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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
帰還と友と恋文と…… の巻

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六百七十八 志七郎、蔵に入り浸り名物を知る事

「しかし此れは……壮観としか言い様が無いな……」


 仁一郎兄上が優駿を制覇した事で、年明け先方の藩主が江戸入りするのを待って、千代女義姉上と正式な結納が交わされる事に成る。


 其時の為に双方の家格に見合った結納の品を集める必要が有るのだが、猪山藩も河中嶋藩も石高以外の収入が極端に多い藩故に、額面通りの家格の品では失礼と成ってしまう。


 なので家の人員を総動員して可能な限り良い品を掻き集めている訳である。


 で、俺は今其れ等の品を集めた蔵へと、俺が手に入れて来た『逸れ二郎の鎌』と『八岐孔雀の尾羽根』を納める為にやって来た訳だが、其処に積まれた品々の見事さに思わず声が漏れたのだ。


 此方の金色に輝く一対の牛の角は、牛鬼の希少個体の物らしいし、あっちに見える素の色は純白ながらも光が当たると虹色に輝く織物は、姑獲鳥(うぶめ)の風切羽だけを集め、其れを熟練の職人が織り上げた逸品だと言う。


 其れ以外にも、生半可な腕前では倒せぬ江戸州でも上から数えた方が早い様な化け物の素材を用いた、見た目からして豪華絢爛と言って良い品々が其処には幾つも納められている。


 其処に俺が持って来た二つの素材を、そのまま納めて本当に良いのだろうか? と疑問にも思うのだが、どちらも先方で良い様に加工して使ってもらう為の実用品としての側面が強い為、此れは此れで良いらしい。


「おっと、志七郎様。横失礼させて頂きます。先代様からも追加で良き品が届きましたのでな」


 と、そう言いながら、幾つかの荷物を抱えた家臣が、蔵の入口近くに立っていた俺の横をすり抜け、手にしていた物を中へと納める。


 一つは白銀に輝く反物で、銀虎と言う妖怪の毛を丁寧に依り合わせた糸を織り上げた物で、一頭二頭の毛皮を全て刈ったとしても反物一枚には届かないとの事で、作るとしたら銀虎を飼育しその抜け毛を気長に集めるしか無いと言う、とても貴重な品だ。


 ……多分、御祖母様の抜け毛を集めて、三十伯母上辺りが織り上げた物とかそんな感じなんじゃぁ無いかな? まぁ御祖母様の抜け毛云々は態々言わなくても良い事だろう。


 次に取り出されたのは深い紅色の水晶玉の様な物、その大きさは俺の頭より一回り小さい程度の大きさが有り、流石に紅玉(ルビー)と言う事は無いだろうが、巨大な宝石と言う意味ではその価値は一寸推し量るのは難しい。


 まぁぱっと見た感じ強い氣を内包した秘石(パワーストーン)では無く、普通の宝玉の類の様に見えるので、其れ一つで目玉が飛び出る様な値が付くと言う程では無いとは思うが……とは言え手に入れて来たのが御祖父様だと言うならば油断出来ないだろう。


 最後に出てきたのは少し歪な形に見える茶碗だった。


 茶道具に明るくない俺の目には、不器用な細工の茶碗にしか見えないが、御祖父様が態々手に入れて来た物と言う事は、きっと名物とか言われる様な物なのではなかろうか?


 一応、俺も武家の子として恥ずかしく無い程度に、茶の湯の作法を学ぶ様には言われているが、粗悪品と真っ当な品の区別程度は解るが、其れ以上の細かな目利きなんか出来はしない。


 ぶちゃけ茶器の類に然程強い興味の無い俺にとっては、道具は使えりゃ良いとしか思えず、銘だの箔だのに高い銭を払う必要性を感じないので、恐らくは此れから先も、使い勝手の良し悪しは解る様に成るだろうが、価値を理解する事は無いと思う。


 ちなみに其れ等の品を運んできた家臣の方は、そうした目利きがある程度出来る様で、茶器をしげしげと眺めて恍惚とした表情(かお)で溜息を吐いて居る。


 彼は確か新田(あらた) 秋生(あきお)と言う名前で、役職は特に無いが名村と並んで猪山藩では珍しい文化人としての側面の強い男だった筈だ。


「なぁ新田、その茶碗そんなに良い物なのか? 俺には歪んだ茶碗にしか見えないんだが……」


 価値が解らないなら解る者に聞いて見れば良い、そう思ってそう問いかける。


「志七郎様は未だ未だお若い……と言うか幼いと言って差し支えない御年頃ですからな、物を見極める目を得るには良き物を数多く見るしか有りませぬ。この茶碗の素晴らしきは先ずこの色合、釉薬の溶け具合、そして何よりも手にした際に吸い付く様な肌触り……」


