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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
修練そして日常 の巻

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四十一 志七郎、英傑を知る事

「父が江戸へと来るまでは志七郎様へのご指導は拙者が努めまする、殿の護衛は義二郎様にお任せ申す」


 そんな言葉と共に鈴木は弾かれた様に立ち上がると、執務場の入り口で様子を見ていた俺を拐うように抱き上げその場を後にした。


「焦らずじっくり修練するんじゃなかったのか? 鈴木、何をそんなに慌てているんだ?」


 文字通り飛ぶような勢いで稽古場へと運ばれた俺は、年上だけれども父上の家臣だという事で敬語はマズイらしく、かと言ってタメ口を叩くのもマズイという事で、言葉使いに注意しながらそう問いかけた。


「常人の足であれば猪山から江戸まではおおよそ十日の道程、我が父であればその半分でやって来ます。時間が有りません、早急に鍛えねば志七郎様が死にます」


「いやなぜ生死の話に?」


 死という言葉が出たことに少々の驚きを感じながらそう聞くと、鈴木は焦燥に満ちた表情で改めて口を開いた。


「うちの親父は、手加減と言うものを知らないのです。獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす、と言う言い伝えがありますがそれを実行するのは親父位なものです!」


 兄上の五歳初陣と言うのも我が子では無いから手加減した結果であり、鈴木の初陣は三歳の事で有ったという、それもまともな装備も無く山奥の谷から投げ落とされたと言うのだから冗談ごとではない。


「あの時は……、たまたま通りかかった鬼斬り者が霊薬を持っていなければ、拙者は此処に居りません。その他にも……」


 矢継ぎ早に出てくる、出てくる、父親への愚痴……、中には普通であれば死ぬだろうという事が度々有るので、鈴木が此処に生きている事自体が奇跡にすら思える。


「拙者だけが迷惑を被ったのであれば身内故の事とまだ我慢も出来ます……」


 ですが、と悲壮感に満ちた苦々しい表情で言葉を濁す。


 それに対して小さく頷き続きを促すと、


「拙者も役目を譲られ江戸へと出てきてから知ったのですが、あれは他藩では歩く理不尽扱いです。流石に講談に出てくる悪代官の様に町人にどうこうと言うのは無かった様ですが、猪山の鈴木と名乗った時点で刀を抜かれかけたのは一度や二度ではありません……」


 と言う言葉が返って来た。


「他藩と揉めたりして、父上は何も言わないのですか? 場合によっては幕府が出て来てどうこうと言う事もあるのでは?」


 多少の揉め事ならば、侍同士の果たし合いという事で問題にもならないだろうが、名を名乗っただけでそこまでの反応をされるとなれば、多少の事ではないだろう。


 だが俺の問いかけに、鈴木は大きくため息を突き、


「結果良ければ全て良し……がまかり通っているのですよ。我が藩もそして幕府も」


 よくよく聞けば、藩士の日々の行動は重要な事以外には報告義務は無く、相手が武士以外の身分であれば兎も角、武士ならば揉め事を起こしても勝敗を報告するだけで良いらしい。


 例え負けた側が、幕府に訴え出ても『武士の身分は武勇に拠る物』であり『いざという時その武勇を以て幕府に貢献する事で贖われる』と言う名分があるため『敗者は武士に相応しい武勇が無かった武士の恥』として逆に責を受けるだけだという。


 かと言って、力こそ正義の無法状態かと言えばそう言う訳でも無く、身内が討たれたのであれば『仇討ち』の許可を幕府に届け出る事で、相手に文字通りの真剣勝負を挑むことも出来るそうだ。


 前世まえの世界では『仇討ち』が認められるのは『父母兄等尊属』が殺された時、に限られて居たと記憶しているので、それに比べればより広い範囲に認められている様だ。


「つまり鈴木一郎は、余所の藩士との真剣勝負で無敗と言う事ですか……」


「それならば、まだマシでして……あのクソ親父は幕府にも喧嘩を売ってるんですよ」


「幕府に喧嘩って……うち取り潰されるじゃないですか!? なんで、うち存続してるんですか!?」


 耳を疑った、幕府と揉めたりすればそれがどんな理由であろうとも謀反として扱われ、御家取り潰しは避けられない事態のはずだ。


 事の発端は、大大名風間(かざま)藩主郷田家の姫君に幕府から縁談話が持ち込まれたことだという。


 郷田の姫はその以前から投げ文等で一郎と思いを通じて居たのだが片や大大名の姫、それに対してもう片方は幾ら勇名響き渡ると言っても小藩の陪臣、決して結ばれる事の無い清い想い合うだけの交際……そのはずだった。


