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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
東街道中戌鞍記 下 の巻

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五百九 志七郎、厄介事を知り知恵絞り出す事

 しかし……結果だけを見れば割と間抜けなこの状況だが、これを丸く収めると成ると結構面倒なんじゃないだろうか?


 前世(まえ)暴力団(ヤクザ)ならば、自分達の面子を護る為に舐めた真似をしくさったこの男をサクッと始末して終わり……と言う方向に落ち着くのだろう。


 けれども今回の場合、多古が自力で此奴を引っ括った訳では無く、宿敵とも言える立場の厳忍衆の者がとっ捕まえて差し出して来た状況で、ソレをしてしまうのは完全に悪手と言える。


 雑魚の策謀にまんまと乗せられて他所に喧嘩を売った挙げ句、喧嘩相手が自身の潔白を証明する彼の如く、損害覚悟で暴いた首謀者を差し出され、ソレをホイホイと受け取ってケジメを取った……では、自分の無能を喧伝している様な物で、恥の上塗りでしか無いのだ。


 闇に葬った上で、世間的には『なんにも無かった』事にする、と言うのも出来なくは無いのだろうが、その為には厳忍衆の協力が絶対に必要で、その為にどんな条件を飲まされるかはわかった物では無い。


 と言うか、奴を厳が始末せず態々多古に差し出したのは、どう言う意図なのか……。


 サクッと始末して事を隠蔽しようとしても、厳が真相を喧伝すれば多古の面子は地に落ちる。


 しかもその場合、多古が岩鬼の策謀で仕掛けるハメに成った縄張り戦で得る筈だった名声は当然チャラになり、消費した印紅(インク)の代金は丸っと損として引っ被るハメに成るだろう。


「んで、文の一枚も付けられて無かったのか? 厳の連中だって無料(ただ)で此奴の身柄をこっちに差し出した訳じゃぁ無ぇだろよ?」


 俺と同じくただ巻き込まれただけの立場であり、恐らくは今までの人生で何人も人を殺めた事が有ると思われる火取は、早々に考えるのが面倒に成ったのか、冷めた口調でそう言い放った。


「いや……それらしい物は何も。つーか、割と厄介な事に成ってんのは解るんだが、その裏とか言われても俺はさっぱり……、こう言う時は一寸前なら胡女こめとこの棟梁が相談に乗ってくれたんだが、当代に代替わりしてからは……なぁ」


 流石に御庭番衆と双璧を成す忍衆の上から下まで丸っと馬鹿なんて事は無く、中には頭の回る相談役とでも言うべき立場の者が居()のだと言う……そう過去形だ。


 多古八忍衆の一派、胡女忍軍の先代棟梁だった根津見甚八と言う男は、仁義に厚く知恵も回り腕も立つ……本来であれば彼こそが多古八忍衆の全ての頂点に立ち、東街道一の大親分と唄われる、誰もがそう思っていたと言う。


 だが数年前突如として誰にも何も言わずに女房子供と共に姿を消したのだ。


 本来であれば、胡女忍軍の……多古八忍衆の全力を以て追いかけ始末するのが忍の掟。


 けれどもその後を追おうにも、何の手掛かりも見つけられず、その後情報が入ったのは根津見夫妻が死んだ事と、その娘が生き延びていると言う事だけだった。


 当初は生き残った娘を取り戻し、知る事全てを吐かせる……と言う様な意見も有ったのだが、逐電した後に為したらしい幾つもの罪過、更には娘の身に掛けられた妖術を解く為の費用、其れ等を丸っと贖うだけの銭を出すは少々厳しいと言う判断を下したのだと言う。


 と言うか、支払い額の提示と共に幕府から受け取った情報すら、残された多古忍衆では何一つ掴み取る事が出来て居なかった。


 根津見以外に情報の収集や管理を考える頭を持つ者が全く居なかった訳では無い……筈なのに、いつの間にか一人欠け、二人欠け……気が付けば上から下まで、『はい』しか言わぬ者(イエスマン)と、脳筋族しか残っていなかったらしい。


「詳しい事は流石に言えねぇが、それでも根津見が犯した罪は、その報復として多古(ウチ)の戦力が削られる様な事が有っても可怪しくはぇ……が、それに気が付きもしねぇって時点で……なぁ?」


