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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
合戦そして屍戦役 の巻

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五十八 志七郎、激昂し絶望を聞く事

 心臓の奥から溢れだす激しい熱、それは初めて氣を発露させたあの時と変わらぬ勢いで俺の全身を満たしていく。


 それに伴い俺の視界は、まるでフィルターでも掛けたかの様に、色を失い屍は陰一色に変わっていく。


 ……緑鬼王は、緑鬼王はどこだ!?


 素早く左右に視線を走らせるが、一度見つけたはずのその姿は、陰一色の中に埋没してしまい特定することが出来ない、首がないと言う絶対的な特徴すらも陰は覆い隠してしまっていた。


 緑鬼王だけじゃない、人の死体だって有ったのだ。


 俺達がたどり着く前に殺られた者達の死体かも知れない、守れなかった、そんな思いが脳裏を掠めると、制御しきれ無いほどの熱が、氣が体中から溢れだす。


 身体中に満ち満ちた力を足に集め、再び跳ぼうとした時だった。


「猛るなボウズ。屍繰しかばねくりとのいくさは、じっくり腰を据えて当たらねぇと勝てるもんじゃねぇ」


 そんな言葉と共に、一朗翁が兜を押さえ付ける様にして俺の身体を押し留めた。


「おめぇさん一旦氣が尽きただろ。なにが鶏冠とさかに来たかは知らねぇが、猛りに任せて氣を絞りゃ多少は出るだろうが、そりゃ魂や命数を削ってんだ。テメェ一人で蹴りつけにゃ成らん状況なら兎も角、後ろにゃ余裕あんだ大人しく下がっとけ」


 彼の弁の通りならば今の俺は寿命を削って氣をひねり出している状態らしい、恐らくはそれを言い聞かせることで冷静さを取り戻し氣が萎えるのを狙ったのだろう。


 だが、そう言われても俺の気持ちが萎える様な事は無かった。


 あの時、間違いなく緑鬼王と命を賭して闘ったのだ、そして俺の一刀で命を奪われて尚笑って逝った彼を俺は忘れないと誓った。


 その相手がどこの誰とも知らない、自らの身を晒して闘う事すらしない外道に弄ばれて居るのだ。


 それを黙って見ている事など出来はしない、例えそれが俺の命を奪う事に成ろうとも悔いは無いだろう。


 しかしそれと同時に前世まえに幾度と無く、部下そして後輩に対して命じた自身の言葉も思い出す。


 スタンドプレーよりもチームワーク、チームワークを乱す行為は例えそれが犯人ホシ検挙アゲる事に繋がっても評価しない、と。


「下がります、この場をお願いします」


 一度大きく息を吸い込み細かく息を切る事で氣を抑え、そう短く言葉を吐き出すと最後に残った氣を足から放ち大きく後ろへと跳んだ。


 俺の言葉に一朗翁は否も応も答えること無く、ただ黙ってほんの一歩だけ前へと出る。


 跳び下がり着地するまでの間は、ほんの一瞬の事だったはずだ。


 だが、天下に聞こえし大英雄に取っては刹那の時すらも、生きかばねを討つには長すぎる時間だったらしい。


 迫り来る無数の屍を、それ以上一歩足りとも動くこと無く、ただ無造作に振り抜いただけの手刀、その一振りで弾き飛ばし打ちのめした。


 その後は、起き上がる度に、迫り来る度に、その一体一体を丁寧に殴り飛ばし打ち倒す、そのやり方は数を倒すと言うよりは相手を一歩たりとも進ませない、完全に足止めの為の戦い方に見える。


「屍繰りを相手取る場合には、とにかく兵となる生き屍を只管ひたすら叩いて行くしか無いのじゃ。倒しても倒しても起き上がってくるが、それにめげず腐らず只々時間を掛けての」


 四方に散り戦う皆の様子を目端で確認しながら父上は、陣中へと下がってきた俺に竹筒の水筒を差し出しながらそう言った。


 父上に拠ると、屍繰りは自身がその徒党のうちの一体に寄生しており無数の屍の中に隠れているのだという。


 そして、弱い力で大量の生き屍を操りとにかく被害を拡大しより多くの生き屍を生み出そうとするが、それが潰されていくと徐々に1体に割り振る力を強めて行くことで強いが数が少ないと言う状況になっていくらしい。


 最終的に最強の一体が残り、それを討ち取れば屍繰り本体も倒せるのだが、普通はそんな手間を掛けたりする事はなく、神の力を借り無数の神器を一時賜る事で人海戦術で殲滅するのだそうだ。


 だが今回はその神の力を借りれない以上、時間も手間もかかり犠牲も出るかもしれないが、生き屍を討てるだけの氣と術の使い手、そして二人の霊刀持ちを交代で休ませながら削っていくしか無いとの事。


