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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
契と諍いと盃と の巻

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四百八 志七郎、稽古を付け油断に足取られる事

「隙有り!」


 未だ声変わりには程遠い幼いながらも鋭い気合の声と共に繰り出される小手打ち……と見せかけた脛薙ぎ。


「無ぇよ! そんな(もん)!」


 言い返しながら飛び上がりソレを躱せば、即座に木刀が跳ね上がり空中に有る俺を狙い打つが、無論そんな見え透いた一撃を簡単に食らう様な事は無い。


 木刀が届くよりも早く飛び回し蹴りを繰り出し、同時に下から狙い打つ木刀を逆の足で横から蹴り飛ばす。


「……ま、参りました」


 降参の言葉を口にするのを待って、


「氣の練りと運用が未だ未だだな。まぁ初陣も済ませていないのに、其処まで出来るなら十分使い手の範疇なのかも知れないけれど」


 顔の横にぴたりと寸止めした足をゆっくりと引き戻しながら、そう言葉を掛けた。


 武士の子であれば何時かは氣を扱う事が出来る様に成るのが当然の範疇とされては居るが、練武館に通い初めた年頃ならば未だ其処に至らぬ者は決して少なくは無い。


 俺の時の様に切羽詰まった状況に態々陥らせて、無理矢理にでも目覚めさせる様な事をする方が稀で、大半は稽古修練を詰む内に心身が鍛えられ、その結果として氣の発露が有るのが普通なのだ。


 それを踏まえれば、たった今朝稽古の一環として胸を貸してやった武光(たけみつ)少年は、未だ初陣も済ませていない年頃にも関わらず拙いながらも氣を纏い木刀を振るって居たのだから、余程真剣に稽古を積み重ねてきたのだろう事は容易に想像が付いた。


「余と一つしか違わぬと言うのに全く敵わぬ……流石は兄者というべきか、それとも実戦経験と言うのが其程に重い物なのか……」


 初対面の時の尊大な物言いから、打ち解けるのにもう一寸梃子摺るかと思っていたのだが、流石は武士の総領の血を引く者と言う事か、実力差を悟ると比較的あっさりと俺を兄者と呼んで取り敢えずの所は従う様子を見せてくれている。


 武士の持つ権力や財力の大半は『武』に依って立つ物で有る以上、直接敵対しているとしても強い者に対して敬意を払うのは当然の事なのだが、彼の偉そうな口振りを聞けばもっと反発を受ける物だと思っていたのだが……まぁ嬉しい誤算とでも言えるだろうか。


「初陣や実戦経験に付いては後から御祖父様に相談だな、氣の運用に付いても御祖父様に習うのが近道だろう。何せ江戸で……いや火元国全てを見回しても御祖父様以上の氣の使い手は片手の指程も居ないと言う話だしな」


 こうして手合わせをした印象だけでも『小鬼の森』を含めた下位の戦場(いくさば)でなら、危うい事も無く鬼斬を務める事は出来るだろうと思う。


 だが彼の実家とでも言うべき有馬家が罰せられた理由を知れば、どうしても尻込みをせざるを得なかった。


 有馬の家は以前は旗本家では無く弓削山ゆげやま藩十五万石を収める大大名だったのだが、彼の父『禿河 定光(さだみつ)』が戦場で命を落とした事でその責を問われ、改易処分を受けた上に未だ閉門とされているのだ。


 しかもその生命を奪ったのは一撃死の危険は有る物の比較的弱い、江戸州の鬼や妖怪の中では『雑魚』に分類される兎鬼だったそうで、仮にも将軍候補最有力と見做された者が、雑魚に討ち取られたと言うのは事故だとしても醜聞とされるには十分過ぎた。


 俺の初陣の時の様に『子鬼の森』へと行ったのに『大鬼』と遭遇したりすれば、万が一が絶対に起こらないとは限らない。


 もしもそうなれば猪河家(うち)だって改易は免れないだろう。


 と成れば、可能な限り『石橋を叩いて渡る』どころか『石橋を叩いて壊す』位の準備を整えても(ばち)は当たらない筈だ。


「ううむ……この身に流れる将軍の血が誇らしいのは間違い無いが、無理無茶無謀が出来ないと言うのもまたもどかしい。聞いた話ではノリと勢いと飯の旨さが弓削山の専売特許だったらしいのだがなぁ……」


