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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
修行 裸の里で少年は何を見るのか? の巻

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六百七 古老と出会い稽古捗る事

 エラい具沢山な食べる(・・・)味噌汁とでも言う様な物をおかずに麦飯で朝食を済ませた俺は、今日も今日とて稽古場へと向かう。


 しかしその装いは裸の里に似つかわしく無い、鎧兜に身を包んだ完全武装で……だ。


 知らせに来た下男らしい男の言に拠れば、今日は昨日より踏み込んだ形で、集氣法で氣を高めた状態に慣らす為の稽古を付けてくれるらしい。


 昨日の時点で俺が、美々殿の想定以上に動けて居たとの事で、本格的な打ち込みを前提とした稽古をする為、防具を身に付けて居た方が良いと言う判断だそうだ。


 全裸で過ごす事が原則で、衣類の着用を禁止している此の裸の里で、きっちり着物を纏いその上から全身鎧兜に身を固めた此の姿は、他者から見れば割と……いや可也違和感が有る事だろう。


 けれども俺としてはやはり此方の方が圧倒的に落ち着く……。


 この里自体が、前世(まえ)の世界にも有った全裸主義(ヌーディスト)の海水浴場(ビーチ)だと思えば、まぁ理解出来なくも無い。


 実際、捜査研修なんかで海外に行った時には、余暇にそうした場所へと足を向けたと言う同僚の話を聞いたりもしたが、極めて日本人的な倫理観と価値観を持っていた俺は、自身が全裸を晒してまで行きたいとは全く思わなかったのだが……。


 真逆生まれ変わった先で、こんな場所に来る事に成るとはな。


 今の俺は未だ向こうで言うなら小学校低学年な訳で、公園の遊水路なんかでパンツも穿かずに遊んでいた所で問題に成る年齢じゃぁ無いし、そもそも此方の世界では子供の内は丸出しが割と当たり前だったりするし、俺が色々と気にしすぎなのかも知れないが……。


 兎角、久々に纏った鎧の重さと窮屈さに多少の違和感を覚えつつも、集氣法で身体能力を最大限に強化したまま、普段通りの挙動を意識しつつ稽古場を目指す。


「全身鬼亀甲羅の鎧とは流石は噂に名高い鬼斬童子君。しかも色違いの甲羅を組み合わせたその絵柄は、実用品の鎧とは思えない見事な逸品。とは言え鬼切り者の実力は装備を見ろとも言います、昨日手合わせした感じもう少し上物を手配しても良いのでは?」


 何時もの場所へとやって来た所で、美々殿のそんな言葉が俺の背に投げかけられた。


 完全武装で来る様に言ったのだから、当然彼女のそうだろうと思い、無造作に振り返り……俺は慌てて首を大きく横へと逸らす。


 油断した!? 口には出さないが、脳裏をそんな言葉が過ぎり、首に遅れて身体も再び回れ右して背を向ける。


 彼女は当然の様に、此の場の仕来りに従った一糸纏わぬ姿に、二本の閉じた扇子で局部を隠しただけの……見慣れて居るけど、見慣れない姿で此の場に現れたのだ。


「あやや、鬼斬童子君、流石にソレは無いかなぁ。私も其処まで露骨に視線を逸らされると傷付くんですよー? ソレに……妖怪の中には一糸纏わぬ女の姿で男を誘い出して食い殺すなんてのも居るんですから、ある程度慣れないと駄目ですよ」


 上半身が裸の女で下半身は巨大な海蛇だと言う『濡れ女』、全裸では無い物の美しい女の姿で現れ男を誘いその生き血を啜る『飛縁魔』、やはり美しい女郎の姿で男を誘い貪り食う『絡新婦(じょろうぐも)』……女の姿をした妖怪は枚挙に暇が無い程である。


 火元国の外でも同様の化け物(モンスター)は居るらしく、中には提灯鮟鱇の誘引突起の様に、餌と成る人間の男を引き寄せる為の疑似餌とでも言うべき物が全裸女性の形をしているだけ……なんてモノも居るらしい。


 大鬼として強く産まれたが故に地元で伴侶を見つける事が出来ず、態々異世界まで婚活に来る存在である女鬼ですら、ほいほい誘われて行ってその見目に見惚れる様な事が有れば、あっさり命を散らす事に成る。


 ソレが人を食う事を目的に、そうした姿に進化してきたであろう女怪と総称される類の妖怪が相手ならば尚更だ。


 中には雪女や猫又(雌)の様に、人の社会に交わり暮らす様に成った女怪が居ない訳では無いがソレ等は飽く迄も例外で、基本的に女の姿で誘うモノを見たならば警戒しなければならないのである。


 にも拘らず、不意に全裸に極めて近いその姿を見たからと、慌てて視線を切ってしまう俺のソレは、確かに長生き出来ない弱点と為り得るかも知れない。


 そう思い、振り返った俺の目に入ったのは、美々殿の艶姿……では無く、俺と同じく鎧兜を身に纏い面頬(めんぽお)まで身に付けた、その姿からは年齢性別すらも推し量れぬ武人の姿だった。


