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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
契と諍いと盃と の巻

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四百七 志七郎、罰を知り躾けを思う事

 御祖父様に連れられてやって来たのは、江戸城東門を入って直ぐの場所に広がっている御家人屋敷が集まる一角だった。


 御家人と言うのは、直臣で有りながら上様に直接お目通りを許されていない、下級武士の総称だ。


 この辺りはその中でも比較的高い俸禄を貰っている家が集まっている場所で、先日練武館で知り合った『よいかね 丸臣まるおみ』殿の家の様な無役無勤の最下級と言う訳では無い。


 残念ながら目的の屋敷を訪ねた事は無いので、どんな役職を持つ誰が住んでいるのかまでは知らないが、それでも門に掲げられた表札を見れば何家の屋敷なのかは一目で解る。


 むしろ問題なのは……


「有馬家ですか? しかしもう日も高いと言うのに門扉が閉まったままと言うのは……何か訳有りでしょうか?」


 武士の屋敷は余程家格が低く無い限り、垣根や塀そして門で敷地と道を隔てているのだが、その門扉が閉じられる事は少ない。


 夜間や有事には当然閉めるのが普通に思えるが、例えそう言う場合でも武勇に依って立つ武士としては、門扉を閉めるのでは無く力量の有る門番をその場に立たせる方が見栄えもすれば聞こえも良い、とされているのだ。


 とは言え、ソレは飽く迄『見栄』の類で有り、そうした役目に人を置くだけでも相応の経費コストが掛かる。


 それ故に猪山屋敷(うち)では基本的に夜間は門を閉める事に成っているが、ソレが許されると言うか、体面に関わる様な問題に成らないのは、猪山藩(うち)が一万石少々の小藩にも関わらず、大藩に割り当てられる様な大きな屋敷を拝領しているからだ。


 正直な話、猪山屋敷を十全に警備する程の人員とも成ると、家臣の武士を総動員しても未だ足りず、中間の者達を更に増員しなければ成り立たない。


 子供の小遣いすらも自力で稼ぐのが当たり前の我が藩に、そんな財政的、人員的余裕は無い事等それこそ子供でも知っている事なので、夜に門番を置かず門を閉めた所で今更の話なのだ。


 だがそんな我が家でも、昼間に門扉を閉じたままにする様な事は無い。


 誰が訪ねて来るかも解らない様な真っ昼間に態々開門を叫ばせるのは、ソレこそご近所に聞こえる様な恥なのだ。


 実際こうして俺達が訪ねて来ているにも関わらず、その門扉は確りと閉じられているだ。


 しかも大名屋敷街と違い、江戸城郭内は屋敷の密集度も高い為、御祖父様が呼び掛けの声を上げればこの屋敷の主が恥をかく事は免れない。


「……此処は故有って『閉門』を言い渡されておる。本来ならば儂等が尋ねる事も禁じられておるのだが、今日は上様からの指図も有って特別じゃて」


『閉門』と言うのは武士に科される刑罰としては比較的軽い物で、門扉、窓を閉ざし昼夜問わず住人の出入を禁じると言う、一種の自宅軟禁で有る。


 けれどもこの罰を命じられて、ソレを律儀に守り続ける武士はそうは居ない。


 大概の場合、何時終わるかも解らぬ罰を受け、恥を晒し続けるよりは自裁……即ち切腹を選ぶ。


 当主が潔く腹を切れば、閉門で済む程度の罪成らば贖われたとされるからだ。


 にも関わらず、こうして門を閉ざしご近所様に恥を晒し続けていると言う事は、上様から直々に腹を切る事を禁じられたのか、それとも自裁した上で尚閉門を科される様な大罪を犯したのか……。


 御祖父様が詳細を口にしない以上、今の段階で俺が知るべき事では無いのだろうが、ソレはソレで今度は何故俺がそんな罰を受けている家へと連れて来られたのか答えが出ずに不安ばかりが募る事に成る。


 真逆とは思うが、罰を受け弱い立場に有る事に付け込んで、一方的に有利な縁談にでもしようと言う事だろうか?


