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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
帰りて諸々のお片付け の巻

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三百八十三 志七郎、部屋を得て将来の相談をする事

江戸猪山屋敷は、政務や食事に使われる大広間や来客を迎える表座敷の有る『本館』、女性陣や父上の私室が有る『奥向き』、江戸家老の笹葉一家が住む『家老屋敷』、兄上達やその他家臣達の『長屋』と大きく別けて四つに区分される。


その他にも幾つかの『離れ』や『蔵』、女中達の様な使用人が住む部屋等も有るが、上記四つに比べれば敷地に対する占有面積は決して大きな物では無いので、まぁ無視して良い範疇だろう。


猪山藩は一万石を少し超えるだけの小藩で、家臣の人数は当然ながらその石高に見合った人数しか居ないのだが、屋敷の敷地もそれぞれの建物も驚く程に大きい。


普通の大名家であればその収入は概ね石高に比例し、その家格に見合わぬ土地建物では維持するだけで手一杯と成り、統治者としての見栄を張る事も出来無い筈である。


だが我が猪山藩は家祖の頃からの家訓で有る『自分の小遣いは自分で稼げ』と言う言葉を拡大解釈し、あの手この手でその石高以上の収入を得て大藩並の土地家屋を維持し続けているのだ。


そんな住人の数に見合わぬ広さを誇る猪山屋敷の敷地内に有る『長屋』は、江戸市中有る町人達の長屋は勿論、他藩の……それも百万石超えの大大名屋敷の敷地に有る家臣達が住む長屋より随分と余裕の有る間取りと成っている。


『武勇に優れし猪山は、禄は安いが寝床は広い』等と巷で言われているそうだが、その言葉の出処は他所からの揶揄では無く、家臣達が他所の藩士に自慢した台詞がそのまま流布している物だと言う。


一般的な長屋の広さが台所兼玄関の土間一畳半に四畳半の畳敷で合計六畳なのに対して、土間二畳に六畳十畳の二間で計十八畳と倍以上の広さを誇っている。


まぁ俺達兄弟は兎も角、家臣達の大半は長くても二年で国元へと帰る事も有って、碌に家財道具を増やす事も無く部屋だけ無駄に広いと言うのが実情で、『禄は安いが~』と言うのは負け惜しみの類と言えなくも無いのだが……。


兎角、本来であれば俺も七歳だった昨年の時点で、奥向きを出て此処に一部屋与えられていた筈なのだが、あの一件のお陰で今日まで先延ばしになっていた訳だ。


……帰って来た時点で此方に移って居ても良かったとも思うのだが、せめて松の内はと母上が離してくれなかったのだから仕方が無い。


「しーちゃん、お布団持ってきたわよ。他に足りない物は無いかしら……って、有ってもこの大荷物を片付けるまでは他の物入れられないわね」


「土産物は全部配ってしまうとして……褒美の品、多すぎませんかねぇ……」


流石に定年(七歳)過ぎたと言うのに奥向きに何時までも居続ける訳にも行かず、だからと言って俺の方からソレを切り出す雰囲気でも無く、状況が動いたのは……


「つっても坊主が界渡りの途中で手に入れた(もん)の方がよっぽど価値が有るけどな!」


「オラんから貰ろて来たんが、エラいお宝だって話だっただな」


「良い歳をして御礼どころか、足を引っ張るばかりで誠申し訳無い……」


「こんだけ有るなら、ワテへ報酬は期待して宜しおますな? いやーホンマ死にかけた甲斐が有ったって物ですわー」


沙蘭に(ラム)、吉八さんにまーちゃんが俺の荷物を届けてくれた事だった。


家族や家臣、友人達への土産は兎も角、俺が使う為に買い込んだ様々な道具を仕舞う場所が欲しい、と丁度良い名目が出来た訳だ。


だが真逆、俺が使う予定の部屋に与えられた報奨品全てが詰め込まれているとは夢にも思わなかった。


「と言うか、何で全部俺の部屋に運び込まれてるんだよ……目録は貰ってるんだから取り敢えず蔵にでも置いときゃ良いのに」


大小様々な葛籠は全部十、そのうち五は朝廷を通して神々から送られた品で、一つが帝から残り四が安倍家からで有る。


家への報奨は既に与えられているそうで、これらは飽く迄も俺個人に対する物なのだそうだが、部屋の広さは十分に有るとは言え、今の段階ではぶっちゃけ邪魔だ。


取り敢えずは部屋の端にでも積み上げて置くしか無いだろうが、一体何が入って居るのやら……。


他にもあの戦いで子供を救われた家からの贈り物や、俺が帰還した事に対する祝の品など、様々な所から様々な物が大量に積み上げられて居り、コレを全て一人で片付けろと言われると少々気鬱に成る程の物量で有る。


