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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
京の都と美食旅 の巻

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五百六十五 志七郎、土産用意され無邪気にため息を吐く事

 ついでだから……と、母上や姉上達への御土産として普通の絹で織った反物も頂いた。


 今でも趣味と折角身に付けた技術を錆びつかせ無い為に、機織りを続けているのだそうだが、自分の小遣いは自分で稼ぐと言う猪山流は、流石に公家でも上から数えた方が早い立場の安倍家では通らず、売る事も出来ずに割と溜まっているのだと言う。


 無論、ただ無駄に貯めている訳で無く、家族が普段使いする着物を仕立てたり、家臣に褒美として渡したり、付き合いの有る家への御進物にしたりと、用途が全く無い訳では無い。


 それでも使うよりも作る速度が勝ってしまい、それなりの量が常に在庫っている状態なのだそうだ。


 ちなみに俺の分として渡された土蜘蛛の反物は、光沢の有る綺麗な純白の布で、上質な絹織物と比べても遜色ない物の様に思える、対して御土産用として渡された方の反物は、様々な色合いの絹糸を織り合わせた物らしく、絵画の様な美しい模様が描かれていた。


 ただ……見た目だけで言えば、ぶっちゃけ御土産用の方がお高そうにも思えるが、妖術を防ぐ効果の有る布と言うだけで、その価値は跳ね上がるのだろう。


 まぁ貰い物の値段をどうこう言うのは無粋の極みでしか無いのだが……。


「さて……そろそろ宇沙美と御母様が居る部屋へ行きましょうか。此れは持って歩くのは流石に邪魔でしょうから、纏めて適当な葛籠にでも入れて、帰りに改めて渡すわね」


「ああ、はい。そうして貰うと有り難いです」


 おミヤを含めた猫又女中達の分も……と、合計十本もの反物が用意され、ソレを剥き身で持ち歩くのは、正直勘弁して欲しかった所だ。


「家の子も貴方に御礼をしようと用意していた物があるわ。無下にしないで上げて頂戴ね。まだまだ拙いとは言えあの子も陰陽術の大家である安倍家の娘、江戸から戻ってからより修行に身を入れて居たのよ」


 いやいや、宇沙美姫と俺は同い年の従姉弟(いとこ)だが、此方は三十代半ばを経験したおっさんが中に入っているのだ、子供が用意した精一杯の心尽くしを踏み躙る様な真似はしない。


 とは言え、俺が過去世持ち(中身入り)なのは、家族や親しい友人達ならば知っている事では有るが、他所に向けて大々的に公言している事では無い。


 三十伯母上は父上の姉で身内と言えるが、公家である安倍家に嫁入りした身である以上は、何処かで線を引かざるを得ないだろう。


 まぁ俺が過去世持ちだと言う事が漏れたから、何が有ると言う事でも無いとは思うのだが、『鬼斬童子』の名声は年端の行かない子供が為した偉業だから価値があるとも言え、大人の精神が中に入っていると知られれば、ケチを付ける輩が出ないとも言い切れない。


 故に無理に隠す程では無いが、態々明言するのも避けるべき事柄、として我が家では扱われている。


 伯父上辺りならば界渡りの事も知っているし、察して居ても不思議は無いが、俺の口から言う必要は無いだろう。


 俺が彼女の言葉をただ黙って首肯したのを見て、伯母上は御祖母様によく似た微笑みを浮かべるのだった。




「志七郎様、此度はウチの危ない所を助けて頂いてホンマに有難うなのです。此れは御礼にウチが一生懸命作ったの、まだまだ修行不足だけれども……受け取ってくれると有り難いのです」


 別室で御祖母様と一緒にお手玉で遊んでいた宇沙美姫は、伯母上に連れられた俺が顔を見せるなり、そう言って袂から取り出した折り紙で作ったお雛様の様な物を差し出した。


 此れは陰陽術で作られた形代と言う道具で、其処に書き込まれた術式に依って様々な効果を生み出す物だと言う。


 元々を辿れば『お雛様』自体が形代の一種であり、厄を紙人形に背負わせて川に流して清めた……と言うのが起源なのだと、何処かで聞いた記憶が有る。


 また所謂『藁人形』も形代の一種と言えるそうで、他者を傷付ける目的で使えば呪いの人形、他者を救う目的で使えば身代わり人形……と言う様な感じで、陰の術にも陽の術にも使われる物なのだそうだ。


