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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
修行 裸の里で少年は何を見るのか? の巻

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六百十 志七郎、飛車角落ちで凹られ更なる試練課される事

 椎菜殿の御蔭で外気功をある程度扱える様に成って早三日……美々殿は未だ里に戻らず、その間俺への稽古は、屋良家の兄妹が代わる代わる面倒を見てくれて居た。


 にしても巨大なモノを持つ兄と、持たざる妹と言う組み合わせは、何というかこう……時折並んでいるのを見ると居た堪れない気持ちに成る。


 うん、彼女には色々と強く生きて欲しい、まぁ気も氣も何方も強い()だから大丈夫か……。


 で、今日は全裸お盆では無く褌を締めて稽古に来る様に、と連絡が有ったと言う事は多分外氣功を使った状態で武芸の稽古をするんだろう。


 そう思いながら、何時もの稽古場へと足を踏み入れた……その時だった!


 突如背筋を駆け抜けた悪寒に従い、俺は即座に地を蹴り大きく移動する。


「ふむ……中々良い稽古を積んだようだの。以前のお主ならば今のは躱せなんだろうしの。久し振りだの志七郎、その様子だと無事外氣功を修めたか」


 一瞬前まで俺が居た場所に木刀を叩き付けていたのは、黒丸棒で逸物を隠した全裸の御祖父様だった。


「此方の用事が何とか片付いた故、やって来たが……一月少々で其処まで身に着けておるとは、流石は過去世持ちと言う事かの? 儂が学んだ時には其処まで行くのに半年は掛かったんだがの」


 外氣功というのは決して簡単な技術では無く、里に産まれた者でも殆ど産まれた頃から仕込んでも、元服する頃にモノに成っていれば良い方……という程度には高難易度の技だと言う。


 実際、俺がこの里に来るよりも先に修行に入っていた町人階級の修行者達は、誰一人として外氣功の習得に至っては居ない。


 美々殿や屋良家の兄妹は、ソレこそ産まれた時からその技を身に付ける修行をして来た、武士階級の者で有るが故に、比べるのは間違いと言えるだろうが……同じく外から習いに来た御祖父様が半年掛かった所まで、俺が一ヶ月で行けたと言うのは一寸驚きである。


「西国での騒動は片が付いたんですか? 御祖父様が直接行かないと難しい……なんて話でしたが」


 そんな内心の驚きは口にせず、大叔父貴が俺に付けられた原因と成った事が解決したのかを問いかけた。


「ぬ? 何時の話をしておる、あんなモンはチョチョイのちょいで、蹴りが付いたわ。あの後もう四つばかり余計な事を企む連中を凹って、志郎の奴を江戸まで担いでひとっ走りして、ついでに倒幕派の連中に探りを入れてから、ちょいと様子を見に来ただけよ」


 と、そんな言葉から始まった御祖父様の話に拠れば、西国の大名同士が一歩間違えば戦に成っていても奇怪しく無い……そんな状態を仲裁してきたらしい。


 更に妖刀使いが絡む案件を二つ、大名が江戸に上がっている隙を突いて謀反を企てた者が居たのが一件、同様に大名が居ない間に家老が好き勝手やって何時一揆が起きても可怪しく無いのが一件……と、たった一ヶ月の間に解決して来たんだそうだ。


 で、行きがけの駄賃という訳では無いのだろうが、京の都で知り合った志郎を文字通り『担いで』江戸まで行って、彼が不義理を働いた瓦版屋に詫びを居れさせて、江戸で軽く情報収集をしてから、再度志郎を担いで都へと蜻蛉返り……。


 其処までやってやっと一息付ける状態に成ったので、俺の様子を見ると言う名目で、昨夜の内に里へと入り古い知り合いだと言う坂東家の先代を含む長老方と、酒樽を持ち込んで酒宴をブチかましたのだそうだ。


 其処で俺の修行の進捗を聞いた御祖父様は、実際の練度を確認する為に、行き成り不意打ちを仕掛けた……と言う事らしい。


 とは言え、今の不意打ちを避けられたのは、外氣功を身に着けたからでは無く、妙な悪寒――恐らくは御祖父様の剣気――を感じたからだ。


「外氣功に馴れると、内氣功を纏っている時でも周囲の気配に敏感に成る(もん)よ。儂は錬土業も身に付けて居るからの、氣も気配も以前のお主には感じられぬ程度に押し込めて仕掛けたのだ、それに気付けたんだから十分成長しておる証拠よ」


 四錬業と呼ばれる氣の運用の技、その中でも錬土業は内氣を身体から漏らす事無く、より効率的に運用する為の技術だそうで、極めたならば氣を纏っても他者にそうと悟らせぬ事すら出来るという。