 しまった!? 虎の尾を踏んだ! そう気が付いたのは、立て板に水を流した彼の様に薀蓄が止めどなく溢れてくる姿を見たからだ。


 此方から話を振った以上、其れを遮る様な真似をするのは、幾ら俺が主家の子で彼が家臣だからと言っても、礼儀に反するし心証的にも宜しく無いだろう。


 そう諦めた俺は彼が満足するまでの間、ただ只管に言葉の波に揉まれながら、その中で少しでも教養を身に付ける為に足掻くのだった。




 長話を一通り聞き終え、茶碗の良し悪しを見極める(コツ)が少しだけ解った様な気がして来た俺は、続けて自分に宛行われた素材蔵へと足を向ける。


 京の都を発つ際に御祖父様に言われた通り、今使っている鎧は未だ着る事は出来なくは無いが、そろそろ所々窮屈に感じる部分も有るし新調する事にしたのだ。


 で、其の為にも悟能屋を呼ぶ前に、今ある素材を改めて確認し其れを帳面に纏め、何と何を組み合わせてどう言う防具を作るのか、その指標となる資料を造りに来たのである。


 基本的に小僧連の皆と鬼切りに出掛けた時には、肉を俺が頂き素材は他の皆で分配するのだが、其れでも俺の手元に残る素材が全く零に成る訳では無い。


 食肉としての売値や素材の売値を金額(ベース)に換算して分配量を決めるので、肉の価値が低い時にはその穴埋め分の素材を貰う事も有るのだ。


 以前はそうした素材はサクッと売却して銭に変えていたが、装備更新の為には備蓄素材が必須だと言う事に気が付いてからは、手持ちの小遣い銭が足りない様な状況で無ければ、出来るだけ貯める様にしている。


「鬼亀の甲羅は未だ少し残ってるけれども……今の鎧を作った時に使った量を考えると、新しい鎧を作るには一寸足りないよなぁ。んー他の素材を混ぜて嵩増しする方向で行くか、其れ共鬼亀を狙って少し狩りに行くか……まぁ悟能屋さんと相談だろうな」


 と言うか、俺の戦闘方法(スタイル)的に考えると、今までの様なガチガチの甲冑よりは、義二郎兄上の様な動き易く回避を優先した毛皮の防具を作ると言う方が良い様な気もする。


 んで、小手や大袖なんかを鬼亀の甲羅や(くろがね)大蛇の鱗なんかで作って、躱しきれない攻撃は其処で受け止める……って言うのも悪く無いんじゃぁ無いだろうか?


 鎧も新調しなきゃ成らない位には身体も育ってきているなら、ついでに刀も新しい物を作って貰うのも悪く無い気がする。


 逸れ二郎の鎌も一本は俺の取り分として貰えてるし、其れを使うと言うのも有りか?


 いや鎌を使った刀は脆く成ると言う話だし、今回の素材には使えないな。


 うん……其れも含めて今ある素材で作れる物、素材を追加すれば作れる物、今手元に無くとも一寸努力すれば手に入る物、その辺含めて新しい装備一式丸っと相談して見るか。


 ついでに今直ぐじゃぁ無いにせよ、従叔父上の弟子と成った子供達が初陣を飾る際に身に付ける装備の素材に付いても、従叔父上を交えて話し合って置くのも悪く無いだろう。


 まぁ……問題が有るとすれば、父上と腹を割った話し合い(物理)の結果、国許で従伯父上とやり合った以上の被害(ダメージ)を受けて、霊薬くすりを飲んだ今でも寝込んでるって事か。


 父上もなー、早朝稽古で何度か手合わせした事も有るし、刀を持たせりゃ強いってのは解ってたけれども、真逆素手でも従叔父上を圧倒する程の強者だったとは……。


 割と穏やかな気質で、仁一郎兄上同様に小柄な身体だから、ぱっと見強そうには見えないんだけどなぁ。


 流石は『暴君』とまで謳われた母上を娶った男……いや漢、しかも其れが『武勇に優れし猪山の』藩主なのだから弱い訳が無い。


 それでも流石に父上の方も無傷とは行かず、顔中に青痰拵えて酷い事に成ってたけどな!


 取り敢えずは従叔父上が起き上がれる様に成るまでに、手持ち素材の整理は済ませておこう、そう考え俺は蔵の中身をひっくり返して、棚卸を続けるのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 薀蓄あるあるですね~ 嫡男の婚儀だけに今出せる目一杯な部分ありそう
[一言] 刀だけでなく、サブで手甲も持ってたか さらに、柔夜専用も母グマ用に……
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