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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
修行 裸の里で少年は何を見るのか? の巻

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五百九十七 志七郎、褌を嫌い芸を思う事

『この先危険立入り注意、品性は両親から頂いた大切な贈り物、投げ捨てる前に先ずは相談を……悪五郎、被害者の会』


 と、あいも変わらず周りの世界観や御祖父様に喧嘩を売っているとしか思えぬ巨大看板に


『このさきらのさとここよりはきものをぬいでください』


 という読み辛い事この上ない小さな看板が立っている三叉路へと、特段の騒動に見舞われる事も無く、俺達は無事辿り着く事が出来た。


「んじゃオラは向こうの道から行くから此処でお別れだおね。龍の前足は温かい風の吹く土地だけど、人間は裸で生きる生き物じゃねぇから氣ぃ抜いたら風邪引くから気を付けるんだお」


 裸の里が有る場所は火元国の中に二箇所有る『龍の前足』と呼ばれる半島の内の一つだそうで、一年を通して温暖な気候で熱を孕んだ強い風が吹き付ける場所なのだと言う。


 ちなみにもう一箇所の龍の前足は江戸州を出て少し進んだ所に有る半島で、何方が右足で何方が左足なのかを地元の藩士達は江戸に上がる度に顔を突き合わせては争って居るらしい。


 どっちがどっちの足かなんてどうでも良いとは思うのだが、上座下座等の格付けと同様に右が格上、左が格下……と言う認識が此の国の常識らしく、見栄と面子で生きる武家としては譲れない部分な訳だ。


 なお裸の里を含めた此処等一帯を治めるのが佐山(さやま)右田(みぎた)家で、もう一つの龍の前足を擁するのが佐崎(さざき)右近(うこん)家だそうで、地名からすりゃどっちも左足、藩主の名からすればどっちも右足……と冗談みたいだが本当の話である。


 しかも何らかの理由で国替えが有ってそうなったってんなら、幕府の責任と言えるだろうが、何方も戦国時代以前からの地生えだと言うのだから、最早争う運命に有る両家なのだろう。


 ただまぁお互いの領地間に幾つもの領地を挟んだ、割と遠いと言える場所同士故か、江戸での言い争いや殴り合い程度の喧嘩は有っても、刃傷沙汰にまで至った事は一度も無く、互いに(いくさ)をしたと言う事も無い。


 むしろ普段からお互いに喧嘩をする事で、お互いの息を読む事が出来る所為か、節分狩りなんかの時に同じ場所に配置すると、上手く協力しあい成果を上げるらしいので『喧嘩するほど仲が良い』の類なのかも知れない。


「はい、ご指導誠に有難う御座いました。次に会う時には無事昇神されている事を心よりお祈り申し上げます」


 初めて会った時の糞汚い三百年物の引き篭もり……と言う印象は完全に消え、尊敬すべき武人としての部分を見た俺は、彼に対する言葉遣いを敢えて改めてそう言い放ち、深々と頭を垂れ……そして上げる。


 二度、三度と目を(しばたた)かせ、それからにやりと笑みを浮かべ


「お、お、お、んじゃ気合入れて修行しなけりゃ成らねぇおね。ボウズが元服する頃にゃぁ絶対昇神してるから、そしたら素材一杯抱えてあの御山を訪ねて来るんだお。オラに出来る全力で作れる最高の出で立ちを拵えちゃるからお」


 そう言うと踵を返し、手を軽く振りながら立ち去って行ったのだった。




「さて、では志七郎様、此処で着物を脱ぎましょう。難喪仙様の言っていた通り、氣を纏う事を忘れては為りませぬぞ。裸に慣れぬ内は風邪を引きやすいですからな」


 大看板の陰に隠れて見え辛い場所に有った脱衣所と思わしき建物に入ると、大叔父貴がそう言いながら自分も着物の帯を解き始める。


「にしても……旅の道中でも思いましたが、志七郎様は随分と派手な下穿きをご愛用為さっているのですな。下穿きはまぁ良いとして、余り表立って傾いた服装はなさいませぬ様に……」


