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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
東街道中戌鞍記 上 の巻

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四百八十三 「無題」

「此度は我が藩の内紛に御子息を巻き込んでしまった事誠に申し訳御座いませぬ」


 武士見藩主田地阿龍騎が畳に両の手を付いて口上を述べ、


「それに合わせて我が子の命を救って頂いた事、誠に有り難く」


 螺延藩主門川忍史も両の拳を畳に押し当てそう続き、


「伏して御詫び申し上げまする」

「伏して御礼、申し上げまする」


 二人は額付きながら、声を揃えて言い放った。


 普通の武家ならば、家臣は勿論元服前の子弟が為した事だとしても、功罪全ては家に帰属する故に、こうして家長で有る儂に礼をしに来るのは、極めて常識的な対応と言えるだろう。


「……話は父上の手の者から聴いておりまする、お二人ともそう平べったく成らず、顔を上げて下され。此度の件は息子が勝手に首を突っ込んだだけの事。幕府の手を煩わせる様な事にも成らなかったのだから上様に報告する様な事は致しませぬ」


 だが猪山藩うちに限っては、その礼をそのまま受け取る様な事はしない。


『己の小遣いは己で稼げ』と言う家訓を持つ我が藩では、功罪何れにせよソレを藩主が取り上げる様な事は余程の事が無い限りはしない事に成っているのだ。


 勿論、未だ年若い小僧が他家よそを相手に何かやらかした時に、直ぐ様見捨てる様な真似はしないが、全面的に庇う様な事もせず『自分の尻は自分で拭え』と突き放す程度の事はする。


 多くの場合、少々厳し目の鬼切りに行かせ、その報酬をそのまま謝罪に回す……と言う対応に成るが、ソレで先方が収まらないと言うので有れば正々堂々の果たし合いには何時でも応じる、と言うのが何時もの流れと言う事になる。


 まぁこの辺は概ね一朗と義二郎が何度も何度もやらかした結果、我が藩の定形対応として完成した話では有るが……。


 逆に功績に関しても同じ事、流石に頭越しに直接何らかの褒美を……と言うのは、謀反を促す云々面倒な事に成りかねないのでご遠慮頂くが、猪河家うち自体への礼品等はお断り申し上げるのが何時もの対応と言う事に成る。


「そもそも此度の一件に関して父上の手の者からの報告で概ね存じ上げているが、肝心の本人からは何も言ってきて居らぬからのぅ……。あの戯け者の事だから内々に収めた以上、礼の類は浅雀にだけして置けば良いと本気で思っとるんじゃないか?」


 そしてソレもおおやけに成った案件に付いての事成らば兎も角、今回の様に内々に収めた形の場合、本人から何の知らせも無い状況では、勝手に受け取るのもまた違う……と言わざるを得ないのだ。


 志七郎アレは義理や人情、礼儀なんかは多少拙い部分は有れども概ねきっちり理解しているのだが、事が『恩義』ソレも自分に対しての物と成れば途端に無頓着に成る。


 目の前に困っている者が居れば助に入るは当たり前、相身互いの故に気にする必要は無い……と本気で思っとる節が有る。


 今は子供だから大人に頼るは当たり前と言い聞かせては居るが、多分放っておけば兄弟相手でも、受けた恩を返そうと躍起に成る性質(たち)の男だと見ているが、恐らくは大きくは外れて居ないだろう。


 そも恩に着せる事を当たり前と思える男だったので有れば、おらむもお忠も武満に寝取らせる様な事はせず、自分の手元に置いて年頃に成ったら手を付ける……と言う選択肢も有った筈だ。


 幾ら魔法使い(三十路童貞)のまま死んだとは言え、初心な小僧では無かったのだから、その程度の欲を見せても奇怪しくは無い。


 界渡りの原因と成った案件に絡んで様々な所から色々な物を貰っても、格別何かを喜んだと言う話も無いし、鬼切りに出るにしても飼い犬(四煌戌)の餌を得る以上の稼ぎを求める様な無茶な仕事をする様子も無い事から考えるに、物欲や金銭欲も然程強くは無さそうだ。


 シビを態々買い求めて来るような事をした様に美食に対する欲は有る様だが、それとて世の中には身代を傾ける様な勢いで銭を叩く者が居る事を考えれば、まぁ人並みの範疇だろう。


 身体が未だ子供故色欲は湧かないのだとは言っていたが、ソレを差っ引いたとしても志七郎は概ね欲が薄いと言える様に思える。


 手柄を褒めるにしても、下手に大人だと言う意識が有る所為で素直に受け取らないし、褒美をやると言っても『他の者が褒美を受け取る事が難しく成る』から仕方なく受け取って蔵の肥やしに……と、まぁ扱いづらい事この上無いのだ。


