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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
志七郎、思い出の旅路……の巻

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二百九十七 志七郎、導を知り祝を口にする事

『志七郎様……ご無事なお声が聞けて嬉しゅう御座います……』


 受話器の向こうから、くぐもった声で聞こえてくるおミヤの声。


 小松が苦労して手に入れた()話番号は、間違いなくあの世界の……俺がよく知るおミヤへと繋がる物だった。


 彼女の言に拠れば、万が一俺が命を落とす様な事が有れば、契約に依って魂の一部を共有している四煌戌に何らかの変化が有るのだと、お花さんから聞かされた事で、家族達も心配はしているが過ぎては居らず、有るべき日常を過ごしているらしい。


「……ちょっと待て! 日常をって……俺は此方に来てまだ一日しか経ってないぞ!」


 二つの世界で時間の流れに差が有るらしい事は、既にポン吉との会話の中で推測できていた事ではあったが、それはもっと長いスパンの物だと思っていた。


 しかし向こうの世界では既に一月以上の時が流れ、既に如月(2月)も終わりを迎える頃なのだと言う。


 けれどもそれは、二つの世界の間で時間の流れに差が有るというだけで無く、俺がこの世界へと辿り着くまでの――世界と世界の隙間を落ちていた……その間に過ぎ去った時間が大きいのでは無いかとの事だった。


 俺の体感時間としては然程長い時間では無かったが、中にはその一瞬が他の世界での数秒……数分に当たる世界も有ったのだろう、そんな一瞬とも言えぬ一瞬が積み重なり、この世界に落ちた時には大きな時間差と成ったのだ。


 とは言え向こうでの五年が此方での二年に相当する事を考えると、時間の流れに倍程の差が有る事も間違いは無い。


 にも関わらずこうして会話が成立するのは、小松達の秘術で召喚されたこの伝話機に秘密が有った。


 この『冥界伝話』はその名の通り、この世とあの世を行き来する『死神』達や、複数の世界を渡り歩く『来訪神まれびとがみ』達が連絡を取り合う為に、比較的最近に成って生みだされた神造妖怪(ゴーレム)なのだ。


 そんな大層な代物を小松達が呼び出す事が出来たのは、鴉と並んで猫魔――猫又達が界を渡り旅をし、神々に手紙を届けて回る伝令者としての役割を担っていた時代が有ったからで有る。


 リアルタイムに情報伝達が出来る冥界伝話が生まれた事で、お役御免と成った伝令者が何らかの緊急事態に備えて、ソレを利用する権限を与えられたと言うのは、皮肉以外の何物でも無いとは思うが……。


 兎角その御蔭でこうして連絡が取れたのだから取り敢えず良しと言う事にしよう。


 確りと修行を積んだ猫又で有れば、縁深い猫又同士で尚且つ比較的近い世界同士と言う制限は有るものの、わざわざコレを召喚する必要も無く、己の妖力だけで連絡を取り合う事が出来るそうだ。


 なお……


『……このか細い繋がり方から察するに、余程遠い世界へと赴かれた様ですね。にも関わらずこうして此方に連絡が取れる程の者と巡り合うとは、余程の豪の者と巡り合った様ですね。この分ならばご帰還はそう遠い事では無さそうで一安心です』


 これら『冥界伝話』についてはおミヤからでは無く、後から小松に聞いた話で有る……。




『此方へと帰るには先ずは旅慣れた猫又か鴉をお探し下さい……水先案内人無しでの界渡りは余りにも危険過ぎます故……』


 江戸へと帰る方法を訊ねた俺に、おミヤは先ずそんな言葉を発した。


 ただ世界と世界を渡るだけならば、並の猫魔でも決して不可能な話では無い。


 しかしそれは目的地も無く、別の世界へ行くだけならば……だ。


 はっきりと目的地を意識して落ちてきた俺でも、この世界へと辿り着くまでに一月以上の時間を浪費したのだ、目的地を探して無数の世界を覗いて回るのでは、どれ程時間が掛かるか解った物ではない。


 世界によっては一寸覗いただけのつもりでも長い時間を浪費したり、下手をすれば引き込まれ脱出するまでに界渡りの条件で有る『七歳』を超えてしまう可能性が高いだろう。


 そして何よりも、人が生きられぬ程の灼熱の世界や極寒の世界、空気その物が毒としか言いようの無い汚染された世界……等々、踏み込んだ瞬間に死が確定する様な世界は決して少なく無いのだそうだ。