「此れが実戦で無くて良う御座ったな。某等が刺客ならば、後ろからずんばらりん……と素っ首叩き落としておる所ですぞ」


 落ち着いた様子でそう言ったその声は、張りを失った老人のソレを思わせる物だったが、その立ち姿を見る限り、老いて尚鍛錬を怠らぬ古兵(ふるつわもの)だと言う事が容易に想像できる。


「昨日手合わせした感じ、私では裸身氣昂法を教える事は出来ますが、武芸の方は全力で叩き潰す事は出来ても、稽古を付けて上げられる程の差は無い……と判断しました。故に我が坂東家家中で最高の剣士に稽古を付けて貰うのが最善か……と思いましてね」


 彼の斜め後ろに立っているらしい美々殿がそんな言葉を口にするが、俺はそちらに気を払う事は無い。


 目の前の男から視線を切ったならば、即座に切り捨てられる……そんな剣気とでも言う物が感じられるからだ。


「某、坂東家家臣須端田(すはだ)家先代当主で須端田備市(そなえのいち)と申す。里一番の剣士……と姫様は申されましたがソレも若き頃の事、今では老い先短い只の隠居爺に御座る」


 全身甲冑を身に纏っていると言う事は、裸身氣昂法で氣を高めたりはせず、俺と同じく集氣法までで相手をしてくれると言う事なのだろう。


 とは言え、その立ち姿を見るだけでも、彼が上手なのは見て取れる。


 ぱっと見る限り剣士としては、一朗翁や御祖父様には敵わぬまでも、義二郎兄上や伏虎義兄上よりは上……多分前世の曾祖父さんと同等かそれ以上の手練だろう。


 うん、今の俺では勝ち負けを云々出来る相手じゃぁ無い、美々殿の言う通り稽古を付けて貰うのに十分な腕前を持っているのは想像に難く無い。


「では、一手ご指南願います」


 そう言って視線を切らない様に浅く頭を下げ、それから木刀を八双に構える。


 すると備市殿も、同じく木刀を八双の構えを取り、


「何処からでも好きに打ち込んで来られよ、お互い防具を身に着けている以上、木刀程度では死にはせぬ、此方も遠慮無く叩かせてもらいますぞ」


 そんな言葉と共に、今までよりも鋭く濃密な剣気を放ち始める。


 うん……此れは稽古だ、此方から手控えて居ては意味が無い。


 そう判断し、俺は全力で叩きのめすつもりで打ち掛かっていく。


 一手、二手と俺の打撃を丁寧に捌き躱した備市殿は、此処が甘い、此処に隙が有る、そう言わんばかりに、容赦無く切り返しの一撃を防具の上から叩きつけて来た。


 打撃の威力(ダメージ)の大半は鎧が吸収してくれるが、だからと言って完全にソレが無く成る訳では無い。


 生半可な刃物は通さず単属性の魔法や妖術を弾く、と言う点では俺の着る亀甲鎧(きこうがい)四式は優れた防具だが、だからと言って受ける打撃の衝撃全てが通らないと言う訳では無いのだ。


 そうして居る内に徐々に相手の動きが変わっていく、隙の無い所に隙を作ろうと強引に打ち込みに行けば、そもそも技の起こりを抑えて攻撃をさせてもらえず、向こうが見せた隙をきっちり突いた時には攻撃をさせた上できっちりと防がれる。


 攻撃に力が入って身体が流れた時や、攻撃の気に逸り自身の身を守る事を忘れた時には、強かに打ち据えられる。


 ……同格の相手と互いに打ち合う稽古も重要だが、こうして自分より技量が上の相手に的確な指導受けるのなんて何時以来だろう。


 江戸の屋敷に伏虎義兄上が居る時ならばそうした稽古を付けて貰う事も有るが、ソレ以外の若手達は勝負という点で言えば俺に勝てる者は何人も居るが、純粋な技量という点で俺を大きく上回る者は殆ど居ない。


 老臣の中にはソレが出来る程の者も居るのだが、参勤交代時に江戸に残るのは基本的に若手で、其処までの技量を持つ老臣は皆父上と共に国許へと帰ってしまうので、どうしても上手に稽古を付けて貰う機会は少ないのだ。


 以前は先代の笹葉が割と頻繁に稽古を付けてくれたのだが、持病の腰痛が割と洒落にならない状態に成って隠居した彼を、今更引っ張り出す訳にも行かないだろう。


 少しでも強くなる為のこの機会を逃す事無く、一挙手一投足全てに気を使い、自分の隙を消し相手の隙を見つける……その為に集氣法で増大した氣を全身隈無く行き渡らせる。


 朝から始まった稽古は昼飯を挟んで更に続き、日が傾くまで只管に続けられたのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 反応出来るだけでもかなり凄い筈なんですよね
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