表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
激闘!? 地下迷宮……その準備 の巻

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

437/1257

四百三十五 志七郎、想定外を知り血糖値気になる事

 腰に佩いた得物に手を掛けたまま瞳を閉じて一つ息を吐き、それから抜く手も見せ無ぬ早業で抜刀し一薙。


 其処から留まる事無く両の手で素早く柄を握り直すと、逆方向へと切り替えしの薙払い、更に袈裟懸けに切り下ろす。


 その動きは(わらべ)が為せる物では無く、氣を纏う事の出来ない者ならばそれなりに場数を踏んだ鬼切り者でも、自身がどの様に斬られたかも理解出来ない内に首と胴体が泣き別れになる……それ程の速さと鋭さを持っていた。


「うむ、重すぎず軽すぎず、余計な突っ張りも無駄な隙間も無い。革の鎧と聞いてもっと蒸す物かと思ったが通気も悪くない、コレならばもっと派手に動いても良さそうだ。流石は脳き……いや武勇優れし猪山の御用商人だ、良い職人を抱えている」


 一通りの型をなぞり、それから二度、三度とその場で飛び上がり、動きに支障が無いことを確かめると、武光は満足そうに頷いてそう言い放つ。


 彼の全身を包むのは俺が提供した牙狼と刃牙狼の革を蝋で固く煮染めた所謂『固い革鎧(ハードレザーアーマー)』で有る。


 革の鎧とは言っても妖怪の素材を使わぬ只の鉄で拵えた鎧よりは間違い無く固く、其処らの質屋に流れている束刀では余程の使い手で無ければ傷一つ付ける事は出来ないだろう。


 俺の初陣の時に義二郎兄上に作って貰った物より劣るだろうが、それでも世間一般からすれば初陣の出立ちとしては十分過ぎる物と評価されるのは間違いない筈だ。


 得物も誰かのお下がりを詰めた物では無く新造なのだし、掛かった費用の面から考えて、文句を言う様ならげんこつの一つも落としてやっても罰は当たらないと思う。


 まぁ、幸いと言うかなんというか出来上がった物は十分に彼のお眼鏡にかなった様では有るが……一寸問題発言が混ざったのは頂けない。


 とは言え、猪山の若手家臣達は脳みそまで筋肉で出来ている馬鹿集団だ、とは世間で言われている事では有るし、あながち間違いとは言い切れないので脳筋と言い掛けた事には突っ込ま無いでおく、むしろ突っ込みたいのは……


「ん、オラの方も動き辛ぇって事ぁ無ぇだな。肩当ても弓を引く邪魔になんねぇし、ええ感じだなや」


「当たらなければどうと言う事も無い……と散々言われて来ましたが、動きを阻害しない防具と言うのは良いものですな。安心感が違う……」


 何故に幼女達も鎧うて居られるのか。


 いや……命が軽いこの世界、男女の区別無く身を守る術の一つや二つ持っていて然るべきと言えばその通りだ。


 血筋では無いとは言え、尚武の気風が強い我が家で面倒を見る以上は、女の子で有っても蝶よ花よとは行かないのも間違い無い。


 その才の方向が武勇とは完全に掛け離れた所に有るはずの睦姉上ですら、小太刀を持たせれば其処らの男――或いは卑劣な変質者に遅れを取る事は無いだろう。


 俺や義二郎兄上程、収入の割合が鬼切りに依存しては居ないが、姉上達も身体の成長等に合せて装備を更新する程度には戦場へと出ていると言う話も聞いている。


 その辺の事を考えれば、彼女達もまた近い内に初陣を済ませるべき……と言うのが母上の判断なのだろう事は容易に想像が付く。


『己の小遣いは己で稼ぐ』と言う家訓は当然女性陣にも適用される以上は、その為の手段を用意するのは、保護者(母上)の責任の内と言えるだろう。


 問題は彼女達の鎧の材料だ。


 俺の目が曇っていなければ、武光が身に着けた鎧と材質が同じに見えるのだが……。


「と言う訳で、ご注文頂いておりました鎧三領と刀一本、確かにお納め致しました。いやぁ……流石に子供用の鎧とは言えお預かりした素材で足りるかどうか……中々ギリギリの仕事に御座いましたよ」


