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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
大川殺人事件 後編 の巻

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五百二十九 志七郎、現場を精査し動機見つける事

 御祖父様の名の御威光は此処でも強く働いた様で、船の運行に関わる二人を除いて、他の全員がこの食堂に残る事も、船着き場に着くまで俺が捜査する事も、反対意見の出る事は無かった。


 まぁこの状況で捜査に反対する様な事をすれば『自分が犯人です』と言っている様な物だし、夕方までの残り少ない時間で真犯人を暴き出す事の難しさを考えれば放置しても構わない……と考えても不思議では無い。


 兎角、そんな訳で俺が下手人探しを請け負う事に成ったのだが、ソレにあたり船長の拝様から幾つかの権限を与えられた。


 一つ目は、この船のどの部屋にも自由に立ち入り、事件に関係すると思わしき物を押収すると言う事。


 二つ目に、船長達を含めたこの船の乗員全てに対して『尋問』する事、無論拷問の様な真似は禁じられているが、口頭訊問にすら抵抗する様な事が有れば、多少強引な事をしても構わないとは言われている。


 その他にも、捜査に必要と判断した事ならば、余程大きな影響が有ると思われる事以外は、一々船長の許可を取らずに行って良いらしい。


 そして最後に……


「んじゃまぁ坊っちゃん、早速何から始めやすか?」


 何故か月太郎が俺の小者として同行する事に成った。


 幼いこの身体故、手足の届かぬ場所の捜索を頼む……と言うのが建前では有るが、実際には捜査にかこつけて、事件に関係ない荷物を勝手に漁ったり、犯人に忖度して証拠隠滅を計ったりしない様にする為に監視と言った所なのだろう。


 恐らくは、俺と同じく彼だけが、被害者と深い利害関係に無かった事が人選の理由だと思われた。


「捜査には現場百遍……って格言が有ってな、先ずやるべきはもう一度きっちり現場を洗う事だ」


 ギスギスとした雰囲気の中、互いに視線で牽制しあいながら朝食を食らう皆を横目に見ながら、取り敢えず麺麭だけを胃に詰め、俺達は早速食堂を後にするのだった。




 大きな寝台(ベッド)が一つ、その横にある小さな(テーブル)が一つ、洋風の間取りの中に溶け込んでいない重厚な作りの船箪笥が一つ、そしてそんな部屋のほぼ真ん中に仰向けに突っ伏した被害者……それが現場の全てである。


 俺の部屋と同じく一等船室に当たるのだろう広さのその部屋は、船主(オーナー)の部屋という字面から想像する物に比べると、物の少さが少々引っ掛かる物は感じるが、本拠が別に有り此処は飽く迄も仕事の為の仮眠室と考えれば、相応と言えるのかも知れない。


「さっきは死体を軽く見聞しただけだからな、部屋の中は全く調べて無いんだ。月太郎も何か気になる物を見つけたら遠慮なく教えてくれ」


 現場と成った部屋を軽く見渡してから、そう言った俺は早速気になった物を探し始める。


 銃弾が遺体を貫通したので有れば、当然この部屋の何処かに有るはずなのだ……彼を殺めた兇弾が。


 被害者は、扉を開けた右手奥に配置された寝台へと、向かう様に倒れ込んで居る。


 嘉多様が言っていた様に『即死』で、撃たれたその場で倒れたのだとするならば、銃弾を放ったのは恐らく寝台の上からで、貫通した銃弾は逆側の壁へと飛んでいる筈……うん、ソレらしい小さな穴が有る。


 刀を抜いて、穴を一寸抉って見れば小さな――目算だが直径約一(センチメートル)程の鉛玉が出て来た……これが被害者の命を奪った弾丸だと思って間違いないだろう。


 銃弾と言うのは、割れたり変形したりしやすい物が多く、この大きさの物がキレイに貫通し、しかも原型を留めている……と言うのは、割と奇跡的な確率なのではないだろうか?


