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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
謎の猪山城 の巻

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六百三十二 志七郎、二人の美を目の当たりにし戦乱の予感感じる事

「まぁまぁ……先代様態々こんな所まで足を運ばれなくても、お呼び付け頂ければ何時でも城に参りますのに……」


 然程の時間を待つ事も無く、そんな言葉と共に母上より少し年上だろうが、老婆と呼ぶには若々しい……そんな小柄な御婦人が茶道具の乗ったお盆を手に姿を表した。


 成程うん此れは、奪い合いが起こるのも仕方無いのかも知れない……老いて尚も儚げで愛らしい……前世(まえ)の俺から見ても母親と同年代だが、十分に『有り』と言える程の美人さんだ。


 流石に半森人(ハーフエルフ)の一朗翁や、氣の秘奥を極めた御祖父様の様に、老いと縁遠い存在と言う訳では無い様で、歳相応の老いを得て尚もソレだけの美貌を維持していると言うのだから、若い頃は一体どれ程の男が彼女を伴侶にと望んだのやら……。


 更に言うならば彼女は、数少ない大藩の一角である風間藩は郷田家の姫、家同士の繋がりを求める者は勿論、玉の輿に乗りたいと言う者も数多居ただろう。


 そんな中で幕府を通した縁談が持たれたのが、富田藩前藩主の骨川 筋右衛門(すじえもん)だった。


 しかし見合いの席へと乱入し、その姫君を拐う様に力尽くで奪い去ったのが一朗翁だったのだ。


 当然、幕府と郷田家に骨川家、その三つの面子を潰した形に成ったが故、当時の事は可也の大事と成り、責任を取る形で御祖父様が隠居し、一朗当人も火元国中を巡り十二体の大鬼と大妖を討つ様に命じられる事と成った。


 その大任を果たすまでは一朗と彼女の婚姻は認めぬ、とそう言う事に成ったのだ。


 本来ならばそんな何時終わるかも解らぬ事で、短い花の盛りを費やし行き遅れる事等当人が認めず、一朗と彼女の縁もソレまでに成る、多くの者がそう思ったと言う。


 しかし彼女は一朗を待つ事を選択し、一朗も最低でも十年は掛かると見積もられた、その戦いをたった三年で蹴りを付け、禊を済ませ形を取り郷田とも幕府とも和解し、多くの者の祝福を受けて無事祝言を上げるに至ったのだと聞いている。


 恐らくはこの部屋に飾られている(トロフィ)の幾つかは、彼女を迎え入れる為に戦った十二体の物なのだろう。


「いやいや誠に失礼な事ながら、此度の訪問はお栗殿に用事……と言う訳では無くての、此奴を彼女達に紹介しようと思ってな。アレ等は儂等の庇護下に有るとは言え、家臣や領民とはまた別枠だからの、流石に呼び付ける訳には行かぬのよ」


 と、彼女と一朗翁の事に思いを巡らせている間に、御祖父様とお栗殿の会話は進んでいく。


 ああ、成程……俺の許嫁ってのは、鈴木家の娘さんって訳じゃぁ無く、何らかの理由で此処で保護され養育されている娘とかそう言う話な訳か。


 火元国中を飛び回っている御祖父様と一朗翁だ、何処かで不幸な立ち位置に有った者を保護し、予言の女悪魔にすら『大賢者(七十歳童貞)候補』とまで呼ばれた俺に、其れを宛てがおうとする事に不思議は無い。


 此方の世界へと戻る旅路に付いては、一通り母上には話して有るのだ、其れが御祖父様に伝わっているのは当然の事だろう。


 でもだからと言って女性に無理強いするのは余り好ましい事とは思えない。


 流石に前世の日本の様な『恋愛婚至上主義』とでも言う世界では無く、個人の恋愛感情よりも家の都合での婚姻が大半の場所だとは知って居るが、自分がそうした政略結婚の駒として扱われるのは中々に気分が宜しく無い。


 とは言っても、家の七兄弟の中で純粋に恋愛結婚と呼ばれるだろう縁が有ったのは睦姉上だけな上に、未だ縁談連続破談記録更新中の智香子姉上の存在を考えれば、縁を用意してもらえるだけでも有り難いと考えるべきなのだろうか?


「ほれ志七郎……何をぼうっとしておる、一朗の妻でお栗殿だ。ちゃんと挨拶せい」


 おっと、考え事に没頭しすぎて二人の会話を聞き逃して居たらしい、


「猪山藩主、猪河四十郎が七子、猪河志七郎です。御夫君には様々な面でお世話に成って居ります……」


 そう言って頭を下げると……


「あらまぁ……(いとけな)い御姿に反して、随分と礼儀を学んで居ますのね。私は鈴木一朗が室で栗と申します、以後お見知り置きを」


 一寸驚いた様子で、そう挨拶を返してくれたのだった。




「あの娘達を呼んで来ますので、お茶でも飲んで少々お待ち下さいまし」


 一通り挨拶を交わした後、そう言ってお栗殿が席を外した。


「御祖父様、詳しい話を……いえ、事前に知っておくべき相手の境遇を教えてくれますか?」


 襖が閉まるのを待って、俺は可能な限り声に氣を乗せてそう問い掛けた。


 事と次第に依っては例え敵わぬとしても暴れるぞ? と言う意思表示だ。


『庇護下に有る』『家臣や領民とは別枠』この二つの文言から、その縁談が真っ当な物では無く、地位や立場を笠に着た強制的な身売りの類の可能性に思い至ってしまったのである。


