表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
過去世そして家族 の巻

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

305/1256

三百三 志七郎、家族を思い己の証を手にする事

 会いたくないと言う訳では無い、会って生前の不義理を詫たいと言う気持ちは間違いなく俺の中に有る。


 ポン吉や芝右衛門の様に、曾祖父さんならば剣を合わせれば俺が俺で有る事を理解してくれるとは思う、爺さんや親父、兄貴と言った男衆は曾祖父さんが剣で認めたならばそれを受け入れるだろう。


 だが他所から嫁に来た武の心得の無い御袋や義姉さんは、曾祖父さんが幾ら鶴の一声を上げたとしても、それを受け入れるのは難しいのでは無いのではなかろうか?


 俺が一番詫びねば成らないのは、御袋なのだ。


 高校で成績を大きく落とした時も、頭ごなし叱るだけだった親父とは違い、悩みなど無いか、辛い事が有るのでは無いか、と親身になって心配し、三流とは言え大学に受かった時には喜び、任官後には定期的な仕送りを欠かさなかった。


 御袋が居たからこそ、親父や曾祖父さんへの反発から、決定的な所で足を踏み外さずに済んだのだと、今に成って思える。


 きっとソレが無ければ、俺は誤った男へと育ち、俺が取り締まっていた馬鹿共と同じ道を歩んでいたかも知れない。


 人を傷つけた事が無い訳では無い。


 研修名目で出向した海外の現場では、上司の命令で発砲し、結果殺す事にこそ成らなかったが、明確に『殺す』事を意識して人を撃った事は有る。


 それは飽く迄も自分達の後ろに居る無辜の市民を守る為の事で有り、私利私欲の為に成した事では無い。


 だからこそ死神さんは便宜を図り生まれ変わらせてくれたのだろう。


 もしも道を踏み外した上で同じように命を落としていれば、閻魔様の下へと引っ立てられ地獄へと収監されていた事は想像に難くない。


 それらを考えるまでもなく、本当ならばいの一番に家族の下へと顔を出し、生前の不義理を……それ以上に逆縁の不幸を謝り、そしてそんな親不孝者の死を悼み続けている事に感謝しなければ成らないのは事実で有る。


 それでも……それでも叶うことならば、会って謝罪しお礼を言い、思い残す事は有れども悔やむ事は無い人生だったと……恵まれた家に生まれ変り、苦労は有れども不幸では無い暮らしをしている事を伝えたい。


 だが流石にこの幼い身体のままで名乗り出た所で不信を買うだけだろうし、場合によっては悪意有る悪戯と取られ、余計に家族の……御袋の心を傷付けるだけの結果にも成り兼ねない、そう考えていたのだ。


 けれど和尚が言った様に遠目からでも一目見に行く事位は出来た筈だ。


 言葉を掛ける事が出来なければ、それは自己満足にしか成らない行動だが、それすらしないのであれば、彼等を蔑ろにしていると言われても仕様が無いかも知れない。


 どう答えを返しても言い訳がましい言葉しか思い浮かばず、歯を食いしばり口を噤む事しか出来なかった。


 だがそんな俺の内心を見透かしたかの様に、和尚は片頬を上げ笑い、


「別に儂とて何の策も無く無理を言ってるつもりはねぇ。ほんのちっとばかりお前さんのタマぶっこ抜いてやるからよ、夢枕にでも立ってお礼の一つも言って来りゃ、ちったぁ苦労も報われるってもんだろうさ」


 と、無茶とも言える言葉を口にした。


 氣や武芸の才に恵まれなかった本仁和尚、それでも先祖代々退魔僧としてこの地を守る役目を負った狢小路家の男として、少しでも多くの手立てを得る為に洋の東西問わず様々な秘法秘術の類に手を出したのだと言う。


 当初は妖怪達が使う妖術の対処法を学んで居たのだが、その内に只人に毛が生えた程度のチカラしか持たない彼にも使える術が無いか、己の能力ちから不足を補える術は無いか……と、エスカレートして行った。