 とはいえ今回の場合時間は味方だ、ゆっくりじっくりと戦いを続けていけば順次援軍がやって来るはずである。


 緑鬼王の遺体を弄ばれている事に思う所が無い訳ではない、だが時間を掛けてやるのが最善手である以上、それは俺個人の感傷に過ぎない。


 受け取った水筒から、ほんのりと甘みとも塩気とも付かない微妙な味付けをされた水を飲みながらそう自分を納得させる。


 見回してみれば今前線に立っているのは、俺達が此処に辿り着いた時に命じられた、霊刀持ちの二人、義二郎兄上、礼子姉上の四人だけで、その他は傷つき倒れた鬼斬り者達の介護に手を取られている様だ。


 こうして見ると、俺が戦っていたのはさほど長い時間ではなく、一人で空回りしていた様に思える。


 一息付いてしまうと完全に氣が抜けたのか、手足から力が抜け落ち崩れ落ちる様に尻を地につけてしまった。


「両の手では足らぬ程度には、お主も生き屍を潰しておったであろう。魂の無い相手故手形でも確認できぬ手柄じゃが、その幼き身でようやったわ、ワシはしっかりと見ておったぞ」


 戦況を見極め采配を取る為だろう、父上はこちらへ視線を向けることは無く、だがその言葉は上辺だけの物ではない労いの気持ちが篭っている様に感じられた。


「一朗だけではなく、義二郎や礼子の戦い方も見ておくと良い、あの二人も生き屍を相手取るのは初めての事、お主に負けず劣らず拙い戦いをしておるわい。むしろ信三郎はもっと早く初陣を経験させておくべきじゃったな、この状況でも中々の胆力よ……」


 その言葉に首を巡らせ三人の姿を探す。


 義二郎兄上は大太刀片手に迫り来る屍を右へ左へと最小限の動きで薙ぎ払い、一振りで3、4体を切り捨てているが、刃に巡らせる氣が大きすぎるらしく、余波が周りに飛び散っている。


 無論、飛び散る氣程度では屍が倒れる事も無く、完全に無駄な消耗と言えるだろう。


 礼子姉上は更に豪快でかなりの氣を練り込んだ事が傍目からも解る程の氣翔撃を、大薙刀を横薙ぎに振り回し連続で打ち出している。


 ある程度まで近づいている者はその一撃で倒れ伏すが、恐らくは飛んでいる内に威力が減衰しているのだろう、一定以上遠い相手は一瞬動きを止めるものの直ぐに体勢を立て直しているのが見て取れた。


 俺にとっては目一杯の氣を叩き込んでちょうど倒せる程度だったが、二人はなまじ余力が有る為に一撃で多数を倒そうとして、結果非効率な状況に陥っている様に見えた。


 そんな状況でも尚父上は二人を下げること無く戦わせているのは、二人にまだまだ余力が有るということも有るだろうが、それ以上に信三郎兄上の援護が的確な為だろう。


 信三郎兄上は、左右に展開した二人の様子を見ながら呪文を唱え、倒しきれずに近寄る屍が出る度にそれを上手く潰している。


 稀に同時に抜けて来そうなものが居れば、つい先程知ったばかりの『以下同文』を上手く使い素早く連続で術を放っている様だ。


 術が作用する対象が居るためか、行軍中程の強い輝きは感じず十分に距離が有る今は、氣を込めずとも直接兄上を見ようとしなければ目を覆う必要は無い。


 こうして見て気がついたのだが、氣を込めた武器で倒した屍は10数える程度で再び動きを見せ始めるのに対し、術で倒した屍はなかなか起き上がる気配を見せない。


 そうしている内に氣が尽きたのか礼子姉上が下がり、そこを埋めるように4人の家臣が前線へと上がるのが見えた。


 礼子姉上一人で大の男4人分の働きをしてるのか……、そう思うと氣が豊富であるというのはやはり優れた素質と言えるのだろう。


 と、出陣している兄弟の内、智香子姉上は恐らく怪我人の治療にあたっているとして、長兄である仁一郎兄上は何をしているのだろうか?


 そう思い見回し探してみれば、居た。


 兄上は一人馬に跨ったままただ空を眺めている。


 皆が身体を張っている時に何を呑気な、そんなことを思った時である。


 空から一羽の大きな鷹が兄上目掛けて降りてきたのだ。


 彼は慌てること無く腕を伸ばし籠手に止まらせ、その足に結ばれた手紙を広げそれを一読する……そして、


「皆の者、援軍は来ない。別方面からも大鬼、大妖が江戸に迫っているとの事だ、他藩はそちらへ急行すると知らせが入った」


 もしもこれを言った者が悲壮感を漂わせていれば、間違いなく絶望がこの場に広がっていただろう。


 だが淡々と、絶望的とも言えるその知らせを顔色一つ変えること無く言い放つ兄上の姿は何の心配もする必要はない、と言外に言っているようにも見えた。

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