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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
東街道中戌鞍記 下 の巻

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五百十 志七郎提言し覚悟見定める事

 多古と厳は遥か太古の昔から、血で血を洗う抗争を繰り広げてきた間柄だ。


 陰陽寮の管理下に入り、忍神(しのびかみ)大禅羅(だいぜんらぁ)の権能に依って命の奪い合いこそ無くなった今でも、決して良い間柄とは言い難い。


 二つの組織が縄張り戦でぶつかり合うのは、取り立てて珍しいと言う程の事では無く、年間を通して計算すれば千両箱が幾つ染料箱と交換されているのかも解らない程だと言う。


 それだけの銭を使っても、互いの縄張りの広さはほぼ変わらず、一進一退の攻防が続いていると言うのが実情らしい。


 故に多古忍衆の者達にとって厳忍衆は、問答無用で『敵』なのである。


 では厳忍衆の者達から見た多古忍衆はどうか?


 幕府御用忍で有り、武士として幕府からの禄を食む生活をしている厳忍衆は、多古よりは忍務にも縄張りにも飢えては居ないだろう。


 実際、縄張り戦も大半は多古から仕掛けるばかりで、厳の方から挑まれるのは奪われた縄張りを取り返す時ぐらいらしい。


 無論、時には忍務がかち合い争う事も有るが、その場合に行われる『閃』は縄張り戦に比べれば掛かる経費は殆ど誤差と言って良い範疇に収まるので、然程気にする程の事には成らないそうだ。


 その辺の事情を鑑みると厳忍衆の方は多古忍衆を『不倶戴天の敵』とまでは見做していないのではないだろうか。


 もっと言ってしまえば、超大型犬に一生懸命吠えてる中型……いや小型犬と言った程度の認識なのかも知れない。


 ……兎角、その力の差を込みで考えれば、態々厳が手間を掛けてまで多古に単純な嫌がらせであの男(岩鬼)を丸投げした、と言うのは考え辛い。


 ではどんな意図が有り得るか? 先ず最初に思い浮かぶのは、


『お前等、マジでこの程度の策謀に引っ掛かって喧嘩売ってきた訳?』


 と、言う暗喩では無いだろうか?


 実際、厳忍衆の方は近場に縄張り戦に参加する事が出来る上忍が居ながらも、その者は首謀者を取り押さえる為の閃を優先したのだ、その手練手管を見抜いていたのは間違いない。


 合わせて考えられるのは、


『弱い犬程よく吠える、キャンキャン喚いてるから、この程度の雑魚に舐められるんだ』


 そんな揶揄と言う可能性……多古から仕掛けられる縄張り戦は、厳にとって致命的な痛手とは言えないが、完全に無視出来る程軽い物でも無い。


 だが多古の足元が揺らいでいると迂遠に示唆する事で、その頻度が減る程度の効果は期待しているのではないかとも思える。


 そしてその辺の意図に気付かず岩鬼をサクッと闇に葬り『無かったこと』にしようとすれば、ソレを喧伝する事で多古が一方的に名を落し、忍務が減って収入が減れば、縄張り戦の頻度はやはり落ちる事に成るだろう。


 まぁ全ては俺の推測でしか無いが、多古が岩鬼をどう扱っても、厳にとって何らかの利益が出るのだろう事は、多分間違っていない。


 と成ると考えるべきは、厳が利を得るのは仕様が無いと割り切って、少しでも多古の損が少ない形に決着させる方法だ。


 何処にも不利益の無い決着と言うのが理想では有るが、後手に回ってしまった以上は多少の損は飲み込む覚悟をしなければ、より多くの損害を被る事になるだろう。


 殺すのが駄目ならば、生かす方法を考えれば良いんじゃないか?


 此処で殺せば多古の醜聞に成る。


 だからと言って何もせずこのまま放免すれば状況は変わらず、菊石忍衆は干殺しな訳だ。


 ……待てよ? 岩鬼の話では『力を示した上で、出来れば独立、若しくは厳の軍門に降る』と言う落とし所を狙っている、と言う話だったよな?


 今のこの状況は、十分にソレを成しているといえるのではないだろうか? ただ相手が厳では無いと言うだけで……。


「なぁ……どうせ軍門に降るっていうなら、多古に降るってのも選択肢じゃないか? 厳からすれば児戯にも等しい謀だったかも知れないが、多古はキッチリ引っ掛かってる訳だしな」


 幕府の情報収集機関として今でも機能している厳に比べ、現在の多古は本人達も認める程にオツムに問題を抱えた組織に成り下がっている。


 菊石忍衆も厳に比べれば決して有能とは言い難いかも知れないが、多古の大半の者達よりは頭が回るのではないだろうか?


