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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
激闘!? 地下迷宮……その実戦 の巻

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四百四十七 連合隊、死者を出しかけお祖父様本気を出す事

「おーい、生きとるかー。死んどる奴が居ったらちゃんと返事するんじゃぞー。返事が無い奴はもう駄目じゃと判断して武士の情けをくれてやるからの」


 第八層に降りてから大分時間が経ち、そろそろ九層への階段が見えてきた頃、一同を見回してお祖父様がそんな言葉を投げかけた。


「「「なんとか……」」」

「「「全員……」」」

「「「生きてます……」」」

「「「がく……」」」


 それに対して何とか振り絞る様に答えを返した藩士達……。


 うん、無理も無いだろう……なにせ陣の中心部に居てほぼ保護されていた形の子供達を除けば、皆が皆この階層で少なくとも一度は命を落としかけて居る。


 泳いできた鮃の攻撃を躱し損ね辛うじて刀でソレを受け止めた仁鳥山の藩士は刀諸共に真っ二つにされかけた。


 彼らの纏う防具の『即死攻撃無効』は飽く迄も特殊攻撃で有る『即死』を無効化するだけで、単純に高威力故に即死しかねない攻撃に対しては普通の防具と同じ効果しか無いのだ。


 (パワー)(アンド)頑強さ(タフネス)が売りの風間藩士は、反面回避という面での重鈍さは拭い切れず、突っ込んできた太刀魚に鎧を砕かれた者さえ居る。


 技巧派揃いの浅雀藩士は恐らく少人数での行軍ならば、誰一人危なげなく抜けきる事が出来たのだろうが、狭い通路に百余名がひしめき合い進んでいるこの状況では自由に動けず、死角を突かれて鯛の放った氷弾に土手っ腹を撃ち抜かれたりもしていた。


 そして一番酷い状態に陥ったのは、我らが猪山藩士である。


 最前列で切り込み役を任された以上は決して止まる事は許されず、己の身を顧みない突撃を繰り返す事で後に続く者達の進む余地を作り続ける必要が有ったからだ。


 そんな死屍累々と言っても決して過言では無い状況に有りながら、実際に死者が一人も出ていないどころか、完全に戦闘不能に陥った者が一人も居ないのは奇跡でもなんでもない。


 智香子姉上謹製の『即死さえしなけりゃ何とかなる霊薬くすり』を惜しげも無く大量投入した結果だ。


 幾ら高く付くとは言っても命には代えられない……と言うのはその通りだとは思うが、たった一粒で材料価格で約一両、姉上への手間や技術料も加味すれば百両を超える価格で取引される事も有る最高級の霊薬をこうバカスカ使うと言うのは無茶をし過ぎとも思える。


 と、言うか事前にコレだけ使ってもまだ残るだけの霊薬を用意させていた辺り……想定内と言う事だろうか?


 本当に何処までがお祖父様の掌の上の事なのやら……。


 他にも何度か全方位からの飽和攻撃とでも言う様な襲撃も有ったりしたが、そんな場合には流石にお祖父様が『人には影響ない様に調整した氣の爆発』と言う、最早人間業では無い何かを繰り出す事で事なきを得た。


 ソレが出来るならこの階層に下りた時から連発して欲しい……そう思ったのは俺だけでは無い筈だが流石に早々都合よい物では無く、お祖父様を以てしても短時間に放てるのは三度が限界でソレ以上は暫く休まねば無理だと言う。


「誰も彼も纏めて吹っ飛ばすなら百回や二百回、物の数では無いんじゃがの。人に影響の無い波長の氣を作るだけでも繊細な調整が必要なんじゃよ、まぁお前等も弛まぬ修練を詰めば誰でも儂程度の事は出来る様になるがの」


 と、珍しく疲れた様子で首と肩を回しながらお祖父様が口にすれば、


「否々無い無い……そんな器用な真似が出来るのは先代様だけです。誰も彼もがそんな神仙と変わらぬ境地に到れると思わないでください。少なくとも他にそんな頭の可怪しい真似は一郎翁にも出来ませぬ……」


 そう猪山藩うちの若手の一人、古神大五郎が否定の言葉を返し、残りの面子も心を一つに首を縦に振って同意の意を示す。


「なんじゃ若いのに情けない、最初からそうやって出来ぬと決め付ければ何事も出来やせぬ。為せば成る成さねば成らぬ何事も……と言うじゃろ。天才だ凡才だなんてのは努力をせぬ輩が自分を慰める為に抜かす泣き言じゃろ」


 ……お祖父様はアレだ、自分が出来る事出来た事は誰にでも出来る、と考えるタイプの人なのだろうか。


 いや、まぁ、努力をしなかった者ほど『天才様は楽だよなぁ』とか『彼奴は天才だから……』等と言って他人の努力を認め様としない傾向は確かに有るが、それでも体格や体質、生活環境などある意味『才能』とか『天運』とかに区分せざるを得ない物は確かに有る。


 子供の学力は親の収入に比例する……なんて話も前世まえに聞いた事が有るし、鳶が鷹を生む様な例外は全く無いとは言わないにせよ、やはり珍しいケースと言えるのでは無かろうか?


