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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
合戦そして屍戦役 の巻

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六十三 志七郎、腑に落ちず、声を上げる事。

 人間が意図的に妖怪を作ることなど出来るのだろうか、答え(Yes)。式やゴーレムと呼ばれる人工の化け物(モンスター)は洋の東西を問わず普遍的に存在するものらしい。


 では、そうして生み出された物が、この様な事件を引き起こせる程の能力ちからを持つ事があり得るか。


 その答えは(No)。式にしろゴーレムにしろ術や魔法で生み出されるのは仮初かりそめの魂しか持ず、知能らしき物は無く指示されたままに動く事しか出来ない存在である。


 術や魔法を行使するには魂の強さが必ず必要であるため、仮初の吹けば消える程度の魂しか持たない式やゴーレムがそれを行う事などあり得ないのだそうだ。


 歳を経た古いモノ(・・)化生けしょうとなったならば、それは自然発生的な災害の類だと納得出来なくもない、だが今回の一件はそうではない。


 最後まで立ち上がり続けた生き屍から見つかった真新しい操り人形、それが屍繰りの本体であること自体は間違いないらしい。


 だが、それからは妖怪特有の気配等は一切感じられず、何の変哲もないただの物なのだという。


「何がどうなってんのか知らねぇが、テメェら毛無猿がやらかした事だとすりゃ、テメェらだけでケツを拭きやがれ!」


 人為的な物としか思えない状況では有る、それ故に源太郎たぬ吉はいきり立ち叫びを上げたが、それを成す事の出来る人間など存在しないと言う事も彼は知っていた。


 無論、人間にとってもこれは考えられない事態である、もしも本当にこれが人為的な事であるならば、江戸に幕府に弓引く何者かが居ると言う事になる。


 かと言って術を操る事を得意とする鬼や妖怪の仕業とも考えづらいらしい、彼らは彼らのことわりの中で生きる者達であり、そこには確たる誇りが存在する、他のばけものを偽装する様な事はあり得ないのだそうだ。


「少ニャくとも、この場に下手人が居る訳じゃニャーこたぁ解りきった話ニャ。今後もこういう事が続くニャら厄介だけどニャ」


「然り、化生の中から跳ねっ返り者が出たならば、それは相身互いの事。されど人が理を乱して引き起こした事と有らば、あたくし達が助ける言われはない。次に同じ事が有れば生き屍だけでなく江戸に住む人間諸共滅ぼしてくれるわ」


 猫又、山犬どちらも納得したという訳では無いだろうが、この場で追求を続ける事に意義を見出さなかったらしく、それだけを言って引き上げる為身を翻した。


 この場にいる者達は人妖問わず、きっと皆が腑に落ちないと感じている、だが戦いその物は終わったのだ、真相究明をするよりも傷つき疲れた身体を癒やしたいと思う者も多いだろう。


「皆の者、いくさは終わったのだ! 勝鬨を上げよ、わしらは勝ったのだ!」


 そんななんとも言えない嫌な空気を切り裂いて、父上は声を上げた。


 バラバラな、決して高らかな物ではない、なんとも頼りない鬨の声が森に響くにはそれから数秒を要した。




 屋敷へと帰り、泥のように眠った翌朝。


 父上は屋敷へと帰らず直接城へと報告に上がったそうなのだが、そこでとんでも無い話を聞いて来たと何時もよりかなり遅い朝食の場で口にした。


 援軍が来なかった原因であった、北から迫る大鬼、大妖のと言うのが虚報だったと言うのだ。


 一休みした後、戦況が悪い様ならば応援に向かおうと考えていた者も多いらしく場が騒然とした、中には驚きのあまり箸を取り落としたり、怒りのあまり立ち上がる者も居た。


「まぁ、落ち着け。半ば終わった話じゃ。上様とも話は着いておる」


 と静かに言い放ち味噌汁を啜る。


 皆が座り直し、場が落ち着きを取り戻したのを見計らい改めて口を開いた。


 俺達が出陣した後に城へと届けられたその報に、我が藩同様出陣の準備を進めていた諸藩の目的地を変更したのだが、たどり着いたその場所には小鬼一匹居らず、念のため周囲を捜索したが空振りだったのだそうだ。