 だが有ろうことか一郎は見合いの席に乱入し、その姫を力尽くで奪い去ったと言うのだ。


 当然、それを阻もうとする両家の家臣達だったが、一郎は誰一人として殺める事無く拳一つで打ち倒したという。


 そのままにしておけば、両家そして仲介をした幕府の面子は地に落ちる。


 かと言って、たった一人を相手に数十人が敗北しそれを理由に主家を取り潰しとするのも、それはそれで両家の面子が立たない。


 そこで機転を効かせたのは俺の祖父、先代猪山藩主『猪河為五郎』だった、当時火元国(ひのもとのくに)を騒がせていた十の大鬼、大妖を一郎に討伐させ、それに成功すれば今回の一件を不問にする、と言う提案をしたのだ。


 何十、何百と言う鬼斬り者がそれら大鬼、大妖の前に命を落としていた事もあり、1年と言う期限付きとはいえ幕府はそれを承諾、両家もそれらのテリトリーに自領が含まれていたとあって渋々承諾したという。


 世間はその沙汰を、両家そして幕府もが一郎の武勇に恐れを無し、遠回しな死刑に処したと笑いものにしたのだが、結果一年待たずに掌を返す事となる。


 誰にも倒せないと言われ恐れられていた十の大鬼、大妖を一郎は誰の手を借りること無く全てを討ち倒したのだ。


 結果、この一件は祖父が己の監督不行き届きを恥、自ら隠居するという態度を示したこともあり『一郎ならばしょうがない』と言う言葉と共に不問とされ、幕府は悩みの種であった大鬼、大妖が居なくなり、郷田家は当代一の英傑と縁付く事が出来た、と結果オーライを決め込こんだ。


 当然、泥を被った形になるもう一つの家は怒り狂ったが、誰一人として命を落としたものは居らず仇討ちを申し出る事も出来ず、幕府の決定に異を唱える訳にも行かず、かと言って藩同士の合戦を仕掛けようにも猪山藩(うち)の総力戦は下手な大藩を軽く越えるらしく無理。


 なればと、夜討ち朝駆け闇討ちと一郎を討つ為になりふり構わず仕掛けてきたが、それを全て返り討ちにしたという。


 何人が送り込まれ、何人を打ち倒したかは明確ではないが、その家は武士としての面子だけではなく実行力も大きく落とす事となり、減封も検討されたと言う。


 不幸中の幸いと言えるのは其の藩が米処酒処で、鬼切りに依る利益が藩の財政の中でも然程大きな割合を締めていない事から、何とか御家の現状維持だけは出来たらしい


 けれども嫡男に嫁を取り御家の存続をと考えていたのに、そのような落ち目の家に嫁ぐ娘も無く今や断絶一歩手前との事だ。


「それだけの事があれば、恨まれても仕方ないと思いますけれど……」


 はっきり言って言葉に詰まった、さすがは封建社会というべきか……、武力があれば無理を通して道理を引っ込ませる事が出来るらしい。


「武勇優れし雄藩の……と言う言葉の何割かは、確かにクソ親父の功績かも知れませんが、おふくろの一件が数ある武勇伝の一つに過ぎないというのですから、いくら何でもやり過ぎです」


 生真面目で道理を重んじるタイプに見える鈴木である、実の父親だからこそ破天荒どころではないその生き様に憤りを感じているのだろう、全身を震わせながら苦々しく吐き捨てるその様子は、大きな犯罪を目にした警察官のそれによく似ていた。


 しかし、そんな人物が江戸へと呼び寄せるという父上の判断は果たして是と言える物に成るのだろうか?

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― 新着の感想 ―
[一言] 「鈴木一郎」は超人を示す言霊なのかもしれないwww 鈴木・清吾・クローニン。頑張れ(ほろり
[良い点] 面白い話です。 第一話から目が離せず、ここまで読み込んできました。 [一言] この話を読んで戦慄した…清吾さん、よく生き残って育ったわぁ。 清吾の親父の鈴木一郎殿、名前は普通の名前だが、行…
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