四百五十三 連合隊、咆哮を上げ胸撫で下ろす事
「「「乾……ぱぁぁぁあああぃぃぃいいい!」」」
それぞれ手にした盃を高々と掲げ、一つに揃った声が柱を揺るがせる。
「いやぁしっかし、あんだけのど偉あ数相手によう一人も逝かんで帰れたの。正直何度死ぬる思たか解らんでりゃぁ」
南瓜の煮付けを一口食らい、盃を傾け浅雀の藩士がそう言えば、
「ほんになぁ、しかもあったら恐ろしいデカ物相手にいたまちですんだらぁ奇跡だっちゃ」
胡瓜の浅漬けを齧りながら、風間藩士が同意し、
「せやけど、そんなんもこうして煮物に成っちまえば……んまいのぅ」
仁鳥山藩氏がそう締めつつ、甘藷の煮物を頬張る。
勿論、彼等が食べているのは今回の討伐で仕留めた野菜達だ。
「素材が良いのも有るだろうが、やはり我が藩の末姫様の調理が良いからな。それにしても惜しむらくは……」
それら言葉を受け家の藩の若手が其処までで言葉を切り赤茄子と玉蜀黍の汁物を啜る、そして……
「「「結局手柄は童子達に持っていかれた事よなぁ……」」」
みな揃って同じ言葉を口にし深い深い溜め息を付いた。
……そう言われても、俺だって最終的に見れば手柄を持っていかれた口なのだ。
俺が鬼切小僧連の仲間の協力を得た上で、全身全霊を込めて放った一撃は、確かに大根の搭乗口を叩き割った、だが其処までだった。
……細かな氣の調整が出来なかった俺は、その奥に居る木瓜を仕留めるだけの余力を残す事が出来なかったのだ。
では誰が仕留めたのかと言えば、
「御主等に借り受けた武具のおかげで余は次期将軍に相応しき大手柄を上げる事が出来た。其方等には恩賞を用意せねばなるまい。まぁ此度の稼ぎだけでどれほど報いる事が出来るかは解らぬが、期待して居れよ」
「んだら、水臭ぇ事ぁ言うでねぇだぁよ。おらの弓はおらの一部だらぁ、武様の為に役立ったなら本望だぁよ」
「拙者……いや、私も同じです。忍は主君に忠を尽くす為に生きるのです。御方様の武勇の一助と成ったならばそれ以上の喜びは御座いませぬ」
……と俺のすぐ横でイチャコラしてやがる愚弟である。
他の前線組が、搭乗口を叩き斬った時点で力尽き墜落する俺を受け止めるか、追撃するかで躊躇している中、迷わず開いた操縦席に飛び込み首級を上げたのだ。
とは言え、武光が俺を見捨てたとか、そう言うふうには思っていない。
幾ら体格は然程変わらず、氣で身体強化されているとは言え、仮にも義理の弟にお姫様抱っこで救出されるのは余りにも情けなさ過ぎる。
問題は……
「ぬぁっはっはっは! これで初陣の恥は雪いだ。余が一番手柄だ! 皆の者、余を褒め称えよ! 余は次期将g「いい加減にせんかこの大戯け者が!」痛゛!」
調子に乗りやすい性格らしい此奴が驕り高ぶり、これから手綱を取るのが難しくなりそうな事だったのだが……俺が手を出す前に、いつの間にやらその背に立っていたお祖父様が拳骨を振り下ろしていた。
「物事は段取八分仕事二分じゃこの馬鹿タレが! 現場で首級を上げただけで一番手柄が取れるならば、誰も事前の準備に力を割く事をせんようになるわ。自力で突破口を開いたなら兎も角、お主は志七郎に相乗りしただけじゃろが!」
氣を吐き出し尽くし萎んだ身体は未だ戻らぬ物の、いやだからこその手加減の無い一撃を受け、頭を抑える武光にお祖父様の怒声が降り注ぐ。
「他の者達も同じじゃ愚か者共! 手柄首争いは武士の華なれど、他者の手柄を妬むで無いわ! 『一人は皆の為に皆は一人の為に』と太祖家安公も言葉を残しておるじゃろが! それを踏まえて皆の衆よぉーく考えてみよ。此度の戦の一番手柄が誰なのか……」
……うんその言葉、前世の世界で聞いた事有るぞ。つか普通にパクりを自分の言葉の様に残してるのな家安公は。
