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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
政と婚約と許嫁 の巻

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六百四十一 志七郎、甘味を食らい方向を決める事

「美味しい! 甘い物ってこんなに美味しいんですね! すごいすごい! 御前様は本当に(つらね)に色んな事を教えてくれるのです!!」


 四煌戌達を馬場で十分に走らせた後は、近くに有った茶見世を兼業していると言う農家でお八つタイムだ。


 物々交換が基本の猪山とは言え、銭が全く使えないという訳では無く、江戸と比べると一寸割高感を感じる値段のお汁粉を二人で啜って居た。


 それにしても彼女のこの反応は……丸でお菓子類は身体に悪いと禁止された家庭で育った者が、初めてその手の物を口にした時と変わらない様に思える。


 此の年頃の子供は、お菓子を食べ過ぎて肝心要の食事が食べられない……なんて事も有るので、食べる量を親が調整すると言うのは、当たり前の躾の範疇だとは思うが、甘い物を一度も口にした事が無いと言うのはちと異常では無かろうか?


 監禁地味た保護はその生い立ちを考えれば、ある程度納得の出来る話では有るが、就学年齢にも満たない様な子が、一度もお菓子を与えられた事が無いと言うのは、どう言う事なのだろう?


 この火元国では前世(まえ)の日本程とは言わずとも、砂糖は決して貴重品と言う訳では無い、江戸州だけで無く京の都まで旅した東街道でも、菓子を扱う茶屋は幾らでも有ったし、此処の汁粉だって多少割高な気はするが、それでも子供の小遣い銭でも贖える程度だ。


「いつも食べるお塩の御煎餅も美味しいですけど、甘い物はもっと美味しいんですね!」


 っと、お菓子類を食べた事が無い……という訳では無いのか、鈴木家の常備菓子は塩煎餅で、甘い物は食べる機会が無い訳か。


 いやでも、鈴木家にはお栗殿も居ればお連の母親も居る筈、彼女等が甘い物を一切食べないと言うのも不可思議だ。


「へぇ、お嬢ちゃん何時もは良い物食わせて貰ってるんじゃぁのぅ。なのに家の汁粉を美味い美味いって……そったら事言われたら、ちくとオマケしてやらにゃぁ罰が当たるわな。ほれ出来たての饅頭じゃ、此れも二人で食いなせ、茶のお代わりも淹れちゃるけの」


 お連の反応に気を良くしたらしい見世番の老婆は、皺々の顔をくしゃくしゃにして笑いながら、俺たちの食卓に蒸し上がったばかりの饅頭が乗った皿を追加してくれた。


「塩煎餅が此処では良い物なんですか?」


 老婆の背中に俺はそう問い掛ける。


「そらそうじゃろ。幾ら御殿様が補助を出してくれとると言っても、此処は山の奥じゃ塩は貴重品じゃて。んでも砂糖なら家の畑でも砂糖大根を作とるからの、他所へ売る程は取れんが此処で使う分位は手に入るんじゃ」


 ああ成程な、塩は他藩からの輸入に頼る品物だから、基本的に貴重品って価値観で鈴木家は猪山藩でも上から数えた方が早い重鎮故に、高級菓子である塩煎餅が家格に見合った菓子に成る訳か。


 言われて見れば、昨日彼女に会う為に鈴木道場を訪ねた時に出された茶菓子も塩煎餅だったな。


 と言う事は、それを比較的容易に食べられると言う今の状況は、決して彼女が蔑ろに扱われている訳では無い証左に成ると言う事だ。


 要するに、彼女が甘い物を食べた事が無かったのは、この猪山と言う土地の特殊性故……と言う事か。


「此方のまんじゅうって言うのも美味しいですね! 御前様も冷めない内にお召し上がり下さいませ」


 そんなお連の言葉に促され、未だ湯気の上がっている饅頭を手に取る、見た目は割と何処でも見かける所謂『温泉饅頭』っぽい物だが、色合いが割と白っぽく見えるのは、使われているのが黒糖では無く、白い砂糖だからだろうか?


