表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
大川殺人事件 後編 の巻

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

540/1258

五百三十八『無題』

 刀の目釘を抜き、鞘を払い柄等を外す、拭い紙で峰側から拭い油と汚れを取る。


 それから刀を立てて持ち直し、全体に満遍なく打粉を掛けていく。


 もう一度新しい拭い紙で拭い、錆や傷が無いかを目を細めて確認し、油塗紙を用いて丁寧に油を塗り……(むら)が無い事を確認してから、再び鞘へと押し込める。


 と、それを待っていた彼の様に、天井裏に何者かが入ってくる気配を感じた。


「……何用か?」


 その気配には覚えがある、親父が若い頃から手足の如く使っている忍の者だ。


 名は確か嵐丸(あらしまる)と言ったか?


 儂が子供ガキの頃にはおしめを変えた事も有る……と笑いながら言われた事も有る、親戚の小父さんにも近い立場の者では有るが、こうして態々気配を知らせた上で入って来たのは公私の公に当たる用事なのだろう。


「……御子息が無事『京州』に入ったと、厳忍衆から知らせが入り申した」


 成る程、ソレは態々親父が自分の目耳にも等しいこの男を寄越すに値する知らせだ。


「親父殿は今何処に?」


 しかし当人が来ず彼を使いっぱしりにして知らせると言うのが解せない。


 いや、まぁどうせ何時もの様に『ティンと来た』とか言う謎の理由で何処か明後日の場所にぶっ飛んで言ってるんだろうが……


「知らせが届くと同時に西に向かって跳んで行き申した。拙者はこの報告の後、京で合流せよと命じられております」


 ……ああ、うん、つまりは関所も何もかも無視して京の都まで真っ直ぐ突っ走って行った訳な。


 あの爺は何時まで経っても落ち着くと言う事を知らず、火元全国津々浦々を神出鬼没に動き回っている。


 それが出来るのも偏に極め切った氣を使って、走っているのか跳んでいるのか、或いは飛んで居るのかも知れないと言う様な速さで移動できるからだ。


 なにせあの親父、普通の馬なら丸一日掛けて走るだろう距離をほんの一刻(約2時間)も掛からず走り抜けるのだ、しかも自身も完全武装した上で、更にもう一人二人を担いでも……だ。


 上様の治世と成って以降……と言うか、親父が隠居し俺が藩主の立場を継いで以降、この火元国で大きな鬼害で取り返しの付かない様な大きな被害が出た事は無い。


 それは上様の高い徳故に、鬼や妖怪達もが平伏し恐れ入るからだと、市井では言われているが……。


 実際の所は、親父が『ティンと来た』場所へと走り、害が小さな内に発見し、時に地元の領主に、時に上様に、場合によっては一朗に、ソレを知らせ叩き潰させているからだ。


 各地細々と見渡せば、被害が完全に零と言う訳では無い。


 それでも火元国の『守護者』と言って間違いないのが、あの親父な訳だ。


 故に『裏でどんな悪事を企んでいるか解らない』と思いつつも、親父が現れた事を問題にする藩主は居ない。


 とは言え、親父の謎の直感(カン)も常に正解を引き当てる訳では無く『死神』の類だとまでは思われていない……筈である。


 寧ろ問題は、火元国各地で温泉だの美食だのを堪能して、ソレを纏めた物を戯作者に渡して面白可笑しい旅行記に仕立て上げて売上を得ている事だ。


 御蔭で儂は、他所の客と会う度に見た事も無い絶景と、食った事も無い名物を語らねば成らんのだ。


 儂自身が行った訳で無し、知らぬ存ぜぬで通す事も出来なくは無いが、其処は見栄と面子が服を着て歩いてるのが武家の世界『武士は食わねど高楊枝』とはよく言った物である。


 最近は、料理の話は記した文を渡すのでは無く、先ず三女にソレを渡し再現させ、ソレを儂等家族や戯作者にも食わせる様に成ったので、知ったか振りをしなければ成らないのは風景やら何やらだけに成ったのが幸いと言えなくも無いが……


 閑話休題(それはともかく)、親父が京の都に向かったと言う事は、恐らく向こうで、また一波乱あると言う事なのだろう。


 末っ子は十日も有れば付く筈の道中を、騒動に巻き込まれながら一月近くの時を掛けて移動する羽目に成ったのだ。


 親父や次男は騒動を嗅ぎ付け自分から首を突っ込むが、彼奴(あやつ)は黙っていても騒動の方から寄ってくる。


 加護持ちと言うのは多かれ少なかれ、そう言う星の下に生まれた者だと言うが、アレは七兄弟の中でも飛び抜けて、巻き込まれる性質(たち)と言えるだろう。


 そう言う意味では長男は割と『大人しい』と言える、いやまぁ……子供の頃は何時の間にか姿を消しては、乳母や女中達が血相を変えて探し回るなんて事も有ったが、ある程度分別の付く年頃に成ってからは、然して問題と言える事は起こしていない。


