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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
河中嶋と神の山 の巻

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五百八十八 志七郎、礼儀を気にし懐かしきに出会う事

 木一本生えて居ない茶色の巨大な禿山は、よくよく見ればその至る所からもくもくと煙が上がって居り、その姿は鍛冶の山だと言う事を知らなければ活発に活動する火山にしか見えない。


 けれどもその煙の出処の大半は中腹辺りに居並ぶ建物から出ている事に気がつけば、ソレが噴煙では無く製鉄の為に焚かれた炎の上げる煙だと言う事が解る。


 どうやらあの御山を詣でる者は俺達以外にもそれなりに居る様で、子供の足に合わせてゆっくり進む俺達を幾人もの鬼切り者や武士と思しき者達が追い越していく。


 恐らくは裸の里の者なのだろう……未だ朝晩は肌寒い季節だと言うのに、褌一丁に(まさかり)を担いだ、そんな男が今も俺達追い抜いて行った。


 と言うか、あの格好で神の御社を詣でるつもりなのか? いや!? 違う、褌だけじゃぁ無い! 襟飾(ネクタイ)の様な布を首に巻き、足元にはちゃんと足袋を履いている。


 ……いや何方にせよ、仮にもの神と称される存在の御前に出るのに、あの格好がアカン事には変わりは無いだろう。


 うん、強くなる為に良識を捨てた、と言われるのも仕方ないのかも知れない。


 まぁ、何時までも野郎の尻を眺めて居ると、衆道の気でも有るのかと大叔父貴に勘違いされかねない……あの男の事は取り敢えず意識の横に避けて置こう。


 そうして進んでいくと、此処から先は神域であると示す朱色の鳥居が見えてきた。


 地球の様に丸く無く、平坦な大地が続くこの世界、遮る物さえ無ければ遥か遠くの物も見えて当然な筈なのだが、今の鳥居の様にある程度近づかなければ見えない、そんな物が時折有る。


 恐らくは結界とかそうした超常的な何かが有る所為なんだろう。


 人里や街道に鬼や妖怪が行き成り出現しないのは、そうした物が陰陽寮の術者達の手で張られているからだと言うのは聞いた覚えが有る。


 陰陽術の中でも奥義級の術を使えば出現だけでなく、侵入すら出来ない様な強力な結界を張る事も出来なくは無いらしいが、それほどの術を使える術者が多く居る訳では無く、一度掛けた術が永続すると言う訳でも無い。


 またそれだけ術を使うと成ると触媒として必要な素材も決して安い物では無く成る為、其処までの結界が常時張られているのは京の都の御所だけだ。


 兎角そうした結界は強弱を別にすれば、この火元国中至る所に張り巡らされていると言って間違いは無い。


 そうした結界が干渉し合う事で、遠くに有る物が見え辛い……と言う事が至る所で起こる訳だ。


 江戸州の戦場(いくさば)はそうした事が無い様に計算されて整えられた場なので、りーちが得意とする狙撃と言う戦術も取り得るが、外ではそうも行かない場合も有るので注意が必要だろう。


 まぁ、彼は武勇で身を立てるのではなく、元服前に母親の実家の商家へと養子に入り、商人に成るつもりらしいから、其処まで考える必要も無いのかな?


 と、そんな事を考えながら、一つ目の鳥居を抜けて門前町らしき、幾つかの商店が居並ぶ道を進んでいたその時だった。


「おー? ボウズじゃねーかお? 久し振りだお。どーしたんだお? こんな所で」


 四煌戌の背に積まれた荷物に、勝るとも劣らぬ大荷物を背負った男が、俺達を追い越したかと思うと、直ぐに振り返ってそんな言葉を口にしたのだ。


 身に纏うのは綺麗な作務衣のその男、どうやら俺を直接知っている風な物言いだが、残念ながらこんな所に居る者に心辺りは無い。


 ……いや、あの赤ら顔と言うには赤すぎる顔に真っ直ぐ伸びた長い鼻は、何処からどう観ても天狗のソレだ。


 俺が直接見知った天狗と言えば、四煌戌と出会うきっかけに成ってくれた仙人――難喪仙(なんもせん)だけである。


「もしかして……難喪仙ですか?」


 恐る恐るそう問いかける、


「お、お、お。久し振り過ぎてオラの顔も解らねぇかお? まぁオラもお前さんの顔を覚えてた訳じゃぁ無ぇんだけどなー。そっちのワン公、あの時の子だお? そら見りゃ気が付かねぇ方が阿呆だってもんだお」


