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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
修行 裸の里で少年は何を見るのか? の巻

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五百九十八 志七郎、第一里人発見し汁啜る事

 抜けるように青い空、漂う純白の雲、照り付ける眩しい太陽。


 道の脇に生えているあの木は椰子の木だろうか?


 時折見かけるあの花は仏桑花(ハイビスカス)に見えるのは気の所為じゃぁ無さそうだ。


 うん……あの脱衣所からほんの少し南に進んだだけなのに、明らかに植生も気候も変わったぞ?


 まだ夏と呼ぶには少々早い時期にも拘らず、全裸で歩いていると言うのに、全身じんわりと汗をかく位に暑く、時折吹き抜ける風も熱を孕んだ物で、涼やかさは欠片も感じられない。


 この時期でこの暑さだと言うのであれば、真夏には一体どれほどの暑さ……いや熱さに成るだろうか?


 そうなる前に最低限の修行を終えて江戸に帰りたい物だが、まぁそれでも吹き付ける風には湿気を殆ど感じない辺り、前世(まえ)に東京の合同捜査本部へと出向したあの夏よりは過ごしやすそうに思える。


 肌感覚的には一度捜査研修で行った赤道近くの南国(シンガポール)辺りに近い気候の様に思える。


 地理的に此処にそんな気候の場所が有るのは不自然では有るが、そもそもこの世界の気候や天気は世界樹(サーバー)で神々が管理制御している物なのだから、自然も不自然も有った物では無いのだろうが……。


 兎角、そんな中を俺はお盆で、大叔父貴は扇子で全裸のまま股間を隠し歩く姿は、何処からどう見ても滑稽としか言いようが無い様に思えるが、此処では此れが普通なのだ。


 前世の日本ならば誰かに見られれば即座に通報されるだろうこの姿も、海外のヌーディストビーチならば問題視される事は無いだろうし……要は『郷に入れば郷に従え』と言う事である。


 と、そんな事を考えながら進んで行くと……第一里人発見!?


 道から少し離れた所に生えてる椰子の木の下に首輪と縄で繋がれた猿を連れた全裸の若い男が座っていたのだ。


 休んでいるとしか思えぬその状態にも拘らず、その股間は黒丸の板が先端に付いた棒できっちりと隠されており、気を抜いていてもその息子さんを晒さぬ姿は、此処の住人としての誇りに満ちている……と感じるのは流石に穿ち過ぎだろうか?


「お? 外からの修行者は久し振りだなやー。しかもそげなちまい坊主を連れて……、興味本位で来たんなら、(わり)(こた)ぁ言わん、そのまま回れ右してぇりな。裸身氣昂法はそう簡単に身に付く様な技じゃぁ()かんな」


 猿を連れた……推定『猿回し』の男は、俺達を見つけるなりそんな事を言いながら、尻に付いた土を払いつつ立ち上がり、俺達に歩み寄ってきた。


 無造作なその動作の中でも、手にした黒丸棒は見事に男の象徴を守り抜き、横から覗き込む様な事をしない限りは見える事は無い……そんな熟練の技としか言い様の無い凄みが有る様に思える。


「っと、失礼。そちらの御隠居さんは、此処の経験者の様だすな。となると、お孫様に裸身氣昂法を学ばせに来た……ってな所でしょうかな。ほならオラが注意する必要は無かったって事だなや。騒がせた詫びをせなアカンちゃね、ほれ取って来い」


 しかし彼は俺達の……と言うか大叔父貴の所作を見て、直ぐに前言を撤回した。


 小さな扇子で見事に逸物を隠し切るその手並みは慣れぬ者のソレでは無く、過去に少なくない期間此処に居た事が有ると言う事を見抜いたのだろう。


 最後の取って来いと言うのは、彼が連れていた猿に向けての物だったらしく、猿は近くに生えていた椰子の木をスルスルと登っていくと、実を一つ二つと捻じり切って下へと落とした。


 成程、この男は猿回しの曲芸を生業とする者と言う訳では無く、猿を調教して椰子の実を収穫するのを生業としている男なんだな。


 と、一人納得していると、彼は側に置いてあった荷物から小刀と麦藁を取り出し、猿が落とした椰子の実を足で跳ね上げると……鯉口を切って一閃!


