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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
界を越える土産物 の巻

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三百二十八 三狸、酒と入れ物を談義する事

悪魔だの黄昏だの今一つ俺には理解出来ない内容で盛り上がっている二人を横目で見ながら、俺は改めて『土産』の条件を考える。


先ず第一の条件として『腐らない』と言うのが挙げられるだろう。


向こうへ着くまで実際にどれ程の時間が掛かるのかハッキリしない上に、灼熱や極寒……どんな環境の場所を通るかも解らない上に、時間の流れすらもが歪んでいる様な場所を通る可能性も有るのだ、生物(なまもの)は危険すぎる。


次に『嵩張らず重く無い』のも大事だ。


前に江戸から根子ヶ岳へ行く時に通った『猫の裏道』は、場所によっては大人では通り抜ける事も出来ない様な狭く細い所も有ったのだが、ソレすらも猫達にとっては普通の道なので有る。


今回は殊更に『難所』が多いと明言して居るのだ、余計な荷物を持った状態では幾ら未だ小さな子供の身体(からだ)でも、通り抜けるのが難しい様な場所も有るだろう。


折角二人に負担を強いて買っていく土産を、その度に捨てるのは忍びないし、それを護る為に怪我や……下手を打って命を落とす様な事が有れば、それこそ本末顛倒も良い所だ。


そして態々土産物として持って帰るのだから、向こうでは手に入らないか、若しくは手に入るにしても生半では無い、それでいて此方では容易に手に入る、そんな物を選ぶべきだ。


それらを総合するとやはり一番良いのは『情報』なのだが、それは既に用意する事は決まっているのだし、他の物を考える必要が有る。


「此処はやはり香辛料の類だろうか……。生地の類と言う手も有るが、重さや嵩を考えると悪手か……」


誰に聞かせるつもりでも無く、思わずそう呟きを漏らす。


「……土産なんだからさ。誰に渡すのかを考えて選んだ方が良いんじゃないかな?」


と、俺の言葉を聞き付け、ポン吉との会話を中断し芝右衛門がやんわりとでは有るが、完全に頭から抜け落ちていた事実を指摘した。


自分で使う事ばかりを……チート行為に繋がりそうな物とばかり考えて、身内に配る物と言う意識を全く抱いて居なかったのだ。


「ったく、此方の家族との蟠りを折角解消出来たってのに、向こうの家族を蔑ろにしたんじゃぁ、話になりゃしねぇだろうよ」


ポン吉が苦笑いを浮かべそう言い、丸で子供にするかの様に俺の頭を撫で回す。


子供ガキ扱いするな! と、反発したい気持ちは有るが、少なくとも『家族』との関わり合い方に於いて、俺はまだまだ子供のままなのかもしれない。


いや……俺は大人の俺(剣十郎)の精神が子供の俺(志七郎)の身体に宿っているのだとばかり思っていたが、それは多分思い違いで身体に心が引き摺られて居たのだろう。


自分を大人だと思って悟ったつもりでいる子供ほど質の悪い者は無い。


『賢者への一歩目は、自らが如何に愚かで有るか自覚する事で有る』何処で聞いた言葉だったか忘れたが、きっと同じ事だ。


自分が既に大人だと思いこんでいるならばそれ以上の成長は見込めない。


自覚無くして成長は有り得ない、自覚が無ければ其処で満足してしまうのが人間だからだ。


ど阿呆(だぁ~ほ)、俺達が未熟なんざぁ当たり前の()っちゃねぇか。人間の生涯程度の期間で誰でも悟れるなら、修行も阿弥陀様も要らねぇってぇ~の」


余程酷い表情かおを浮かべていたのだろうか、ポン吉は呆れ切った様子でそんな事を曰う。


「そりゃお釈迦様と比べちゃったら、誰だって未熟者でしょ。でもまぁ……ポン吉の言う通りしたり顔で大人面するのは、間違いだろうね。なんせ俺達は皆この歳まで独身で、子供の一人も居ないんだから……」


子供を産んで育てて初めて一人前……と言うのは前時代的な価値観だとは思うが、『子育ては自分育て』とか『良い師は弟子を育て、良い弟子は師を育てる』なんて言葉も有る、誰かを育ててこそ至る境地が有るのは間違い無い事だ。