 長女も彼女に言い寄る男が騒動の原因になった事は有れども、本人が騒ぎを起こした事は無い。


 次女は……まぁうん、末っ子を除けば一番の問題児はアレだ……今朝も自分の住む離れの天井に大穴を開ける様な、大爆発を起こしよって……自分は煤けるだけで無事だから良かったが、いつ何時大爆死するか解った物では無く気が気ではない。


 三男も最近(・・)までは、極めて優等生と言っても良かったが、此処暫くは朝から晩まであんあんぎしぎし喧しい事この上ない、隔離する為に態々離れを増設する羽目に成ったわ。


 三女はいつの間にやら勝手に男を捕まえてきた以外は、問題らしい問題は何一つ無い筈だが……多分長女と一緒で儂が知らんだけで、然程大きくない騒動は起こしとるんだろうなぁ。


 次男の好き好んで騒動に顔を突っ込む癖は、親父や師として付けた者の影響と言う事で、仕様が無いと言い切れるし、恐らくは女房の影響も多分に有るだろう。


 アレも若い頃には『暴君』とまで恐れられた、騒動の女王だ。


 一体どうやったら嫁入り前に一度国許へと挨拶に行ったきり、江戸から出た事が無い筈の彼女が、その国許ですら恐怖の代名詞として語られる程に成ると言うのか……。


 いや……儂が知り合った時点で、不法に賭場を開帳する博徒連中には、鬼や妖怪の類の如き扱いを受けていたのだから、鉄火場を渡り歩く様な者達がその存在を噂しても可怪しくは無い。


 そしてそう言う八九三な連中は、彼の地に有る人市とも繋がりが深い……其処で情報が共有され、火元国中にその噂が流布していても不思議は無いか。


 しかしかく言う儂も若い頃に騒動を起こした事が無い訳では無いがの。


 若気の至りと言うのは、誰にでも有る物だろう。


 武家の子に生まれた以上は、暴れざるを得ない状況に陥る事が無い訳が無い。


 そう言う時に腰が引ける様では、武に依って立つ士として、心許ないとしか言い様が無いからの。


 うん、そう考えると長男はちと物足りないか?


 いや、アレはアレで自分が暴れる必要が無い様に立ち回れるように知恵を回しておるらしいから、何方かと言えば親父に気質が近いのかも知れない。


 考えてみれば親父も自分の為に騒動を起こした様な話は聞いた覚えが無い様に思う。


 親父の武勇伝の大半は、当時は嫡男では無かった上様が巻き込まれたり顔を突っ込んだりした事件を収拾する為に動いた結果だった。


 隠居後は、その頃に築き上げた悪名を、矢張り上様の為に利用しているだろう事に疑いは無い……筈だ。


 騒動を収集し収拾しているのだから、上様の為に動いては居るのだろう。


 けれどもその度に売った覚えの無い恩で、他所の藩主が頭を下げに来るのはどうにか成らんもんか。


 せめてその恩まで上様に丸投げすりゃ良い物を、きっちり顔出しして解決するもんだから、此方も頬被り出来やしねぇ。


 ……親父は自覚してやってる分未だましか。


 末っ子が道中巻き込まれた件で、あまり付き合いの無かった二藩の藩主が揃ってやって来たし、義弟に厳と多古の両忍衆からも礼を言う為だけに使者が来た。


 詳しい話を聞いた時には『どうしてこなた!』と歌って踊りだしたく成ったわ。


 アレの旅路を面白可笑しく書き立てた書を作ると言う計画はもう有り得ない。


 どれも子供らしい可愛い騒動なんて物では無く、書けば他所の面子に傷が付く類の醜聞ばかりなのだから。


 まぁ礼には当然付随する物が有る故、赤字には成らんがの。


 と、そんな事を考えている内に、何時の間にやら頭上の気配は消えていた。


 幾ら凄腕の忍とは言え、親父を追いかけるのは生半可な事では無いだろうからの、無礼とは言うまいよ。



今巻は、一応『ADV』ベースと言う事も有ってネタバレに繋がりかねないと感想欄への返信は自重しておりましたが、次回更新分より再び返信を再開致します。

決して長期に渡り、返信をサボった事で面倒に成ったからでは有りません。

ご理解とご容赦の程宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