こうなると子供の功績やら報奨品やらを平気で着服する親の方が有り難いと思えるのは、色々と贅沢が過ぎる感想だろう。


「俺の方はゆっくり片付けるとして、取り敢えず彼らのこれからに付いて父上も交えて相談だな……」


一人で暮らすには十分過ぎる広さの部屋が、狭く感じる程の荷物と人に囲まれ、溜息を吐きながらそう呟くのだった。




「ふぅむ……志七郎に加護を与えて居る死神とは、余程数奇な運命を好んで居る様じゃのぅ。猫達の話に聞く界渡りとは雲泥の差では無いか……で、彼らはその道中で世話に成り元の場所に居られ無くなった者達と言う事か」


「つまりこの()はしーちゃんのお嫁さんって訳じゃなくて、保護した良家のお嬢さんって事なのね? ()っちゃんみたいに、もうお婿に行きます! って事じゃないのね!?」


沙蘭等を紹介し道中で有った事を掻い摘んで説明すると、両親は想像通りの反応をしてくれた。


両親の中でやはり問題に成ったのは、恩()と言って間違い無いだろう沙蘭と、良い大人で十分に人生経験を積んでいる吉八さんでは無く、蕾の扱いに付いてだ。


ちなみに彼女達を此処まで案内してくれたまーちゃんは、飼い主の所へ顔を出すと言って既にこの場には居ない。


いや……母上は思った以上に興奮した様子だが、睦姉上に一体何が有ったのだろうか?


「オラは別にししちろーの嫁でも構わねぇだが……政略結婚の駒に使うでも、どっか適当にほっぽり出すでも好きにしてくんろ」


母上の剣幕に少々引き気味に蕾がそんな反応を返したのは、王族の娘と言う彼女の生立故の事だろう。


「いや拾ってきたのは俺だから、ちゃんと責任持って面倒見るから」


とは言えその台詞をそのままにして置く訳にはいかず、そうフォローの積りで吐いた台詞に、


「いや其処らで拾ってきた犬や猫じゃあるまいし……しかも男と女でその言い回しでは、お清の言う通り嫁を連れ帰った様にしか取れぬぞ?」


父上が呆れ混じりの溜息と共にそう返す。


「そうよ! 他所にお嫁に出すにせよ、しーちゃんのお嫁さんにするにせよ、ちゃんと調きょ……教育しないと我が家の恥に成るわ。私が確りと面倒見てあげるから、私の事はお母さんと呼びなさい」


……幾ら七人も子供が居るとはいえ、その内一人が独立して遠くの地へと旅立ち、一人が長い事安否不明だったのだから、色々と母上の心に負担が掛かっていても奇怪しくは無いのだが、それにしても抱えてる闇が深く成りすぎじゃないか?


「礼子と智香子は育て方を間違えたわ、睦はおミケ達の影響が強すぎた……このままじゃぁ私が女の子を全うに育てる事が出来ないままじゃない……この子を確りとした淑女に育て上げ無いと……」


ハイライトの消えた目で蕾を見つめ、氣で強化された聴覚で無ければ聞き取れ無い程の声でそんな事を呟いていた。


当然そんな姿を見て、即座に『お母さん』等と蕾が甘える様な事は無く、完全にドン引きしている。


「父上、俺が居ない間に何が有ったんですか? 母上が随分病んでいる様な……」


記憶に有る彼女は芯が強くそれでいて他人を思いやる事の出来る『武家の女の鑑』とでも言うような人物だった筈だが……


「色々有ったんじゃ……察せ……」


俺の居ない一年間、本当に察して余りある程の苦労が有ったのだろう、そう言う父上は此処には居ない祖父よりも年嵩にすら見えるのだった。

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