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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
東街道中戌鞍記 中 の巻

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四百八十四 志七郎、不穏を見つけ笑み隠せぬ事

「ん……なんだアレ?」


 東街道をひた走り、そろそろ武士山も振り返らなければ視界に入らなく成って来た頃だった。


 木々の切れ間に前世(まえ)の世界で幹線道路沿いを走っていると見かける様な、江戸時代風世界に似つかわしくない大看板が見えたのだ。


「えーと……この先危険立入り注意、命は両親から頂いた大切な贈り物、投げ捨てる前に先ずは相談を……って、この先に自殺の名所でもあるのか?」


 どうやら東街道から枝分かれした別の道に対する案内板か何からしい。


「いやいや、自殺の名所ってな訳じゃぁぇさ、ほれそっちのちっこい方の看板に、この道が何処に通じてるか書かれてるぜ?」


 笑いを堪える様な含みのある表情かおで火取がそんな事を言いつつ指し示したその先には……


「猪山良いトコ一度はおいで、美味い飯と絶え間なき笑いが溢れる場所、猪山藩猪河家は新規住民を心より歓迎致します……ってこの先が家の本領なのか」


 しかし看板の落差が激しいな……多分この小さいボロボロの看板は家が大分昔に立ててそのままに成っている物なんだろう。


 んじゃ此方の大きい方の看板は……?


 と思って良く見てみれば、下の方に恐らくはこの看板を立てたであろう団体の名前がきっちり入っている。


 えーっと……『悪五郎、被害者の会』って、コレ御祖父様に真正面から喧嘩売ってね?


「猪山の年貢が阿呆みたいに安いってなぁ、誰でも知ってる様な噂話だかんな。四公四民二義ってのが公の数字らしいがソレを額面通り信じてる奴はこの辺にゃぁ居ねぇよ」


 猪山の若者……ソレも武士では無く百姓の筈の男が、この辺りの岡場所で豪遊と言っても良い銭の使い方をするのは珍しい話では無く、数年に一度は比較的若い遊女を身請けするなんて事も有るらしい。


 身請けには余程の理由が無ければ四、五十両(約400~500万円)と、一般庶民ではお目にかかる事も難しい様な大金が必要になる。


 宿場に居る『飯炊き女』や湯治場や銭湯の『湯女(ゆな)』、川や海沿いで小舟で春を鬻ぐ『船饅頭』、どれも遊女の別名であるが、身体を売るという事以外に共通点として上げられるのは、彼女等が理由の違いは有れども借金の形として売られた者だと言う事だ。


 人身売買その物は世界樹の神々が定めし『天網』で禁じられてはいるのだが、幾つかの例外的な理由で『奴隷』とでも言うべき身分の者がこの世界に全く居ないと言う訳では無い。


 例えば、戦争で捕虜に成った者は主家や家族が身代金を払わなければその様に扱われるし、死罪に成る程では無い様な犯罪を犯した者が罰金を払えなければ、足りない分を稼ぎ収めるまではそうした身分に落とされる。


 そして借金が払えないと言う状態に為れば、ソレを返済仕切るまでの間はやはり、自由民とでも言うべき立場を失う事に成るのだ。


 故に、遊女を身請けしたければ残っている借金を全部肩代わりした上に、本人がソレを稼いで返すであろう『年季開け』までに店が得た筈の見込利益まで支払わなければ成らない。


 しかもソレは銭さえ有れば誰でも良い……と言う話では無く、見世に何度も通い遊女と心を通い合わせ、本人が首を縦に振らなければ基本的に認められる事は無いのである。


 更には人気の有る遊女は複数の馴染み(・・・)を抱えるのが当たり前で、そうなると身請けしようと思えば他の男よりも足繁く通う必要も出てくる訳だ。


 つまり定期的に登楼し、その上で莫大と言える銭を叩かねば成らない以上、大きな庄屋でも無い限り……いや例え豪農だとしても余程悪どい事をしなければ、そんな銭を持ち出す事は出来やしない……ただし猪山藩の者を除いて。


「俺っち位腕の立つ(もん)なら鬼切りでも何でもすりゃ、太夫を買うとか馬鹿な話じゃなけりゃ稼げなくは無い。んでもよ、この辺の遊郭に遊びに行きゃ猪山の衆と顔合わせ無い方が珍しいってんだぜ? 流石に色々奇怪しいだろさ」


