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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
界を越える土産物 の巻

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三百三十二 三狸、甘い胡散の香りに包まれる事

 カードを咥えた鳥が彫り込まれた木製の重厚な扉を開けると、淡い間接照明で照らされた薄暗い空間が目に入る。


 が、店内を見回すよりも早く、中から漂って来た煙を嗅いだ俺は思わず息を呑んだ。


 燃してソレを吸うのは何も煙草だけではない。阿片にコカイン、脱法ハーブ等々、そんな物に手を出して身を崩す者を腐る程見てきた。


 そして此処に漂う独特な甘い臭気……俺はソレを知っている。


 海外ではその所持使用共に合法とされている地域も有るが、この日本では医療用としてすらも所持が禁止されている『大麻マリファナ』の臭い……。


 言うまでも無い話では有るが、俺自身が自分の意志で吸った事は一度も無いが、海外研修で合法の国へと行った際にその独特な匂いを嗅ぐ機会は何度も有った。


 それに悪い悪戯をする馬鹿は何処にでも居るもので、ソレを所持し使用した者を検挙した事は数えるのも馬鹿らしく成る程で有る。


 とは言え、人口も少なく、この地域に根を張る白浜組(ヤクザ)麻薬(ヤク)の扱いをご法度としその点で協力的だった事も有り、警視庁(ホンチョウ)組織犯罪対策部マルボウに比べれば圧倒的に少ないのだが……。


 また途上国の中には精霊信仰とでも言うべき物が根付いている場所も有り、そう言う所に居る祈祷師(シャーマン)と呼ばれる者の中には、超常の存在と交信する為に薬物を使用すると言う話も有る、占い師がソレを使っていても不思議は無いだろう。


 兎角コレは文字通り『犯罪の臭い』だ。


「おっと……激発すんじゃねぇぞ、こりゃ大麻じゃなくて丹参(セージ)だからな」


 だが、俺がそう判断し声を上げるよりも早く、ポン吉がそんな事を言い放った。


 微苦笑を浮かべ俺の肩に手を置いて見下ろしながら言葉を続けるポン吉曰く、それは香草(ハーブ)の代表格とも言える物で肉料理に良く使われ、一説に拠ればソーセージの語源とも成ったとも言われる物なのだそうだ。


 そしてセージを乾燥させた物を焚いた煙には強い『浄化』の力が有ると言われており、占いの道具や魔除けの御守(アミュレット)等に溜まった穢れを浄化するのにも使われるのだと言う。


 にしても、何故口を開くよりも速く俺の考えが解ったのか。


「前に同じ勘違いをした人が居て通報された事が有るのよ。この手の店とハーブなんてセットでしょうにねぇ」


 その答えは店の中から聞こえてくる。


「折角今日は夕方まで寝て、それから二丁目に繰り出そうと思ってたのに……。予約無しの呼び出しは……高いわよ?」


 そう言い笑いながら姿を表したのは、丸でギリシア神話から抜け出してきたかの様な白い布を纏ったスレンダー美人だ。


 落ち着いて店内を見回すと、店内には売り物らしい大振りな水晶玉や色とりどりのタロットカード等の占い用品、天然石のビーズに小瓶で小分けされた香草ハーブが並び、壁には星座が色鮮やかにデザインされた大きな天球図のタペストリが貼られている。


 今生(いま)前世(まえ)でも占いの店に来たのは初めてだが、路上でそれを行う者が居る事を考えれば、この店はただ占うだけで無く開運の為の様々なグッズも扱っている店と言う事らしい。


 俺の乏しい知識でぱっと見る限りでは西洋系の雰囲気で統一されている様に見える、しかし端の方でひっそりとでは有るが『招き猫』や『福助』、『ビリケンさん』と和物と呼んでも差し支えない物も置かれていた。


「ようこそ占いの館(フォーチュンテラー)ヘルメースへ、可愛らしい旅人さん。私は当店の店主釜ヶ谷(かまがや)れんよ、蓮ちゃんって呼んでね」


 語尾にハートか音符でも付いていそうな調子でそう言いながらウインクをする彼女――いや彼は、俺の目には女性にしか見えないのだが、法的或いは生物学的には飽く迄も男性なのだと言うのは、事前に聞いていた話だった。




