六百八十一 志七郎、秘密の土産物を渡し家臣と交流する事
下ネタ注意回です! 予めご容赦下さい!
「ふぉぉぉお雄々! 此れが異世界の艶本! どうやって描けば此れほどの艷やかで艶かしい、本物の人の如き絵と成るんだ! 凄い! 凄すぎる!」
装備の注文を終え、晩飯と風呂も済ませて、長屋へと戻った俺の所に、お忍び頭巾を身に纏ったぴんふが訪ねて来たので、例の物を差し出した、すると彼は表紙を見るなりそんな咆哮を上げた。
「声が大きい、周りの部屋に聞こえるだろ? 何の為に態々こんな時間に来てもらったと思ってんだよ……」
其れに対して俺は、声を潜めて諌める様にそんな言葉を口にする。
俺の部屋が有るのは家臣達が江戸に滞在する際に使う長屋の一角で、以前は義二郎兄上が暮らしていた部屋だ。
豹堂の家に婿入りした時点で、部屋に有った私物は全て婚家に改めて与えられた、江戸城内の屋敷……と呼ぶには少々小さい、けれども庶民から見れば十分大きな家へと移してある。
二人しか居ない家臣も含めて兄上達は今、北方大陸へと義手を作る為に出掛けており、その屋敷には誰も住んで居ない状態だ。
そんな場所に私物……其れも二つ名を持つ程の腕前の鬼切り者でも有る義二郎兄上の物を置いておけば、良からぬ事を考える輩が居ても奇怪しくは無い。
豹堂家側としても決して多くは無いが、先祖伝来の品の幾つか買い戻す事が出来ていたらしく、そうした盗人が『宝物』と目を付けても不思議は無い品々は幾つか、その屋敷には有るらしい。
とは言え、屋敷が有るのは江戸城に北門から入って直ぐの、御家人達の御屋敷が連なる場所で、留守の間は御近所さんが気を払ってくれる様に、義姉上が手土産持参で頼んで置いたらしいので問題は無いだろう。
と、義二郎兄上の事は置いておいて……この部屋の左隣は仁一郎兄上の部屋が有り、右隣には以前信三郎兄上が使っていた部屋が有る。
前者は今でも兄上が数多の動物達と暮らして居り、後者は部屋を出て専用の離れに移ったので、その空いた部屋には武光が住んで居るのだ。
兄上は兎も角、武光に艶本を見せるのは流石に未だ早い、其れに向かい側には普通に家臣達が住む部屋も有るし、其処に今の声が漏れ聞こえれば……
「界渡りの艶本ですと!?」
「志七郎様! そうした物は皆で共有する物ですぞ」
「然り然り! 男児三人集まらば猥談が始まるのは自然の流れぞ」
なんて事を抜かして乱入してくる、若手の家臣達。
順に土屋 圭一郎、助瓦 泰助、十六代目平平 平平と言う名の三人で、彼等は今回の参勤が元服後初の江戸入りである。
今は国許に居る大羅、今、名村、矢田の四人が合わせて四馬鹿等と言われていたが、土屋に助瓦と平平の三人は合わせて三阿呆等と呼ばれているとか居ないとか。
……まぁ、たった今吐いた台詞を聞けば、その評価も残当と言わざるを得ないだろうな。
「無論、無料で見せろとは言いませぬ、其方様もほれ、拙者秘蔵の艶本に御座います」
「其れを持ち出すならば、此方もこの本を出さねば成りませぬな。江戸入りした当日に買い求めた『鉄棒ぬらぬら』先生の最新作ですぞ」
「然り然り、某とて負けては居れませぬ、先日の休暇に千田院の湊まで行って手に入れた北方大陸の美人を集めた写真集為る品、舶来の稀少本ですぜ」
言いながら、其々が自身の秘蔵の品だと言う艶本を取り出す様は、前世に警察学校時代に同室の連中と夜のオカズを見せあった事を思い出す。
俺が任官してから数年後には、学校の寮も全員に個室が宛行われる様に成ったらしいが、それ以前は四人で一つ部屋で生活していたのだ。
んで、高卒大卒問わず、ヤりたい盛りの若い連中が集まる場所ならば、当然そう言う交流も産まれたりする事も有る。
中には衆道の道に足を踏み入れる者も居たりするらしいが、幸い俺が在籍していた間はそう言う話を聞いた覚えは無い。
なお、あの時俺が持っていたのは当時売出し中だったグラビアアイドルのヘアヌード写真集……だったかな?