 猪山藩は山奥の盆地とは聞いている、と言うか道の先を一寸氣を入れて見てみても、鬱蒼と生い茂る巨大な森が広がっているのが見えるだけだ。


 その上の方に茂る木の高さから想像するに、武士山より少し低い程度までは地面が盛り上がっている事が想像出来る。


 多分眼の前に広がる広大な森が丸っと猪山山塊なのだろう、その大半が戦場(いくさば)だというのは聞いて居るが……多分その百姓と言うのも、畑仕事だけで生活しているのでは無く、合間を見つけては鬼切りも繰り返し銭を貯めているのだろう。


「猪山の女は丈夫で子沢山、女房欲しけりゃ猪山に行け……なんて話もこの辺りじゃぁよく聞く話ではあるけどよ。流石に毎年百人から向かって一人、二人しか戻ってこないってんだぜ?」


 アレ? その話が本当なら、何故態々猪山の男は外に女を買いに行くんだ? 丈夫で子沢山な嫁が地元に居るなら、命を掛けて鬼切りで銭を貯める必要なんか無いんじゃないか?


 うん、何か俺の知らない深い闇が有りそうだ……。


「まぁ俺っちも一度行った事が有るから、彼処がどんだけヤバイ場所かは知ってる。彼処で生まれ育ちゃぁ、大概の奴が俺っちと同等かそれ以上ってのも、まぁ理解出来る。ただまぁ好き好んで彼処に骨埋める気にゃぁ成らんがね」


 前世の世界の日本人にはあまり馴染みの無い肩を竦める様な動作(ジェスチャー)を取りながらそう言い放つ。


「ちなみに此奴を拾ったのもあの山の中だぜ? あの山の南側にゃぁ風の妖怪が阿呆ほど出やがるんだ」


 騎獣の頭を軽く撫でながら語る話に拠れば、彼の乗るソレは『鎌鼬』と言う妖怪で、三匹一組で人間に襲いかかり、先頭が相手を転ばせ、二匹目が斬りつけ、三匹目が血止めの薬を塗る……と言う何の為に人を襲うのか解らない存在らしい。


 大概の場合三匹纏めて討伐されるのだが、時に一匹二匹だけが討ち取られ、ハグレとでも言うような状態に成る事が有るのだそうだ。


 その場合、放っておけばそのうち風に溶けて消えてしまうのだが、火取の様に消える前に弱った彼らを保護すると、上手く懐けばこうして良い騎獣に成るのだと言う。


 なお、彼の騎獣『ふー太』は一匹目の転ばす役目の鎌鼬で、本気で走らせたならば其処らの名馬など平気で置いていける速度で走れるとの事だ。


「なんでそんな地元民なら誰でも知ってる危険に突っ込んで行くんだ? 百人の内二、三人しか戻らないって分が悪いなんてもんじゃぁ無いだろさ」


 実際そんな割合でしか嫁を手に入れて帰れない成らば、『猪山の女は』なんて噂に成る事は無い様に思える。


「そら猪山の女は、ちと気が強い以外に外れが無いってんで、どんな伝手を使ってでも嫁にしたい。伝手が無いなら手前ぇで乗り込んでいけ……ってなもんだわな」


 あー、うん、その台詞を吐いた表情を見て察しが付いた。


 要は火取の嫁さんは猪山出身なんだな、その言葉の通り伝手が無かったから自分で乗り込んでいったと……。


 んでもって博打で借金拵えた事が先日の一件でバレたから、女房が怖くて逃げている訳か。


「べ、別に女房なんか怖くねぇし! 本気ガチ()りゃぁ俺っちが勝つし!」


 敢えて内心が表情に出る事を隠さなかった事で、俺の言いたい事は如実に伝わったようだ。


 ……と言うか、女性相手に本気勝負(ガチンコ)が前提に成ってる時点で、相応の女傑であろう事は容易に想像が付く。


 武芸者としての矜持をしっかりと持っている男だ、当然そんな真似は出来る筈も無い。


 まぁ先ず間違い無く尻に敷かれてるのだろう……一廉の武術家である彼が、僅かに身を震わせたのを見逃さず、俺は笑いを止める事が出来ないのだった。

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