 そして完全に氣を身体の内に押し込めると、その身に纏う気配すらも断ち切り、殺気や剣気と呼ばれる様な物すらも、他者に悟らせぬ事が出来る様に成るのだそうだ。


 その技術を使って、一ヶ月前の俺ならば気付く事が出来ぬ程度の氣を、敢えて漏らしながら打ち掛かってきた訳である。


「さて……氣の鍛錬に付いては十分の様だが、剣の方もどの程度腕が上がっているか試してやろうて……。儂は褌を締めては居らんからの、飛車角落ちといった所か? 此れで遅れを取る様ならば、多少の痛い目は覚悟しておけよ?」


 そう言いながら、右手で木刀を振り被り、左手は黒丸棒で息子を隠したまま、御祖父様は加虐趣味的(サディスティック)な笑みを浮かべた。


「剣の方も此処には良い師が居ましたからね……少しは腕を上げていますよ。いざ……参る!」


 対して両手で木刀を八双に構えた俺は、そう言い放ち今度は此方から打ち掛かっていくのだった。


 ……結果? そりゃ凹々にされましたよ、くすん。




「集氣法と外氣功を一月少々で身に着けたのだ、爆氣功も近い内に身に着ける事が出来るであろうよ……師範代が無事戻ればの」


 怪我をしない程度に凹られ、力尽きた俺に御祖父様がそんな言葉を投げかける。


 師範代――即ち美々殿が三日経っても戻って来て居ない理由を御祖父様は知っているらしい。


「その持って回った様な勿体振った物言い、御祖父様の悪い癖ですよね……で、俺に何をさせようってんですか?」


 その上で態々そんな事を俺に言うのだから、ソレを俺に解決させようって腹なのは見え見えと言うか何と言うか……。


「うむ、お主は中々話が早くて良いの。義二郎の奴は察して居る癖に皆まで言わねば動こうとはせんからの。師範代はこの近くに生えた鬼の砦を潰しに行っておるのだ。が、この三日何の連絡も無いと言う……」


 鬼の砦と言うのは、大鬼や大妖が此方の世界へと現れた際に、配下の者達や近隣の化け物達を統率し作り上げる、世界樹侵略の為の橋頭堡とでも言うべき物である。


 当然ながら其処には数多の鬼や妖怪が犇めき合って居り、ソレを単独で潰す……なんてのはそう簡単な事では無い。


 人里近い所に作られた砦は、その地を治める藩の武士だけで無く、多くの領民達も兵として動員し、人海戦術で押し潰すのが普通なのだ。


 当然、只人の領民兵に多くの犠牲は出るのだが、ソレくらいしなければより多くの犠牲が出る……其程に危険な場所なのである。


 以前、伏虎が単独で砦潰しを達成したと聞いた事が有るが、彼は戦闘民族猪山人(・・・)の中でも上から数えた方が早い達人の一人、猪山藩(うち)の者でも同じ事が出来るのは、義二郎兄上を除けば古兵(ふるつわもの)の一部だけだろう。


 美々殿が一体どんな理由で、単独突入なんて事に成っているのかは解らないが、彼女が伏虎と比して圧倒的な強者とは言い難いのは事実。


「つまり御祖父様は俺に彼女の救援に行け……と、そう言いたい訳ですか?」


 俺が単身で行くよりも、坂東家の者やその家臣である須端田家や屋良家の者が出張る方が確実だと思うのだが……。


「うむ、実はこの辺り、割と面倒な事に成っておっての。儂が此処に来る為に空を走って来たのだが、後四つばかり砦が有ったのだ。一つは儂と嵐丸で潰すが、流石に他にまでは手が回らんからの」


 ……鬼の砦ってそんな雨後の筍の様にぼこぼこ生えてくる物なのか? まぁ御祖父様が態々こんな事で嘘を言う訳も無いだろうし、当たり年とかそんな感じの何かなのだろう。


 つまり、他の人員は美々殿が突入している以外の砦を抑えるのに回る必要が有ると言う訳か。


「了解しました。装備を整えて向かいます」


 まぁ御祖父様の事だから、他にも裏が有るんだろうが……流石に身内にまで必要以上の引っ掛けを仕掛けてくる訳も無い。


「いや、刀と銃は持って行って良いが鎧は無しだ。折角裸身氣昂法を学んだのだ、ソレを活かして戦う様にの」


 あー、うん、そ~言う事ね……何かこの鬼の砦とやらも御祖父様が作ったんじゃ無いのか? そんな風にも思えてくる妙な条件付けに、俺は思わず溜息を漏らすのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] これが一般の物語の主人公なら、砦の大将が女鬼でラブコメが始まるのだが、そんなことなど起こるはずもなく。
[一言] 女鬼が大将の砦に凸して欲しいな
[一言] >何かこの鬼の砦とやらも御祖父様が作ったんじゃ無いのか? いくら『悪五郎』でもそんなまさか……一歩間違えたら大惨事だし…… まあその大事な一歩を間違えないのがお爺様な気もするけども……
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