 可能ならば直ぐにでも戦場へと向かいたいのだろうが、自身の身の上を十分に理解している様で、俺の台詞にもただため息混じりにそう返すのだった。




 火薬の爆ぜる乾いた音が辺りに響き渡る。


 氣で強化された瞳は銃弾の行末を見失う事は無く、ソレが天高くを舞う稲光を纏う巨大な猛禽の頭を射抜いたのを目の当たりにした。


 普通の生き物ならば、頭部を撃ち抜かれればそれで命を落とす物だが、相手は江戸州でも上から数えた方が早い様な大妖怪で有る、その一撃だけで決着がつくことは無い。


 何せ翼を除く胴体の幅だけでも五尺(約1.5m)は有ると言う、とても空を飛ぶとは思えぬ化物だ、その体格に見合うだけの異様な生命力を持っていて当然である。


 しかしりーちの正確な射撃で頭蓋を揺らされて何の痛痒(ダメージ)も感じないと言う事も無く、地面に向かってゆっくりと落ちていく。


「よし! 七、止めを刺しに行くぞ! 歌はりーちの護衛を頼む!」


 小僧連の中で最年長と言う事も有ってか、俺が居ない間に指揮を取る事が多かったらしいぴんふが、自信の籠もった声でそう指示を出す。


 今日の戦場は『らいてう山』と言う場所で、りーちが撃ち落としたのはその地名の由来とも成った妖怪『雷鳥』である。


 成長すれば牛をも丸呑みする程の巨大さに成ると言うこの妖怪だが、江戸から然程離れていないこの戦場では其処まで成長する前に狩られる為そこまでの個体は居ない。


 それでも一羽撃破するだけでも四煌戌達の食い扶持だけで無く、売り払えば十分以上の財貨を得る事が出来るだけの素材が手に入る比較的美味しい獲物だ。


 とは言え、りーちが使う従来型の狙撃銃(ライフル)で相手が出来るのはこの辺がギリギリの所らしく、これ以上の格の獲物と成ると例え頭部狙撃(ヘッドショット)を決めたとしても、通用しない可能性が高く成るらしい。


 と成れば、当然それ以下の威力しか無い俺の拳銃では牽制にも成らない訳で、ぴんふの指示通り刀を抜いて近接戦闘を仕掛けるのが正解だろう。


「了解!」


 俺は小さくそう返事を返し、足に氣を集めて大地を蹴る。


 地を這う様に駆け出したぴんふが得物を掬い上げる様にして落ちてきた雷鳥に鍬をめり込ませるのと合わせ、上から刀を振り下ろす。


 この一合撃(ごう)で仕留めれられる様な温い相手では無いが、空を行く鳥が地に落とされればそれで勝負は付いた様な物だ。


「やっぱりこの面子だと安定しますね。前に出る事を厭うつもりは有りませんけれど、やっぱり私では七ほどの余裕は有りませんから」


 そのまま危なげ無く雷鳥を仕留める算段が付いたと言い切って良い、そう判断したらしい歌のそんな台詞が聞こえてきた。


「うん、手前は完全に後衛だし、歌も何方かと言えば後衛寄りの中衛ですからねぇ。やっぱり前衛は二枚有った方が安心ですね」


 りーちの言葉通り、俺達を前中後で分けるならぴんふが前、俺と歌が中、りーちが後と言う事に成る。


 そして中衛の二人は、敢えて分類すれば俺が前衛寄り、歌が後衛寄りだと言えるだろう。


 歌の初陣から組んだこの徒党は偶然かそれとも桂殿の思惑に依ってか、極めて平衡が取れた面子で有る。


 ……此処にもう一人、前衛を加えると果たしてどう作用するだろう?


 前衛と言うのは後衛に攻撃を回さない為の壁の役割を持つ事も多く一番危険な役回りだ。


 万が一の事故も許されない様な者を其処に配置するのは少々戸惑われる。


 かと言って、新人に合わせて戦場の格を落とすと成れば、戦力強化の意味合いは消え、ただ足手纏を加入させたと言う事にも成りかねない。


 やはり一番良いのは、小僧連とは別に彼が実戦経験を積み格上げ出来る様、取り計らうべきだろう。


「七! 危ねぇ! ボケっとすんな!」


 と、そんな台詞に慌てて刀を立てる事が出来たのは、幸運だったとしか言いようが無い。


 雷鳥の最後の悪あがきとも言える大暴れに巻き込まれ、俺はその身を宙に躍らせる事に成ったのだから。


 ……うん、戦いの最中に考え事をするべきではなかったな。

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