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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
激闘!? 地下迷宮……その準備 の巻

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四百二十六 小僧連、先走り事故死の危機に汗する事

 真正面から突っ込んでくる鋭く尖った嘴の群れを捌き、躱し、往なし、叩き落とす。


 俺が手にする事が出来る範疇では圧倒的な防御力を誇る亀甲鎧は、そう簡単に貫かれはしないが無造作に受けて鎧の隙間に刺さる可能性は零では無い。


 人間の身体と言う物は、極論を言ってしまえば全身隈無く急所だと言える。


 たとえ身体の末端一部だとしても、傷を負い血が流れれば体力を奪われ、痛みは集中力を削ぎ、その後は攻防どちらにも影響が出るだろう。


『肉を切らせて骨を断つ』は武芸の真髄の様に語られる言葉では有るが、実際には肉を切られた時点で重症だ。


 切られて良いのは精々薄皮一枚までで、ソレ以上とも成れば適切な治療を施さねば、血を失い結果命を落とす事に成るのは間違いない。


 まぁ、肉は切られても縫う成り何なり治療の施しようも有るが、骨を切られてしまえば最早繋ぐ事はできないだろう……とそう言った意味合いの格言なのだろうが……。


 兎角、そんな訳で俺達は可能な限り手傷を負う事を避ける様にしているのだ。


 しかも相手は『刀』の名を冠する妖怪で有り、その攻撃力は決して馬鹿にした物では無い。


 兎鬼や剣鴨の様に『即死攻撃(首を刎ねる)』を持っている訳では無いが、防御を抜かれる(ファンブル)様な事が有れば、未だ幼い子供の体力では十分命を落とすだろう相手なのだ。


「歌、りーち、無事か?」


 俺は横目で並んで前衛を務めるぴんふの無事を確認しつつ、後ろから付いてきている二人に声を掛けた。


「この程度でどうこう成る様な軟な鍛え方はしてませんわ」


「ぜぇはぁ……な、何とか生きてる……」


 まぁ槍や刀に関しても十分な腕前を持つ歌は大丈夫だったのは思った通りだが、普段とは違う得物で戦う事を強いられているりーちは、この一当てだけでもかなり消耗している様だ。


 結局、新兵器『氣功銃』は今の段階では実用化に今一歩届いておらず、地下迷宮では飛び道具其の物が然程有用とは言えない為、りーちも歌も此処最近は刀と槍で鬼斬に邁進している。


 正直りーちの剣腕は、武士の子を名乗っても恥ずかしくないと言えるギリギリの線と言った所で、恐らく武光と立ち会えば十本中八本は取られる程度でしか無い。


 それでも一層に出現する『手羽先』や『豚足』『釣瓶落とし』程度の相手で有れば遅れを取る事は無いのだが、其処で調子に乗って二層へと降りてきたのが不味かった。


 階段を降りて然程もしない内に数えるのも馬鹿らしい程の群れが襲いかかって……いや、襲いかかって来たと言うのは間違いだ。


 奴らは積極的に人を襲う性質(タイプ)では無く、偶々通りかかった所に俺達が居たというだけで、一通りを凌げば後は通り過ぎて行くだけである。


「いやー、話には聞いてたが本当に出るんだなぁ……戦場じゃぁ『有り得ないと言う事こそ有り得ない』ってのはよく言う話だが、真逆本当に秋刀魚(さんま)の群れが出るとは……」


 二人の無事を確認し、ぴんふがそう言いながら額の汗を袖で拭う。


 その汗は運動したでの発汗や、焦りが呼んだ冷や汗などでは無く、魚が宙を泳ぐと言う超常現象に対する驚きに依る物の様だ。


 そう今俺達が相手にしたのは、無数の秋刀魚の群れだった。


「うん……聞いてた通り、一度叩き落とすともう泳げないみたいですね。数は少ないですがとりあえず落とした分は拾って行きましょう。目黒秋刀魚でも普通の秋刀魚よりはこの時期なら十分美味しいですしね」


 例の如く江戸州鬼録に拠れば、この秋刀魚正式には『霊刀れいとう秋刀魚』と言う妖怪で、その成長過程や雄雌の違いで『目黒秋刀魚』『娼腹秋刀魚』『赤糸あかし秋刀魚』など等複数に呼び分けられる一種の出世魚で有る。


