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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
政と婚約と許嫁 の巻

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六百四十五 志七郎、勝負の理由を知り未熟を指摘される事

「挑まれた勝負から逃げぬのは武士として当然の事では御座います。ですが例え相手が政敵だったり、無礼者だったとしても、その場でずんばらりん……とやってしまえば、詮議の対象と成る場合が御座います」


 そんな言葉から始まった王山従伯父上の説教に拠れば、木刀での立ち合いだろうが、真剣での果し合いだろうが、まかり間違って無礼討ちを敢行せねば成らぬ時だとしても、人と闘う時には必ず立ち合い人を用意する必要が有るのだそうだ。


 前世(まえ)の剣道や錬武館での稽古の時の様に、竹刀と防具を身に着けた状態での試合ならば其処まで煩く言われる事は無いが、木刀での立ち合いは幾ら寸止めが前提とは言っても、しくじって頭をかち割る様な事が無い訳では無い。


 実際、鬼切奉行の桂家では、実戦さながらの稽古の末に、父親が子供を叩き殺す事態が何回も有ったと言うのだから、事故が絶対ないと断言するのは愚かな事だろう。


 果し合いでも信頼出来る立ち合い人が居らねば『卑怯な手管で騙し討ちに有った』と吹聴する事で、勝者の……ひいては政敵の名誉を貶めると言う手法が取られる事も有ると言う。


 更には町民階級の者が武士に対して『無礼討ちも已む無し』と言う様な無礼を働き、その者を叩き斬ったとしても、ソレが本当に無礼討ちが認められる程の事だったのかを詮議が成され、目撃証言なんかが出なければ切腹で済めば御の字なのだそうだ。


 故に立ち合いだろうと、果し合いだろうと、無礼討ちだろうと、ソレが正々堂々足る物だと証明する為にも立ち合い人の用意は絶対にしなければ成らない事な訳だ。


「太郎彦……お前も、初陣を済ませて多少なりとも強く成ったと粋がるのは良い。が、相手の力量を見定める目を持つのもまた武芸者として必要な技量の一つぞ? 志七郎様は確かにお前より歳下だが技量は上だ。加護持ちと只者を比べる事自体が間違っているのだ」


 ああうん、成程な。初対面で行き成り立ち会いを求められたのは、歳下の再従弟が二つ名持ちとして活躍している事が、機会の差で有って技量の差では無い……そう思ったからと言う事か。


 初陣を済ませたばかりの子供は、妙な全能感と言うか、自分は他の誰よりも強い……と勘違いする事が、往々にして有ると聞いた覚えが有る。


 そうした事が重なって、俺を打ち倒す事が出来れば、一端の男として胸を張れるとかそんな事を考えた結果なのだろう。


「……はい、志七郎様に負け、自身が天狗に成っていた事を思い知らされました。いえ、熊爪の従叔父上が他所から拾った子を弟子にして娘の婿にする、と言う話を聞いて余計に焦っていたのかも知れません」


 成程な……太郎彦は熊爪家のお晴と恋仲で、九郎を弟子に取って将来は娘婿として熊爪家を継がせると言う話事態が、先日の血闘の主な原因だった。


 自分の恋愛の尻拭いを父親が身体を張ってしてくれた事で、ソレを正当な物だと自分の実力で裏打ちしたかった……と言う考えも有った訳か。


「お前の歳頃で未熟なのは当たり前の事だ、その歳で武芸の深奥を見極めた等と抜かしたら儂はお前をぶん殴らにゃ為らん。そして此れから儂は更に残酷な事を言うぞ……お前の腕では未だ志七郎様の本気を引き出してすら居らんのだ」


 おっと、従伯父上流石にソレは厳しすぎる発言じゃぁ無いだろうか? いや、確かに全力全開の本気で……って言うので有れば、着物を脱いで爆氣功を纏った状態の事だろうが、それをするのは稽古以外では、格上の相手と命のやり取りをせざるを得ない時位だろう。


男子おのご同士、互いを理解し合うには武を交えるのが一番手っ取り早い、と言う事事態は否定はしませぬ。が、先程も申し上げた通り、必ず立ち合いを務める上手の者を用意してくだされ」


 父親の言葉に動揺を隠せぬ太郎彦から目線を切り、俺を見下ろし改めてそう言う従伯父上。


「はい、ご指導有難うございます」


 その言葉に素直にそう俺が応えると、


「此の程度では指導と言う程の事には御座らぬ……うむ、折角此の様なむさ苦しい所まで御出頂いたのだ一手御指南進ぜよう、太郎彦、次郎彦、志七郎様の一挙手一投足を見逃しては為らんぞ、同年代では間違いなく最強格の御子故な」


