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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
死そして生誕 の巻

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二 志七郎、三歳となりて言祝ぎを賜る事

 春先に父親が江戸へと帰ってきて、夏が過ぎ秋になり冬が来た。


 この頃には起きている時間の内大半を意識を持って過ごせるようになり、食事も柔らかな離乳食ではなく、他の家族や家臣たちが食べているもの同様に一人前の膳を与えられるようになっていた。


「ほれ、志七郎。あーん」


「あー」


「美味いか?」


「うまー」


 さすがにまだ、箸や匙を使い自分で食べるという段階ではないが、父親がいるときには父親が、居なければ母親が食べさせてくれる。


 父親はどうやら親ばかと言う奴らしく、大勢の家臣たちの前だというのに俺の反応に逐一でれでれと相好を崩していた。


「殿……、大名としての威厳に関わります。志七郎様のお食事は女中なりにお任せください」


「良いではないか、末の息子は殊の外可愛いのだ。せっかく手ずから食べさせることができる年回りの頃に、わしが江戸に居るのだ。楽しませい」


 どうも、男親が子供に手ずから食事をさせるというのは、褒められたことではないらしく、食事の度に父親より年かさの江戸家老に諌められては、そう言い返していた。


「せめて、そのだらしなく緩んだ顔を引き締めてください」


「まったく、爺はこうるさいのう」


笹葉ささば様はお前様のことを考えて申してくれているのですから、そう邪険にしては失礼ですよ」


「わかった、わかった。妻と爺二人がかりでは敵わんわい。のう、志七郎」


「わんわー?」


 この爺と呼ばれた江戸家老--笹葉というらしい--は老齢ながらも未だ引退せず、この屋敷のご意見番として、父からも他の家臣たちからも口煩方として煙たがられつつも慕われている。


 ……このやりとりはほとんど毎日のように繰り返されていたりする。


 ちなみに今夜の献立は、『大根入りの炊き込みご飯』『あさりの味噌汁』『ほうれん草となめ茸の和物』『エビのチリソース』『肉じゃが(牛肉入り)』の5品だ。


 うん、色々と突っ込みたい。


 前半2品はいいとして、後ろ3つは江戸時代にあるべき食べ物じゃない。


 和物に使われているキノコは『なめこ』ではなく、えのき茸なのだが味や食感は明らかに瓶詰めでよく売られているアレだ。


 エビチリは完全にトマトケチャップの味がしたし、和食ではなく中華料理だったはずだ。


 肉じゃがも和食ではあるものの、玉ねぎにじゃがいも、牛肉とこの時代には食べられていない物がふんだんに使われている。


 もちろん今夜が特別というわけでなく、生まれ変わる前とあまり変わらない、いや全般的に食材や出汁の味がしっかりしており、赤ん坊の敏感な舌と相まって今のほうがよほど良い食生活を送れているように思う。


 まぁ、ネコミミの女中さんが居る上に毎日の食事がこれだから、俺の知る江戸時代とは完全に別物であることは理解できた。


「さて皆も知っての通り、明日は志七郎が初祝(しょしゅく)の儀を迎える」


 皆が食事を終え食後の茶を啜る頃、父親がそう声を掛けた。


 初祝の義というのが何かはわからないが、俺に関する祝い事なり儀式なりの何かなのだろう。


「七子四男では交友のある近隣諸藩からは祝いの品も使者も無いであろうが、社詣(やしろもうで)もその後の宴席も手抜かりなくやらねば、当主が江戸にいるのに客が無ければ見栄も張れぬ、と陰口を叩かれよう」