 その中でも最下級とされている目黒秋刀魚は、旬の時期ならば普通の秋刀魚にも劣る下魚で市場価格は決して高い物ではない。


 それでも秋の間だけが旬なのでは無く、年から年中それなりに美味しい目黒秋刀魚は庶民の味として、相応に需要が有るのも間違いないのだ。


「まぁ妖触(ようしょく)(まぐろ)()旗魚(かじき)じゃ無くて良かったって所じゃねぇか? 流石にそっちが群れで来たら俺達でも危ねぇしなぁ」


 その名の通り鮪や旗魚の妖怪で有るソレらは最下級でも八十貫(約300kg)、多くの場合百貫(約375kg)を越える巨体で有りながら、秋刀魚同様に群れをなして迷宮を泳ぎ回るらしい。


 鮪の方は秋刀魚と違って嘴が鋭く無いが、その重量は侮る事の出来ない武器で有り、新宿地下迷宮二層で鬼切り者が命を落とすのは、多くの場合鮪に依る轢逃げが原因だと言われている。


 旗魚に至っては鮪同様の巨体に加え、鋭く尖った吻と呼ばれる部位が有り、鮪と秋刀魚双方の危険性を併せ持つ二層最凶の妖怪なのだそうだ。


 どれと遭遇したにせよ、二層に出る魚達は即座に方向転換する事は出来ず、一度叩き落とせば再び泳ぎ出す事は無いとの事なので、不意を突かれさえしなければ何とでも成る相手では有る……ただし、単体ならば。


「うん、まだ一寸二層に降りるのは時期尚早だったな。秋刀魚でこれじゃぁ鮪が来たらまず間違い無く死人が出る。桂殿が二層に降りるなって口を酸っぱくして言っていた理由が解ったよ」


 数の暴力というのは、誰に取っても恐ろしい物だ。


 とある書に拠れば、どんなに優れた大英雄でも百回に一回は、格下からの攻撃でも致命的な一撃(クリティカルヒット)と成る事が有ると言う。


 同じ書では防御や回避をしくじ(ファンブル)って無防備を晒す可能性も百回に一回程度で有るとされており、百×百=一万回に一回はソレが重なり合うと言う不運が訪れるとされていた。


 そうなってしまえば、生き残れるかどうかは本人の体力次第と言うことに成り、如何に武芸の修行を積んでいたとしても事故死の可能性は常に存在しているのだ。


「一層と二層じゃぁ難易度が段違いだってのは聞いてたが、本当に洒落に成らんな。真逆降りて早々百を軽く越える群れに出会すたぁなぁ……」


 叩き落とした秋刀魚を拾い上げながら、ぴんふがそうぼやく。


 と、言うか全員で叩き落とした分だけでも百は超えている、群れ全体と言う事に成れば下手をすれば数千は居たのではないだろうか?


 恐らく同じ規模の群れともう一度接敵(エンカウント)すれば、今度こそ事故らないとも限らない。


 いや、先程上げた確率の話を信じるならば、事故が起きない方が可怪しい。


『大丈夫はもう危ない』誰が言った言葉かは知らないがこれは真理だろう。


「うん……まだ無事な内に一層に上がろう。てか上でりーちを前に出して豚足やら手羽先やらを相手にもう一寸経験を積ませよう。銃を使ってたとしてもあの群れが相手じゃぁ弾が幾ら有っても足りないからな」



 りーちが普段使っている狙撃銃で有れば、目黒秋刀魚を相手に一発一殺と言う訳では無く、貫通する事で纏めて何匹かを落とす事は出来るだろうが、鮪ほどの巨体ならば兎も角、小さな目黒秋刀魚相手に貫通する程の威力で攻撃すれば売り物所か食べる事すら難しい。


 完全に過剰火力(オーバーキル)な上に、弾薬たまに限りが有る以上、銃器事体が霊刀秋刀魚の群れを相手にするのには向かない武器と言えるだろう。


 上位種の赤糸秋刀魚辺りならば原型を残すかも知れないが、群れの規模は然程変わらないらしいので、やはり地力を底上げしなければ此処から下へと行くのは難しい。


「まぁ仕方ないですね……幾ら手前が武で身を立てる積りは無いにせよ、流石に初陣の子に遅れを取ると言うのは恥ずかしいですから」


 ため息を付きながらがそう言うりーちを先頭に一層への階段を登り始めたその時だった。


 恐らくは先程俺たちが遭遇した目黒秋刀魚を喰らうつもりなのだろう妖触鮪の群れが、俺達の後ろを音を立てて突っ切って行ったのだ。


「……あと少し戻る判断を遅らせていれば、まず間違い無く事故ってたな」


「うん……私達が二層に降りるのは早すぎましたね」


「先人の忠告は聞いておくべきですね」


 ……桂殿は銃声が致命的な結果には成らないと見越して忠告せず、二層に降りるのは命に関わると判断したのかも知れない。


「流石は義二郎兄上の親友、色々と食えない人だな……」


 背筋を伝う冷たい汗を感じながら、俺はそう呟くのだった。

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