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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
大川殺人事件 前編 の巻

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五百十四 志七郎、船を見て革命に恐れ慄く事

 右から左、見渡す限り水、水、水……


 峠を越え周辺を見渡す事の出来る場所へと着いた、其処から見える風景は河を見ていると言うよりは、海を臨んでいる様にしか見えない物だった。


「これ本当に川と呼んで良いのか? つか、コレを徒歩で渡ったとか兄上達、阿呆なんじゃないのか?」


 そんな事を呟きながら、俺はかなり氣合いを入れて視力を強化し河の向こうを凝視する。


 丸で望遠鏡を覗き込んだ様に無理やり拡大された風景は、距離感が奇怪しく成るので正確な距離は掴めないが、少なくとも向こうの岸まで一里(約4km)を軽く越えているのでは無かろうか?


 だがそうして青い空気の層の向こうに薄っすらと比較的大きな……江戸程では無いが浅雀の藩都と同等かそれ以上の都市が広がっている様に見える。


「あれが……京の都……」


 思わずそう呟く俺だったが……


「ん? 此処からじゃぁ京の都は見えねぇぜ? 都はもっとずっと川上の方だし、山をもう一個越えなきゃなんねぇ。此処から真っ直ぐ渡った所に有んのは天下の台所、河中嶋藩だぜ」


 対岸に見える其処は、大川の河口近くに形成された巨大な中洲で、其処こそが仁一郎兄上の許嫁である千代女姉上の実家、立嶋家が治める領地なのだと言う。


 東西から海を通じて集まった品々は、あの島の南岸の大半を占める湊で一度陸揚げされ、火元国中から集う商人達が競り合い、再び廻船で消費地へと運ばれていく、天下の台所の名に相応しい『巨大な市場』と言って良い場所らしい。


 反面、耕作可能面積はその人口や経済力に比べて極めて狭く、河中嶋藩が区分としては中藩に分類されるのはソレが理由である。


 大藩とか中藩や小藩と言うのは、治める領地の石高、即ち米の取れ高だけで決められるので、河中嶋藩の様な商業都市の場合、その実態と格が違うと言う事も稀には有る話らしい。


 藩の格は石高で決められる物で幕府内での席次や発言力等も、一部の例外を除いて石高に従って定められる為、割と多くの藩で実態よりも多く申告されている……と言うのが実情なのだそうだ。


 ちなみに各領地で収穫された米の何割かは税として藩主家に納められるのだが、其処からそのまま幕府に上納されると言う事は無い。


 石高は飽く迄も家格の目安で有って、幕府の収入に直接繋がる数字と言う訳では無いのだ。


 とは言え、各藩が幕府に何も出さないと言う訳では無く、参勤交代の際にはその家格に見合った献上品を持参するのが通例と成っている。


 故に石高を少なく申告する(メリット)が無い訳では無いのだが、あからさまな『嘘』を公言していたりすると、ソレが明るみに出た時には改易や国替えと言った割と洒落に成らない処分が下される事すら有る重罪とされる事も有るのだ。


 もっとも申告された数字が幾ら過少でも、献上品が藩の実態に見合うだけの物が用意されていれば問題視される事は無いらしいので、恐らく幕府は各藩の実態を掴んでいるだろう事は容易に想像の付く話だったりする。


 その観点から見れば、河中嶋藩の経済力は下手な大藩よりも大きな物で、中藩なのにその家格よりも明らかに大きな力を持っていると言う点で、猪山藩(ウチ)と割と近い性質の藩と言えるだろうか?


「こうして見える所まで来たんだから、挨拶位はしていった方が良いのかな? いや、立嶋家のご当主様が居るかどうかは解らんが……」


 父上や兄上から預かった手紙は、京の都に居る親戚の分だけで、立嶋家にはそう言う物を届ける様には言われていないので、抜けていっても問題は無いのだろうが……。


「河中嶋にゃぁ帰りに拠って行きゃ良いだろうさ。彼処は観る所も遊ぶ所も数え切れ無ぇ程に有るかんな、一寸拠って行くにゃぁ時間が足らねぇやな。やる事きっちり終わらせて、余った小遣い銭で思う存分遊ぶのが粋ってもんだぜ?」


 とそう言う火取の伯父貴の言に拠れば、東西から船の集まる火元国一の大湊でもある河中嶋藩は、当然海の荒くれ者達が集まる場所でも有る。


 基本的に海の上に女は居らず、色々と持て余した野郎共が陸に上がれば、求めるのは当然そう言う見世な訳で……川中嶋藩はそれ自体が巨大な歓楽街と言う側面も持っているのだと言う。


