だ、偶々通りかかった所に死にかけた子供が居て、助ける手段が有ったから助けた。


 そして彼をそうした無茶な鬼切りに突き動かした理由が解消されなければ、再び同じ事が起こるのは目に見えている。


 折角助けたのに然程の時間を置かずに無駄死にされたならば、確かに寝覚めが悪いのも事実だろう。


「さて……二人に回せる作業は一通り終わったの。後はあっしにしか手の出せない難しい作業だから二人はさっさと寝るの。此処からは集中しないとだから、邪魔しないで欲しいの」


 普段のへにゃっとした笑みを消し、真剣な眼差しで集中力を高めて居るのが見て取れた。


 その言葉に押され、俺と桂太郎は寝床へと足を向けたのだった。




 日が登る直前辺りに布団に入った事も有って、目が覚めたのは昼を少し回っていた。


 明け方まで作業していた事は、家族も当然知っていた事なので、先日の様に母上の突撃も無くゆっくり寝かせて貰えたらしい。


 聞き耳頭巾で四煌戌達に聞いた話では、散歩も食餌も今日は俺が界渡りの旅をしていた時同様に、仁一郎兄上が代わりにやってくれたとの事だ。


 んで、ゆっくり昼まで寝かせて貰った事で、今の俺は非常に飢えて居る、お腹ペコちゃんだ。


 という訳で、昼食が残っている事を祈って母屋へと向かったのだが……途中でとんでもない物を見てしまった。


 仁一郎兄上の鳩達が、巨大な向日葵をぶら下げて飛んで帰って来たのだ。


 アレが『百獣の王 向日葵』なのか? いや、うんアレは向日葵其の物である。


 植物が妖怪に成る事は割と良くある話で、新宿地下迷宮にも無数の野菜が犇めいていたし、京の都に行く旅の最中も、『奈良漬け入道』とか『踊り松茸』とか、そう言う存在が居るとも聞いた。


 鬼や妖怪というのは割と理不尽な物で『有り得ないという事こそが有り得ない』のだと言う。


 昼飯も大事だが、あの向日葵がどんな化け物なのかと言う事も気になる!


 どうやら向日葵は智香子姉上の離れの方へと運ばれていくらしい。


 其れを見て取った俺は、即座に足を向ける場所を変える、智香子姉上の離れには作業中でも直ぐに食べれる様に、錬玉術で作った保存食の類が備蓄されている事も知っている。


 なら昨夜の作業の駄賃代わりに、昼飯をあっちで食わせて貰う事も出来る筈だ。


「うわぁ……マジで向日葵だ。此れがあの山でも上から数えた方が早い強者……」


 ぱっと見る限りは、ただ巨大な向日葵にしか見えない。


 けれどもよく見て見れば、其れが普通の向日葵では無い事が解る。


 向日葵の花の顎とでも言うべき場所に見える無数の牙、其れはどう見ても肉食獣が持つべき物にしか見えない。


「お!? 志七郎君、丁度良い所に来たの! 向日葵を解体するから手伝って欲しいの。取り敢えず牙引っこ抜いて種を取るの! 葉っぱや花弁も貴重な霊薬の材料に成るから、何一つ無駄にしちゃ駄目なの!」


 ……牙が有るから動物なのか? いやでも種を取るって言ってるから植物なのだろう。


 あ!? 恐らく此奴は『食獣(しょくじゅう)植物』って奴だ。


 前世の世界には虫を食う食虫植物は居ても、其れ以上に大きな物を食う食獣植物や食人植物と言った類の物は、創作の世界にしか居なかった。


 と言うか……創作の世界に限って言えば、食人植物の類は割と良く見かける化け物(モンスター)の類だろう。


 実在の食虫植物を巨大化した物や、動き回り生き物を絞め殺す蔓草、人形の根を持ち引っこ抜くと悲鳴を上げ其れを聞いた物を狂い殺すなんて物も居た筈だ。


 江戸州鬼録には乗っていないが、多分火元国の何処か……もしくは外つ国の何処かを探せば、似たような化け物はきっと居るんじゃぁ無いだろうか?


 そんな事を考えながら、俺は智香子姉上の指示に従って、種を潰さない様に一つひとつ丁寧に引っこ抜いて行くのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 合の子?ほぼ向日葵?気になる
[一言] 苦戦の報を聞いて、薬の調剤を始めたはず... どんな薬を飲んで、脳筋猪山人がどこまでブーストされたのか気になります...
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