 ……うん、間違い無く俺が用意した牙狼の毛皮が材料の様だ。


「えーっと、うん。まぁ良いや、んで支払いの額面は全部で幾らになる?」


 取り敢えずの所使う予定の無かった素材だし、無駄にされたとか、横流しされたと言うならば兎も角、家の子の為に使われたのならば文句を言う筋合いは無いだろう。


「いえ、御足はもう御母堂様より頂いて居ります故御安心下さいませ。どうやら不備は無いご様子ですし、私目はコレにて失礼させて頂きとう存じます。また御用命が有ればお呼び下さいませ」


 いや、まぁ……彼女達の面倒を母上に押し付けたのは俺なんだから、構わないと言えば構わないのだが……せめて話は通して於いて欲しい、とそう思いながら俺は財布を懐に仕舞い直すのだった。




「よし、忘れ物は無いか? 武器と防具は勿論、薬や手拭い、懐紙も忘れるなよ。あ! ほら武光、具足の紐が解けてるぞ!」


 装備が揃い、その他の準備も一通り終わったので、今日はとうとう武光の初陣で有る。


「紐は兎も角、他は大丈夫だ兄者。と言うかコレでもう三回目だぞ? そんなに心配せずとも問題有るまいて」


 初陣の付き添いが初めてと言う訳では無いにも関わらず、何故こうまで色々と心配が尽きないのか……。


 それは今日初陣を飾るのが、今の俺よりも幼い子供だからだろうか?


 りーちや歌の時には此処まで色々と気になる様な事は無かったのだが……。


 いや、きっと武光だけならば此処まで俺が不安を感じる事は無かった筈だ。


「ん、オラの方も大丈夫だでよ。しっかし(ちー)(ねぇ)様が拵えてくれた、この矢筒は本当(ほんっと)便利だなや、こったら小せぇんに五十(ごじっ)本も(へぇ)るんだらぁなぁ」


「拙者の頂いた此方の手裏剣入れも凄いですよね、この中に入れれば重さすら感じないと言うのですから……。問題が有るとすれば何枚投げたかを勘定しておかねば、いざと言う時に空っ穴なんて事に成りかねぬと言う事位でしょうか」


 ……一体何時の間にこの二人も纏めて初陣を済ませると言う話に成っていたのだろう?


 装備を整えた以上、何時かは行くのは当然の事では有るのだが、ソレが今日だと言う話は聞いていない。


 朝に成り、身体を温める程度に稽古を済ませ、極めて軽い朝食を取り、いざ出発と言う段に成って前庭に集まった見送りの面々、そっち側だと思っていた二人が何故か武装していたのだ。


 しかも頼んだ覚えすら無い、劣化入万巾着(にゅうまんきんちゃく)とでも言うべき矢筒と手裏剣ホルスター……コレを作るのに使った素材の値段を聞いたら多分卒倒できる奴じゃないか?


 入る量は智香子姉上愛用の巾着に比べればかなり少ない様だし、もしかしたら俺でも手が届く程度の素材で出来ている可能性もあり得るが、ソレにしたって売りに出せばトンでも無い値が付く事は恐らく間違いない。


「にゃぁ……(らむ)ちゃんの矢筒良いにゃぁ。断っつんに贈れば矢切れで怪我する心配もしなくて良く成りそうだにゃ」


(むっ)ちゃんの()い人に贈るってんなら、材料さえ集めてくれば何時でも作っちゃるの。もちっと多く入る奴でも必要な材料はそんなに難しいもんじゃ無ぇのよ」


 猪河家うちでは守られる側に数えられる睦姉上が集めれる素材だとすれば、目玉が飛び出る程の値段にはならないかも知れないが、錬玉術師自体が稀有なこの江戸の街ではその産物に高値が付けられても不思議は無い。


「余もその内作ってもらわねばな、弓も手裏剣も折角習ったのだ使わねば勿体無い。だが、そうなればやはり自身で材料を集めねばなるまいな……うむ、その為にも先ずは今日の初陣を無事に生き残らねば成らん、お(らん)、お忠、抜かるでないぞ」


 二人の装備を少しだけ羨ましそうに見つめ、それから意を決した様に門外へと向き直り、武光がそう宣言する。


「んだな」

「御意」


 と、二人はその背中を頼もしそうに見つめ、短い返事を返した。


「よし、じゃぁ行くか。先ずは他の三人と合流しないとな」


 そんな姿を見て、ソレまで感じていた心配が嘘の様に消え代わりに砂糖でも吐きたくなる様な物を感じながら、そう出発を促す言葉を吐くのだった。


 ……リア充爆発しろ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