 そこまで言った後、一瞬グッと溜めを作り再び口を開く。


「これは藩の威信に関わる問題なのだ。仁一郎や義二郎の時にはわしが居らずとも過不足無く終えたと聞いておる。明日はそれと同等の差配を期待する」


「「「ははぁー」」」




 翌日は朝から屋敷中が喧騒に包まれていた。


 朝食もいつもの様に皆が広間に集まり食べるのではなく、無数に積み上げられた握り飯やいなり寿司などを、思いおもいに摘んでいる姿が至る所で見受けられた。


 もっともその多くが鎧兜を身に付け戦支度と言った風体で、合間合間に手が空いた隙に手早く食事を済ませている、と言った風情だ。


 どうやら兄姉達にも何らかの役目が振られているらしく、俺以外に広間で悠長に食事を取るものは居ない。


 まぁ、まだ一人で食事を取ることの出来ない俺を世話するために、女中のおタマさんは一緒にいるが。


 今朝の献立は、『白飯』『お揚げの味噌汁』『焼鮭』『海苔の佃煮』『マグロのマヨネーズ和え』だ……もう突っ込まない。


「おタマちゃん、しーちゃんのお食事は終わったかしら?」


「はい、奥方様。今日もたくさん召し上がりましたよ」


 用意された膳を平らげたそのタイミングで、母親が広間へと入ってきた。


 祝い事だからだろうか、平時ほとんど化粧すらしていない母親が、今日は綺麗に白粉を塗り紅を差している。


 服装もかなり気合いが入っており派手な柄の入った黒留袖と金箔を散らした帯を締め、その他の装身具もかなりお高そうに見える。


 ……せっかく仕立てのよさ気な着物なのに、イノシシ柄と言うのはどういう趣味だろうか。


 常とは違う装いなのは俺自身もである、いつもは膝丈ほどの簡単な着物なのに今日は紋付き袴を着せられた。


 母親に抱き上げられ、玄関から前庭へと出るとそこには春先同様に家臣たちが整列しその先陣には裃姿で騎乗した父親がいた。


 先程まで見かけた戦装束のものは一人もおらず、父同様裃に大小二刀を腰に挿した者達ばかりだ。


「おぉお清、化けたのぅ。十は若くみえるぞ」


 お清と言うのは母親の事なのだが、普段化粧ッ気の無い妻をからかうように父親はそう言った。


「化粧は好きじゃないんですけどねぇ。祝い事ですし、お家の威信にも関わることですからしょうがありません」


 俺を抱いたまま、気にした素振りもなくそう返す母親に、父親は苦笑しつつ家臣たちを見回した。


「良し、準備は出来たようだな。皆の者出陣である」


 その宣言を合図に門の閂が外された。




 生まれて初めて敷地から出たが、どうもここは大名屋敷が纏まっている地域らしく、どっちを向いても壁と門しか見当たらない。


 せっかく外に出たのに、見るものが無くつまらない。そう思っていたのも束の間のことだった。


 どうやら今日の祝い事というのはうちだけではないようで、同じような行列が二つ三つと合流してくる。


 とくに序列が有るような物でも無いらしく、父親の乗る馬の横にはいつの間にやら他の馬が並んで歩いており、馬上で談笑していた。


 こういう社交を兼ねた集まりになるならば、女性のほうが集まるものなのでは? と思ったがどこの家中も女性は子供を抱いている一人だけで、お互い近づく素振りもなく、粛々と歩み続けている。


 注意して見れば、それぞれの女性の周りには護衛の任を担っていると思われる侍が刀に手を掛け油断なく周りに注意を払いながら進んでいるようだ。


 ああ、そうか普通は嫡子を連れている以上、他藩の奥方とはいえ護衛以外の者に近づける訳にはいかないのか。


「ほーら、しーちゃん。あそこが万大社(よろずたいしゃ)よ」


 そう一人納得していると、いつの間にやら集団は屋敷町を抜け露店が立ち並ぶ向こうに巨大な朱塗りの鳥居が見えた。


 そのまま鳥居を潜り、どんどんと奥へと進む。


 奥へと続く道は途中何度も枝分かれしており、その枝道にもそれぞれ鳥居があった。


 どうやら、各家ごとに行くべき鳥居が違うようで、分岐を越える度に今度は徐々に集団が小さくなっていく。


 気がつけばいつの間にやら他家の集団は居なくなり、屋敷を出た時の人員だけになっていた。


「しーちゃん、着いたわよ。お前様、よろしくお願いします」


「うむ。志七郎ここからはわしとお前だけだ」


『猪河家 天蓬大明神』と書かれた鳥居の前で母親はそう言うと、馬を降りた父親に俺を渡した。


 家臣たちも、鳥居の前に綺麗に整列し、そこを越えるものは一人も居ない。


 父親に抱かれたまま、鳥居の奥へとどんどん進んでいく。


 するとそこには木々に囲まれた小さな社が有るだけで、御手水などの神社に有るべき他の施設は何一つ見当たらない。


 不思議な場所だった、多少なりとも風があり、木々の枝葉は揺れている。なのに、そこは物音一つせず、耳が痛いほどの静寂が辺りを包んでいた。


 古い、明らかに長い年月を経て、なお丁寧に拭き清められていると判るその社にたどり着くと、父親は懐から小判を取り出し賽銭箱へと投げ入れた。


 そして、社の扉を開けるとその中にある金属の鏡を指し示した。


「さぁ、志七郎。この鏡に触れるのだ」


 言われるまま手を伸ばす、と鏡の表面にどんどんと文字が映し出されていく。


 

 名前:猪河 志七郎 ししかわ ししちろう   

 父:猪河 四十郎 母:清子

 加護神:死神 /^o^\

 技能:剣術  六   抜刀術 四

    逮捕術 三   体術  四

    拳銃術 二   指揮  四

    読書  五   算術  四

    捜査  四   推理  二

    尋問  三

 

 おおう、ファンタジー。


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スキルが胸熱すぎるw
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