表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
初陣そして激闘 の巻

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/1255

二十六 志七郎、戦場へと推参し、鬼切り者となる事

 一体どれ位の時間が経ったのだろう、疲労による物か全身が重く、刀を振るのも億劫だ。


 それでも中々言うことを聞かない足に鞭を打ち後方へと飛び退る。


 直後、俺の居た場所には数本の矢が刺さっていた。


 おろしたての艶やかだった鎧も返り血や土埃に汚れ見る影もない。


 一体何匹切ったか数えることも忘れるほどで、刀も血と脂で汚れ切れ味はかなり落ちている、それでも当てればなんとか成っているのだから、前世で愛刀としていた数打の新刀とは比べ物にならない。


「ほれ右手から又新手で御座る。どんどん斬らねば数に押し切られるぞ」


 満身創痍、立っているのも一杯一杯な俺の様子に、さも楽しそうに言うのは当然義二郎兄上だ。


 彼は時折自身に飛びかかる相手をその拳で叩き落とす以外には戦う様子も無く、時折何かを探すような視線を辺りに飛ばしては、俺をけしかけるような言葉を口にしている。


「わかってるならば、兄上が戦ってください! 俺がやるよりよっぽど早いでしょう!」


 もう半歩下がり打ち掛かる攻撃を避け切り返す一撃で胴を薙ぐ、手に伝わる肉を切る感触と吹き出す血の匂いに、今日幾度と無く感じてた吐き気を改めて咬み殺す。


「そうは言っても、今日はお主の初陣でござるからな。それがしはお主が本当に危なくなるまで手は出さぬ。そう言ったでござろう? それに……初陣でこれだけ大きな徒党の首魁を討ったとあらば、お主の武名は天下に轟く。その機会を奪うのは本意でござらん」


 この人が本当は脳筋の愚か者なんかではなく、それを演じてる思慮深い人間だとか大嘘だろ! どこまでもスパルタ系の脳筋馬鹿だ!


 文句を言いたくても、次から次へと襲い来る敵の相手に忙しく、それを口にしている余裕は無い。


「お、志七郎、左手の奥を見よ。明らかに装いの違うのが居るぞ、おそらくあれが首魁でござろう。あれを討ち取れば後の雑魚は勝手に散っていく、なればやることは解るな? なに、それがしが居るから死にはさせぬ、存分にやるが良い」


 また一匹切り捨てて、兄上の指し示す方向に視線を走らせれば、言う通り他の者が粗末な腰布しか身につけていない中、たった一体だけ鎧の様なものを纏った個体が居る。


 だがその周りにはまだ多くの取り巻きが居り、単身突っ込めば数の暴力の餌食となることは火を見るよりも明らかである。


 となれば、兄上の言う通りやるべき事は一つしか無い。


 刀の切っ先を左右に振り、近づくものを牽制しながら乱れた息を整えるため、深く大きく息を吸う。


「遠くの者は音に聞け! 近くの者は目にも見よ! やぁやぁ、我こそは雄藩猪山(いのやま)藩主猪河(ししかわ)四十郎が七子、猪河志七郎なるぞ! そこなる鬼の首魁、一騎打ちを所望する! いざ尋常に、勝負! 勝負ぅぅぅううう!」


 やってやるよ、どちくしょー! 内心そう叫び声を上げながら、高らかに宣誓をしつつ俺はどうしてこうなったのか、思いを馳せていた……。




 兄上に連れられ出かけていったのは、江戸城にほど近い『鬼切奉行所』と看板を掲げた場所だった。


 戦場いくさばへと向かうということだったので、目的地は下屋敷よりも更に郊外の方向だと思っていたのに、中央部へと向かうので少々疑問に思っていたのだが、先に此処で何か手続きでもするのだろう。


 そう思ってその建物の門を潜ると、そこの前庭では多くの武装した者達――武士、町人問わず纏めて鬼切り者というらしい――が4~6人ずつの小さな集団で纏まり、一組ずつ順に建物へと入っていくのが見て取れた。


