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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
河中嶋と神の山 の巻

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五百九十四 志七郎、天狗の昔語りを聞き飯食えぬ事

 いやー、何時以来だろうか? 此処まで気持ち良くボコボコにされたのは……。


 あれから大叔父貴が朝飯の準備が出来たと呼びに来るまで、俺は難喪仙に挑みかかっては数合撃打ち合い、地面に転がされる……と言う事を数えるのも馬鹿らしく成る程に繰り返した。


 しかも打ち据えられた場所は、その瞬間は間違いなく痛いのに引きずる様な物では無く、次の手合わせには一切支障が無い……そんな絶妙な手加減具合と言うか何と言うか、木刀を使って居るのに竹刀以上に安全と言う訳の解らない物だった。


 江戸の屋敷では御祖父様や一朗翁にも稽古を付けて貰った事は当然有るのだが、火元国の中だけでなく、世界を見回したとしても上から数えた方が早いであろう達人の二人ですら、此処までの絶妙な手加減は出来やしない。


 打ち据えられて骨折する程の大打撃を加えられる事は流石に無いが、ソレでも毎朝の稽古で身体の何処にも痣一つ無いと言う事は有り得ず、智香子姉上謹製の傷薬が無ければ数日で痛みが消えれば御の字だろう。


 にも拘らず、今の俺の身体には転がされた時に出来た多少の擦り傷は有っても、打ち据えられた部分には痣一つ残っていない。


「お、お、お……痛く無けりゃ覚えねぇけど、痛くし過ぎりゃ治るまで稽古出来ねぇお。その辺家安を鍛える時に散々苦労したもんだお。アレが只人としては異常に打たれ強い奴じゃ無けりゃぁ最初の数日で叩き殺してたんだおねー」


 独特な笑い声を上げながら、懐かしそうにそう言う難喪仙。


 その言を信じるならば難喪仙は……と言うか天狗と言う種族は生まれながらに多くの武芸を体得しているのが普通なのだそうだ。


 義二郎兄上も武神の加護を受けるが故に、有りと汎ゆる武器を扱う術を生まれついて身に付けて居たが、ソレは飽く迄も最低限度の扱い方程度で、今の様に使い熟すと言う程に至るまでには相応の努力をしたと聞いている。


 しかし天狗は小天狗や烏天狗、大天狗……と種に依って多少の差異は有れども、達人と呼ぶに相応しい技量を持って生まれ出る物らしい。


 と言うか彼等はそもそも両親と成る物から生まれる訳では無く、志半ばで倒れた武人の魂や、戦いの中で放たれた氣の残滓等が寄り集まって、何時の間にか自然と発生する者なのだと言う。


 難喪仙が生まれたのは、此の火元国が戦国時代と呼ばれた頃の末期、多くの武士達が此の地の覇権を争っていた頃だそうだ。


 当然、乱世の時代ならば多くの武士が志半ばで命を落としただろう、そうした者達の怨念や無念が凝り固まって生まれた天狗も居れば、単純に自身の確立した武術を後世に残したい……そんな念が集まり生まれた天狗も居る。


 難喪仙は完全に後者の天狗で……その身に宿した技を誰かに教える為に産まれたと言っても過言では無い。


 けれども武芸その物はその身に宿しては居たが、ソレを伝授する技術まで持って産まれたと言う訳では無く、また世に名を知られた存在と言う訳でも無い彼の下に自然と弟子が集まる訳でも無く……当初は住んでいた山に近づく者を片っ端から襲って居たらしい。


 そうして見込みが有りそうな者を捕らえ、無理やり弟子にしようとしたが……当たり前だが一寸目を離した隙に逃げられた。


 そんな事を繰り返す内に人を殺める事は無くとも邪悪な天狗の一体として、賞金を掛けられるなんて事にも成ったのだと言う。


 賞金を目当てに襲い来る者達を返り討ちにする事は有ったが、その誰一人も殺める事無く済ませたのは、彼を構成する執念の芯とでも言うべき物と成った者が、余程強い不殺の信念でも持っていたのだろう。


