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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
半於九十の界渡り の巻

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三百七十 一人と一匹、鼠蹴散らしブチ込まれる事

 噴水の様に湧き出ていた黒い鼠の群れが沙蘭の咆哮に一瞬で総崩れとなり、壁の隙間やら床板の間やらへと我先に逃げ去っていく。


「ちょ!? な、なんだよ! 虎人だって竜人だって俺の能力(ちから)がありゃ何とでも成るってのに! やっぱり化物かよ! 畜生! 何だってこんな理不尽が俺の身ばかりに……!」


 完全に想定外だったらしい愕然とした表情を浮かべ、絶望の底へと堕ちてく様な嘆きの言葉を口にしながら、立っている力も無いという様子で崩れ落ち両膝を付いて、止めどない涙が床を濡らす。


 あのマイケルと言う鼠人には鼠を操る能力が有る様だ。


 先程までの奴らの会話から察するに、恐らくは其処らの鼠が見聞きした事を盗み見たり、聞いたりする事も出来るのだろう。


 その能力で他人の弱みを握ったり、ソレを利用して脅したりする事で利益を得てきた事は容易に想像出来る。


 しかも一匹一匹が矮小な鼠如きだとしても『数』は間違い無く暴力である。


 ほんの一寸(約3cm)にも満たない蟻でさえ集まれば巨象を倒し食い尽くす事も有るのだ、幾ら腕力に優れた肉食系獣人でも一度に数十、数百の鼠に集られては一溜まりも無い。


 生きた盗撮カメラに盗聴器、必要と成れば暴力装置にも死体の処分にも利用できる、悪事を成すにはこれ以上無い便利な能力と言えるだろう。


 本人が言っていた通り『他者を侮る事無く』冷静に水面下で物事を運び続けるだけの頭脳と胆力が有れば、此奴はきっと稀代の大悪党に成り上がっていた筈だ。


 しかし残念ながら奴は沙蘭を『侮った』


 沙蘭が化物だと言う想像出来ていたと言うのに、尋常の生き物の様に『酒』如きで無力化されると思い込んでしまったのだ。


「あは……あはは……折角、折角長い時間掛けて、こうして場末とは言え拠点も手に入れて……もっといい場所が俺の物に成る算段が付いたってのに……終わり……なのかよ。たった一度のミスで今まで積み重ねて来たものが全部……」


 奴らがどれ程の悪事に手を染めていたのかは解らないが、その思惑通りに事が運んでいれば、もっと多くの……そして凶悪な悪事を働く様に成ったのは想像に難く無い。


 沙蘭が酒に溺れてい無ければ、蕾が拐かされる様な事は無かったかも知れないが、巨悪が産まれる前に潰えたのであれば、結果オーライと言っても良いのでは無かろうか。


「残るはお前一人だが……まだ抵抗するか? きっちり脳を揺らす様に打ち込んだからな、他の連中は目が覚めても暫くは動けないぞ?」


 逃しても良いと言う前提で踏み込んだとは言え、全員捕縛出来るのであればソレに越した事は無いだろう。


 既に抵抗する意思は無い様に見えるが、追い詰められた鼠は猫をも噛み殺す……油断すればその一瞬で状況はひっくり返される可能性は零とは言い切れない。


 奴がどんな動きをしても対応出来る様に、身構えたまま投降を呼びかけた……その時だ、


「「「スターーーーーァップ!! 其処までだ! 全員動くな!!」」」


 入り口の扉を蹴り破りながら、虎人の警備隊が突入してきたのだった。




「器物破損、威力業務妨害、傷害、強盗……その他諸々の罪で拘束する! 最低でも九千百万ペリカンは下らぬ罪だ、耳を揃えて払うまで二度と娑婆には出られないと思え!」


 引き渡しの手間が省けた……そう安易に考えたのが間違いだと悟ったのは、そんな言葉と共に警備隊の詰め所に設けられた留置所にブチ込まれた後の事である。


 とは言え拘束の時点で抵抗はしなかった。


 幾ら腐っているとしても、この手の治安組織は地元権力者の庇護下に有るのは間違い無い、此方に正当な理由が有ったとしても、手向かった時点でそれ自体が罪とされかねないのだ。


