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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
河中嶋と神の山 の巻

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五百八十六 志七郎、川を走り抜け黒き労働を思う事

 無事目当ての物を手に入れた俺達は、その日の内に河中嶋を出る事にした。


 大川を渡る渡し船は日に何本も往来しているのだが、その大半は手漕ぎの小舟で荷物を満載した四煌戌を載せる事は難しい。


 荷関船(にたりぶね)と呼ばれるその名の通り、荷運びを担う中型以上の船も有るが、そちらの方は一人二人の人間を便乗させる程度ならば兎も角、大型牛をも超える大きさに育った四煌戌とその荷物を乗せると成ると事前予約が必要なのだ。


 しかしソレを覆す手立てが俺達には有った、川の上を術で歩いて渡ると言う方法である。


 荷物とヒヨコを乗せた四煌戌に『水上歩行ウォーターウォーキング』の魔法を掛け、俺自身は『水蜘蛛の術』を使った大叔父貴が背負って行くのだそうだ。


 京の都に行く途中、未だ荷物が多く無かった時に、俺が四煌戌に乗ってその方法をしようと考えた事も有ったが、その時は火取の伯父貴に


『地元の渡し守を敵に回すから止めておけ』


 と言われたのだが、幾ら騎獣に乗った武士とは言えども子供一人のあの時と、多少歳を食っているとは言え大人である大叔父貴が一緒に居る今回とでは、問題に成る可能性が天地程も差が有るらしい。


 そして大叔父貴曰く、今ぐらいの時間に出れば日が落ちる前には渡りきれ、対岸の旅籠で一泊するのに丁度良いとの事だった。


 どうも此方の世界には『チェックアウトは午前十時まで』とか、そう言った規則は無いらしく、唐突にこの時間に成ってから出ていくと言い出した俺達なのに、嫌な顔一つせず旅籠の人達は送り出して呉れた。


「古の盟約に基づきて、我、猪河志七郎が命ずる! 我が朋友に宿りし水の精霊よ、集い集いて力と成れ。水の司るは生命と繁栄、水無くして生きる物無し」


 水の単属性魔法の中では中級程度の魔法である水上歩行は、今の俺だと意識を集中し続けなければ然程長い時間効果を継続させる事は出来ない……その位には難易度の高い魔法である。


 なので川辺りへと付いた時点で、既に大叔父貴の背中の上で詠唱をしているのだ。


 にしても全身鎧を纏った状態の俺は、それなり以上の重さが有る筈なのだが、ソレを軽々と背負う大叔父貴は、老齢の忍者と言う言葉で想像(イメージ)される様な細身にも拘らず中々に豪腕(パワフル)だな。


 魔法が無事掛かったのを感じた俺は、大叔父貴の肩を軽く叩いてソレを知らせると、彼は特に何かをした様子も無く無造作に水の上へと足を運ぶ。


 すると丸で其処に地面が有るかの様にしっかりとした足取りで、水の上を歩き始めたではないか。


 水蜘蛛の術と言うと、前世(まえ)に見た超有名忍者アニメの様に、足に木で出来た(かんじき)の様な物を履いて水の上を歩く……そんな姿を想像していたのだが、大叔父貴の足元にそんな物は無い。


「ふむ……大犬に掛けた魔法の方も問題なさそうですな。では少々速度を上げますぞ、振り落とされぬ様、しっかりと捕まって下され」


 続いて四煌戌が川の上へと歩き出したのを確認し、そう言った大叔父貴は丸で馬が走るかの様な速度で走り出した。


 しかも凄いのは俺の集中を乱さない為か、走って居ると言うのに一切揺れを感じない。


 此れは学生時代の一時期、芝右衛門が練習していたが結局は身に付ける事の出来なかった『素敵走り』と言う技ではなかろうか?