「ああ、そりゃ悪く無ぇ手だ。ただ仮にも忍衆を名乗っている者達が、忍団未満の扱いに成るのに不満が無けりゃぁな。そして多古の方だって一回騙された相手を何処まで信用を置いて重用出来るかって話だわな」


 けれども俺の言葉に、火取がそんな言葉で難点を挙げる。


 忍術使いの組織は、『一族』が集まり『忍団』を形成し、『忍団』が集まり『忍軍』と成り、『忍軍』が更に幾つも集まって『忍衆』と呼ばれる様に成るのだと言う。


 ちなみに厳十一忍衆や多古八忍衆と言う呼称は、忍衆がその数あると言う訳では無く、忍軍がそれぞれ十一、八集まって忍衆を形成している……と言う事で、それ以外に火元国に有る忍衆は多くとも四つ位の忍軍の集まりしか無いらしい。


 菊石忍衆も今でこそ、ほぼ一族だけの小さな組織へと落ちぶれては居るが、戦乱の時代以前は幾つもの忍軍を抱えて居たが故に忍衆の名を持っていた。


 しかし忍と忍が命を奪い合う事が日常だったその頃に、多くの仲間が命を落し徐々に徐々に規模を落していったのだそうだ。


 それでも忍衆の名だけは残っていたのだが、此処で多古に降ると成れば、当然忍衆の看板は外す事になり、組織の規模的に忍団を名乗るのも難しく、恐らくは何処かの忍団の傘下に旧菊石一族として入る事に成るだろう。


 そうなった時、今までは小也とは言え一つの組織として好きに出来た事が、忍団や忍軍と言う括りの中で上役が存在する様になり、其れ等の指示命令を待たねば成らないと言う状況に成るわけだ。


 今までだって岩鬼と言う頭は居たし、その下の者達が完全に自由に行動出来たとは思わない。


 でも古くからの血族としての頭からの指示命令と、ソレ以外の上役からの指示命令では、頭では従わなければ成らないと解っていても、感情的に納得出来ない……なんて事は十分に有り得るだろう。


 多古忍衆の古参達だって、いきなり入ってきた余所者が今日から自分達の仲間だ、なんて上から言われても、即座に納得出来る者は少ないかも知れない。


 特に脳筋族が多いと言う今の多古からすれば、自分達を引っ掛けるだけの知恵が回る者が相手では即座に信用するのは難しいだろう。


 此れが同じ脳筋族同士で、真正面から本気(ガチ)で打つかり合った結果、傘下に降ると言うのであれば、「中々やるな」「お前もな」式に解り合う事も出来たのかも知れないが……。


 うん、こうやって選択肢を増やして見ても、やっぱり多古側にはどう頑張っても損が出る。


 何が正解か……なんてのは無いんだろうが、本当に厄介だ。


「いや……おぅ、菊石の……岩鬼って言ったか? お前ぇ、この坊主の言う通り、ウチに降るってんなら、今回の一件水にしてやらんでもない。今回の事でウチがヤバい状態だってのが良く解った。この辺で梃入れしなけりゃ成らんのだろう」


 しかし少しの間思案した後、豹紋がそんな言葉を口にした。


「流石に忍衆のままってな訳にゃぁ行かねぇが、暫くの間は俺の……いや多古忍衆の直轄部隊って事にして、忍務を受けるんじゃなくて忍衆の為の情報収集を優先に動いてもらう。勿論、文句を言う奴も居るだろうが、そりゃ俺の器量で黙らせる話だわな」


 忍務で銭を稼ぎ印紅を買い厳に喧嘩を吹っ掛ける……他の忍衆との居座古座が全く無い訳では無いが、多古の基本的な行動原理はソレしか無い。


 今まではソレで良いと思って来たのだろう、けれども今回の一件でその変わらぬ日常が、自分達から考える力を奪っていた事を理解した……してしまった。


 それが解っていてその状況を放置出来るのであれば、組織の長は務まらない。


 決意の篭った表情で言い切った豹紋の姿に相応の覚悟を見取ったのだろう、岩鬼は只黙って地面に額づくのだった。

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