 兎角、そうして多くの者を打ち払った中に、この世界へとやって来たばかりの家安公が居たのだそうだ。


 余程自分の喧嘩力とでも言うべき物に自信が有ったのか、寸鉄帯びずに現れた家安公は、拳一つで難喪仙に勝負を挑み……見事に敗れた。


 その上で家安公は


『俺がこの世界を生き抜く為には武器の扱いを覚えねぇとなんねぇ! あんたは弟子が欲しくて暴れてんだろ? 俺を鍛えてくれ!』


 と、最初から弟子入りする心積もりで、彼に挑んだのだと口にしたのだそうだ。


 初めて現れた、自分からやって来た弟子入り志願者に難喪仙は歓喜した。


 技を遺す事が存在意義にも拘らず、ソレを為せぬ日々……縄張りへと入る者が居なければ、只々只管に暇を潰す方法を探すそんな日々がとうとう終わるのだと。


 しかし先程本人が言っていた通り、戦う為の技は持っていても、ソレを伝授する技術が有る訳では無く……家安公が多少なりとも無意識に氣を纏う事が出来て居なければ、数日保つ事も無く死んでいたらしい。


 生来の頑健さと、僅かながらも氣を纏う事の出来る資質、そして何よりも『強い奴はモテる』と言う思春期の()少年らしい動機で、生き残り修行を受け続けた家安公を相手に、難喪仙も指導の技術を身に付けて行ったのだと言う。


『師は弟子を育て、弟子は師を育てる』と言う格言が武術の世界には有るが、彼等の関係はそうした良い師弟関係と言って良い物だった様で、家安公は三年程の修行で難喪仙の扱える全ての武器を一端の武芸者と言える程度に使い熟す様に成ったのだと言う。


 その後、家安公は魔法の修行もしなければ成らないと旅立って行ったが、その後も時折手土産を持参し彼の下へとやって来る事は有ったが、偶々仙術を覚えた頃で世界樹(サーバー)の色んな所を覗き見するのに夢中に成って会う事は無かったらしい。


 どうやら身に宿った技を家安公に伝授した段階で、その芯とでも言うべき念が満足してしまったらしく、其処からは延々引き篭もりのニート生活へと突入した訳だ。


「家安の奴が六道天魔をぶっ倒したって話を世界樹の掲示板で見た時にゃぁ、そんな英雄の師であるオラは自動的に神の座に座れる(もん)だと思ってたんだおねぇ。んでも、どんな神からもお呼ばれは掛らず仕舞い……今考えりゃ当然だったんだけどなー」


 神々の仕事は過重労働が当たり前のブラック世界……そりゃ幾ら手が足りないとは言えニートを雇おうとは思わないだろう。


「んでも、ボウズの御蔭でオラはちゃんと神への道を歩き出せたんだお。此処に来て毎日規則正しい生活をしてきっちり働いてると、木の虚に引き篭もって掲示板で釣りして暇潰してた頃の自分がどんだけ屑だったかよく分かるんだおね、そして何よりも……」


 と、其処で難喪仙は一度言葉を切り、手にした茶碗の飯を一口頬張り、ソレを咀嚼し飲み込んでから、


「働いて食う飯は美味いんだお! まぁ働いて無かった頃は飯なんか食わなかったから、働かずに食う飯も美味いのかも知れないけどなー、お、お、お」


 そう言って独特な笑い声をあげる。


「しかし彼の家安公に武芸を伝授したと言う伝説の大天狗が、今は鍛冶の神を目指して修行をして居るとは……兄者に聞いては居りましたが、本当に運命とは数奇な物ですなぁ」


 薄い桜色した大根の漬物をおかずに、玄米と雑穀の混じり合った飯を食いながら、大叔父貴がそんな言葉を漏らす。


「多分ボウズと出会わなきゃオラは未だ魔蔵山で引き篭もってたんだおね。こうして将来さきを目指して日々努力出来るんは、本当にボウズの御蔭なんだお。んだから、ボウズもさっきの手合わせと、此の飯を糧にしてきっちり強くなるんだおね」


 大叔父貴の言葉を受け難喪仙は行儀悪く箸で俺を指しながらそんな事を言うが……運動し過ぎた所為か食欲が無いんだよなぁ。


 俺は湧き上がる吐き気を堪えて、甘酸っぱい漬物をおかずに飯を掻っ込むのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 思春期の性少年らしい動機で、 家安だし誤字じゃないのかな?(笑) 微妙だったので誤字報告はしませんでした。
[良い点] 打ち込まれた痺れで次も喰らう連鎖もありますよねww
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