 まぁ二人の事は単純に見守るべき子供で有って、食指を動かす対象として見ていなかった……というだけかも知れないが。


「兎角、猪河家としては此度の一件を恩に着せ何かを求める様な積りは一切御座らぬ。野火の方がどの様な対応をするかは知らんがの」


 正直な所、この手の事を一々恩だの義理だの言っておってはキリがない上に、逆に恨みを買いかねないと言うのが実情なのだ。


 なにせ神の加護を持つ者は、常日頃からその加護神に功績点を上納させる為に様々な騒動に巻き込まれる運命に有る、そして大概の場合その騒動に片を付ける度に何処かかしらに恩を売る事に成るのである。


 自分から積極的に騒動に首を突っ込む性質の義二郎が火元国を離れるまでは、それこそ三日平穏が続けば、誰かが何か隠しているのを疑わざるを得ない……と言うのが日常だったのだ。


 今日も志七郎が為したこの案件の他に、犬の散歩中に仁一郎が助けた老人の家族と、睦の新作料理が当たった結果、二足三文で取引されていた食材の値が跳ね上がったとの事で、生産地域の藩主が御礼に来る事に成っている。


 猪山に喧嘩を売った馬鹿を放置すると言う訳には行かないが、猪山に恩を感じる人間は幾ら居ても困らないし、ソレを一々取り立てる様な真似をする方が余程面倒だ。


 こう言う恩は放置して程よく育った頃に収穫するか、そうで無くとも何かの拍子に表沙汰に成る様な事があれば、猪山は恩着せがましい事はせず気っ風が良い……と言われれば、ソレだけで家の利益は十分と言えるだろう。


「しかしだからと言って、恩を返さぬままで……と言うのは我等の矜持が許しませぬ」


「然り、されど表沙汰には出来ぬ故、コレを期に猪山の派閥に与する……と言うのも憚られまする」


 うん……知ってた、他所の藩にやっと生まれた唯一の跡継ぎ候補を狙った側に救われた側、内々に収める事が出来なけりゃ、どう頑張っても前者は取り潰しだし、後者は断絶なのだ。


 ソレを救われて何の恩返しも要らんとか言われれば儂だって絶対裏を疑う。


 恩義を理由に派閥入り……なんてのはよく有る一手だが、ソレはソレで元いた派閥や敵対派閥から、背景を疑われる様な行動でも有るので、今回の様な内密の恩に対する返しとしては難しいのも事実である。


「いやの、ぶっちゃけた話ウチのクソ親父とバカ息子共が散々ぱらやらかしとるからの、この程度の事で恩義だの何だの言い出したらキリ無い訳よ……んだからって銭金でどうこうだと流石に志七郎(本人)の為にも成らんしの」


 仁一郎は基本的に人間との関わり合いを好まぬ性質で、恩を売る相手も野生の妖怪が大半で、人のまつりごとに影響は無く、その恩返しと言う話も大概は食い物だの一夜の思い出だので後に引く事は殆ど無い。


 義二郎も恩を掛けっ放しにする事は多いが、大体の場合『自分がされた分、若い鬼切り者を助けてやれ』と助け合いの循環を作る様な台詞で終わらせて居た。


 礼子に絡む恩云々は、大体野菜のお裾分けに絡む話で、ソレを使って作った漬物だの、料理だのが返ってきて、対して更にお裾分け……と流れなので、正直一番胃が痛くなる事の少ない出来た娘である。


 智香子も何だかんだで、爆発だの薬品流出だの騒動を起こす馬鹿娘では有るが、功罪何方も最終的には話が回ってくる前に、自分で蹴りを付けている辺り、一番独立心が強いと言えるかも知れない。


 信三郎の奴は上の二人に比べれば、問題と成る様な騒動は少なかったが……これ以上妾が増える様な事の無い様に切に願うばかりだ。


 睦は……うん、自分の婚約者(あいて)を勝手に見つけてきて、しかもソレが町人階級に有りながら文句を付けるのが馬鹿らしく成る程に、将来有望な鬼切り者……と言う問題を起こしたがソレ以外は本当に良い子である。


「……当家には志七郎殿と年回りの近い娘が居りまする」

「同じく我が家にも、然程変わらぬ年頃の娘が御座る……」


 あー、うん、家格と恩義を並べ立てりゃ正室とせず、双方を側室としても角は立たないし、縁付いた事を理由に派閥入りで家に恩返しも出来る、ついでに志七郎個人に対する義理も立つと考えれば悪くない選択だ。


 だが問題は……


「いや、ソレがな……今、家で上様の孫を預かってんだわ」


「「すみません、何か別の方法を検討して改めて伺います」」


 一拍すら置かず声を揃えて額づきながら、そんな答えを返す姿は容易に想像出来た事だった。


 それにしても折角拾った騒動が外に出せない話ってのは困るよなぁ……これじゃぁ赤字確定だからのぅ。


 次はもちっと面白可笑しく七転八倒出来る様な軽い騒動に巻き込まれるんだぞ我が息子よ!

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