 勿論、天下一の市場と言う面と、ソレを目当てに集まる商人達に金を落とさせる繁華街でも有るが……幾ら御大尽が多いとは言え、海千山千の商人を相手にするよりも、圧倒的に人数が多くしかも銭使いの荒い船乗り達から金を搾り取る方が簡単な訳だ。


 うん……予定よりも大分時間を食った訳だし、言われた通り遊ぶのは帰り道にしておくのが無難だろう。


 流石に遊び銭まで幕府が用立ててくれる訳でも無いしな。


 そう思いながら、船着き場を目指して改めて歩を進めるのだった。




 川の船着き場と言うから、江戸市中の至る所に有る小さなソレを思い浮かべていたのだが……辿り着いた其処は思った以上に混沌(カオス)な場所だった


 いや大きさを考えりゃぁ、当然ソレに比例して大きく成るのは当たり前だろう。


 そしてソレに見合うだけの船が並んで居る事にも不思議は無い。


 だが其処に並んでいるのが、江戸でもよく見る()の着いた高瀬舟から、前世まえの世界で公園の池に浮かんでいる様な櫂で漕ぐ短艇(ボート)に、果ては白鳥の形をした足漕船までもが浮いている。


「あの辺は自力で渡り慣れた連中相手の貸し船だな、一見さんでも借りれるが……流されっと出される救い船がどえらい銭をぼったくるんだわ。幾ら大川は流れが緩やかっても、素人が簡単に渡り切れるもんじゃねぇかんな、素直に渡守に銭払った方が安く上がらぁ」


 と、指差す方向に見えるのは、帆柱の着いた平田船と呼ばれる割と大き目な船が有り……更にその向こうには此処に停まっているのが場違いにしか見えない外輪船の姿も見えた。


 他にも何隻かの館船も有るが、三階建ての巨大な外輪船は黒々とした煙を吐き出す高い煙突の存在も相まって、異様とも言える存在感を醸し出している。


「アレが京の都までこの大川を遡る『三角姫号』だ、船賃は決して安かぁ無ぇが……アレに乗んのが一番確実で安全なんだわ。まぁ船主とは知らねぇ仲じゃねぇからな、俺っちに任せてとけ!」


 いやいやいや……え? アレどう見ても蒸気機関積んでるよな?


 転移者なり過去世持ちなりが居て、様々な技術や道具なんかが持ち込まれているこの世界、ソレが有っても奇怪しく無い……と言うかむしろ有って当然と言える物かも知れない。


 が、ソレが出来ればとっくの昔に産業革命が起きていても不思議は無い筈だ。


 工業技術という物は概念さえ知っていれば直ぐに再現出来る程簡単な物では無いが、出来上がる先を知っている状態で試行錯誤していけば、絶対に出来ないと言う事も無いだろう。


 ぱっと見る限りあの船は決して真新しい物では無い。


 就航してそれなりの期間が経っているならば、その技術が他に転用されていないと言う事は無い筈が無い。


 と言うか、先ずこの船を作る為にその技術を投入したと言う方が不自然だ。


 鬼や妖怪が跳梁跋扈する火元国中に蒸気機関車が走って無いのは仕方が無いのかも知れないが、固定動力として使われて居らず、最初から船の動力にすると言うのはヤッパリ奇怪しい。


「ん? 何難しい顔してんだ? ああ、あの黒い煙が気になんのか? ありゃ石炭っつーのを燃やして出る煙らしいぜ? まぁ大川の上流に出る妖怪の腹からしか取れないってんで、此処でしか使え無ぇらしいけどな」


 この世界では、石炭は炭鉱から掘り出す物じゃなくて、化け物を討伐して手に入れる物なのか。


 ソレじゃぁ、用途が限られても仕方が無いのかも知れないが……うん、コレを使って儲ける手立てはもっとあると思うんだが……。


 まぁ俺が下手な事を言った結果、乱獲からの絶滅なんて事に成ると寝覚めが悪いし、これ以上突っ込んで考えるのは辞めておこう。


 多分、江戸の部屋に置いてきたPCの中を漁れば、色々と応用する方法は解るんだろうなぁ……と思いながら俺は軽く頭を振って、安易な儲け話を頭から追い出すのだった。

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