 一通り事情を説明し終えた俺は出された一寸酸味の有る、だがレモンティとも少し違う感じの茶を口にして一息吐く。


「随分とまぁ大きな話ねぇ。私も此方(オカルト)方面長いけれど、界渡りのお土産なんて相談は初めてよ……」


 そう言って蓮ちゃん(占い師さん)は一度カップに口を付け、それからソーサーと共にテーブルへと戻しつつ改めて口を開き、


「若和尚さんや店長さんからの話じゃなければ、よく有る拗らせた子供……って事で適当にお茶を濁したんだけど、本当ガチじゃぁ笑って済ませる訳にも行かないわよねぇ」


 と、さも面倒臭いと言いたげな表情で深い深い溜息を付いた。


 土産物の定番と言える食べ物系は保存の関係上概ねアウトで、地元の――日本、或いはもっと地域を絞ったとしても――民芸品と言う様な物も類似する品は向こうでも恐らく手に入ると言う意味でハズレ。


 今まで買った物は工業的な技術の関係で作る事の出来ない物で、なかなか良い選択をしたと思……と、今思い出したのだが、大分前に食事に行った清望藩の下屋敷(石銀さん)には大きな不銹鋼ステンレス製の調理台が無かったか?


 あと智香子姉上の部屋に有った産業廃棄物の入れ物も同じ素材で出来ていた気がする……。


「あ……れ? もしかして俺……やっちゃったかな?」


 兄上に買った酒瓶(スキットル)に、家臣達様に大量購入した(ショットグラス)、妖怪自動車の中に置いてきた土産物の多くはステンレス製品だ。


「……流石に此方みたいに大量生産は出来ない希少品何じゃないの? どっちも他の場所では見てないんでしょ?」


 その事を皆に話すと、芝右衛門からそんな答えが返って来きた。


 言われてみれば、石銀さんはその顧客の大半が大名や上位の幕臣達と言う高級料亭の類、産廃入れは下手な物では危険過ぎる物、それぞれ銭に糸目を付けず用意した特別の品、と言う可能性は決して低くは無いだろう。


 希望的観測が過ぎるかも知れないが、糞重い事を承知で買い漁った物全てがハズレだとは思いたくは無かったのだ。


「んー、向こうでも手に入る可能性が有っても、希少価値の高い物が有りなら色々と選択肢は広がるんじゃないかしら?」


 俺達の会話に何か思い浮かんだのか、蓮ちゃんがやはり男と言うには何処か無理が有る華やいだ笑顔で両の手を打合せる。


「調味料関係、特に香辛料(ハーブ)の類とか有り有りじゃないかしら? 一番下のお姉さんにも、真ん中のお姉さんにも喜ばれるわよ。 乾燥ハーブを真空パックした奴なら一、二年は持つし、此処でも扱ってるしね」


 弾んだ笑みを浮かべたのは、どうやら自身の商売っ気も有っての事だったようだ。


「そっちの世界で一般的に扱われる霊薬って程の物は兎も角、此方にだってハーブを用いた魔法薬の類は少なからず有るし、そのレシピもセットで付けちゃうわ! 私のは錬金術アルケミオじゃなくて魔女の薬(ウイッチクラフト)だけど、応用は効くでしょ」


 界を渡った向こうなら商売敵を気にする必要も無い、と彼は棚の瓶詰めが並んでいるのとは違う場所から既に真空パックされた商品と思しきものを幾つか取り出し、積み重ねたその上に一冊の古めかしいノートを乗せる。


「ベルベーヌ、ラベンダー、セージにヒソップ、セポリーと……多分そっちでも外国なら類似品も手に入るかも知れないけれど。後はウチのお師匠さんのレシピの写本だけど、持って行って良いわよ。自分で使う分は全部彼処にも記録してあるから大丈夫よね」


 そう言う彼の視線の先にはカウンターテーブルの上に置かれたノートパソコンが有った。


 どうやら此方の世界ではオカルト界隈にもデジタル化の高波が押し寄せている様だった。

長い事おまたせ致しました、やっと体調も回復致しました故、更新再開と合いな入ります。

取り敢えず、暫くは隔日定期交信に復帰致します。

今後共お楽しみ頂ければ幸いです。

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