 下着と言えば白い褌が基本である此の火元国で、俺の穿いている向こうの世界産の柄パン(トランクス)は確かに派手と言えるかも知れない。


 が、此方の世界にだって『赤(ふん)』や『日の丸褌』に『金(ぷん)』等と呼ばれる派手な下着が無い訳では無い。


 けれども其れ等を愛用する者の大半は、実力も無いのに粋がっている傾奇者なんて言われる様な連中だそうで、真っ当な武士や鬼切り者ならば男の最後の砦とも言える褌は純白であるべきなのだ……と、大叔父貴が熱弁を振るう。


 鬼切り者や侍が戦場(いくさば)で命を落とした場合、その死体が他の者に見つかれば、身包み剥がれて打ち捨てられる……なんて事は割とよく有る話で、その際に最後の情けとして褌だけは残してやるのが戦場の倣いなのだと言う。


 故に汚れ黄ばんだ見っともない褌を締めていると、死後その死体を漁った者だけでなく、その後の死体を見た者全てに笑い者にされる事に成るのだそうだ。


 とは言えソレは死ぬ事が前提の話で、そうで無いならば下着を他人に晒すのは銭湯の脱衣所か水()の時に位の物である。


 赤褌や日の丸褌は後者の場で身に付ける物としては割と一般的らしいが、金褌は一部の成金趣味に走った者が身に付ける実力の無い傾奇者の象徴とも言える物なのだそうだ。


 うん、要は不良が身に付ける派手な裏地の学ランとかそう言う様な扱いな訳だな。


 で、ソレがどんどん過激化エスカレートして短ランや長ランの様な目に見える不良の装いと成る事を危惧している……と。


 まぁ確かに、俺の様な年端も行かぬ子供(ガキ)が粋がった格好をしていれば、大叔父貴の立場からすりゃ心配にも成るかも知れないな。


 しかしだからと言って、俺が柄パンを止め褌に戻る事を考えるかと言えば……残念ながらソレは無い。


 俺の中に下着を穿かないと言う選択肢が有り得なかったが故に、此方の世界に生まれ変わってから暫くは褌を穿いて居たが、ソレは飽く迄も仕方なくだ。


 向こうの世界に行った際、此れから暫くの間は穿くのに困らないと思えるだけの柄パンを大量に買い込んで有る、成長していく事も想定し大きさ(サイズ)も各種取り揃えて有る。


 其れ等が擦り切れたり破れたりして、全て穿けなく成ったならば、また仕方なく褌に戻る事も有るかも知れないが、ソレをするくらいならば多少高く付いても紗蘭が向こうの世界に行く時にでも買ってきて貰えば良い。


 褌もブリーフも何と言うか、こう……股間が締め付けられる感じがどうしても好みじゃ無いのだ。


 とは言え……何も穿いていない状態と言うのは流石に不安が有りすぎる……。


 裸の里では褌すらも病人以外は身に付けては成らない掟だそうで、俺も大叔父貴も一糸纏わぬ姿で行かねば成らないのだ。


「さ、志七郎様、此方を……幾ら裸の里とは言え、見苦しい物を晒して歩くのが是とされている訳では有りませんのでな、志七郎様は未だ慣れて居ないのですから少々重いかも知れませんが大きめの此方を」


 全部脱いで、裸に成った所で大叔父貴がそう行って手渡して来たのは、一枚の漆塗りと思わしき高そうなお盆だった。


 見れば大叔父貴は手にした扇子を広げて、俺に逸物を晒さぬ様に隠している。


 ああ、うん……つまり此れで前を隠せと言う事か。


「決して落としては為りませんぞ、見えそうで見えない……見えぬ様に振る舞う事こそが錬風業の第一歩で御座る故」


 ……胡散臭い、と言うか絶対嘘だろそれ!?


 にしても、子供の頃に友人の家で見た格闘技(プロレス)を題材にしたアニメで見た事の有る『裸踊り』の様な真似を、生まれ変わってからする事に成るとは……。


 任官したばかりの頃に有った署の忘年会で、定年間近という御年配の巡査長が見事に『見せず』に踊っているのを実際見た事が有るが、アレはアレで熟練の技術が為せる技なのだとそう思えるだけの『芸』だった。


 果たして俺は此の修行期間中、無事『御開帳』せずに過ごし切る事が出来るのだろうか?


 扇子一枚で見事に隠したままで、脱いだ物を片付ける大叔父貴の姿を見て、俺は不安を感じざるを得ないのだった。

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[良い点] 派手な裏地の学ラン…ボタンの留め具とかねww お盆ww100%ww
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