部下を持って初めて解った、なんて事は俺自身幾つも経験している。


「そうだ……俺には二人よりもっと長い時間が有るんだから、焦る必要は無いんだよな……」


大きく息を吐き己を落ち着けつつ、敢えてそう憎まれ口を叩く。


「そうだな、だから今度は魔法使いを卒業するんだぜ?」

「そうだね、だから今度は魔法使いを卒業するんだよ?」


笑いながら、声を揃えて返されたその言葉は無論、予想通りの物だった。




「んー、父う……親父殿と一番上の兄貴は素直に酒で良いかなぁ? 瓶は危ないから、缶かペットボトルの奴……何方にせよ嵩張るか……」


小瓶ミニチュアボトルの類なら見栄えもするし、土産物としては上等の部類だろうが、やはりガラス瓶が大半で道中で割ってしまえばソレまでだ。


かと言って、缶は一度に飲みきる前提の物が大半で、土産にするには少々物足りないし、大型ペットボトルのウイスキーや焼酎は、安酒のイメージが強すぎる……と言うか実際安酒だ。


「向こうでも蒸留酒は手に入るんだろう? ならいっそ入れ物――スキットルなんか良いんじゃないか? チタンやステンレスが使われる様に成ったのは比較的最近だし、そっちなら珍しい部類じゃないか?」


比較的高価な洋酒から、激安プライベートブランドの缶チューハイまで、幅広い品を扱う酒類コーナで今一つ心惹かれる物を見つけられずにいると、芝右衛門がそんな提案をしてくれた。


ソレはアメリカ映画なんかで見かける酒を入れた金属製の水筒の事だが、ぱっと見た限りでは此処には無さそうだ。


「多分アウトドア関係の物を扱うテナントじゃねぇか? 一応扱いとしてはキャンプ用品の部類だろ」


意外な事に酒を飲まない筈のポン吉が、扱っていそうな場所を口にする。


「つかチタンやステンレスの品なら、魔法瓶とかも有りなんじゃねぇ? 道中でも便利だろうよ」


魔法瓶は確かに便利だ、俺自身が使う分も欲しいかも知れない。


酒類コーナーから然程離れていない所にポットや水筒を扱うコーナが有ったのでそっちへと移動し見て回る。


「あー、それなら保温弁当箱も欲しいな。出先でも暖かい飯が簡単に食えるのは有難いよな……」


社会人に成ってからは昼食には外食するのが殆ど当たり前に成っていたが、高校時代には味噌汁、飯、おかずが入った保温弁当箱を殆ど毎日持って学校へと行ったものだ。


電子レンジなんて便利な物の無い向こうでは、出先で温かい物を食いたければ外食一択だが、コレが有れば出来たてと変わらぬ……とまでは言わずとも、温かい弁当を食う事が出来る様に成るだろう。


とは言え保温弁当箱は比較的嵩張るので、幾つも持って行く訳にも行かない。


「十得ナイフ……も有りかな? アレも有れば有ったで便利だろうし」


そう言われて見れば何処かの土産で俺達三人同じ十徳ナイフを此方の祖父さんから貰った覚えがある、確か家を出る時には置いたままで出た筈だが、アレはどうなったか……。


「ステンレス製品で他に持っていけそうな物と言やぁ包丁も鉄板だろうが……真っ当に切るだけの刃物なら、そっちの物のほうが品は良さげだよなぁ……」


ステンレスの包丁の利点は鋼の包丁に比べて、手入れの手間が少ない事だろう。


猪河家うちの台所を取り仕切る睦姉上は、その辺を手抜きする様な事は無く、寧ろ切れ味で劣る分中々出番は回ってこない筈だ。


ステンレスやチタンの品と言う所から、色々と話が膨らんだが、取り敢えず今この場に有る物の中では、保温弁当箱2つと魔法瓶の水筒を2本、小ぶりなポットを一つ選びだした。


弁当箱の一つは俺用、もう一つは家に有れば睦姉上が誰かに弁当を持たせる時に使うだろう、水筒はソレとセットで扱って貰えば良い。


魔法瓶の卓上ポットは父上にお茶を淹れる事の多い母上に上げれば、一々湯を沸かす手間が減るだろうし、その分燃料代節約にも繋がる筈だ。


「うん、取り敢えず此処で買うのはこの辺……かな?」


芝右衛門のカードで会計を済ませると、紙の手提げ袋に入れて品物を渡される。


「それぶら下げたまんまじゃぁ、道中邪魔くさいだろ? 全部入る様な大きいリュックも要るわな」


「スキットルの事も有るし、次はアウトドア用品売り場……の前に、一寸早いけどフードコートが混む前に昼、すませちゃおうよ」


アウトドア売り場はフードコートの向こう側に有る、行って戻ってをするよりは芝右衛門の言う通りにするのが効率的だろう。


「んー、此方で食べる最後のジャンクフードに成りそうだな……何を食おうかなぁ……」


その提案を受け入れた俺は、既に席の四半分ほどが埋まり始めたフードコートを眺め、最も贔屓にして居るファースト・フードチェーンが無い事に少しだけ落胆するのだった。

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