 宇沙美姫が俺に作ってくれたのは、鬼や妖怪の使う妖術の中でも特に『呪い』の類を受けた時に、身代わりとなってくれる物だと言う。


 しかも一回切りの使い捨て……と言う訳では無く、中に込められた霊力(ちから)を完全に使い切るまで、何度か効果が有るらしい。


 呪いを受けた時、形代は霊力を使った分だけ黒く染まっていき、最後には灰となって消えるそうで、その形が残っている間は安心して良いものだそうだ。


 ただし強力な呪いで有ればある程に霊力の損耗は激しく成る為、義二郎兄上の腕を奪った様な強力な呪毒であれば、一度受けただけで駄目に成る可能性は有るので、過信しては行けないらしい。


 けれども最低でもその一回だけは、完全に呪いを受け止めてくれるので、持っていて損の有る物では無い。


 なお複数枚身に付けて居る場合、呪いを受けた時には纏めて駄目になってしまう為、本業の陰陽術師は術式を書き込む前の生形代とでも言うべき物を複数持ち歩き、必要に応じて術式を書き込んで使うのが普通なのだそうだ。


 俺と同い年の宇沙美が作れるのだから、江戸を発つ前に信三郎兄上が作って持たせてくれても不思議は無いとは思うのだが、ソレが無かったのだから恐らくは割と難易度の高い術なのだろう。


 信三郎兄上が作る事が出来たのであれば、義二郎兄上の片腕が失われる事も無かった筈だ。


 家族の為に用意出来る物を吝嗇けちる様な心根の者は家の兄弟には居ない。


「ウチ此れ作るんに一生懸命お稽古しましたの。形代作りは陰陽術の基本だけれども奥義でも有るの。志七郎様に渡せる御礼に出来るのを作るのに、此処二年此れだけを毎日頑張ったんですの」


「長い事保つ形代を作るのは、中々に難しいのです。当家でも上から数えた方が早い席次の者にしか出来ぬ技。ただ宇沙美は他人(ひと)とは比べ物に成らない強い霊力を操る能力が有る様で……半ば力技ですので技術的には余り褒められた出来では無いんですけどね」


 成程……やはり信三郎兄上では、ずっと持ち歩く事の出来る形代を作る事の出来る腕前は無いと言う事か。


 そして宇沙美姫がソレを成す事が出来たのは、稽古の賜物と言う部分も有るだろうが、それ以上に彼女の持つ異能『異袋』のお陰と言う事らしい。


 彼女が江戸に来た時に聞いた話では『異袋』と言うのは、肉体が必要とする以上に食った物を霊力に変換し溜め込み、必要に応じてソレを利用する事の出来る……と言う物だった筈だ。


 其れ故、彼女は常人の数倍以上の霊力を持った上質な生贄に成り得るのだが、その霊力を陰陽術と言う形で使える様にする事で、その身を守る能力ちからを与えようと言う事だろう。


 恐らくは俺への御礼の為に努力した……と言うのも事実では有るのだろうが、其れ以上に万が一彼女のその異能が鬼や妖怪に与する者に知られた時の事を考えれば、自衛能力を持たせようと考えるのは当たり前と言える。


 見れば立ち振舞にも何処か軸が出来ている様にも思え、陰陽術の稽古だけで無く、何らかの武芸に付いても厳しく教え込まれて居るでは無いだろうか。


 今の所は氣を纏っている様子は無いが、霊力と言うのは氣や術の根源と成る生命力その物だと言う話だし、切っ掛けさえ有れば使える様に成る筈だ。


 膨大な霊力を背景に、強力な氣と術を使い熟す様になった宇沙美姫を嫁にする信三郎兄上は、恐らく尻に敷かれる事に成るんだろうなぁ。


 兄上の妾となっている女鬼達との関係が拗れる様な事に成らないか、心配していたのだが……うん、割と大丈夫な気がしてきたぞ。


 未だ幼く無邪気に笑う宇沙美姫を見ながら、俺は信三郎兄上の将来を思い、心の中で一つため息を吐いたのだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 読み直してて気付いたけど、2話前に前世の師発言を伯父上に言ってるから察してるというか既に知っているのでは? どっか勘違いしてる?
[一言] 間違いなく、猪山の血筋だね。 やはり、姉上の獲物は百トンハンマーしかないな(笑) 信三郎兄上頑張れ 負けんな 力の限り(枯れ果ててしまえ)
[良い点] 情念強そうな義姉www
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