 その結果、並み居る退魔師達を差し置いて『賢者』と呼ばれる様に成り、一目置かれる存在へと登り詰めたのだそうだ。


 流石にいい歳こいた老僧が自称するのは少々恥ずかし過ぎる二つ名故に、それを口にしたのは本人ではなく、息子のポン吉だったが……。


 兎角そんな彼が学んできた術の中には命を奪わずとも魂を身体から抜き出す『幽体離脱の術』とでも言うべき物が有るのだそうだ。


「今夜にでも早速やってやる、それが済んだら紹介状は用意してやるよ。今日は他に此方の世界に遣り残しが無い様にもうちっと頭を捻るんだな。んじゃ儂ゃ今夜の準備するから……さ、行った行った」


 そう言ってひらひらと手を振る本仁和尚、にこにこと笑って見送るその表情は、今の俺達には全てが自分の掌の上と言わんばかりのしたり顔に見えるのだった。




「遠出が没なら俺ぁ仕事行くわ」


 と動物病院の方へと向いたポン吉は、何かを思い出した様に足を止め。


「何処で時間を潰すにせよ、此方の世界じゃコレが無けりゃ何も出来やしねぇわな。あと連絡が付か無くなるのも事だしコレも持ってけ」


 そう言いながら古びた二つ折りの財布と、使い込まれた携帯電話(スマホ)を差し出した。


 友人ダチに集る様で気が引ける気持ちは有るが、彼の言葉の通り何をするにも金が掛かるのが現代日本と言う場所だ、有難く受け取るべきだろう。


 そしてもう一つ、このスマホは俺が生前愛用していた物をポン吉が形見として受け取った物だった。


 使い慣れたソレを手にした俺は、何を考えた訳でも無く生前そうしていた様にブラウザを起動する。


 表示されたのは、俺が使っていた頃と同じ某投稿小説サイトのトップページだった。


 真逆と思い履歴を表示すれば、其処に出て来たのは記憶の片隅に残っている物と寸分違わぬ物に思える。


 ボタンを押しこみホーム画面へと戻せば、待受画像こそ変えられている物の、並ぶアプリのアイコンはやはり俺が使っていた頃と変わらない。


「って……おい、これ受け取る前に初期化(リセット)してないのか?」


 思わずそう呟く、


「いや、初期化しようにも暗証番号が解らなきゃ出来ねぇじゃねぇの。ロックが掛かって無かったから普通に使う分には問題ねぇしな」


 と、そんな答えが返って来る。


 契約者名義はポン吉に変更する手続きは取ったのだが、暗証番号は通信会社(キャリア)でも解らない物なのだ。


 流石に犯罪者から押収した携帯の暗証番号を解除する技術は、専門部署が持っているのだが、それが何処かと言うのは四課長だった俺にも知らされて居らず、鑑識課経由で解除を依頼していた。


 民間人で有るポン吉は勿論、警察内部に未だ伝手を持っているで有ろう曾祖父さんが公私混同でそんな依頼をする訳も無く、内部データはほぼ弄られていない状態のままと言う事だ。



 アドレス帳はこん中だ、と自分の頭を人差し指で叩きながらそう言うポン吉。


「電話番号も変わってないじゃないか……俺が死んだ後この電話にスジ(もん)から電話有ったんじゃないのか? 色々と面倒な連中に絡まれたりしなかったか?」


 私用の携帯では有ったが、通話に関しては何方かと言えばタレコミを受ける事の方が多かった物だ。


 それに別人が出た成らば、色々とトラブルを呼び込んでも可怪しくは無い。


「なぁに馬鹿言ってんだよ、あの事件に付いては暫くマスコミ共がこぞって面白可笑しく報道してたからな、お前さん下手な芸能人よりよっぽど有名人だぜ?」


 本当に死んだ事を確認する為に何人かが掛けてきたらしいが、その者達に事実を伝えると皆揃って実家に弔問へ向かうのは憚られる、と態々この寺へと足を運んでくれたらしい。


 中にはこの地域に根を張る自由業団体(任侠組織)の組長の様な大物や、海外から海を渡りやって来た捜査関係者等、俺の死を悼み、死後の俺の扱いに憤る者達は決して少ない人数では無かったそうだ。


「気になるなら初期化しちまっても構わねぇよ? アドレス帳だってお前さんが使ってた頃のまんまで、俺が電話する時にも使ってねぇからよ。ただまぁ、ソレはお前が生きていた数少ない証で有り、積み上げた縁の証拠だからな」


 使わなくとも残しておく意味は有るんじゃねぇの?


 改めて病院の方へと振り返り、そう言って去っていく彼を、俺はスマホに目を落としたまま、ただ黙って送るのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