 そしてそう言う珍しいケースのほぼ大半は本人の努力に依るものだろう。


 努力が必ず報われるとは限らない、だが成功する者は皆例外なく努力を重ねた者だ……と言うのは何処かの作曲家の言葉だったと思う。


 逆に言えば、報われず無駄な努力に終わる可能性を嘆き、努力を諦めた者は絶対成功者には成り得ない……。


 とは言えそんな事等誰に言われずとも解ってはいるが、成功者にさらりとそんな言葉を投げかけられて、反発を覚えずハイそうですと受け入れられる若者と言うのは稀有なのでは無いだろうか?


 少なくとも前世(まえ)の俺には無理だった。


 兄貴を見て碌な努力もして居ないのに剣でも勉強でも敵わないと諦め不貞腐れ、趣味に逃げ込んだのが前世の俺だったのだ。


 実際には兄貴だって相応の努力はしていたのだろうし、若い頃に苦労を重ねなかった分、今現在苦労を重ねているのはその姿を見た時に理解出来た。


 武芸の道に於いて一年という時間ですら長過ぎる、四歳の年の差が有るのだから余程才能に差が無ければ、同じだけの努力を重ねた所で永遠に追いつく訳が無い。


 多分、死ぬ直前のタイミングであれば、大学を卒業し剣を捨てた……とまでは言わずともソレまでの様に熱を入れて稽古を重ねる事の無くなった兄貴と、警察官としてその後も稽古を続けてきた俺が勝負をすれば、きっと勝ったのは俺の筈だ。


 結局の所、俺と兄貴の間に才能の差なんて物は殆ど無く、有ったのは周りの人間関係と、現実逃避する趣味の差……位な物だったのだろう。


 もう一度やり直せるならば……なんて事を思った事は一度も無いし、今こうしてこの世界に生まれ変わった事に文句は無いが、後悔が一片足りとも無いと言い切ればソレはまた嘘に成る。


「そーだぞ、碌な師も居らず独学でやれと言ってるのであらば『無茶を申すな!』と吠えても仕様が無いが、態々深奥に至った翁が教えてくれると言外に言っておるのだ、ソレを学ばずしてどうする。のう、教えてくれるのであろう?」


 そんな思考の無限ループに沈み込み掛けた俺を引き上げたのは、武光の能天気な言葉だった。


「ぬ……そりゃぁ教えを請いたいと言うのであれば、弟子に取るのは吝かでは無いぞ。まぁ……儂の修行はちと厳しいがの? っと、どうやら下ではお出迎えの準備ができてるようじゃ、無策で降りれば蜂の巣にされるだろうの。とならば儂も本気を出すか……」


 話ながらも階下の気配を探っていたらしいお祖父様は、さも面白そうに笑い唐突に袴の帯を解き、あっという間も無く褌一丁の姿と成った。


 碌な防具すら着る事無く、散歩にでも行くような姿で居た今までも場違いと言えば場違いだったが、ソレは実力に裏打ちされた物と誰もが何も言わなかったが、流石にこの場でこの格好は頭が湧いているとしか思えない。


 ましてや年頃……と言うには少しばかり幼いがそれでも女の子である歌が居る場でする様な格好ではないだろう。


 まぁ布のお値段が比較的高く、一寸郊外に出れば穿いてないどころか丸出しに成っている者すらザラにいる世界、歌の方も今更いちいち騒ぎ立てる様子は無いし、お祖父様の方も見せて喜ぶ性癖があると言う訳では無い筈だ。


「志七郎、碌でも無い事を考えておるな? 今から見せるは氣功の奥義の一つ……いや二つじゃの。修行が足らん内に真似しようとすれば命を落とす故、本気で身に付けたいならば教えを請いに来るがええわ」


 そう言うと、更に酒精九割五部と書かれた小瓶を一気に呷る。


 途端溢れ出す暴力的なまでの濃密で凶悪な悪意の氣……ソレがどう言う物なのか、俺は知ってる。


 脱いだのは何時ぞや戦場を共にした『抱え大筒のお花』のそれと同様の理由で有り、度数九割五分(95%)の酒は仁一郎兄上の修めている酒を氣に変える『錬火行』のソレだろう。


 その何方かだけでも人の身だけでは有り得ない莫大な氣を得る手段なのに、ソレを二つも重ねたのが素で化物(ばけもの)級のお祖父様だ、コレと相対して勝ち目が有るのは恐らく俺の知る中では『赤の魔女』として世界に名だたるお花さん位ではなかろうか。


「では儂が一足先に降りる、巻き添えを食らいたく無ければゆっくり二十数えてから付いてくるんじゃぞ」


 身体の中に溢れる膨大な氣は、お祖父様の力量を以てしても抑えるのが困難な程に膨れ上がっているらしく、そう言い放ったお祖父様の口からは、目に見える濃度の氣が溢れていた。


 その姿が階段の下へと消えると誰ともなく溜息が漏れる、少なくとも俺が今まで戦ったどの大鬼よりも強い重圧を感じていたのだから無理も無い。


「魔王! 咆哮! けぇぇぇえええん!」


 そしてそんな怒声と共に、地下迷宮の全てが大きく揺れるのを感じたのだった。

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