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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
試練と帰還の道 の巻

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三百十五 志七郎、制限時間を知る事

 それは曽祖父の葬式が終わった翌日の夜の事だ。


 俺達は芝右衛門の店(猫喫茶)が閉店するのを待って彼の店へと集り、今後の行動方針やスケジュールに着いて話し合っていた。


 本来ならば寺の跡継ぎとしてポン吉には、幾らでもやるべき事、やらねば成らない事は有るのだが、


『彼奴が居るとやたらと胸騒ぎがしやがる、さっさと追い返せ。後の事は俺がやっておくからよ』


 と、穏やかな狸顔に似合わぬ過激な言葉で、家を追い出される様に此処へとやって来たのである。


 そうして集まった俺達三人の手に飲み物が行き渡った丁度その時だ。


 突然何処かから、金属を打合せる様な高い音が断続的に鳴り響いた。


「こんな時間に誰だろう……? はい、喫茶猫あ……? あれ?」


 カウンターの奥の棚に据え付けられた、今時珍しい黒いダイヤル式の電話機が鳴ったのだ、と誰もがそう思った。


 だが芝右衛門が受話器を取ってもその音が鳴り止む事は無く、店の黒電話が音源という訳では無い様だ。


 ポン吉の持つ携帯電話スマホの中にそのものズバリ『黒電話』と言う名の着信音が有ったが、俺が使っていた頃から設定を弄って無いのであれば、その音は設定されていない筈で有る。


 ちなみに狢小路動物病院(ポン吉の病院)からの電話に対する着信音は『日曜夕方あの番組のテーマ』に設定して居たが、どうやら今でもそれを変える事はして居ないようだった。


 兎角、店の電話でも、ポン吉の携帯でも無く、カウンターに置かれたままの芝右衛門の携帯電話にも着信を示す様な反応は無い。


 鳴っては途切れ、途切れては鳴る、一定のリズムで繰り返され続けるそのベル音は、間違い無く黒電話のソレ以外には考えられない、となれば後はお客さんが携帯を店内に置き忘れた可能性だろう、と三人で店内を見回し音源を探す。


 そして見つけたのは、鳴り響く携帯電話……では無く、目は虚ろで口を半開きにして


「ジリリリリン! ジリリリリン!」


 と、身を震わせて鳴く小松の姿だった。




 修行を積んだ猫又ならば兎も角、猫魔に過ぎない小松は自力で『伝話(・・)』を使う事は出来ず、せいぜい数桁の番号を受け取る事しか出来ないのだと言う。


 だが相手が圧倒的に強い妖力(ちから)を持っている場合、向こうがその負担の大半を背負う事で、無理矢理通話を繋ぐ事が出来なくは無いらしい。


 しかしその場合、小松本人はその状態を維持するのが精一杯で、自意識を持って会話したりするのは、ほぼ無理な状態に成るのだそうだ。


 その為本()と連絡を取りたいの成らば全く使えない術だと言えるが、今回の様に本人では無くその仲間を含めたグループを相手に連絡を取る成らば、どれ程離れた世界にでも繋ぐ事が出来るので有る。


 未だ呼び出しを続ける小松を放置して。そんな事を説明してくれたのは、此処の猫魔達の中でも小松を除けば最も猫又に詳しいのだと言うロシアンブルーのアルノーだった。


「つか、何時までもこのまんまって訳にもいかねぇだろうよ。さっさと出ねぇと切れちまうんじゃねぇのか?」


 既に呼び出し音は二十回を超えている、余程しつこい勧誘の電話でもこれ程長くは鳴らさないだろう。


 それでも未だ呼び出しを続けるのは、余程急ぎで重要な連絡だろう事は想像に難くない。


 ポン吉に言われ、慌てた様子でアルノーが小松の額に一発ネコパンチを叩き込む。


「ああ……やっと、繋がりましたね……志七郎様は一緒にいらっしゃいますか?」


 と、ノイズ混じりのくぐもった声が小松の口から漏れ出した。


「おミヤ!? おミヤなのか?」


 俺の名を呼ぶその声は、先日の冥界伝話を使った時とは違い、回線の状態が良くない様な、途切れ途切れの……所謂『伝話遠い』状態で、声だけでハッキリとおミヤだと断定する事は出来ない。


