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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
関所を越えて江戸に入る の巻

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六百六十九 志七郎、大蛇を狩り子供達腹くちく成る事

 沢に沿って暫く川辺を遡ると、然程も経たぬ内に鉄大蛇の住処に辿り着く事が出来た。


 谷間の崖に開いた数えるのも面倒になる程の無数の洞穴……その一つ一つが皆、(くろがね)大蛇(おろち)の巣だと言う。


 大蛇と名の付く妖怪は一部の例外を除いて、基本的に人一人を丸呑みに出来る様な大きさの蛇妖を指す。


 そして鉄大蛇はその一部の例外には含まれない……其処ら中に空いた下流で子供達が隠れ住んでいたのと同じ様な洞穴の全てに、其の穴の主に相応しい様な巨大な蛇が潜んで居るのだろう。


 そんな場所に不用意に足を踏み入れれば……当然、四方八方から俺達を喰らおうと、鉄大蛇が物凄い速度で食らいついて来た!?


(おせ)ぇ! 躱すと同時に叩き斬れ!」


 四煌戌の腹に軽く踵を入れ、前へと跳び躱させるが、其の判断を否定する言葉が従叔父上の口から飛び出した。


 事実、従叔父上も桂殿も自身に飛び掛かって来た鉄大蛇を、紙一重で躱すと同時に其の首を叩き落としている。


 彼等にとっては此の程度の敵(・・・・・・)を相手に大きく躱すと言う事自体が大きな隙だと言う事なのだろう、ならば其の言葉に応えるだけだ。


 俺は次の大蛇が此方へと飛び掛かってくるのに合わせて四煌戌の腹を蹴り、彼等を前へと躱させるのに合わせて鞍から落ちる様に降り意識加速に入る。


 只人の目には捉える事すら不可能だろう速度で迫り来る鉄大蛇の顎門(あぎと)……だが意識加速に入った俺の目には、泥沼の中を泳いでいるかの様なゆっくりとした速さで襲いかかって来る様にしか見えない。


 とは言え、圧縮された時間の中で俺だけは普段通りに動ける……なんて美味い話は無く、自身も泥沼を掻き分けるかの様なゆったりとした動きしかする事が出来ぬ……けれども紙一重で躱すと言うので有ればそれで十分だ。


 鉄大蛇の鱗は其の名の通り鉄の硬さを持つ、俺の刃牙逸刀ならば真っ当に刀を振り下ろしただけでも切り裂く事は出来るだろう、けれどもほんの少し角度がズレただけでも刀は鱗の表面を滑る可能性が有る。


 故に……振り下ろす動作に入った瞬間、意識加速と動体視力強化を切り、氣を全て刀へと流し込み斬鉄を込めた一撃とした。


 鱗を切り裂く一瞬の抵抗の後、柔らかな肉を切り裂く感触が手に伝わり、反対側の鱗の硬さを再び感じながら、一気に振り抜いた斬撃は見事の鉄大蛇の首を跳ね、其れを理解した瞬間、即座に意識加速と動体視力強化に氣を割り振り直す。


 直後に迫りくるもう一匹の鉄大蛇を同じ手法で首を落とした所で、何故か鉄大蛇の襲撃が止まった。


 意識加速を維持したまま動体視力強化から、聴力強化に氣を流し変え周囲の気配を探れば、まだまだ幾つも有る洞穴の奥からは、大蛇達の呼吸音や心音が聞こえるので全滅したと言う訳では無い。


 では何故襲いかかるのを止めたのか……それは従叔父上や桂殿の方を振り返り理解した。


 幾ら大した知恵の無い爬虫類系妖怪とは言え、仲間を殆ど一瞬で十匹も叩き斬られれば、其処に居る者達が自分達よりも圧倒的に強い相手だと言う事位は理解出来る程度の頭は有るらしい。


 俺が二匹を何とか切った時点で、従叔父上が四匹、桂殿も三匹を切り終えていたのだ。


「あー、仕舞ったなぁ……流石にこりゃ斬り過ぎた。志七郎様よぅ、お()さんが前に跳ぶから余計に出てきて無駄に多く斬っちまったじゃねぇか。どうすんだ此れ、流石にそのワン公でも全部は持って帰れねぇだろよ」


 従叔父上がそんな言葉を俺に投げ掛けるが、其れは本気で非難している様な感じでは無い、どちらかと言えば誂っている……そんな口振りだ。


「今の時分ならば未だ運び屋も解体(ばらし)屋も呼べば直ぐ来ますよ、此の辺りなら江戸州内と然程変わらぬ手数料で済む筈です。まぁ、支払いは鬼切童子殿の取り分からって事で手を打ちましょう」


 桂殿までそれに乗っかる様に悪戯小僧の笑みを浮かべてそう口にし、懐から首紐の付いた呼子笛と呼ばれる小さな竹笛を取り出すと、間髪入れずに息を吹き込んだ。


 前世(まえ)にテレビで見た時代劇で、御用提灯を掲げた捕り方達が盗人を追いかける様な場面(シーン)で吹かれる様な其の笛の音が山間に響き渡ると……物の数分もせぬ内に、何処からとも無く旅の商人軍団が現れたのだった。