そうした交流も個室化だけでは無く、国際電子通信網や携帯電話の普及で、態々エロ本を買って見る……と言う行為自体が廃れた事で、無くなっていった……と若い部下から聞いた覚えが有る。
幸いと言うか残念ながらと言うか……此方の世界では、ピンからキリまで有る各種風俗営業の類に行かず、自らを慰める行為をする場合には艶本を手にするのが一般的で、年頃の男児であれば一冊や二冊は秘蔵の品と呼べる本を持っているのが普通らしい。
土屋の持ち出した本は、割と分厚い合本の類で表紙には『艶福ゑろ草紙』とド直球な表題が書かれている。
助瓦の持って来た草双紙の鉄棒ぬらぬらと言うのは、今江戸でも一二を争う人気絵師で、その全集は重版する度に数日持たずに売り切れ、そう簡単には手に入らぬ逸品らしい。
今日持って来たのはそんな人気絵師の最新作であり、その初版本だと言う。
最後に平平の手にした舶来品の写真集と言うのは、俺が持って来た総天然色の写真集とは違う、白黒の全裸写真集だが、前世の日本とは違い規制が緩いのだろう表紙の写真にも消しの類は入って無い様に見える。
京の都に有った奇天烈百貨店でも、外つ国で出版された本の類は売っていた筈だが、紗蘭が持ち込んだ向こうの世界の本を買ってしまった為、外つ国の品がどう言う物なのかは確認出来ていなかった。
故にこの世界の写真を目にするのは初めてなのだが、ぱっと見た感じ幕末の志士を写し取った写真なんかと然程差は無い様に見える。
「おお!? 流石は外つ国所か異世界の品……恐らくは此れも写真の類なのだろうが、女性の艶姿を色まで含めて見事に切り取って居る」
「うむ……此れは凄い! が、鉄棒ぬらぬら先生の絵はまた実物とは違った趣が有って此れは此れ、其れは其れと思わずにはいられぬ魅力が有るな」
「しかし同じ写真と言っても、やはり北方大陸の女児よりは、異世界人とは言え火元人に親しい面立ちの、この娘の方がぐっと来る物が御座るのぅ」
「うーむ……何にしても良い乳だ。舶来の品の方が大きいは大きいが、七が買ってきた此方の方が、何というか品の有る乳に見える。着物を着崩した姿がまた良い、丸で歌を押し倒した様な気分に成ってくる」
と、あっと言う間に其々が其々手にした物を開き、皆で鑑賞会の様相を呈していた。
「ぴんふ……間違っても、その本の被写体と歌を重ねて見た様な事を彼女に言うなよ? 下手な事を言ったら、此方まで火種が飛んできて友人関係全部ぶっ壊れる事に為るんだからな?」
ぴんふが漏らした感想に一寸危ない物を感じた俺は、念の為にそう釘を挿し、それから溜息を一つ吐き、
「其々の秘蔵の品を出してるのに、部屋の主である俺が何も出さないでは良くないな。よーしお前等良い物見せてやるから、此処で有った事は全部『口外法度』だぞ」
そう言ってから、久々に向こうの世界から持ち込んだノートPCを立ち上げる。
前世に仕事で使っていたPCに入っていたOSの上位互換の其れは、殆ど待ち時間無く起動し操作可能な状態へと移行した。
ノートPC特有のタッチパネル操作では無く、横に接続したマウスを手に取り、マイドキュメントの中に入っていた一つの同人ゲームを起動する。
江戸時代に科学技術を打ち込んだ様な独特の奇妙な世界観の中で、鬼や妖怪を相手に立ち回る半身を機械化した侍が、強く成る為に女とヤる……と言う、何というか流石はエロゲーと言った感じのRPGだ。
丸で墨で描いた様な白黒の絵に要所要所に散りばめられた桃色が艶めかしい……そんな感じの絵と、軽妙ながらも情欲を煽るだろう端的な台詞回し。
残念ながら今の俺の身体では、ゲームとしての楽しさは理解出来るが、性的な部分には身体が反応しないので魅力は半減しているが……多分、前世の身体であれば十分に興奮する事が出来た筈の作品である。
「むほほほ!」
「此れは!?」
「九尾姫!?」
「此れも異世界の品か!?」
此方の世界には無い、遥か未来の娯楽を目にした彼等は、目の色を変えて興奮を抑える事無く己の息子へと手を伸ばす……寸前で俺はALT+F4を押しゲームを強制終了した。
「人の部屋を烏賊臭くすんな、したいなら自分の部屋に帰ってやれ。ぴんふも流石にこれ以上遅く成ると、幾ら近いって言っても夜道は危ないぞ。あ!? ついでに昼間りーちに渡し忘れた、この亀の根付も持って帰って渡してくれ、金運上昇のお守りらしい」
嗚呼……と残念そうな声を上げる四人に対し、俺は続きがしたけりゃさっさと帰れ、とそう言い放つのだった。