 二つに割って見れば、割と薄い皮の中に漉餡がたっぷり詰まっており、ぱっと見ただけでも美味そうだと思わせるには十分だ。


 割った片方を口の中に放り込めば……うん不味くは無い、けれども江戸で普段食べている黄金色のお菓子に使われている餡こと比べると、随分と雑味が多い気がする。


 此れは多分、小豆を煮る時に出る灰汁が取り切れていないんだろうな。


 しかしだからと言って其れを面と向かって言う程、俺は空気の読めない男では無い。


「うん、甘くて美味いな」


 お連が美味いと言って食べているのだから、その気分を台無しにする様な事は口にせず、素直にそうとだけ言って置けば良いのだ。


 ……つか、汁粉の方にはそんな雑味を感じない辺り、餡作りをしたのは別人なのかも知れないな。


 そんな事を考えながら俺は、口に残った刺々しい後味を茶で洗い流すのだった。




「随分と早いお帰りだの、初めての逢引だってぇのに、朝帰りの一つも決めて来ぬとは……お主本当に信三郎の弟か?」


 お連を送り届けてから城へと戻る為り、開口一番御祖父様が紫煙を燻らせながら、そんな台詞を口にした。


「朝帰りって……お互い未だ勃つ物も勃たない歳頃ですよ。夜明かしに何をするってんですか」


 其れに対して呆れ混じりにそう返事を返す。


 俺の身体が幼く未だそうした欲求を覚える事が無し、其れが有ったとしても相手が未就学児童では勃つ物も勃ちはしない。


「其処で慌てる素振りの一つでも有りゃ可愛げも有るんだがのぅ。中身が三十路回りじゃぁ初心な反応は期待出来ぬか、つまらんのぅ……で? あの娘の事はどう思う? 昨日はお主の印象を聞きそびれて居ったからの」


 下らない冗談を言う巫山戯た表情を消し、悪五郎の二つ名に相応く引き締めた顔で、御祖父様が問い掛けて来た。


「あの子自身がどうこうと言うよりは、彼女の回りの環境……特に母親に問題が有る様に思えましたね。まぁ当の母親本人に会って居ないので断言までは出来ませんが、少なくとも今の育成方針が一朗翁やお栗殿、それに御祖父様が主導したとは思い辛い」


 何時何時刺客の類が来ても不思議は無いだろう彼女の立場を考えれば、火元国の中でも一番喧嘩を売っては行けない道場に匿い続ける……と言うのは彼女の身の安全だけを守るならば多分間違いでは無い。


 一朗翁本人が居らずともその弟子達が居るし、其れ等の者達が留守にしていたとしても、其処に手を出した者が誰なのか後からでも知られれば、道場主が御礼参りに行かない理由が無いのだ。


 火元一の大英雄とすら謳われる一朗翁に、真正面から喧嘩を売る馬鹿は恐らく火元国には居ないだろう。


 暗殺と言う選択を取るならば、何処かの忍術使いを雇い、裏からこっそり……と言う手も有るだろうが、それだって鈴木道場の中に居る限りはそう簡単に手を出す事等出来やしない。


 けれどもそうして籠の中の小鳥として置くのは、彼女の今後の成長の為には決して良い事では無い筈だ。


「ふむ……昨日も言って居ったが、お主は厳しく躾けられた娘より、奔放に育った娘の方が好み、と言う事で良いか? そう言う事ならば、儂からお栗殿を通して話を通すが?」


 まーた、御祖父様は持って回った様な言い回しで……どうせ俺がどう答えるかなんて解ってて聞いてくるんだから、本当に底意地が悪い。


「言わなくても解ってんでしょ? 今のままじゃあの子が真っ当に育たないなんて事はさ」


 厳しく躾けるのと、可能性を排除(スポイル)するのはまた別の話だ。


 少なくとも俺は箱入り娘を自分の色に染め上げる……なんて事に喜びを見出す性質(タイプ)じゃぁ無い。


「他所の躾けの事に儂が口を挟めば角が立つ。が、許嫁としてお主好みに育ちたいと言うならば、其れを汲み取った上で口を出す分には問題にはならんからの」


 ああ成程な、要は建前が欲しい訳か、俺の好みに合わせる為と言う方が角を立てずに、彼女の育成方針に口を出せる……と。


「なら俺が望むのは一つです、彼女は彼女らしく有れば良い、無理に型に填めるよりその方がずっと気持ちが良い。後は甘い物の一つも食わせてやって欲しいですね、太り過ぎ無い程度に」


 幾ら彼女らしく……と言っては居ても、少なくとも俺には太ましい女性を特に好むとか、逆に痩せ過ぎを好むと言う様な、そう言う偏った感覚は無いし、健康的で元気ならば其れで良い。


 後はお互い大きく成ってから、お互いに話し合って擦り合わせをしていけば良いのだ。


「先方にはそう伝えて置こう。まぁ予定の品はサクッと手に入ってしまったからの。長く此処に留まる理由が()う成ってしまったが故、近い内に立つ事に成るからの。それ迄はこまめに顔を出してやるんだな」


 全てを見透かした様な笑みを浮かべ、此方を見下ろす御祖父様に少しイラっとしたが、取り敢えず俺の要望は通る様なので口を噤み、明日は何を見せてやろうか……と考える事にしたのだった。

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[良い点] 将来の大物だと思うから伸び伸びと方針
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