 二つの椰子の実の一部を切り飛ばし、其処に麦藁を刺した物を両の手でもって此方へと差し出した。


「ほい、そっちの御隠居さんは知っとるだろうが、この辺の名物だわな。この麦藁咥えて啜れば中の汁が吸えるんだわ、美味ぇど」


 ちなみに……先程まで手にしていた隠し棒は何時の間にやら猿が手にして彼の一物を隠している。


 恐らくは氣で動体視力を強化すれば見えないと言う事は無いのだろうが、素の状態では全く見えなかった辺り、この男も十分に只者では無いと思わせる立ち振舞と言えるのではないだろうか。


 俺自身は切った事は無いが、椰子の実で試し切りをした事が有る者に、此れは非常に硬い上に繊維の量が多く、繊維に沿って斬るならば兎も角、横に断ち切ると成ると相当な腕が必要なのだと聞いた覚えがある。


「ほほ、此れは有り難い。此処は暑い故に喉が乾きますからなぁ。有り難く頂戴致しましょう」


 大叔父貴がそう言って椰子の実を一つ受け取り、ソレをそのまま俺に手渡し、もう一つを受け取ると刺さった麦藁に口を付ける。


「有難うございます」


 ソレにに習って麦藁を咥え椰子の実汁(ココナッツジュース)を飲みながら、氣を目に集中して彼を見てみれば、氣を纏っている様子は無く……純粋な技術だけで固定していない宙を舞う椰子の実を、その中身を零す事無く切り裂くと言う離れ技をやったと言う事なのだろうか?


「お? 坊っちゃん、その歳でもう氣を見るなんて器用な真似が出来るんか。んでも収束が甘いなぁ。そんな全身から漏らしとるんじゃぁ折角の氣が随分無駄に成っとるなぁ。成程な既に氣を使える子を更に鍛える為に此処に来た訳か」


 纏っていないのでは無く、身体の中から氣を漏らして居ない!?


 氣功の道を極めたと豪語する御祖父様ですら、氣を見る為に氣を目に集中して見れば、その身に氣を纏っているのが全く見えない……と言う事は無い。


 つまりこの男は御祖父様よりも氣の扱いに熟達した……達人!?


 真逆、好奇心や性的欲求を満たす為に裸の里を覗きに来る様な馬鹿を排除する為に此処を護っている番人とか、そう言う役目を負ったそんな人物なのかも知れない。


 しかも俺が目に氣を集中し氣を見ようとした事すら見抜き、その技術の甘さを指摘して来たのだ、この男……絶対に只者では無い!


「此方は猪山藩猪川家の四男であらせられる、猪川志七郎様に御座る。御貴殿、坂東家御家中の御方かと見受け致しましたが、此れより暫しの滞在の間、何卒宜しゅうお願い申し上げ候」


 どうやら大叔父貴も同様の見解に至った様で麦藁から口を離すと、深々と頭を下げつつそんな言葉を口にした。


「おお!? 噂に名高い猪山の鬼斬童子殿かい!? つー事は、悪五郎様のお孫様か……そら只の修行者と一緒くたに扱う訳にゃぁ行かねぇや。お察しの通り、あしは坂東家に仕える侍で須端田(すはだ)佐良沙(さらすな)と申す」


 坂東家と言うのは此処佐山藩の藩主である右田家の家臣に当たる家で、錬風業の一流派である裸身氣昂法を継承する家だと言う。


 陪臣である坂東家に仕えていると言う事は、この須端田という武士は陪々臣と呼ばれる武家の中でも最下級の家格の者と言う事に成るだろう。


 しかし家格と実力は必ずしも一致する物では無い、町人階級の鬼切り者にだって二つ名が付く程に武勇を示す事も有るのだ。


 恐らくこの須端田殿は坂東家でも……いや、右田家でも上から数えた方が早い様な実力者に違いない!


「御方、須端田家のご子弟か!? 躍蔵(やくぞう)殿はお元気か? 拙者が為五郎様のお付きで裸の里に滞在していた頃には主君共々多々お世話になり申した」


 しかも彼の身内に大叔父貴や御祖父様が世話に成った人物の身内らしく、頭を上げるなり嬉しそうな笑みを浮かべそう問いかける。


「あー、爺様は……二年前に逝きましたよ。聞いた話じゃぁ悪五郎様程に氣を極めりゃぁ寿命も伸びるってんでしょうが、家の爺様は他流の技を取り入れる……ってな所までは極めちゃ居なかったんでね」


 だが返って来たのは、時の流れの無情さを思わせるそんな言葉だった。


 御祖父様の様に老いが緩やかに成るというのは、錬風業だけを何処まで追求しても届く事は無く、錬火、錬水、錬土と合わせた四錬業の全てを極めた先に至る境地なのだと言う。


 ……極めると言う所まで行かずとも、此処に滞在する間に錬風業をある程度の練度までは身に付けて起きたいな。


 俺は亡き躍蔵殿の思い出話に花を咲かせる二人に口を挟む事無く、ただ静かにそう決意するのだった。




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― 新着の感想 ―
[一言] 裸の里には100%じゃなかった十割 明とかいう練風の達人がいません?
[良い点] 未だ一桁だからね、先は長い筈
[良い点] いつも楽しく拝読しています。 ネーミングセンスが素晴らしいですね! 素肌晒してるやん!とつっこんでしまいましたw
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