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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
志七郎、思い出の旅路……の巻

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二百九十五 志七郎、現世に度肝を抜かれ儀式始まる事

「そら付いた、此処が目的地だ。荷物降ろすからなほれ、さっさと降りてくれ」


 と言われて車から降りた俺達の前に広がっているのは、切り立った岩山とその裾に広がる灰色の広場、何処か既視感デジャヴを感じさせる採石場の様な場所だった。


 聞いていた通り、此処ならば確かに大型の化物を相手取る事も出来るだろうし、多少派手な――炎の息(ブレス)や雷撃の様な妖術を放たれたとしても、周囲に大きな被害が出る事は無いだろう。


「凄いな……丸でいつもの採石場だ……」


 と、そんな呟きを漏らした芝右衛門。


 だが猫喫茶の店主が採石場に何の用事が有るのだろう、前職の教職員だってこんな場所に用事が有るとも思えない。


「いつものなんて言うほど採石場に来るのか?」


 そう思い問いかけると、


「いや、まぁ……日曜朝に良く見てたんだよ……特撮」


 と言葉を濁した応えが返って来る、そして言い辛そうなその表情でピンと来る物が有った。


 芝右衛門が熱心に視聴していたのは特撮では無くソレが終わった直後のアニメ作品、確か俺達が中学生位からはずっと女児向けの番組をやっている枠だった筈だ。


 今更恥ずかしがる様な事でも無いと思ったのだが、ポン吉とは違い趣味から離れて久しい彼に取っては決して声を大きくして言える様な事とは思えなかったのかも知れない。


 だが言われてみれば、確かに子供の頃見た戦隊モノなんかの戦闘シーンの舞台は、こんな光景だったかもしれない。


「おら、さっさと降りて準備をしてくれよ。時間はまだ有るが、物事ぁ余裕を持ってやらねぇとな!」


 車に乗ってやって来たのは俺達三人だけの筈だが、ポン吉はリアゲートを開けると急かす様に手を叩きながら、そんな言葉を口にした。


 誰に向かって言っているのか、と思ったその直後だった。


 車の中からぞろぞろと列を成して草履に瀬戸物、五徳に鉄釜……と様々な付喪神の皆様が出てきたのだ。


 その光景を目の当たりにした俺と芝右衛門の反応は全く同じで有りながら、その内心はきっと真逆だっただろう。


 正に百鬼夜行絵巻その物の光景は、向こうならば然程驚くべき物では無いが、此方では超常現象と言う他無い。


 驚きの余り声すら出ない芝右衛門と比べ、悲しいかな最早見慣れたと言ってしまえる俺は、大分異世界に染まっていると言えるのではなかろうか?


「な、なぁ、ポン吉。此方の皆様は……いったい?」


 引き攣った声で絞り出す様に芝右衛門が問いかけると、


「ああ、ウチの蔵で眠ってた奴や御近所で大人しく生活してる付喪神の皆さんだ。剣十郎の武具から溢れるどぎつい妖気と一緒に仕舞われるのが嫌らしくてな、なんでもするから出してくれって言うから連れてきたんだ」


 と笑いながら答えを返す。


 この世界では鬼も妖怪達も存在を維持するだけでも大きな妖力(ちから)を消耗するらしく、大妖怪と呼ばれるレベルの物ですら俺の刀や鎧に篭もる妖力には、全く及ばないのだそうだ。


 自ら封印されたままの状態を望む様な穏やかなたちの付喪神が、そんな凶悪な代物と一緒に仕舞われるのは、人間とライオンを同じ檻に入れる様な物で有る。


 幾らライオンが満腹で人を襲わない状態だとしても、心穏やかで居られる者は少ないだろう。


 で、ただ出して置くだけと言うのも問題に成りかねず、猫魔達が行うと言う儀式の手伝いに動員する事を決めた所、何故か近所からも手伝いの手がやって来た……と言う事だそうだ。


 だが一寸待って欲しい、明らかに車の大きさには収まらないサイズの炬燵を背負った狼や、下手をせずとも絶対に入らないで有ろう炎を纏った大八車が出て来るのはどういう事だろうか?