 ただそれだけでは虚報と断ずる物ではなく、誤報で有った可能性も有るだろう。


 当然、誤報にせよ虚報にせよ軍勢を動かした結果ハズレを引いたのだ、それをもたらした者は責任を問われる事になる。


 生き屍の討伐が無事に済んだから良かったものの、もしも俺達が敗戦潰走する様な事になっていれば、江戸の街はただでは済まなかったかも知れない。


 悪意無き誤報だったとしても、それを指示した者は切腹を免れる事は無いであろう大失態だという。


 それが悪意を以て成された虚報とあれば、画策した者もそれに協力した者も一族郎党連座し死罪が妥当と言われるほどの罪だ。


 普通ならば昨日の今日でその調査が完了している等ということはまずあり得ない。


 だが父上が昨夜遅く登城した時点で、既に虚報に踊らされ援軍が送れなかった事を上様に詫びられたと言うのだ。


「上様は敵見えずとの文を前線より受け、直ぐに調べさせた。すると藩主が江戸に居るにも関わらず、出陣していない藩がたった一つだけ有ったそうじゃ」


 昨日の出陣は俺達猪山(いのやま)藩については幕府の命令によるものではなく、飽く迄も善意と言うか自ら進んで出陣したと言うのが建前であった。


 他藩についても同様で、命令が有ったからしょうがなく出陣したのではなく、武士として猪山藩だけに手柄を取らせるな遅れを取るな、という事らしい。


 なので、出陣していない藩が有事自体は全くおかしな話ではない。


 むしろ家のように全戦力を振り絞る様な事をした家の方が稀有なのだ。


 どこの家でも女子供は家に残し、それを護れる最低限度の家臣は残して居た。


 礼子姉上、智香子姉上の二人が出陣した事も異例の事で、二人は藩主の娘であり武士の子と言う建前があるので良いそうだが、生き屍に対して絶対的な戦力となるであろう猫又の女中達を留守番させたのは、庶民枠の女を出陣させたとの批判を避けるためらしい。


 ともあれ家のような小藩が身を挺して戦いに出たのだ、江戸の危機に一兵足りとも出していないとなれば、後々まで言い叩かれるで有ろう事は火を見るよりも明らかな話である。


 それもその藩は落ち目とは言え大大名と言われる程の大きな身代の家とならば、何か有ると思わないほうが不自然だ。


 調査を命じられた者も不審に思い門を叩くも応えは無く、やむを得ずと考え塀を飛び越え中へと踏み込んだらしい。


 特に忍んで飛び込んだ訳で無し、普通ならば直ぐに気付かれ誰何すいかを受けるはずだが、誰一人として出て来る気配が無い。


 訝しみながら屋敷へと踏み込むと、至る所に死屍累々と屍が横たわり、床という床、畳という畳その全てが血の海だったらしい。


 尋常の事ではないと応援を呼びその藩邸全てを捜索した所、その殆どが何者かに斬られ死している中、たった一人だけ自害をし果てたと思わしき遺体があった。


 それは富田藩藩主、骨川筋右衛門その人だった。


 富田藩骨川家と言うのは一郎翁の嫁取りの一件でババを引く事になり、幕府の調停を受けた上で尚一郎翁に多くの家臣を差し向け、その全てが返り討ちにあった事で没落したと言う家である。


 藩主筋右衛門はその一件で嫁を一郎翁に奪われ、その後も嫁取りが上手く行かなかったらしく父上と同年代だというのに子は居無い。


 上様から養子縁組をして家を繋ぐ様言われても、血が繋がらぬ主君を頂く事を家臣が納得せず、お家断絶寸前の状態だったと言う。


 家を存続させる為幕府と家臣の間で板挟みに成る中、苦境に立つ原因となった猪山藩が単独で出陣したと聞き、静かに滅びを待つ自藩だけでなく、せめて猪山藩への意趣返しをしようと企てた。


「その企てを止め立てする家臣を全て自ら斬り捨て、最後に自害したのじゃろう。と言うのが調査に当たった者の見立てじゃそうだ」


 一気に話切った父上は、今度は茶を啜り一息付く。


「ちょ、待ってください! それは、全て推測でしょう!? 遺書やら何かは出てこなかったのですか!?」


 首謀者死亡で一件落着、と言うような空気が流れる中、俺は思わずそう声を上げた。

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