 火元国を統括するという神、浅間様から四煌戌を受け取ったのは、彼の導きが有ってこそだ。


 となれば、此処数年で多少なりとも成長した俺の顔が解らずとも、三つ首の犬と言う大き過ぎる特徴を持った四煌戌を覚えていても不思議は無い。


「お久しぶりです、そう言う難喪仙こそ、こんな所で何を為さってるんですか?」


 あの日、事が済んだら何も言わずに去っていった難喪仙……三百年もの間山奥に引き篭もっていたネット中毒患者の彼が何故こんな所に、しかも随分と身綺麗な格好で何をしているのだろう。


「お? 親父殿から聞いて()ーお? オラは神を目指して此処で鍛冶の修行をしてるんだお」


 難喪仙に付いて父上から聞いている事と言えば、彼の妖力ちからの源である『八手の団扇』と呼ばれる物を預けられ、何時の日か再会する時にはソレを返す様に……と言う話だけである。


「俺の方は近くを通ったので、鍛冶の神様の御社を詣でて行こうと大叔父貴に言われたんで、寄ったんです」


 ただ問題は今日こうして此処で会うとは思っていなかったので、江戸の屋敷でも一番厳重に品物を保管してある宝蔵に仕舞ったままなのだ。


 とは言え、彼は神を目指して修行中だと言う事なので、多分『団扇』を返すのは神に成った暁に……と言う事なのだろう。


「お、お、お。御師匠(ししょー)様へのお参りかお、んじゃオラが紹介すっから、下の御社じゃぁ無くて本神に会って行けば良いんだお。仕事が詰まってる時に、んな事言ったら張っ倒されるけど、今日は一仕事終わったばっかで休みの筈だから平気なんだおね」


 その口ぶりから察するに難喪仙は鍛冶神 天目院様に無事弟子入りが叶い、彼の神の下で昇神する為の修行をしてると言う事の様だ。


 しかも態々、彼の神に俺を紹介してくれるってんだから驚きである。


「流石に神様に直接会うとなれば、それなりの品を奉納せねば成りませぬが……此度は用意が有りませぬ」


 けれどもそれに異を唱えたのは大叔父貴だ。


 儀礼的にも、面子的にも、神様に会うのに手ぶらと言うのは失礼に当たるので、流石にソレは避けたいと言う事らしい。


「気にしなくて良いお。猪川家からオラには盆暮れに欠かさず中元と歳暮が届いてるんだお。んで、その一部をオラから御師匠様に上納してっから、奉納品は十分に捧げられてるんだお」


 此れまた俺の知らない話だが、あれ以来毎年毎年、父上か兄上辺りが猪川家名義で希少な素材やら保存の効く食べ物やらを欠かさずに贈り続けているのだそうだ。


 その中には、神ですらそう簡単に手に入れる事の出来ぬ物も含まれていたそうで、そうした物を難喪仙から天目院様にお裾分けをしているので、一度挨拶する為に必要な奉納品は既に受け取っている……と言う状態らしい。


「それに御師匠様は猪山の鬼斬童子に興味が有るみたいで、錦絵やら瓦版やら態々江戸の大社から取り寄せてる位なんだお。此処まで来てるのに紹介しなかったら逆にオラがぶっ飛ばされるんだお」


 おおう……あの似ても似つかぬ錦絵を見た人に会うのは、割と辛い物が有るんだが……。


 でも此処まで言われたら断る訳にも行かないよなぁ。


「それに此処なら多少遅く成っても、二人位ならオラの寝床で良けりゃ泊めてやれるお。魔蔵山の木の虚に作った寝床と違って、此処のは普通に人が住むのとおんなじ作りだし、布団は社に有る来客用の奴借りてくりゃ良いだけだしおー」


 ……この仙人、三百年も木の虚に引き篭もってたのか。


 大丈夫だよな? 建物は人と同じでも中が魔窟化してるとか無いよな?


 引き篭もりの部屋が汚いってのは偏見かも知れないが、彼と初めて会った時の清潔と言う言葉とは程遠い姿を思い出せば、不安に成るのも仕様が無い事だろう。


 そんな内心を隠しながら、案内と紹介を買って出て来れた難喪仙の後に続き、御社へと続く階段を登り始めるのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 合縁奇縁の妙ですね~
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