 猪の牙を剥き出しにして笑い、従伯父上は何故か此処の建物の中に居た大羅に声を掛け、従伯父上の体格に合わせた大太刀の木刀を持って来させると、そのまま立ち合い人を任た。


「さて……志七郎様。御隠居様より此の猪山に来る前に裸の里で修練を積んだとの事は聞いて居りまする。と、言う事は着物を纏ったままで太郎彦を相手にしたのは手加減の範疇に御座ろう? 儂にはその気遣いは無用に御座る、全力で打ち掛かって参られい!」


 先日の血闘を見れば、従伯父上も従叔父上も今の俺では、爆氣功を纏い魔法を絡めたとしても、勝負が出来る相手では無い、其れでも命のやり取りでは無く上手の者と打ち合える経験は貴重と言える。


「では、失礼して……参ります!」


 その場で袴の紐を解き、着物を脱いで柄パン(トランクス)一丁の姿に成る。合わせて口笛を吹き門の前で待たせていた四煌戌を呼び寄せると、内氣と外氣を混ぜ合わせ……爆氣功を纏った。


「うわ!? (あん)ちゃん何だあれ! すげぇだなぁ」


「真逆……未だ氣を見る事も出来ぬ次郎彦にすら見える程の濃密な氣だと言うのか?」


 通常氣とは無色透明で、氣を纏いソレを眼球に集める事で、初めて見る事が出来る。


 だが氣翔撃の様に物理的な威力を持つ程に濃密な氣であれば、ソレは空気が歪むかの様な形で只人の目にも映る事が有る。


 今俺の全身から吹き上がる炎の様な膨大な氣は、当然只人の目から見てもはっきり見える程に濃密な物だと言えるだろう。


「ほう……流石は猪山の鬼切童子と謳われるだけの事は有りますな。其処までの膨大な氣は儂でも纏えはせぬ。然れどソレでは彼我の身体能力の差を埋める事は出来ましょうが、果たしてソレを使い熟すだけの技量が有りますかな?」


 俺の準備が終わったと判断したのだろう、従伯父上はそう言いながら、その巨躯に合わせた身の丈程の木刀を八相に構えた、相対する俺の構えも当然何時も通りの八相の構えだ。


 胸を借りる立場である以上、先手は此方が取るべきだろう、だがだからと言って無策で打ち掛かる様な事はしない。


「古の契約に基づきて……」


 詠唱内容から魔法の効果を予測される事を避ける為に口の中で呟く様に呪を紡ぐ、四煌戌とは魂で繋がっているが故に、耳に届かずとも魔法は発動出来るのだ。


 放つのは閃光(フラッシュ)の魔法だ、ソレを目眩ましに氣斬撃を仕掛け、ソレを打ち払うならばソレに合わせて踏み込む、躱したならばその移動予測位置にもう一発氣斬撃を放つ。


「……我が剣の切っ先より放て、閃光!」


 そう決め込んで、呪を完成させると同時にその場で木刀を振り下ろした。


「上手の者を相手にも勝ちを狙う……その心意気や良し! 然れど若い身空の内から小細工に頼る様では、進歩は有りませぬぞ!」


 幾ら氣で視力を強化していても、いや逆に視力を強化すればする程に、閃光の魔法は瞳を焼く……眼の耐久力その物を強化していれば、其処まで至らずともほんの一瞬だけでも視界を奪う効果は見込める筈だ。


 事実、従伯父上は両の目を強く閉じる事で閃光に目を焼かれる事を避けた。


 と為れば当然、目を閉じている間の視界は零だ。


 其処に襲いかかる氣斬撃、然れど流石は猪山でも上から数えた方が早い程の達人だ、目に映る程に濃密な氣の塊を、瞳を閉じたまま氣の篭もった木刀を横薙ぎに振り払う事で打ち消した。


 だがソレは俺の狙った通りの行動だ、木刀を振り切ったその懐へと即座に踏み込み胴を薙ぐ……よりも早く、下から跳ね上がって来た何かが俺の顎を捉え、脳を揺らされた。


「志七郎様は未だ視覚に頼りすぎですな、目が閉じて居ても氣を纏えば、他の感覚でソレを補う事は十分出来まする。目で見るのでは無く氣を感じ取れば、目潰し程度は小細工の範疇に過ぎませぬぞ」


 そう、頭上から振ってくる従伯父上の言葉を聞きながら、俺は意識を手放したのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 立会人がいないと言ったそばから いないオチ
[良い点] 寸止めぐらいしてあげなよww 大人気ないww
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