 多分、今の俺達は客観的に見たら可也『怖い』存在に見えるだろうな。


 うん……此れなら変な連中に絡まれる心配は無さそうだ。


 と、そんな事に気を取られつつ、俺は魔法を維持する事に意識を集中するのだった。




「いやぁ……久々に全力で走ると、腰に来るのぅ……」


 大川を渡りきり、近場の旅籠で部屋を借りるなり、大叔父貴はそう言って畳の上に横たわってしまった。


 ぎっくり腰とか、そう言う壊滅的な損害と言う訳では無い様だが、単純に腰に負担を掛けると痛む年頃なのだそうだ。


「まぁ後は飯を食って風呂入って寝るだけですし、大丈夫だとは思いますが場合に依っては一日二日此処に逗留する事に成るやも知れませぬ……」


 ……孫の運動会でハッスルしすぎたお爺ちゃんその物だな、となれば俺がやるべき事は一つ。


「風呂の前と後で軽く揉んで置きましょう、本職の按摩さんとは比べ物には成らないとは思うけど、それなりに経験は有るから」


 無論その経験と言うのは今生の物では無い前世の頃の話だ。


 前世でもまだ子供だった頃には、曽祖父に剣の稽古を付けて貰った後なんかに、肩や腰を揉まされた事は何度も有る。


 時には道場の先輩や、職場の先輩にも気を使ってそうした事は何度も有るので嘘は言って無い。


「おお……何と有り難いお言葉……家の孫共に聞かせてやりたいわ……連中、拙者の事を鬼か悪魔か妖怪か……と言う程に恐れて近づいても来ませんからな……」


 ああうん、多分この人孫達も立派な忍術使いに育て上げる為に厳しく修練をさせてるんだろう。


 今朝の稽古でも身体に当てる時は常に寸止めしている辺り、十分に手加減している事は解ったが、それでも割と容赦が無かった。


 中身が一度大人を経験している俺だからこそ、その辺の気遣いは理解出来たが、普通の子供ならば鬼やら何やらと思っても仕様が無いかも知れない。


 前世でも年嵩の人には割と多かったが、多分この人も自分が出来る程度の事は、努力すれば他人も出来る様に成る……と考える性質(タイプ)なんだろう。


 ……努力を続ける事が出来ると言う事自体が一種の才能なのだと思うのだが、自分が出来たんだから他人も出来る、出来ないのは努力が足りない、と根性論としか言いようの無い考えを押し付ける人は、何処の界隈にも少なからず居た。


 極端な例では有るが一日四、五時間しか寝なくても健康を保つ事の出来る短眠者(ショートスリーパー)と呼ばれる体質の者が、八時間眠る普通の人を怠け者呼ばわりした……なんて話を聞いた事が有る。


 俺が死ぬ前に有名に成ったブラック企業の社長がそんな性質の人間で、自分が若い頃に過酷な労働環境で種銭を稼ぎ起業した彼は、過重労働を従業員に強要し、自殺にまで追い込んだ……なんて事件が有った筈だ。


 そもそもとして労働基準法では、一日八時間以上、週四十時間以上の労働を禁じている。


 従業員に残業をさせたければ、別途『三六協定』と呼ばれる物を会社と労働組合(若しくは労働者の過半数の委任を受けた代表)との間に締結していなければ成らず、その協定は労働基準監督署に届け出なければ成らない。


 しかもその届出を出していたとしても、残業時間は青天井と言う訳では無く、月に四十五時間を超える残業をさせるのは違法だ。


 ちなみに俺の前職である警察官は公務員なので、労働基準法の対象外であり、張り込みやら当直やら、緊急出動やらで、所謂残業に当たる超過勤務は月辺りで百時間を軽く超える時も少なく無かった……。


 その上、中身は体育会系その物の『努力を押し付ける体質』だったのもまた事実で、俺自身はその手の手合に割と慣れていたりするのだ。


 まぁその分、色々と手当は出ていたので、あからさまに残業代を誤魔化すブラック企業よりはマシだった……と思いたい。


 とは言え、ネット小説を携帯電話(スマホ)で読む位しか趣味が無かった俺は、そうした手当が多く出ても只々溜め込んで居ただけなのだが……前世の家族に少なくない額面を遺す事が出来たんだから、良しと言う事にしておこう。


 兎角、大叔父貴のそんな気質を若い子に理解し納得しろと言っても無理が有る、子供には解り易い優しさが必要なのだ。


 ソレが無かったから前世の俺は家族との関係を拗らせたのだから……大叔父貴には後からその事を経験者として一寸忠告しておこう。


 そんな事を思い浮かべながら、俺は辛そうに横たわる大叔父貴の背中を揉み解すのだった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 若い頃運送業してそうなシャチョーww 水蜘蛛のあれって浮き輪みたく上に物載せてたって説ありますね
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