 幾ら恋愛婚が一般的では無い社会だとしても強要の類だとすれば、俺に其れを是とする様な価値観は持ち合わせては居ない。


 すると御祖父様は傍らに置かれた煙草盆を手元に引き寄せると、懐から煙管を取り出し一服吸い込み紫煙を吐き、


「親友の……その忘れ形見とでも言えば良いかの。志半ばでくたばった奴の唯一無二の娘だ。生半な男に任せる訳には行かぬ娘よ。本音を言えば今のお前では未だ物足りぬが、年回りが近く信の置ける者が他に居らん。武光の奴は論外だしの」


 其れから珍しく気の重そうな表情(かお)で、そんな言葉を口にした。


 そんな言から始まった話に依ると、御家騒動の類で実家に居る事自体が危険な状況だったと言うその娘と母を、御祖父様の指示で一朗翁が救出し、その後此処で匿い養育しているらしい。


 時が来た成らばその娘を大義名分に、家を乗っ取ったと言う現当主を成敗する様に上様の御採択すら受けている話だと言う。


 ……つまり今度は俺が婿養子とかそんな感じで、その家を再び乗っ取るとかそう言う事らしい。


 下剋上が当たり前の戦国時代ならば兎も角、天下泰平と呼ばれて久しいこの火元国で、そんな無茶な話が通るのだろうか?


「乗っ取り仕掛けて御家を奪うのは良いとしても、俺は元服する頃には旅に出ますよ? 此れは上様や幕府でも止めれない話です、なんせ神様から直接命じられた話ですからね」


 俺をこの世界に生まれ変わらせた『死神さん』の本名を探せ、と言う火元の神々を統括する高位の神である浅間様から直接命じられたのだ。


 神々に直接仕える立場に有る帝は当然知って居り、其れを成す為の力として朱雀の卵と、聞き耳頭巾を俺に与えたのだろう。


「ああ、詳しい事は聞いとらんが、そんな感じの話は四十郎から聞いとる。故に領地を奪うのはお前が元服する前だ。んでお前が旅に出ている間は儂が信用出来る代官を用意し、統治を任せて置けば良い」


 ゑ!? 今領地って言ったか? 前世の世界の江戸時代とは違い、この火元国で領地を持つのは幕府以外では大名と呼ばれる者達だけだ。


 前世の江戸時代だと大名と言うのは一万石以上の所領を持つ者達の総称で、其れ未満の領地を持つ旗本と呼ばれる者達が居たが、此方の世界では旗本も含め大名以外の直臣は皆、金銭で俸禄を貰い江戸で生活をしている。


 つまり領地を奪うと言う事は、他所の大名家を一つ食らう……と御祖父様はそう言っている訳だ。


 しかも其れを上様までもが了承済みと言うのは、一体どんな手を使えばそんな無理無茶無謀が通ると言うのか?


「ああ、安心しろ。何も合戦を起こして力尽くで分捕る……なんて話じゃぁ無い。ある程度内応するであろう者の選定は済み、嵐丸の手の者が接触し始めて居る。早くて来年、遅くとも三年以内にゃぁ蹴りが付く話だの」


 内応者が出る……って事は現当主は余程家臣に慕われていないと言う事か?


 何方にせよその娘は、俺が拒否したとしても政争の具材として誰かに嫁ぐ事を強いられるのは間違いない。


 ならば少しでも良い待遇で受け入れる事を考えるのが、大人の男として出来る事なのかも知れないな。


 そう思って湯呑に残った茶を口に含んだその時である。


「おまたせいたしました。富田藩正当藩主、骨川 筋右衛門が娘で名を(つらね)と申します。お(れん)とお呼び下さいまし御前様」


 襖を開いて俺より一つか二つ程下と思わしき幼女が、そう名乗ると三指付いて額づいたのだ。


 その顔はちらりと見ただけだが、整っている……なんて言葉では言い表せない程で、もしも(ポン)吉が此方の世界に居たならば、犯罪に走らぬ様に注意しなければ為らないな……そう強く思える程に見えた。


 そして同時に俺の胸の奥に何か温かい物が宿った……そんな風にすら感じたのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >本吉が此方の世界に居たならば、犯罪に走らぬ様に注意しなければ為らない 友への信頼に溢れてますね! [一言] >俺の胸の奥に何か温かい物が宿った……そんな風にすら感じたのだった。 …
[一言] お…だいぶ早い精○かな…
[良い点] バブみに目覚めた可能性も?
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