 とは言えこうして小松を通して俺に連絡を取ろうとする者は他に心当たりは無かった。


 それにこの間の伝話でも思ったが、口調が俺がよく知るおミヤの物とは随分と違う様に思える。


 まぁ猫又の中の猫又で有り、大猫又の姿に成ることも出来れば、若々しい娘にも、小さな老婆にも、自由自在に姿を変える事が出来る宮古前みやこのまえで有る、その老人然とした普段の口調は老婆としての自分を演出する欺瞞だとしても奇怪しくは無いだろう。


 だが次に小松の口を介して飛び出したおミヤの言葉は、そんな俺の考えを驚きによって中断させるには十分な物だった。


「お急ぎ下さいまし志七郎様。そちらと此方では、志七郎様が思っているよりもずっと時間の流れに差がある様です。そちらで何日が過ぎたかは分かりませんが、此方は既に夏の盛りも過ぎつつ有ります」


 此方へと飛ばされたのは一月末の事だった、だが俺が此方で十日も過ごさぬ内に、向こうはもう八月も半ばを過ぎて居るのだと言う。


 確かに急がねば、俺が帰り着いた時には『浦島太郎』状態では色々と困る事は間違い無い。


 俺が此方へと来た時にポン吉達から聞いた話から、向こうの五年は此方の世界の二年と二倍少々の差だと思っていたのだが、十日も経たぬ内に向こうではもう半年以上が過ぎたと言うのであれば、その時間差は一定では無い可能性が有る。


 向こうへと帰る途中で通る道筋によっては、此処以上に時の流れの遅い場所も有れば早い場所をも有るらしく、下手をすれば年末までに帰り着く事が出来ないかも知れない。


「私達の世界に生まれた世界樹に記録された者達は、異世界で物を食べてもその世界に属する事を強制されず、またこの世界へと帰る事が出来ます。その代わりでは有りませんが、世界樹に記録された年齢が七つと成る前に戻らねば成らないのです」


 通常、世界を渡った者――それが人間だろうと神であろうと――は、別の世界で物を口にすれば、その食べた物が自らの肉体と魂を形作る一部と成る為、その生が終わるまでその世界に縛られる事に成るのだそうだ。


 それは『古事記』の中で伊邪那美命が黄泉の食べ物を口にした事で黄泉の住人と成ったように、またギリシア神話で春の女神(ペルセポネ)が冥界の柘榴を口にしたことで冬が生まれた様に、三千世界に遍く適用されるルールなのだと言う。


 だが俺が生まれ変わったあの世界、全ての物理法則が……いや全ての事象が世界樹によって管理されるあの世界に生まれた者だけは例外で、世界樹の記録を削除しない限り他の世界に魂が縛られる事は無いのだそうだ。


 言われてみれば、此方に着てから色々な物を考えも無く食べてしまったが、まぁ結果オーライと言っても良いかも知れない。


 しかし同時に俺が界渡りの出来るタイムリミットは世界樹時間で年末が過ぎるまでに帰り付かねば、その時その瞬間に居た世界から出る事が出来無く成ると言う。


「ウチの宿六に志七郎様の手形に残り時間が表示される様に変更を掛けて貰いました、それが尽きるまでにお戻り下さいまし」


 と言われても、鬼切り手形は装備と一緒に狸寺の蔵にしまったままで手元には無い、まぁ後から確認するとしよう。


「此方からも何匹か旅慣れた猫又に迎えへと出る様に頼みましたが、その者達がそちらの世界に付くのを待っていては恐らく間に合わないでしょう。故に全ての旅猫が集まる地『長靴の王国』にて貴方を待っています」


 界を渡る猫達の猫に依る猫の為の猫だけの世界、全ての世界はその世界と繋がっており、何処から何処へ行くにせよ、其処へと辿り着けば行けない場所は無いのだそうだ。


 そこまで言った所で俺が言葉を返すよりも先に、何かが切れる様な音が響き渡り、小松の身体が硬直したまま倒れ込む。


 どうやら自力では使う事の出来ない高度な妖術の過負荷に絶えきれず、そのまま意識を失ったようだった。

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