 そんな危険な旅路を時間制限(タイムリミット)付きで突破しなければ成らないのだから、彼女の言う通り道筋をよく知る案内人の存在は必要不可欠だろう。


『私の方からも心当たりに声を掛けては見ます……、無数の世界を旅する行商猫のニキータ殿や冒険猫のペロ様辺りならば、そちらの世界の場所を知る者が居るかもしれません』


 流石は大猫又として名高い宮古前みやこのまえで有る、複数の世界を股に掛ける様な猫又の知り合いは少なからず居るのだと言う。


 比較的近い世界ならば彼女自身が迎えに来る事も可能だっただろうが、この通話を通してすら彼女をしても俺の居るこの世界を特定し場所を把握するには至らぬ程に、遠く遠く離れた世界なのだそうだ。


 もしかしたら……いや……もしかしなくても、単独で二つの世界の間を踏破した猫又は居ないだろう。


 だがそれならばそれで、帰り着く方法が絶対に無いと言う訳では無い。


「此方でも昔馴染みの伝手で探して貰える様頼んで見るよ。心配は間に合うかどうか……だけだ」


 少なくとも小松が連絡を取った者達を順次辿って、少しずつ近づいていく事は可能な筈だ。


『……で有れば、この話は此処までと致しましょう。本日は義二郎様達、御三組の結納の儀で御座います。せめて……祝のお言葉だけでもお届け下さいませ』


 多少成りとも希望が見えた、そう思えた直後、受話器から別の意味で切羽詰まった案件に付いての言葉が飛び出してきた。


「はぁ!? 今日だって!?」


 俺が生きている以上は喪に服す必要は無いし、他家との取り決めに絡む儀式で有る以上、そう簡単に予定日を変える事は出来なかったのだろう。


 それに俺を待つ為に延期なんて事にでも成れば、その後に控えた祝言(結婚式)や……義二郎兄上の旅立ちにも差し支える事にも成り兼ねない。


 とは言えその名の通り理堅い二郎兄上の事だ、俺が居ない内に祝事を済ませ、旅立つ事に難色を示す事も考えられるが、せめて祝伝の一つでも入れる事が出来れば心置きなく旅立つ事が出来るだろう。


『いま、子()を会場へと向かわせております……着きました、志七郎様祝の言をお願い致します』


 会場から然程離れていない所に居た様で、殆ど待ち時間も無く、そんな言葉で促される。


 だがちょっとまって欲しい、逃げたりしらばっくれる犯罪者を追い詰める為の語録は幾らでも有るが、祝辞の類を読んだのは部下の結婚式に一度だけで、それとてネットで探した例文を少々もじっただけのものだ。


「おめでとう」ござ……」


 取り敢えず何よりも大事な言葉と、そう口にした瞬間で有る、突然何かを引きちぎる様な小さな音の後、話中音だけが聞こえてきた。


「え!? これって?」


 いつまでも鳴り止まぬ話中音に一旦受話器を置くと、直ぐに古めかしい金属を連打してる様な呼び出し音が鳴り響く。


 おミヤからの折り返し伝話かと、慌てて再び受話器を取ると、


『此方は冥界通信です、この伝話機のご利用時間が終了致しました。またのご利用をお待ちしております。なお、当月のご利用料金が設定金額を超えたたため、再度のご利用には所定の手続きを……』


 どうやら今夜は時間切れと言う事だろう、それでも必要最低限の情報は得られたし、兄上達に祝いの言葉を届ける事も出来たのだ。


 ポン吉や芝右衛門、そしてこの世界の妖怪達が協力してくれるならば、水先案内人が見つかるのも然程遠い事では無いはずだ。


「……なお、この伝話機は自動的に消滅します」


 今、この場でこれ以上出来る事は無い、そう判断しアナウンスが流れ続ける受話器を置いたその瞬間である。


 まるで卵が輝き孵った時の様な、圧倒的な閃光を放ち……そして轟音を上げ、爆発し弾け飛ぶのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最後、ピンク電話が爆発www 昔よくあったギャグ漫画のオチꉂꉂ(ᵔᗜᵔ*)
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