 前世まえの警察組織ならば、弾丸に刻まれた線条痕と銃を照合する事も出来ただろうが、残念ながら設備も知識も足りない俺では、其処までの事は出来はしない。


 それでも物的証拠が一つ確保出来た事は間違いないだろう。


 懐紙を一枚取り出し、無くさぬ様に包み込む。


「坊っちゃん! この船箪笥、鍵が掛かってませんぜ? 中にゃぁ……うぉ!? 大判小判がざっくざく……こりゃぁ物取り目的ってな線は無ぇわな」


 殺人犯が部屋を荒らしたりして、物取り目的の犯行と見せかける事で捜査を撹乱するのは、割と古典的な手口だろうが、ソレは飽く迄も犯人の目星を顔見知りだけに絞り込ませず、より多くの……ソレこそ行きずりの犯行に見せかける為の手だ。


 今回の様に、容疑者が船内に居る誰かしかありえない……と言う様な状況で気にする項目じゃぁ無いだろう。


 でも鍵が掛かっていないと言うのは確かに気になる、金銭以外の何か(・・)が盗られて居ると言う事は無いだろうか?


「他にも、土地の権利書……この船の権利書、借金の証文なんかも有りやすね。ああ矢吉の動機ってのぁ、多分コレですわぁな」


 と、そう言いながら月太郎が俺に差し出したのは一枚の証文……其処に書かれている名義は、言葉の通り矢吉の物だ。


 額面は百両(約1000万円)だが……利息が月に五両(約50万円)と、高利貸しの代名詞足る十一トイチ(十日で一割)よりは大分マシだが、それでも割とエゲツない割合が明記されている。


 しかも其処に書かれた日付は十年近く前と成っており、二十歳そこそこの矢吉が当初から利息を綺麗に収めていたとは考え辛く、残債がどれほど有るのか解った物では無い。


 コレは確かに動機と言われれば十分と言えば十分な物かも知れないが……動機に繋がる書類は他にも有るな……この船の権利書だ。


 拝様と川下屋が共同で権利を持つ……と言うのは、不自然と言えば不自然なのだ。


 拝様は跡取りでは無いにせよ立派な公家の子、わざわざ商家と権利を二分する様な事はせずとも他に方法は幾らでも有る筈で、其処には何か理由が有るのだろう事は容易に想像が付く。


「その船の権利書っての一寸見せてくれ」


 船の運行で上がる利益の七割を川下屋が取り三割を拝家が取る、川下屋が一万両(約十億)分の利益を得るか、兵助平に万が一の事が有った場合、船の権利は拝保が保有する……と、他にも例外事項なんかが有るが、要約すると大体そんな感じの様だ。


 土地の権利書と言うのも、借金の形として書かれている物が大半で、農地だったり鉱山だったりと割と雑多だが、どれも共通して記されている利息や、利益分配がかなりエゲツない数字の物ばかりである。


 まぁ、カラス金と言う朝借りて翌朝一割の利子を乗せて返済するなんてのや、朝に百文(約2500円)借りて夕方までに百一文(約2525円)返すなんて、前世の金融法が裸足で逃げ出す様な高利貸しが横行している此方の世界の感覚からすれば、割と良心的と言えなくも無いが……。


 それでも、貸す時には神や仏の如く感謝されるが、取り立ての時には鬼や悪魔の如く忌み嫌われるってのは、此方の世界でも同じである。


 猪山藩(うち)の者が盆や大晦日の取り立て時に商家の者の護衛仕事をする事があるのは、そうした借財を踏み倒そうと逃げたり、暴力に訴えたりする浪人者は全く居ない訳では無いからだ。


 兵助平がどれほどの豪の者かは解らないが、これらを取り立てるのに全く恨みを買っていないと言う事は無いだろう。


 とは言え、此処に動機の物証が有る拝様と矢吉の二人は、兵助平を殺めてそれら借財をご破算(チャラ)にしょう……なんて企てる(タイプ)には見えなかった。


 普通に考えて兵助平を殺した所で、これら権利は全て息子で跡取りの太助平に引き継がれるだろう事を考えれば、危険を犯してまで彼を殺めた所で意味が有るとは考え辛い。


 船の権利書には太助平への相続では無く、拝様への委譲が明記されては居るが、利益配分が拝様本人では無く『拝家』と書かれている辺り、引き継げば実家と対立する構図に成る様に成っているのだろう。


 そう考えると、この二人は逆に消しで良い様な気がするのだが……まぁ今の段階で結論を急ぐ必要は無いな。


 その後暫くその部屋を探したが、ソレ以上の何か(・・)を見つける事は出来ず、俺達は皆の話を聞く為に、もう一度食堂へと向かうのだった。




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