 上様の指図が有ると言うのだから、成立した事を切掛に俺がこの家を乗っ取り、それから罰を解く……と言うのも決して無理な話では無い。


 何せ御祖父様は『殊悪意に於いて為五郎に敵う者無し』と世間に言わしめる陰謀家だ……その程度の策謀は笑顔でさらっと遣りかねない。


「なんつー(ツラ)をしとるんじゃ。如何な『悪事百段』の『悪五郎』とまで言われた儂とて、やって良い事と悪い事の区別位付いておるわ。そしてお主がその手の悪行を苦にせぬ性質(タチ)じゃぁ()ぇ事もな」


 流石に最悪中の最悪を想像していた事も有って、取り繕う事をしなかった表情かおを見て、御祖父様は苦笑いを浮かべそう言いながら俺の髪をかき混ぜ、


「今回の事ぁ儂が裏でコソコソやってる様なこっちゃぁ無ぇ。ま、心配せずに着いて来やがれ」


 それから門の端に設けられた潜戸を叩いたのだった。





「良くぞ来た! 余が七代目将軍『禿河とくがわ 光輝みつてる』が孫、『禿河 武光(たけみつ)』で有る! お主が猪山の鬼斬童子じゃな、苦しゅうない楽にせい」


 コソコソと人目を憚る様に小さく開けられた潜戸を抜けると不意にそんな台詞が投げかけられた。


 如何に子供とは言え上様の血筋を詐称すれば、先ず間違い無く関係者の首が飛ぶ。


 ソレを考えれば、目の前で偉そうにふんぞり返っている俺と同年代の子供は、言葉の通り上様の孫なのだろう。


 先日聞いた話の通りならば、上様の血を引く子供は少なく無いのだろうし、その子の一人がこの家に嫁なり婿なりに入ったと考えれば然程不思議な事でも無い。


 そして同時に何故俺が連れて来られたのかも理解出来た。


 将軍家の血筋の者はある程度の年齢に成ると母親から引き離されて他家に預けられ、主君家臣両方の立場を学ぶと言うのは以前聞いた事が有る。


 当代将軍で有る上様も若い頃には猪河家(うち)に預けられ、御祖父様と兄弟同然に育ったのだ。


 つまりは彼が預けられる先が我が家で、俺が御祖父様、彼が上様と言う役回りを再び期待されているのだろう。


 ……まぁ小生意気な後輩や新人を躾けるのは始めてと言う訳でも無いし、御祖父様達程に盤石な結果(・・・・・)を求められると少々困るが、一人前の男に成る手助け程度ならば出来る筈だ。


「態々お迎えに来て頂いて誠に申し訳御座いません、本来で有れば此方から赴くのが筋目で御座いますが、何分当家は未だ閉門を解かれて居りませぬ故……」


 そんな俺の考えを他所に、小生意気な気性を隠そうともせずふんぞり返る少年の後頭部を引っ叩きながら、恐らく此処の当主と思しき三十代半ばの苦労が顔に刻まれた侍が御祖父様に米搗き飛蝗の様に頭を下げる。


「解っとる、解っとる……お主も本に苦労が耐えぬのぅ。おぅ、志七郎、此奴が此処の当主でこの小僧の伯父に当る有馬(ありま) 雄泉ゆうぜんじゃ。この小僧がお主の義兄弟と成る以上、お前にとっても伯父同然の間柄に成る、挨拶せぃ」


 義兄弟だ……伯父貴だ……と、武士の人間関係と言うのは、俺に取って馴染みの薄い物では無いので、理解出来ない話では無い。


「猪山藩主猪河 四十郎が、七子猪河志七郎に御座る。これより御方を伯父上と呼ばせて頂く事と相成りました、宜しくお願い致します」


 もっとも、俺自身がどうこうと言う話では無く、前世まえに取り締まる相手だった特定組織(ヤクザ)の世界の話だし、『お控えなすって』なんて仁義を切る様な真似はしないが……。


「ご覧の通り、当家は罪を犯し碌に出歩く事も許されぬ立場。如何程御方のお役に立つ事が出来るかも解りませぬが、此方こそ宜しくお願い申し上げます」


 礼には礼をと言う事だろう、俺が頭を下げたのと同じか、ソレ以上に深々と頭を下げそう言葉を返す。


 ……と此処で終われば綺麗に話が済んだのだが


「ちょ! 伯父貴! 余が話ておったのに勝手に割り込まんでくれ! 此処で上下確りとして置かねば今後やり辛くて敵わぬわ!」


 等と寝言を抜かす小僧の所為で色々と台無しで有る。


「おう、志七郎。解ってんだろう?」


 そんな武光の様子に御祖父様はそう言って顎をしゃくる。


「……暴力でどうこうと言うのは好きじゃ無いんですけどね」


 それでも上下関係を躾けるには、力を示す必要が有るのは間違い無い。


 実際に手を出さずに、理解してくれると良いのだけれども……、そんな事を思いながら俺は威圧感を込めて全身に巡る氣を大きく膨れ上がらせるのだった。

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