 尋常成らざる事体には、慣れた筈の俺でも絶句せざるを得ない、手妻(手品)じみたその光景にポン吉は悪戯が成功した子供の様にニヤリと笑い、


「おう、此処までご苦労さん。そろそろ楽にしてくれや」


 そう言いながら車を軽く叩くと、運転席に誰も座っていない車は、丸でよく懐いた犬がそうする様に一声排気音を上げその身を震わせた。


 このバンも妖怪だったのか……此方の世界も何処に妖怪が潜んでいるか解ったもんじゃないな……本当に……。


 その思いはどうやら芝右衛門も同じだった様で、俺達は顔を見合わせ溜息を付くのだった。




「ちっと欠けてるが、まぁ綺麗なお月さん。丑三つ時にゃぁまだ早いが、そろそろ良い頃合い、舞台の準備も万端だわね」


 瀬戸物の付喪神、瀬戸大将が入れてくれた茶を飲みながら、準備が終わるのを待っていると、何処からか信三郎兄上が纏うのと良く似た狩衣を着た猫達が連れ立って姿を表しそう言った。


 その先頭に立つのは見覚えの有るハチワレの小松で有る。


 彼女は手にした御幣を振り鳴らしながら、用意された祭壇……と言うかサイズは小さいが盆踊りの櫓にしか見えない物を目指して一歩、一歩、厳かに歩を進めていく。


「櫓の上には出来るだけ大きな卵を……って言ったけどさ、何処から持ってきたんだいあの大きなの……」


 そして櫓の上に収められた人の顔ほどの大きさも有るソレを目の当たりにし、呆れを含んだ声を漏らし歩を止めた。


「大きいのが良いって言ってたからよ、ちょいと付き合いのあるダチョウ牧場に頼んで持ってきて貰ったんだよ。もう数カ月早けりゃエミューの卵も行けたんだけどな。結構美味いんだぜ?」


 そう笑顔で言い切るポン吉に対して、


「「いや物事には限度って物が有るだろうよ」」


 思わず二人でそう突っ込んで仕舞ったのは仕方が無い。


「ま、まぁ大きいぶんにゃぁ、問題無いさね……たぶん」


 俺の位置からは顔は見えないが、そう言う小松の表情はきっと引き攣った物だったと思う。


 咳払いを一つし気を取り直し、改めて店の猫魔と応援に呼んだのだと言う近隣の仲間達を引き連れて櫓を囲み位置に付く。


「じゃぁ、始めるよ……先ずはこのヤモリの黒焼きと薔薇のジャムを……蝋燭の火で焼いて……」


 派手な儀式の準備をしたわりに、やっている事はどちらかと言えば智恵子姉上が行う錬玉術の作業に近い、極めて地味な物に見えた。


 だがそれは飽く迄も準備の範疇だった様で、材料を乗せ直火で炙ったスプーンをそのまま口へと入れる。


 ボンッ! と音を立ててもおかしくない様な勢いで膨れ上がった尻尾を見れば、半ば妖怪化した存在である筈の猫魔でも、猫舌で有る事は変わらないと言う事がよく解った。


 向こうの世界でも此方の世界でも、ヤモリの黒焼きは精力剤として珍重されているが、氣や妖力と言った超常の力を回復するのにも極めて有効な食材で有る、あれはきっとドーピング剤の様な物なのだろう。


 良薬口に苦しと言う事か、それとも火傷した舌が痛いのか、小松に続いて同様にスプーンを咥えた猫達は、皆一様に無言のままただ歯を食いしばって耐えていた。


 そして最後の一()がスプーンを口から取り出したのを合図に、再び小松が御幣を振り鳴らす。


 ただしその尻尾は未だ、原型が解らぬ程に膨らんだままである。


「みにゃにょもにょ! かすかびぇにょにぇこみゃの気合をみしぇりゅにょにゃ!」


 余程舌が痛いのだろう、気合を入れた鼓舞する筈の小松の声は、老練な化け猫のソレではなく舌っ足らずな子供の様だ。


 ソレを笑う者こそ居なかったが、応じる者も居ない……。


 白けかけた空気を咳払いで強引に流し、今度こそと言わんばかりに御幣を振り、


「ほんだららった へんだららった どんがらがった ふん♪ ふん♪」


「「「「ほんだららった へんだららった どんがらがった ふん♪ ふん♪」」」」


 高らかに謎の呪文を唱えながら、踊り狂う猫魔達の儀式が幕を開けるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 小松の舌足らずの気合入れが滑ったあとの猫魔たちの呪文がwww どこまでもシリアルですねwww
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