 荒くれ者と言った風情が多い彼らが、特に並んでいると言う様子は無いのに、混乱することも無く行儀よく順番に動いている事に少し違和感を感じるがどうやら整理券の様な物が配られているらしく、建物に入る者皆が入り口の番人に何かを提示している。


 そうして周りを見回せば、鬼切り者の全てが荒くれ者かというわけではなく、折り目正しい武士然とした若者や、流石に俺ほどではないものの幼いと呼べる十歳位の子供、中にはしっかり武装しているとはいえ女性の姿も見える。


 ただ、その殆どが身につけて居るのは俺の物に比べて二段も三段も劣る様に見える。


 であれば幼いガキの癖に良質な装備をしている俺は、どこかの金持ちのボンボンが親の金で良い装備を身に着け、遊びで彼らの生業に手をだす鼻持ちならない糞ガキに見えるだろう。


 事実、時折俺を見て明らかに不快な顔をする者や、鴨が来たとばかりに嫌な笑みをを浮かべる者もいるが、それらは直ぐに何か怖いものを見たといった表情に変わり、誰一人として俺に近づいてくる者は居ない。


 あぁ、新人に絡む下衆なベテランというテンプレート的なイベントを期待した訳では無いが、考えてみれば義二郎兄上と一緒に居るのだ、それに絡むのはあまりにも命知らずな所業だろう。


「なんだ、根性の無い奴等ばかりでござるな、誰か一人くらい突っかかってくれば面白かろうに……」


 わざわざそんな事を口にして、周りを挑発する兄上だったがそれに応えるものは誰一人としていない、それどころか寧ろ怯えた様に表情を強張らせる者が多数出る始末である。


「おい、鬼二郎おにじろう。たまに此方に顔を見せたかと思えば……、下位者かいもの虐めは程々にしておいてくれ、この程度の者共でも鬼の間引きには必要なのだ」


 そう言って人垣の間から現れたのは、幾分大柄な――と言っても他に比べて頭ひとつ大きい位で、規格外の義二郎兄上と比べれば小さいが――裃姿の侍だった。


 その体格に加えてツルリと剃り上げた頭がその迫力に拍車を掛けており、思わず一歩も二歩もたじろぎそうになる。


「おお、ヅラの禿丸ではないか。今日は屯所詰めか、御役目ご苦労さんでござる」


 慣れているのかそれともただ単純に図太いのか、兄上はにこやかにそう返す。


「誰がヅラで誰が禿丸か! 拙者の名はかつら髭丸ひげまる、この頭は禿では無い、剃ってるだけだ!」


 するとその男は、爆発的な踏み込みで一気に間合いを詰めると、腰の物を抜き去り兄上へと一閃させる。


 おそらく攻撃対象が俺であれば、その動きを見切ることも無く首を飛ばされ、命が無かっただろう。


 だが兄上はその一撃を軽く上体を逸しただけで避け、刀を返す前に相手の手首を押さえ動きを止めた。


「相変わらず冗談の通じぬ男で御座るな、髭丸」


「冗談が通じているからこの程度で済んでおるのだ。拙者が本当に冗談の解らぬ男ならば、今の一撃で貴様の素っ首叩き落としておるわ」


 今の攻防が冗談の内とか、それがこの世界の常識……という訳では無いらしく、回りの荒くれ者達も明らかに引いている。


「兄上、随分と仲が良さそうですがこの方は?」


 そんな凍りついた空気を変えるため、俺はわざとらしい大きな声でそう問いかけた。


「此奴は江戸州鬼切奉行、桂髭丸だ。それがしとは剣術の道場で同期での、幾度と無く刃を交えた中でござる」


 そう軽口を叩いている間にも、細かな重心争いが行われて居たようで、兄上は口を閉じると同時に手を放し大きく後ろへ飛んで間合いを開ける。


「だから、貴様はどうしてそう誤解を生む様な言い方をするのだ! その紹介では拙者が奉行の様ではないか、あくまでも奉行は父上であり拙者自身は同心に過ぎぬわ。まぁ、お主の好敵手であったというのは否定せんがな」


 ニヤリと不敵な笑みを見せ刀を納めるその姿には一分の隙も無く、この世界における自分の強さが決して優れたものとは言えない様に思え、少しだけ気が重くなった気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