兎角、極めて腹黒い笑みを浮かべたお祖父様の台詞を聴き、その場に居た者達は皆息を飲む。
「当然、全ての手配をし、全ての策を立て、全ての指揮を取った儂に決まっておろう!」
胸を張り堂々とそう言い放つお祖父様のその言葉に、俺達は丸で昭和の笑劇の様に、その場でずっこけるのだった。
「おまたせしたにゃー! 大根たっぷりのおでんなのにゃー。蒟蒻と竹輪は有ったけど、良い蛸が手に入らなかったから、斬鉄おでんには出来なかったけどにゃ」
と、睦姉上が先導して入ってきた巨大なおでん鍋、中に入っている大根は当然俺達が撃破した物だ。
巨大ロボサイズの大根をどうやって持ち帰ったのかといえば、なんと所謂ボスフロアの新宿地下迷宮の最下層には、撃破した獲物諸共に鬼切奉行所へと転送する遠駆要石に類似する仕掛けが有ったのだ。
親玉を討ち取られ狼狽しているとは言え、未だ圧倒的多数に囲まれている状況なのは変わらず、氣や体力を使い果たした者が出始めた状況では、何時かは数で押し潰される可能性は決して低くは無かった。
特に『暴れ芽花野菜』は稀に金色に輝く氣を発し、とんでもない攻撃力を発揮する個体も居り、少数ならば兎も角多勢のソレを相手にし続けたならば、恐らく此処に居る半数は命を落としていただろう。
当然、そんな事は読み切っていたお祖父様は、武光が勝利の雄叫びを上げ、ソレが事実だと言う事を確認すると同時に、転送機構を起動した。
それはフロア内の討ち取られた妖怪と人間だけを選別して転送する様に成っており、生きている野菜達の生き残りはそのままその場に残ると言う寸法だった。
ちなみに転送された先には、獲物の解体を生業とする職人が持ち回りで常駐しており、稀有な大物の希少部位の取り出しを下手糞が自分でやって、失敗する……と言う心配は少ないそうだ。
雑魚も大根も、そして胡瓜君主もあっという間に解体され食材へと姿を変え、そして大根の中核から取り出された制御装置らしい機械の塊は、いつの間にやら現れていた『大社』の使いだと言う者に強制的に買い上げられてしまっていた。
なんでも大根を見た時にお祖父様が言っていた『樹護操機』と言う物に通じる機械らしく、それらは世界樹の神々に関わる案件だとの事で、否と言う選択肢は無かったのだ。
まぁ買い取り価格は大分色を付けてもらって二千両と、一寸洒落に成らない額面を提示されりゃぁ、文句を言い出す事も出来ないだろう。
しかもお祖父様はソレを経費を差っ引いた上で、自身と子供達以外の者達に頭割りで配ると言ったのだから、大多数の者達がソレを喜んで受け入れたのは当然の事と言える。
……道中で使った大量の霊薬の値段を考えると、彼等に配られるのは十両にも満たない金額では有るが、雑魚の討伐報酬も合わせて考えれば、吉原遊廓で豪遊するには十分と言えなくもない金額に成った者も居るようだ。
なお俺達子供が対象外とされたのは、流石に子供に持たせるには少々額面が大きすぎるのと、道中の……特に第八層の一番危険な場所では完全に保護される側に回っていたのが理由だと言う。
つーか多分、八層での陣形を命じた時点で、此処まででは無くとも、それなりに大きな額面に成る可能性を想定していたのだろう。
本当にこの人は何処まで先を読んで手を打っているやら……。
「よし、儂も呑んで食うぞ。 使い果たした氣を補給せな寿命が縮んじまうからの。おう、お前等も残さず食えよ、美味しく食らう事こそが食える化物を倒した時にしなければ成らぬ最後の戦いだからの」
……流石にあの大根の巨体を全て食い尽くすのは、俺達だけでは無理な話だろう。
そんなことを思いながら、俺はよく味の染みた大根に辛子を乗せて頬張るのだった。