「さぁ皆、たぁ~んとおあがり! お代わりは幾らでも有るからね!」


 何人もの運び屋達が子供達の洞穴まで鉄大蛇を運び、其れを其の場で解体屋達が素材を剥ぎ取り、その中から取り出した蛇肉をお豊さんが食べやすい大きさに手で千切って鍋へと放り込む。


 そうして出来上がったのが、今俺達の目の前に有る大鍋で作られた蛇粥だ。


 俺達の旅の荷物には無かった筈の巨大な大鍋は、どうやら旅の商人軍団から借りた物らしく、その対価と言う事なのかお豊さんは、彼等の持つお椀にも蛇粥をよそってやっている。


 お豊さんは良くも悪くも肝っ玉母さんを絵に描いた様なお人故か、俺達が蛇狩りに出ている間に子供達をある程度懐かせたらしく、がりがりに痩せた男児(おのご)達も、歳相応に膨よかな女児(おなご)達もが喧嘩もせずに仲良く粥を啜っていた。


 ……普通に考えて、普段碌に飯も与えられていなかった男児が、其れなりに育つ様に食事を与えられていた女児達を妬むのが自然なのでは無かろうか?


 けれども彼等彼女等は、わ太郎が得た精霊魔法と言う力を使い、共に手を取り合い孤児院を抜け出し、白虎の関を通らずに此処まで逃げ果せ、隠れ住んでいたのだ。


 考えて見れば此処に子供達が隠れ住む様に成ったのは、俺が江戸を出立するよりも前の筈である。


 にも拘らず未だ男児は痩せ細り、女児達が其れなりの身体を維持していたのは、恐らく手に入った食料を女児達が優先的に食べる事を、男児達が良しとしていたからなのではなかろうか?


 そんな風に思って子供達の様子を見ていると、其れが(あなが)ち間違いとは言い切れない様に思える光景が目に入った。


 男児達はお豊さんにお代わりを促されても、小さく力無く首を横に振ったのだ。


 もしかしたら長年の粗食の所為で胃袋が小さく成って居て、然程量を食べる事が出来ないのかも知れない。


 故に男児達は量を食う事が出来ず、何時までもがりがりな身体のままで、食べきれない物は全て女児達が食べて居たのだろう。


「食える(もん)は食える時に食えるだけ食って置くのが、強く成る為の一番大事な事よ? まぁ今まで碌な物を食べて来なかったのだったら、いきなりそう沢山を食べるってのは難しいかも知れないわね。でも、少しずつで良いから沢山食べて大きくならないとね」


 そんな彼等の状態をお豊さんも察した様で、彼等にお代わりを無理強いする様な事はせず、其れでも次はもっと食べる様にと促していた。


「うむ、お豊の言う通り、毎日少しずつで良い、食える量を増やして肉を付けねばな。男女で組で脱走なんぞしでかしたのだ、中には良い仲の者達も居るのだろう? 女房子供を養える様に働くにゃぁ強い身体を作らんといかんからな」


 豪快な所作で既に三杯目の粥を空にした従叔父上も同様の言葉で追従する。


「……うん」

「……はい」

「……おう」

「……へぃ」

「……あい」


 消え去りそうな声ながら、男児達は皆其々に肯定の声を上げていた。


「女児達も男児達に遠慮はするんじゃぁ無いよ、お前さん達だってまだまだ子供なんだ、しっかり食ってしっかり育ちな。じゃなけりゃ良い子を産めないよ。女の一番の仕事は何よりも子供を残す事なんだからね」


 ……前世の世界だと、男女差別的な発言だと問題に成りそうな事を、お豊さんはそんな風に断言する。


 村程度の規模の集落ならば何時何時(いつなんどき)鬼や妖怪の害で、消滅しても不思議は無く、鬼切を生業にする者ならば今日生き残れても、明日には死んでいるかも知れない……そんな命の安いこの世界では、女性に第一に求められるのはやはり子供を産むと言う役割だ。


 一人でも多くの子を産み、一人でも多くの者を育て上げる事こそが、妻として母として女として求められるのは、前世の世界でも医療が発達しておらず乳幼児の死亡率が高い国や地域程そうだった。


 火元国は高い銭を(はた)き尚且それ相応の伝手が有れば、霊薬を買ったり神職の者から聖歌と呼ばれる術を受ける事も出来るだろうが、一般の町人には其れ等は手の届く物では無い。


 超常に頼らぬ医療も存在しては居るが、やはり腕の立つ医者は幕府や藩のお抱えだったりして、市井に居るのは一部の『医は仁術』と言う言葉を深く信奉する者と、多数の『自称医者』の藪ばかりだと言う。


 其れ等を鑑みれば、子供を多く産む事が出来るのが良い女と言う価値観に落ち着くのだろう。


 事実、彼女達は誰一人としてお豊さんの言葉に抗う様な事を言わず、おずおずと遠慮した様子でお代わりを求めて碗を差し出すのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 欠食気味…粥…鳥取が浮かんでしまう
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