 残された脳筋族の中では、比較的『考える』と言う事を知っている、隠居した長老達からそう言われて、多古八忍衆の頭に座る事に成った豹紋だったが、ソレは飽く迄も比較的に過ぎなかった訳だ。


「今の胡女忍軍の棟梁はどうなんだ? その根津見甚八って男の薫陶を受けてたなら、多少なりとも情報の扱いには長けてる物だと思うんだが?」


 上に立つ者が態々自分自身で情報収集を行っていたとは考え辛い、手の者を各地に走らせて上がってくる多くの雑多な其れ等を取捨選択し、必要な物を選び取り使い熟すのが策謀型の人間と言う者だろう。


 と成れば、その下で動いていた者が情報の取り扱いを覚えていても何ら不思議は無い。


「いや胡女の当代棟梁、根津見小六(ころく)は野心だけは一端だが、甚八の兄貴とは比べ(もん)に成らねぇ小物だよ。腕っぷしはまぁまぁだが、強引で強欲……本人の忍務遂行率は悪く無ぇが、人の使い方が成って無ぇ」


 しかし残念ながら甚八の跡目を継いだのは、自分自身の手柄を誇る為に生きる性質で、下の者の手柄は自分の物、自分の手柄は当然自分の物……と言う、人の上に立つには少々難の有る人物なのだと言う。


「んでも、それ以上の人材が胡女ん所にゃぁ居らんのだから仕様が無ぇ。使えない奴でもなんとか使うのが上の仕事だかんな……その辺をもちっと弁えてくれりゃ俺ももちっと楽に成るんだがなぁ。その辺は俺も得意たぁ言え無ぇんだが……なぁ」


 立場が人を作ると言う言葉も有る、上の立場を得たならば、それに見合う態度を意識していれば、余程気質に問題が無い限りは、それ相応に成っていく……とは言われているが、実際には中々そう上手くは行かない物である。


 前世まえでも、下のやる気の引き出し方など考えず、上手くやって当然、失敗したらただ怒鳴りつけるだけ……そんな上司の話は腐る程転がっていた。


「胡女だけじゃぁ無ぇ、桂も橘も、左京、村田、甲賀、乾……多古八忍衆の何処を見ても頭の回る中忍以上が居ねぇんだよなぁ……真田も俺程度が(かしら)張れる時点でお察し下さいってなもんだ……」


 深い深い溜息と共に吐き出される弱音、曰く冷静な時ならばまだしも、一寸興奮するとすぐ頭に血が登り、深く考える事も出来なく成るのだと言う。


「んで、今は頭に血が登っちゃ居ないだろう? この状況を何とかする手は思いついたか? ちと長い事横道にそれてるけどよ?」


 いつの間にやら煙管を燻らせていた火取が紫煙を吐き出しながら、そんな言葉を口にする。


「いや……思い浮かばねぇから、四方山に逃げてたに決まってんでしょうよ。ったく、厳の連中はなんだってこう厭らしい真似をしやがるかなぁ。サクッと殺って終わりなら簡単だが、ソレが駄目と成るとどうすりゃ良いのか……さっぱりですわ」


 しかし返って来たのはそんな情けない言葉……。


 捜査に行き詰まった時には、一度視点を変えてみるのも一つの方法である。


 割とよく言われる『逆転の発想』と言う奴もソレだが、俺が前世に先達から散々言われたの『犯人の視点で考えてみろ』だ。


『マトモな人間じゃぁ犯罪者の考えなんぞ完璧に理解できる筈が無い、それでも自分が犯行を行うつもりで考えりゃ見える物は必ず有る』と耳にタコができる程に言われ続けて来た物である。


 ソレに基づいて考えるのであれば、此処で考えるべきは、厳が何故岩鬼と言う男を態々とっ捕まえ、ソレを多古が回収出来る様な所に吊るしたのか……と言う事だ。


 そう考えれば、見えてくる物が有る筈……きっと、多分、恐らく……メイビー……


 ただ目の前の敵を討ち倒すのとは違う、後頭部がズキズキするほどに脳味噌を酷使し、その答えを探し始めるのだった。

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