 幸いと言って良いのか悪いのか、掻っ攫われた蕾は気持ちよさそうに涎を垂らしながら寝息を立てていた所を保護された様なので、此処を出るのに多少時間が掛かっても問題には成らないだろう。


「真逆、一回の来訪で二回も打ち込まれる事に成るたぁ……この旅猫沙蘭も堕ちたもんだネェ……。それ以上に此処の駄目虎共も随分と堕ちてるようだけどね」


 事実、同じ牢の中に入れられた沙蘭は慌てる様子も無く、溜息混じりにそんなセリフを言う余裕が有った、なにせ……


「……畜生! 畜生! あの野郎! 今までの恩を忘れて、俺をブチ込むなんて……絶対、絶対、バラしてやる! あの野郎の秘密を全部……全部……」


 通路を挟んだ対面の牢には、マイケル達一党もブチ込まれているのだ。


「ああ、ネズ公共を呼ぼうとしても無駄だよ。少なくとも儂の妖気が届く範囲にゃぁ一匹たりとも近づかせやしないよ……」


 そうと解っているならば、普段は抑えている妖気をほんの少しだけ漏れ出させるだけでも、本能に忠実な動物達は危険を感じ近づく事は無いのだそうだ。


 当然、奴の能力に依る強制力が自殺行為を強要出来るレベルの物で有れば、殺気未満のソレを突破して来る可能性も零では無いが……


「なんせこの周りにゃぁ、儂の指図でタイガードラゴンランド中の猫が集まってるからね……猫と鼠の全面戦争、試してみるかい?」


 沙蘭の方は操っているという訳では無く『此処に来れば鼠食べ放題』と言う様な情報を提供する事で呼び集めた、と言う形だそうだが、態々そんな事を教えてやる必要は無い。


「お前等みたいな化物に関わったのが間違いだったんだ……畜生……畜生……」


 鼠の目を通して此処を取り囲む猫の姿を確認したのだろう、恨み言を口にする声色も先程までより力が無い。


「どんな能力が有ってもソレを悪事に使おうとすれば、必ず報いが有る物だ。悪の栄えた試し無し……コレに懲りて真っ当な道を生きるんだな」


『悪』なんて場所や時代で定義は様々では有るが、盗みや誘拐、脅迫の様な行為が『悪事』以外に分類される事は先ず無いだろう。


 人の体に鼠の頭が乗っかった様な連中の年齢を、顔から判断するのは殆ど不可能に近いが、踏み込む前に見聞きした内容から考えれば、まだまだ若いの範疇だと思う。


 此処ではどんな罪でも懲役が課される事は無く、罰金刑のみの様なので、連中の蓄え次第では比較的早く釈放される事も有るだろう。


 そうなった時に真っ当な道へと更生するのか、再び悪事に手を染めるのか、そんな事まで責任は取れないが、逮捕した者が真っ当な道へと戻るよう祈るのは刑事として生きた者の性だった。


子供(ガキ)に言われちゃぁお終いだわなぁマイケル……だが安心しろ、お前に二度と娑婆は無ぇ……真逆、御領主様直々に処刑命令が出るなんてなぁ……残念だったなぁ」


 だが俺の言葉に応えを返したのは、マイケルでもその子分達でも無かった。


 俺達を此処にブチ込んだ警備隊を率いていた緑制服の虎人である。


「ピーター! 手前ぇ! 今まで散々俺達から袖の下受け取って置きながらこの仕打ちか!? だが良いのか……? このまま俺を殺せば情報(ネタ)は捕まってねぇ子分達がバラ撒く手筈に成ってるんだ! お前だってただじゃぁ済まねぇぜ?」


 ……うん、汚職が横行している様な地域に研修へと行った時に良く見た光景だ。


「馬ぁ鹿、手前ぇの手下は全部とっ捕まえたっつーの。それにこのノートも回収済みだ……ちらっと見ただけだが、こんな情報持ってたら上に目を付けられるのも当然だわなぁ……コレは俺が有効活用してやるから……安心して死にな!」


 そしてソレに対する反応も丸で判を押した様な汚職警備員の所業であり、


「そんな物、持ってたら次に消されるのはアンタだろ!」


 その阿呆さ加減に思わず突っ込みを入れてしまったのも仕様が無い事だった。

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